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#174 砦へ

 

ガラガラと音を立てる馬車が近づく。

 まだ、薄明の最中だが、慌てて飛び起きると素早く着替えを済ませる。

 俺が梯子を下りた時にはディーが御后様を部屋に招き入れたところだった。


 「婿殿。早朝に申し訳なく思うが、出発願いたい。大型の馬車じゃ。中で眠れるじゃろう。」

 御后様の言葉に急いで姉貴を起こしに梯子を上る。

 「起きてるわよ。」って姉貴は俺に言ったけど、身支度にもう少し掛かりそうだ。

 再度リビングに下り立ち、後少し掛かりそうだと御后様に話すと、俺に小さな魔石を託した。

 「ジュリーに渡して欲しい。使い方は知っているはずじゃ。」

 俺は黙ってそれを胸のポケットに入れた。そんな事をしていると、姉貴がロフトから下りてきた。

 「お早うございます。」と御后様に挨拶すると外の井戸に駆けて行く。

 「装備は良いのか?」

 「全て揃いました。問題はありません。」

 「朝食を含めて、馬車に食料を積んでおいた。御者も2人揃えておる。一気に馬車を進めれば、明日の朝にはマケトマムに着く筈じゃ。」

 姉貴が井戸から帰って来たところで、俺達3人は馬車に乗り込む。

 

 「こちらは任せておけ。東を頼んだぞ!」

 馬車の窓から御后様に手を振ると、馬車は林の小道を抜け、通りに進む。

 東門は俺達の為に開放されていた。門をくぐると馬車の速度が一気に上がる。ちょっと弾むような感じで馬車のソファーに座っているけど、悪酔いしないかと心配になる。

 

 大型馬車かなと思っていたけど、意外と小型の馬車だ。それでも、4頭の馬がひいているからこれだけの速度が出るのだろう。

 街道に出ると少し振動が収まってきたので、朝食を取る。大きなバスケットには黒パンサンドと木製の水筒が入っていた。

 

 「アルトさん達もこれぐらいの速度でマケトマムに向かったのかな?」

 「たぶんね。でもこっちの方が速いような気がするよ。」

 俺の言葉に姉貴は窓の外を眺める。確かに速い。でもこんなに速度を上げて走っては馬が潰れないかと心配する。時速40km近いんじゃないかな。


 「アキトは、味方に比べて敵が圧倒的に多い場合はどうすればいいと思う?」

 それを考えるのが姉貴の仕事です。って言いたいけど、昔の歴史を思い出してみる。

 結構、不利な戦いで勝利条件を満たした例はあるような気がする。


 「先例を考えてみると、縦深防御か要害での防御になるね。平野で相対したら数が多い方が勝つよ。」

 「防御は3倍って言うからね。でも、私達の軍はハンターを傭兵として組み入れても700にならないのよ。そして相手は人間だけでも2500。獣を考慮すれば7500を超える数になる。…一気に押し寄せてきたらそれでお仕舞いになる可能性が極めて高いわ。」

 「一気には来ないんじゃないかな。人間と獣、そして獣の種類によっては走る速さが違うと思うよ。いくつかの波になって押し寄せてくるはずだ。その速度差を上手く利用出来れば良いんだけどね。」

 俺の言葉に姉貴が考え込む。

 目を閉じてジッと思索をめぐらしていると思っていたのだが、何時の間にか寝てしまったようだ。

 

 俺は、さっきの自分の言葉をもう一度考えてみる。

 拠点防御と縦深防御、援軍が来るのは5日後だと御后様が言っていたから、5日間敵を足止めすればいいのだ。積極的に戦わずとも、俺達に代わって時間が戦ってくれる。

 しかし、それは敵側も考えているだろう。敵としては可能な限り被害を出さずに森を手に入れたいはずだ。

 森を自分達の水源としたいはずだから、森の破壊を前提とした殲滅戦を仕掛けてくるとは思えない。しかし、規模の小さな部隊を森に配置して砦の退路を塞ぐ事は十分に考えられる。森が広い事から、砦の襲撃をマケトマムに知らせる伝令を捉えるは容易な事だろう。森に潜む敵兵をどうするかは意外と問題かも知れないぞ。


 サナトラムの宿に馬車が止まる。昼にはまだ随分と間があるが、ここで昼食だ。

 姉貴がお茶を飲んでいる間に雑貨屋で爆裂球を買い込む。少し品薄らしく、購入できたのは5個だった。

 そして、馬車は再び走り出す。この調子で行けば明日の早朝にはマケトマムに到着出来るとの事だ。御者は交代しながら手綱を握る。

             ・

             ・


 ドシンという振動で眠りから目が覚めた。

 薄明の中を馬車が速度を落としながら進んでいる。先ほどの振動はどうやら街道を離れてマケトマムへの小道に入った時の段差のようだ。

 窓の外には、段々畑が広がる見慣れた風景だ。途中の木立すら懐かしい思い出が浮ぶ。

 山へと続く小道を右に曲るとマケトマムの西門が見えてくる。

 まだ、朝が早いのか通りを歩く村人は少なかった。

 ガラガラとゆっくり通りを進むと馬車はギルドの前で停車した。

 

 俺達は馬車を下りると御者の2人に礼を言って、ギルドの扉を開く。

 「「お早うございます。」」

 ホールに大きな声で挨拶すると、カウンターのお姉さんの所に到着を告げる。

 俺達の顔を見て一瞬驚いてたけど、直ぐに手続きを始めた。


 「はい。到着を確認しました。2週間程前にはアルトさん達3人が突然訪れて吃驚したんですけどね。」

 「ちょっと別行動で依頼をこなしてたんですよ。」

 そう言って、ギルドを出ようとしたところで、扉を開けてホールに入ってきたグレイさんとマチルダさんにばったりと行き会った。

 

 「アキト達じゃないか。どうした?」

 「御后様の依頼で来ました。これから、砦に向おうと思ってますが、アルトさん達は砦ですよね。」

 「あぁ、いるぞ。…所で、これから俺達も砦に向う。ハンターを何人か連れてな。ここで待ち合わせなのさ。」

 そう言って俺達をテーブルに誘う。

 マチルダさんは俺達が昨日ネウサナトラムを出発して夜通し馬車を走らせたと知って驚いてたけど。

 お茶を飲みながらとりとめの無い話をしながらお茶を飲む。そして、のんびりとタバコを吸う。

 そんな事をしていると、3人組のハンターが俺達に近づいて来た。

 「スラバの目というチームを組んでいるブレインだ。そして、サリアとメクトラ。

全員が黒6つ。お前がグレイでいいんだな。」

 「あぁ、そうだ。先ずは座ってくれ。こっちはアキトとミズキそれにディーだ。それとこっちは俺の相棒のマチルダだ。」

 俺達の対面に座った彼らにディーがお茶を運んでいる。


 「ところで、それは本物か?」

 「アキトとミズキの真珠は本物だ。その場に俺もいたからな。」

 ブレインと名乗った男はグレイさんよりやや年上ってとこかな。背中に長剣を背負っている。サリアさんはエルフのようだから実年齢は不明だがマチルダさんと同じ位に見える。魔道師の杖を持っている。最後のメクトラさんはネコ族だな。やはり片手剣を腰に差している。


 「…ところで、俺達が狩るのは何なんだ?」

 「報酬だけで、仕事の内容は未だだったな。傭兵だ。」

 「遊牧民を狩るのか?モスレムはそんな事はしないはずだが…。」

 「泉の森の東に新しく国を作ろうとしている奴がいる。遊牧民がモスレムに近づかないことから今まで東の国境は不正確だ。森が切り取られる事だけは避けねばならん。」

 「話し合いの時は過ぎたのか?」 

 「最初から村を襲ってきた。襲ってきたのは例の貴族の残党が絡んでいたが、襲われた事は事実だ。獣使いが絡んでいたぞ。」


 ブレインさんは渋い顔をした。

 「と言う事は獣が圧倒的に多いということだな。しかも東方の獣か…。」

 「鎧ガトル、スカルタとカルートが前回は現れた。襲撃時には200を越えたぞ。」

 「分かった。傭兵と言うよりは狩りに近いな。俺達は参加するぞ。」

 隣の2人も頷いている。

 

 「それじゃぁ、出かけるか。」

 そう言って、グレイさんが立ち上がる。俺達も慌てて立ち上がった。

 ぞろぞろとグレイさんを先頭に通りを東門の方に歩き始める。

 門番さんに挨拶して東門を抜けると、段々畑が広がっていた。まっすぐに東へと続く小道を進んでいく。春先には無かった長屋みたいな家が集落になっている。どれも同じ作りみたいだから、屯田兵の家だろう。

 

 「開拓は進んでるんですか?」

 「あぁ、頑張ってるぞ。今は旦那連中は砦にいるから、奥さん連中が開墾をしている。」

 作業は順調みたいだな。来年には綿花が栽培できれば良いんだけどね。


 小川には新しい橋が架かっていた。橋の両側は1.5m程の低い丸太の柵が続いている。新しい村の防護柵だ。この橋も、何かあれば直ぐに壊されるのかもしれない。


 橋の柵の傍には門番が2人いた。屯田兵の子供達が番をしているようだ。ルクセムくんより少し年かさの子供達だ。その子供達が案内してくれた休憩所で一休みをする。

 

 4つのベンチが焚火を取り囲むように置いてある。

 ここでお茶を沸かして休憩だ。今夜は昔泊った岩屋で休み明日の昼には砦に着くとの事だ。少年が渡してくれた木製の椀でお茶を飲む。

 「開拓民がこの柵を作ってくれた。俺とカンザスの家作りも手伝って貰ったよ。しかし良くも500の兵隊を除隊して、ここの開拓に従事していたものだ。流石はトリスタン様だと皆が感心していたよ。」

 「これだけ村の拡張をしたんですから、住む人を確保しないと勿体無いですよ。まさかこんな時に役立つなんてトリスタン様も思っていなかったんじゃないですか。」

 「まぁ、上に立つ奴はそれだけ先を見通せ無ければダメって事だな。」

 

 一休みを終えて、森に入る。ディーに動体の監視を頼んでおけば万が一にも、敵の待伏せを食らう恐れはない。

 砦に急ぎたいのは山々だけど、泉の森は広大だ。どんなに急いでも今夜は森で野宿となる。小さな草食獣をたまに見かけることはあっても、危険な肉食獣を見かけることなく俺達は無事に岩屋に到着する。

 早速手分けして、薪を集めると岩屋の前で焚火を始めた。

 焚火に3つの鍋を掛けて夕食を作る。皆似たような野菜と肉のスープに黒パンだ。

 スープの鍋を洗った後にはお茶のポットが並ぶ。

 久しぶりにコーヒーを姉貴と楽しんだ。


 「焚火の番は最後でいい。起こしてくれれば後は俺達が番をする。」

 「いいえ、皆一緒に休んでも大丈夫ですよ。ディーは寝ずに番が出来ますし、2M程度の範囲の気配を感じる事が出来ます。」

 ブレインさんの提案に俺が応えた。


 「ネコ族以上だな。だが寝ずに監視を続けられるのか?」

 「大丈夫です。俺と姉貴が入口付近出で休みますから安心して休んでください。」

 意外とディーの能力を説明するのは難しい。

 それでも岩屋の奥に皆が入って毛布に包まって横になった。後をディーに任せて俺達も横になる。

 

 次の朝、ディーに昨夜の状況を聞いていると、皆が起き出してきた。早速焚火に薪を追加して朝食を準備する。

 お茶と黒パンを喉に流し込めば朝食の終了だ。

 荷物を纏めて東に歩き始める。


 途中、大木の傍で休憩をした後は、歩くにつれ木々の間隔が開いてくる。森はいつしか林になり、それが潅木に変わると目の前には広大な荒地が広がった。そして、1.5km程先に俺達が向う砦が姿を現した。

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