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#165 今度は屋台?

 

 カイナル村を北に進み森林地帯に入る。

 ここで、リザル族とはお別れだ。

 「この先、東に1日半進めば小さな沢に出る。その先を更に1日半進めば南に我の住むネウサナトラム村を見ることが出来るじゃろう。我らの住む村のハンターは小さな沢にまでは足を運ばん。この大きな沢から東の小さな沢の間に暮らせば誰にも邪魔をされずに暮らしていけるはずじゃ。…ここで分かれるが国境の監視は怠るでないぞ。」

 

 「お世話になりました。どうか、ご安全に…。」

 手を振るリザル族に別れを告げると俺達は東に向かって歩き出した。

 ディーを先頭に周辺監視をしながら歩いて行く。前と違ってこの森の獣達は数が多い、結構頻繁にディーが発見した獣を確認するために立ち止まる。


 「一旦、森を出るのじゃ。こう頻繁に遭遇するようでは我らが疲れるだけじゃ。」

 アルトさんの意見に従い、森を北に進んで荒地を歩き始めた。

 しかし、荒地だと夏の日差しを浴びるので直に汗だくになる。明日到着する沢で水浴びする事を考えながら、黙々と東に歩いて行った。

             ・

             ・


 カイナルの村を出発して3日後にようやく眼下に西の沼地が見えてきた。

 まだ、半日以上の距離があるから、今夜は森の入口にある休憩所で野宿になるだろう。

 遠くで俺達を見ているガトル達も、なんだか俺達の帰還を歓迎してくれてるように見えるから不思議だ。

 

 森の小道を通り、休憩所に着いた時は夕焼けの空が広がっていた。

 急いで薪を集めて焚火を始めた。ミーアちゃんとサーシャちゃんが早速鍋を焚火の上に吊るしてスープを作る。ディーがポットに水筒の水を入れると焚火の傍においてお湯を沸かし始めた。

 ビスケットのような黒パンをスープに浸しながら食べるのも、今度の旅では今夜が最後だ。明日の夜には、柔らかな黒パンが食べられるだろう。

 ディーに不寝番を頼んで焚火の傍に横になる。今まで気が付かなかったけど、結構虫の音が聞こえる。昼間は日差しが強いけれども、少しずつ秋が近づいているようだ。


 翌朝早く休憩所を出発すると、一路ネウサナトラムの北門に向かう。

 しばらくすると北門が見えてきた。

 しかし、そこは工事の真っ最中。邪魔にならないように注意しながら門をくぐると、北門の広場には工事用の木材が山積みされている。

 「拡張工事が始まったのかな?」

 「そうだね。ギルドに行った時に聞いてみるよ。」

 通りを東に歩き、石像に姉貴が鍵を差し込むと林に石畳の小道が現れる。

 ここで皆と別れて、俺はギルドに到着報告をするためにそのまま通りを歩いて行く。


 ギルドの扉を開くと、カウンターのシャロンさんの所に歩いて行く。

 「ただいま戻りました。全員到着です。」

 「はい。到着を確認しました。特に皆さん変わりはないですね?」

 「変わりないですよ。」って言うと、テーブル席に歩き出す。さっきからセリウスさんが俺を手招きしてる。何かあるのだろうか…。


 セリウスさんの対面に座ると、シャロンさんがお茶を運んできてくれた。

 セリウスさんがパイプを取出すのを見て、俺も銀のケースから1本取り出すと口に咥える。どうやら面倒な依頼の話ではないようだ。


 「色々と大変だったようだな。だが、お前達がその場にたまたま旅行に行っていたのはモスレムには幸いだった。そしてリザル族にもな…。」

 「なんで、セリウスさんは知っているのですか?」

 一瞬、驚いたがその理由が気になった。

 「ギルド間の連絡と御后様と王宮の連絡だ。連絡用の魔石が足りなくなったので近隣の町からもかき集める状況だった。…まぁ、そんな訳で概略を知る事が出来た。」


 「では、カイナル村に行く途中にリザル族が集落を作ることも?」

 「知っている。そして、その話はこの村にとっても都合がいい。リザル族の戦士は勇猛だ。獣に対してはだがな。…彼等が西にいれば獰猛な獣がこの村の近くに現れることは少なくなる。村の発展にも望ましい限りだ。」

 「それもあって、村の拡張工事を始めたのですね。」

 「そうだ。幸いにも昨年の狩猟期にしとめたザナドウのお蔭で、村の金庫は豊かなのだ。村長も気前良く村人に金を払っている。だが、今回は北門を北に2M移動して既存の柵に連結するまでだ。狩猟期が始まる前に工事を終らせるとなると、その辺が限度だな。」

 

 夏が終って、畑の刈り入れが済めば狩猟期が始まる。そろそろ俺達も計画を考えないといけない。でも、姉貴のことだから今年は何を狩ろうとするのか心配でもあり楽しみでもある。


 「ユリシーが頼まれたものを作ったと言っていたぞ。お前の家は閉鎖されていたから、山荘に運んでおいたと言っていたが…。」

 「それは助かります。頼んでいたのは船なんです。大型の黒リックを釣るにはどうしても船が必要です。」

 「俺にも乗れるのか?」

 「大丈夫です。ミーアちゃん達も、俺が作った船を漕いで釣ってましたから。」

 そう言って席を立ち、ギルドを後にする。


 今度は会社の方だ。船が出来たのであれば、ユリシーさんの退屈しのぎに次の依頼を頼むんだ。

 通りを戻って、分岐路を左に曲がると会社の事務所が見えてきた。

 事務所の扉を開くと、テーブルでユリシーさんがのんびりとパイプを煙らせている。

 「今日は。」

 「おぉ、珍しいな。しばらく見かけんかったが…。」

 そう言いながら、おいでおいでと手を振る。

 テーブルの対面に座ると、船の礼を言った。

 「何の、あのような構造の船も面白かったわ。早速に注文も来ておるしの。」

 「ところで、支払いは…。」

 「いらん。追加注文でその位は元が取れる。更に注文が入ればアキトに設計費を支払うぞ。」

 ちょっと嬉しくなった。これで小遣いが増える。

 「ところで、こんなものを作ることが出来ますか?」

 俺は、バッグの中からルアーを取出した。スプーンとプラグの2種類だ。

 ユリシーさんがどれどれと手を伸ばしてジッとルアーを見つめる。

 「これは何だ?…針が付いておるが…。」

 「ルアーという疑似餌と言うです。これを水中に沈めて動かすと魚が食いつきます。」

 「こんなんで釣れるとは思えんが…そっくりに作れば良いのか?」

 「大型の魚が釣れます。昨年はアルトさんが2Dを越える黒リックを釣ってますよ。」

 「嬢ちゃんにも釣れるのか…不思議なものじゃな。いいじゃろう。3日程待て。」

 「よろしくお願いします。」

 そう言って事務所を後にした。


 家の扉を開けると、テーブルに御后様とキャサリンさんがいた。

 「遅かったね。皆待ってたのよ。」

 そう言って、ディーに俺の食事の準備をお願いしてる。

 「まぁ、婿殿にもいろいろとあるのであろう。」

 にこにこ顔の御后様だが、余り気にしないで、ディーの出してくれた昼食を食べ始めた。うん。やはり柔らかな黒パンは美味しい。


 「食べながらでよいから聞いてくれ。婿殿達の盗賊討伐は面白い顛末じゃった。我が国の国境近くの盗賊を討伐したとカナトールの大使に伝えた時の反応は見ものじゃったと、トリスタンが言うてきた。まさか他国に進駐しておるとは言えずに応えに窮しておったらしい。」

 御后様は、ディーの入れたお茶を飲んだ。

 「じゃが、少し問題が複雑になってきた。盗賊の逃げた方向はカナトール王国じゃ。カナトールは国境に軍を派遣して盗賊狩りをすると言うておる。トリスタンもこちらに来る盗賊は倒しましょうと応じたが…これではモスレムも国境に兵を出さずにはおれまい。」

 御后様の苦い顔はお茶のせいだけではないようだ。


 「カイナル村は国境側に畑を作るために砦を作っています。そこを拠点にしてカイナル村の開拓を行えば対処できるのではないですか。幸いにもカイナル村には大きな川が流れています。ある程度の兵隊を駐屯させれば済むと思いますが。」

 「マケトマムの小型版をカイナルで行うと言うのか?」

 「そうです。50人規模で十分です。幸い、国境の監視はリザル族が行ってくれるはずですから。」

 御后様は、ジッと俺を見ている。


 「そして、他国の大使に付いてきた武官と10人程度の兵隊を同行させるのです。」

 「駐在武官に兵役を離れて開拓に従事している姿を見せるのじゃな。そして、カナトールが攻めてくればその姿を他国が確認できると言う事になる…。しかも、先の大規模な軍縮を行った言い訳にもなるようじゃ。…婿殿。お主も悪よのう。」

 「いいえ、御后様程では…。」


 俺の言葉を聞いて御后様が笑い出した。俺もつられて笑い出す。ちょっと待てよ、これって悪役の決まり文句のような気がするぞ。

 気分を変えるためにお茶を飲む。

 

 「ところで、話は変わるが今年の狩猟期がもうすぐそこまで来ておる。婿殿達も間に合うようには帰って来たようじゃが、今年は何を狙うのじゃ。昨年のように再度ザナドウを狩るならばとイゾルデが煩くてのう…。」

 「今年の参加は見合わせます。私とアキトとアルトさん、それにディーがいると狩猟期が荒れてしまいます。今年はミーアちゃんとサーシャちゃん達に頑張って貰います。」

 俺達に小さく「いいよね」って断ってるけど、アルトさんの顔は不服そうだ。

 

 「我らはその間、指を咥えておるだけなのか?」

 「私達は狩猟期の期間、屋台を出すのよ!」

 不機嫌だったアルトさんの顔が途端に良くなった。だけど、俺達でどんな屋台を出すんだ?そっちの方が俺には気になるぞ。

 「ほほう…。裏方に回ると言うのじゃな。それも一興じゃ。我もそちらに参加するぞ!」

 

 「でしたら、私はルクセムくんとミーアちゃんのチームに参加します。」

 「ありがとうございます。たぶんミケランさんも一緒になるでしょうから、よろしくお願いします。」

 キャサリンさんの申し出に姉貴がキャサリンさんの腕を取ってよろしくって言っていた。

 「さて、良い案を聞かせて貰うた。早速王宮に連絡せねばなるまい。」

 そう言って御后様は、キャサリンさんと帰って行った。

             ・

             ・

 

 あくる日から嬢ちゃんずは亀に乗ってリオン湖の周りに広がる森の探索を始めた。

 ディーが上空2.5kmから見た地形を元にして作り上げた地図を持って、獲物の種類と生息域、そして数を調査しているみたいだ。

 それだけでも大金で売れそうな地図に仕上がっている。そして、ミケランさんの家で5人で毎日のように作戦会議をしているみたいで、たまに御后様もアドバイスをしているようだ。

 別に上位になる必要は無いから、怪我をしない程度に頑張ってほしいと思う。


 俺達は、屋台の準備に明け暮れている。

 そもそも何を出品するかで3日程も悩む始末だ。悩むというよりは、お互いの自己主張が強すぎて一歩も譲らない。仕方なく、御后様と俺が妥協案を出したのだが…。

 だいたい、この世界でタコ焼きって誰も食べないと思うぞ。

 それに、チラの串焼きって、今は釣ることも出来ないぞ。

 そんな、2人に出した俺の案は、ウドンの屋台。御后様の案はサレパルって言われるエントラムズ公国の郷土料理だ。御后様の身地らしいけど、久しく食べていないらしい。

話を聞くと、クレープモドキだ。ただ、生地に包み込むのは野菜と魚らしい。

 「我もしばらく食して無いのじゃ。」

 アルトさんも、そう言ってるけど俺達が食べるんじゃ無いということを、この人達は理解しているのか甚だ疑わしい限りだ。


 出し物が決まると早速材料の調達を雑貨屋さんにお願いする。魚は俺が釣るとして、生野菜と木炭の仕入れを頼み込んだ。

 小麦粉は裏技で御后様経由で御用商人に頼み込んだ。

 

 そして、問題が見つかった。醤油と鰹節が無い。味醂もだ。それに、ミルクと卵だってここでは手に入らないぞ!

 「何とかなるのは、醤油だね。1日で小瓶1つかな。後は代用品を使えば…味醂はグラニュー糖で、ミルクはスティックミルクがあったわね。鰹節は黒リックで出汁を取りましょう。卵は…カルキュルから頂きましょう。」


 何か代用品のオンパレードだけど、こういうのは雰囲気が大事なのはここに来る前に学園祭で経験済みだ。

 後は屋台だけど、これはユリシーさんが何とかしてくれるだろう。

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             ・


 何時ものように、朝早くギルドに出かける。シャロンさんに片手を上げて挨拶するのはお約束だ。

 依頼掲示板を見ると、あるある…。採取依頼とラッピナ、カルネル、シャザク、タルミナ狩りが目白押しだ。

 刈り入れ時とその後に続く狩猟期で、それに関連する依頼書が掲示板からはみ出している。

 これは少し手伝わないとダメかも…何て考えながら振り返るとシャロンさんと目が合った。

 俺においでおいでと手を動かしている。

 何だろう。と思いながらもシャロンさんの所に行った。


 「助けてください!」と、いきなり俺の腕を掴んで泣きつかれてしまった。

 「今年はハンターの集まりが悪いんです。それで、あんなになってしまって。何時もはアルトさん達が片っ端から引受けてくれるんですが、今年はあまり来なくて…。」

 なるほど、嬢ちゃんずの狩猟期に備える準備がこんなところに弊害となって現れたんだな。

 「分かりました。帰って姉貴と相談してみます。」

 そう言って慰める。解決策ではないけど、皆で相談すればいいアイデアが浮ぶかも知れない。

 

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