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#176 部隊編成

 

 砦の4角にある投石器を据え付けた櫓の1つに上り、周囲を眺める。

 朝の早い時間だから、東のログハウスから、朝食の準備をする煙が石で作った煙突から立ち昇っている。

 砦内の広場にも忙しそうに走り回る兵隊達の姿が見える。監視当直の交替の時間なのだろう。さっきまで俺の傍にいた兵隊も、大声で交替の兵と当直引継ぎの挨拶をしていた。

 この季節だと櫓の上は少し肌寒い。北のアクトラス山脈はだいぶ白くなって来ている。

 

 北東の国境境界付近で砂塵が動いている。何者かが集団で南下しているようだ。

 直ぐに双眼鏡を取り出して砂塵の先頭を追う。

 それは、ガルパスを駆る一団だった。


 「あれは、亀兵隊ですね。あの砂塵だとサーシャ様の部隊でしょう。2列縦隊でガルパスを駆るのがサーシャ様の特徴です。」

 俺の見ていた砂塵を確認した、監視兵が言った。

 「彼女達は同じように乗るんじゃないの?」

 「ここに入る時は、皆2列縦隊ですが、国境付近を監視する時は特徴が出ます。アルト様は雁の群れのような形に兵を配置して走りますし、ミーア様は斜めに配置して走ります。…最初にその走りに気が着いた時に、どうしてそのような形をとるのか聞いてみたんですが、彼女達にも良く分からないそうです。何時の間にかそのような形で定着したようですけど、私達には誰の部隊か直ぐに分かるので都合がいいです。」


 癖なのかな。それとも本能なのかな…。俺だったら、と考えてみたものの具体的に思い浮ばない。

 そろそろ姉貴が起き出すころだと気が付いて、ログハウスの大部屋に足を運ぶ。


 扉を開けて部屋に入ると、アン姫、ジュリーさんと一緒に姉貴もテーブルに着いている。

 「おはよう!」と言って席に着くと早速従兵が朝食を運んできてくれた。

 「櫓からの眺めはどうでした?」

 食事を終えたジュリーさんが俺に話しかける。

 「結構見通しが良いですね。…あぁ、そうだ。サーシャちゃんの亀兵隊が国境を監視してましたよ。見張りの兵が教えてくれました。」

 「アルトさん達は早いね。昨夜の会議でも、戦の気配すらないって言ってたけど、油断はして無いみたいね。」

 モグモグと黒パンを齧りながら姉貴が応えた。


 「アルト様は待つのが苦手ですから丁度いいんですが、サーシャ様やミーア様には少し疲れが見え初めています。監視についてお考え下さればと…。」

 「そうですね。明日の朝には体制を少し変更します。アルトさんが朝早くに出かけないように引き止めて置いてください。」

 

 いよいよ全体の配置をいじるのか…。配置を見れば姉貴の考えが少しは理解出来るかも知れないけどね。

 食事が終って、お茶を飲んでる時に、ディーがいないことに気が付いた。

 姉貴に聞くと、昨日の続きと言う簡単な返事が返ってきた。そういえば地図がどうとか言っていたな。

 

 「ジュリーさんの報告書を読ませてもらいました。食料備蓄は3ヶ月。爆裂球と矢も十分でしょう。でも水の備蓄が3日分は少なすぎませんか?」

 「井戸を掘ろうとしたのですが、断念しました。この荒地では相当深く掘る必要があります。飲み水は、泉の森を流れる小川から毎日運んでいます。不足分は【フーター】で補っています。砦が囲まれてしまっても【フーター】を使える魔道師が数人おりますから、大丈夫でしょう。」

 

 「それは、南の砦も一緒なの?」

 「あちらは、亀兵隊のみが常駐しております。魔道師がおりませんので、毎日運び込む水が全てです。備蓄は5日分と聞いております。」

 「となれば、直ぐに始めなきゃダメね。屯田兵の人達は国境を明確にするために森を伐採してるのよね。その内、100人を使って南の砦の抜け道を作ってもらいます。砦の中からガルパスで森に抜けられる事が条件です。溝を掘って上に土を被せるようなものでも十分でしょう。」

 

 姉貴が俺に目配せしたので、こんな形のものと分かるような絵を、急いで紙に描いて姉貴に見せる。

 姉貴がそれを見て頷くと、ジュリーさんが従兵を呼んで、作業の概要と俺の描いた絵を渡す。

 「後は地図だよね。こればかりはディーに頼むことになるね。」

 「この砦の周囲の防護を高める事はしないのですか?」

 「地図で確認してからになるわ。結構形になってるから応用次第ってとこかな。後は気になる点が2つ。前回の獣の襲撃の時に空から私達を襲う部隊がいたわ。空からの攻撃に対する備えの状況と、この荒地にはタグがいたのよね。地面下からの攻撃の備えの状況。これについては?」

 

 ジュリーさんはちょっと驚いた顔をした。

 「空からの攻撃と地面の下からの攻撃は、想定しておりませんでした。迂闊でした。モスレムの軍と同じ構成で攻めこむとは限らないと言う事ですよね。」


 「空からの攻撃は…前回はディーが弓で落としたんだよね。あんな弓を弓兵が引けるかな?」

 「無理。…弓兵の中で特に強弓を引ける者を集めて櫓に配置するぐらいしか手が無いと思うよ。後はディーに頼るしかないな。ディーに爆裂弾が付いた矢を50本位用意しておけばかなり役立つと思うけど…。」

 姉貴の問いに俺が応えると、直ぐにジュリーさんが従者に伝える。

 「10日位は掛かるでしょうが、準備させます。」

 

 「後は、地中から来る敵だけど、これは砦の前に深い溝を横に掘るしか手がない。でもそれには、更に屯田兵を此方に廻す事になるよ。」

 「仕方ありません。国境線を作るより此方が優先されるでしょう。更に100人を廻す事にします。…後はありませんか?」

 姉貴は首を振った。

 直ぐにジュリーさんは従者を連れて部屋を出て行く。

 

 「アン姫の率いて来た兵士は皆弓兵でしたよね。」

 「はい。私を始め全て弓兵です。イゾルデ様が20人を預けてくれました。」

 「アキト。後で弓兵の技量を見て頂戴。対空射撃が出来るかを見極めて欲しいの。」

 「了解。では、すみませんが弓兵を集めて貰えませんか?」

 アン姫は頷くと部屋を出て行った。俺も腰を上げて部屋を出る。後にはお茶のカップを握ってジッと地図を睨む姉貴と伝令が数名残るだけだ。


 ログハウスの階段に座って待っていると、アン姫が部隊を引き連れてやってくる。急いで、立ち上がるとアン姫の方に歩き出した。

 「練習は砦の外で行なっております。丁度、柵があるので安心して放てますから。」

 そう言って俺を砦の外に案内してくれた。砦の門を出て左側に折れると東の柵に的が置いてあった。

 的まで、60m程の所に丸太が地面に置かれている。

 

 「ここで、200Dです。アキト様は如何程の距離を彼女達にお望みですか?」

 「出来れば1M。最低でも300Dが欲しい。」

 アン姫の問いに即答する。俺の言った距離を聞いて、弓兵に一瞬動揺が走る。

 「遠矢に近い距離ですね。的を外す矢が多くなりますが…。」

 「数人で一斉に放つ。その内1本でも的に当たればいいんだ。…そうだな。5人ずつの班を作ってくれ。」

俺の言葉に、アン姫が号令を掛けると、たちまち4つの班が出来た。

 

 「先ずは適当に300D近辺で矢を放つ。」

 そう言って砦から東に移動する。ディーがいれば正確な距離が判るのだが、とりあえずは技量の確認だからこんなもので良いだろう。

 「この辺りで300D以上はあるはずだ。各班の撃つ矢は2本。先ずは最初の班にやって貰う。…アン姫号令お願いします。」


 俺が双眼鏡を取り出していると、「構え…テッ!」の声がして、矢が一斉に放たれる。

 的を外れて砦の柵に5本の矢が突き立つ。収束率はまぁまぁって感じかな。

 次の矢が放たれた。双眼鏡の視野の中で、的に2本の矢が突き立つ。


 次の班が矢を放つ。やはり同じように最初の矢は外れるが2回目では1本が刺さった。

 次々と班を変えて矢を放つ。

 やはり、初矢を当てるのは難しいらしい。距離感がつかめないのかもしれない。

 

 「どうでしょうか?」アン姫が聞いてくる。

 「更に距離を伸ばせますか?」

 「やってみましょう。」

 俺の問いにアン姫が応える。直ぐに東へと移動して、およそ1Mの距離で遠矢を放つ。

 しかし、これは的に当てるのは無理みたいだ。かなり広範囲に矢が広がり、危うく砦の中に射ち込みそうになってしまった。

 でも、これはこれで使い道がある。ある程度狙いが付けられるのは300Dと言う事が分かればいい。


 アン姫に別れを告げて砦に戻る。アン姫達は日課の弓の訓練を続けるようだ。

 砦に戻って部屋に入ると、俺が出かけた時のままの姿勢で姉貴が地図を睨んでいる。

 隣に腰を下ろすと、すかさず従兵がお茶のカップを渡してくれた。


 「弓は100m以内でどうにかだ。かなり接近しないと当てるのは無理かも知れない。」

 「…ディー次第って訳ね。」

 「元々、空からの攻撃に対する兵科を持っていないんだ。近接すれば何とかなるだけでも大したものだと思うけどね。」

 「う~ん、やはり襲撃ありきで対策を考えないとダメみたいだね。」

 石橋を叩いて叩いて、隣に橋を架けるような考えだけど、姉貴だからねぇ…。

 

 バタンっと扉が開くとディーが部屋に入ってきた。

 「お帰りなさい。早速お願いするわ。」

 姉貴の言葉に頷くと、部屋の片隅に立て掛けてあった大きな壁紙みたいなものをテーブルに広げた。紙ではなく何かの革のようだ。大きさも1.5m×2m位あるぞ。


 インクの入った金属容器を手に取ると、もう一方の手にペンを持って、凄い勢いで地図が描かれる。

 縦、横の直線は10Mを基準としているように見える。

 ディーが地図を描き始めたので、昼食時になってもテーブルを使えない。

 入口近くに小さなテーブルを運び込んで、そこで昼食を取る。

 そして、午後はチェスの駒作りだ。地図が完成したら直ぐにも必要になるだろう。


 夕暮れが近づき、砦の中には2つの光球が浮ぶ。そして、この部屋にも光球が1つテーブルの真上に浮んでいる。

 ディーの地図もほぼ完成しているように見える。今は森を薄い緑のインクで染めているみたいだ。

 その地図は高低を2mピッチで描きだしている。描かれた地図の範囲は東西30km、南北100kmの範囲だ。国境線が地図の四分の一程の位置に真横に引かれている。

 横線が10本で砦があり更に10本目に森があるけど、南の方で少しずつ森が東に広がっているのが分かる。

 前の絵地図と比べて段違いの精度は仕方ないと思うけど、これが近代的な地図を用いた作戦立案の最初になるわけだ。


 部屋に少しずつ人が集まる。状況報告と、明日の作業の確認だ。

 ディーの作業を邪魔しないように部屋の片隅に集まっていたが、ディーがテーブルを下りて道具を片付け始めたので、所定の位置に椅子運んで皆が席についた。


 「どうやら、作戦地図が出来ました。これを使いながら皆さんの指揮を執ります。先ず、皆さんの部隊を明確にします。」

 皆、緊張した表情で姉貴を見る。


 「先ず、亀兵隊ですが…。部隊を5つに分けます。アルトさん、サーシャちゃん、ミーアちゃんに各20人。亀兵隊の中から2人選んでそれぞれに19人を預けます。新しい部隊の隊長人事はアルトさんにお任せします。」

 「そして、監視任務の範囲は、ここから、ここまでをお願いします。」

 姉貴が、地図でその範囲を示した。この砦から、亀兵隊の守る小さな砦までの半分の位置から、小さな砦の南方50km付近までだ。そこには森の中に小高い丘があり周囲を見通すことができる。

 「監視…パトロールと言う事にします。パトロールに一度に出る部隊は2つまで、常時砦には2部隊を残してください。そして、1部隊をこの砦に派遣してください。伝令をしてもらいます。」

 「砦の2部隊の1つは直ぐに出られるような状態で待機すること。宜しいですか。」

 「了解した。直ぐに人選と部隊の再構築に取り掛かる。」

 アルトさん達は部屋を出て行った。


 「次にカンザスさん達のハンター部隊です。部隊を4つに分けてください。各部隊にネコ族の人がいることが条件です。出来れば2人欲しいところです。そして、この場所とこの場所で侵入者の対応をお願いします。休息場所は今のテント村で良いですよ。」

 姉貴が指差した場所は、森の北東端と亀兵隊のパトロールの南方限界点だ。

 「対応と言いましたが、それは可能と判断した場合にのみ行なってください。基本は逃げるで良いです。ただし、その前に狼煙で知らせてください。」

 「分かった。しかし、南の方は少し遠い。食料等は亀兵隊に依頼しても良いか?」

 「大丈夫です。人選はカンザスさんに任せますので、早急に取り掛かってください。」

 カンザスさんも部屋を出て行った。

 たぶん、あのテント村で酒でも飲みながら相談するんだろうな。


 「そして、アイアスさん。屯田兵を100人ずつの部隊に分けてください。砦の前の溝堀に1部隊。小さな砦の脱出路作りに1部隊。南方の国境作りに3部隊。とします。国境の開墾が済み次第、この砦の西に部隊を駐屯させる施設を作ります。部隊が分散しますので連絡を密にする必要がありますが、方法はありますか?」

 「馬を3頭連れてきてます。乗り手が数名いますからその点は大丈夫です。」

 「南方の探索は注意してください。アキトが魔物を見たと言っていましたから。」

 アイオンさんはガリクスさんと話をしながら部屋を出て行った。


 「ジュリーさんには、【サフロ】が出来る魔道師を何名か選んでいただけますか。救護施設を作ります。」

 「そして、最後にアン姫には砦の防御を亀兵隊と共にしていただきます。監視はアン姫様の部隊が担当してください。」

 「了解です。」


 俺は、地図に姉貴の指示をチェスの駒で再現する。

 亀兵隊はナイト、アン姫の部隊はルーク、ハンターはビショップだ。そしてポーンが屯田兵になる。

 チェスの駒が乗った地図を眺めていると、姉貴が2つ駒を追加した。

 「アキトとディーよ。」

 砦にキングとクイーンを置いた。

 

 俺って、キングなのか?ディーがクイーンというのは何となく納得するけどね。

 「俺と、姉貴でキングだよな。」

 そう言ったら、小さく微笑んだ。


 「ところで、この部屋に名前を付けない?」

 「そうだね。…統合作戦本部ってどう?」

 何か、偉そうな名前で、しかも間違った指令を出しそうな名前だけど、作戦を練る場所には違いない。

 こんな感じで、俺達は少しずつ準備を整えていく。

 

 

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[気になる点] 前からそうだが、自分の身内を第三者に紹介するのに敬称を付けるのは非常識だ。
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