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#160 カイナル村の戦い

 

 山村の夜にしては物々しく通りに篝火が焚かれている。

 楼門を見上げながらギルドの場所を聞くと、通りを真直ぐ進めば四つ角にあるぞと教えてくれた。

 通りを西に向かって歩いて行くと、数人の村人が棒や鉈を持って歩いて来るのにすれ違った。

 此方をジロリと見て俺達の姿がハンターと気づくと、慌ててお辞儀をして足早に立ち去った。

 「何だろね?」

 「大方、獣の襲撃でもあったのじゃろう。此方に向っていた群れもおったじゃろうに。」

 俺もそんな感じに思える。それにギルドの看板も見えてきたから、中で状況を聞けば分かるだろう。


 ギルドの扉を開けると、中の造りはネウサナトラムと同じだ。こちらの方が少し広いかなと思うけどね。

 皆のカードを預かって俺と姉貴でカウンターに向う。嬢ちゃんずは早速依頼掲示板を偵察に行った。何人かのハンター達がテーブルにいるが、ディーもいることだし問題は無いだろう。


 「ネウサナトラムから来ました。6人です。」

 カウンターで俯いていた30代のお姉さんに声をかけた。

 カードを1枚1枚ジッと見つめながら、ギルドの台帳に記載していたが、段々とその顔に驚きの表情が現れた。

 

 「銀が3人に黒が1人、赤が2人ですね。カイナル村ギルドは貴方方を歓迎します!」

 お姉さんの銀3つの声にテーブルの1人がこちらを振り返ってみている。

 「ところで、この村はちょっと物々しいように思えるんですが、何かあったんですか?」

 返してくれたカードを受け取りながら聞いてみた。

 

 「それは、俺が説明しよう。こっちに来てくれ。」

 先ほど俺達を見ていたハンターが手招きしている。

 急いで、アルトさん達を姉貴が呼びに行った。俺は一足先にテーブル席の方に歩いて行く。

 テーブルにいたハンターは3人だった。急いで丸テーブルを寄せて俺達の席を作っているようだ。

 「先ずは座ってくれ。話はそれからだ。…おい、急いで茶を用意しろ。」

 姉貴達も来たので皆で勧められるままに席に着いた。


 「さっき、銀が3人と聞いたが…。」

 テーブル越しに先ほどのハンターが聞いてきた。

 「えぇ、俺アキトと、隣の姉貴のミズキが銀1つ。その隣のアルトさんが銀4つです。後は黒5つのミーアちゃん、赤9つのサーシャちゃん、それに赤1つのディーでチームを組んでいます。」


 「俺はガルディ黒7つだ。隣がカルマとスザムの兄弟だ共に黒4つになる。この村には他にハンターは15人いる。黒7つが1人、黒3つが4人で後は赤5~7といった所だ。」

 ガルディと名乗った男は25歳位だろう。その隣の兄弟は俺より少し上位だ。


 「ところで、この村の警備が物々しいんですが獣の襲撃があったんですか?」

 「あったのではなく、最中なのだ。そして獣以外にカナビ族の戦士やリザル族の戦士も混じっているのだ。」

  

 「カナビ族にはここに来る途中で一度襲撃を受けました。1体だけでしたので何とか倒せましたが…」

 「たぶん偵察していたのだろう。理由は分からないが2つの部族が共同でこの村を襲う等今まで無かった事だ。この村の西はつり橋で対岸に繋がっている。そこが激戦地になっている。出来れば直ぐにでも手伝って欲しい。」


 「いいでしょう。でも、我々と平行するように70位の群れが此方に向っていたのですが、まだ襲撃には至っていないようですね。」

 「本当か?…カルマ。アキト達を西の砦に案内してくれ。俺達は東の門に行く。」

 3人は直ぐに席を立つと、俺に「すまん。」と頭を下げて足早に去って行った。


 「では、西の砦に案内します。まぁ砦と言っても西側の荒地を開拓する為の村の拠点なんですけどね。」

 そう言うと、俺達の先に立って歩き出した。


 通りを歩き次の十字路の先に橋があった。吊り橋だ。長さは30m程ありそうだ。木造だが支えのロープは結構太い、その上二重に吊ってあるから安全性はかなり高そうだ。

 横幅も荷車が楽に通れる程だ。橋を歩き始めると予想していたよりも橋の揺れが少ない。

吊り橋構造であると共に、岸の両側から張り出した桁があるように思える。

 吊り橋を渡ると、10軒足らずの民家が通りの両側に並んでいた。その先は30m程の広場になっており周囲を丸太の柵で囲んである。

 通りの正面に櫓を持った楼門があり、荷車が出入りできる大きさの門が作られていた。


 広場の左右に焚火が焚かれており数名のハンター達が、焚火を囲んでいた。

 櫓にも3人程の人影が見える。櫓から竿に付けた篝火を柵の外に出して周囲を監視しているようだ。

 

 俺達を案内してきたカルマさんは、焚火の傍にいる男に2,3言葉を交わす。

 直ぐに話しかけられた男が立ち上がると、俺達の方にやってきた。

 

 「旅の途中にすまないがここは取り込み中だ。出来れば力を貸して欲しい。…俺はレックス、黒7つだ。黒3つのレナム、レミーナと組んでいる。」

 「銀1つのアキトです。6人で来ましたから少しはお役に立つでしょう。先ずは状況を教えてください。」

 「いいだろう。そしてここのリーダーを務めてくれ。ギルドレベルの上位者がこのような時にはリーダーとなってくれると皆が動きやすい。」


 レックスさんは40近くに思える。荒削りの顔立ちに少ししろいものが混じった頭髪をしている。

 そして、レックスさんの説明は、1週間程前に西の荒地を開墾していた村人がガトルの群れに襲われた事から端を発しているようだ。

 開墾箇所に数十匹の群れが襲い掛かり村人数人が犠牲になった。その後、村人の遺体を回収している時に新たな群れが現れ更に犠牲者を出したようだ。

 ガトルの群れが最初で、2度目はイネガルを小型にしたようなガリエムという種類の奴らしい。そして、3度目は2日程前の夜にこの村を襲ったという事だ。これにはガトル、ガリエムの外に数十人のカナビ族が混じっていたという事だ。


 「カナビ族の戦士は獣を操れるようだ。そして、昨晩はリザル族が数人混じっていた。夜間で数は不明だが300はいたように思える。」

 姉貴が、図鑑でガリエムを見ていた。覗き込むと、なるほど小型のイネガルだ。しかし、角は4本でこちらの方が多い、そしてその角は体長の半分程の長さがある。ガリエムの突撃は槍兵の突撃並みの威力がありそうだ。

 生憎と、カナビ族とリザル族は図鑑に無い。人族に入りそうだから、獣図鑑には記載が無いのだろう。

 「しかし、妙な話なのじゃ。カナビはまだしも、リザル族は温厚な狩猟民族じゃ。我等と対峙するなど聞いた事が無いぞ。」

 「現に、見たものが大勢いる。俺も知る限りにおいてリザル族が我等と事を構えた事など聞いた事もない。」


 アルトさんの呟きにレックスさんが応えた。

 「今日は小競り合いも無くここまで来ている。しかし、夜襲が心配でハンターは西と東に分かれて待機しているのだ。…大体の話はここまでだ。俺達はお前達に従う。虹色真珠に銀であれば、誰もがお前の指示に従うだろう。」

 

 と、俺に振られてしまった。

 これからは俺達が対処しなければいけないみたいだ。

 早速、ここにいるハンターの人数と得物を確認すると、西の砦に10人、東門に5人という事だった。此方の10人は弓が5人、長剣が3人魔道師が2人で構成されていた。

 東門は弓が1人で魔道師2人それに片手剣が2人らしい。

 有難い事に、村の若い衆が手製の槍を持って両方の拠点に10人ずつ来てくれているそうだ。柵や門が破られれば村が蹂躙される。それは村人にとっても避けたいはずだ。


 「魔道師は【メルダム】が使えますか。それと【サフロ】がつかえますか?」

 「火と水の魔道師が1人ずつだ。だが、【メルダム】は無理だ。【メルト】までだ。」

 「では、弓と火の魔道師を東門に向わせてください。あちらの方も獣の群れが近づいてます。」

 「それでは、ここが…。お前達の仲間が逸れに変わるのか。いいだろう。早速移動させる。それと、更に村人の助成が必要なら言ってくれ。」

 「後5人程欲しいですね。それと使える家はありますか?」

 「広場の傍にある家はまだ製作中らしい。だが、煮炊きには十分だし、雨露も凌げる。」

 「その家を臨時の救護所にします。怪我をした時に運び込んで世話をするために先ほどの5人を使わせてもらいます。それと、【サフロ】が使える魔道師はそこで待機させます。」


 レックスさんは焚火の傍から立ち上がると早速指示を飛ばし始める。

 「では、私は兄のほうに行きますので、後を頼みます。」

 案内してくれた、カルマさんが弓を持った一団と共に吊り橋の方へ歩いて行った。


 「アルトさん。リザル族ってどんな種族なんですか?」

 焚火の傍に座っているアルトさんに聞いてみた。

 「アキトは見たことがないか…。そうじゃな。アキトと同じぐらいの背丈のトカゲを想像すれば、それがリザル族じゃ。奴等は他種族と争いを好まぬ。国境近くの山裾に集落を作って住んでおる筈じゃ。主に狩猟で暮しておるが、毛皮取引で商人が出入りしても問題ない位なのじゃが…。」

 「商人ですか…。すると、取引は硬貨ではなく物々交換でしょうね。武器と交換していれば厄介ですね。」 

 「それは、大丈夫じゃ。商人ギルドが規制しておる。精々ナイフか斧じゃな。それにリザル族が使う武器は槍じゃ。石の槍じゃがグライザム程度なら仕留めるぞ。」


 話からすれば敏捷で力が強い種族らしい。だが人と取引するほどの知性を持っていることになる。そして温厚な種族であれば何故この襲撃に参加しているのだろう。少し気になってきた。


 「アキト、連中が去った後の配置はどうするのだ。とりあえず全員を連れてきた。見張りもいないから早く決めてくれ。」

 「ディー、周辺の状況は?」

 「西北、800mに120。南南西、600mに30です。動きはありません。」

 「動きがあったら知らせてくれ。」

 ディーに指示した後で、レックスさんに顔を向けた。


 「まだ、動きはありません。2箇所に集まっているようですが、距離は近い方でも4みる程離れてています。」

 「そっちの嬢ちゃんはそこまで分かるのか。背中の大剣も伊達じゃ無さそうだしな。」

 そう言って、ディーの背中の大剣を見ている。

 

 「早速ですが、残ったハンターは長剣が3人と魔道師が1人ですね。魔道師の方は村人5人を連れて家の中で待機してください。怪我をしたら直ぐに【サフロ】をお願いします。長剣3人と俺とディーが広場です。村の方は、広場の外れの通りに面した場所へ樽や荷馬車で壁を作ってください。そして通り側で槍を構えて対峙願います。通りに行こうとする獣を槍で撃退してください。決して広場には来ないようにお願いします。」

 村人と魔道師が広場を去っていく。そして村人達が早速壁を作り始めた。


 「アルトさん達は楼門の櫓で数を減らす事に専念してくれ。くれぐれも爆裂球を使い切らないようにして欲しい。今夜だけとは限らないからね。」

 とは言うものの、嬢ちゃんずが持ってる爆裂球ってどの位か分からない。この村に来る前に雑貨屋へ出かけてるところを考えると、意外と爆裂球を大人買いしてる可能性が高いような気もするぞ。

 「最後に俺達ですが、門の正面にディー、右に俺の姉貴のミズキ、左は俺が入ります。レックスさんは俺の後30D位の所にレックスさんを真中で横一列に並んでください。」

 「門の前に陣取るとは、それほどまでにその娘は強いのか?」

  俺の配置を聞いたレックスさんは、ディーが衝角を務めると聞いて訊ねてきた。

 「ギルドのレベルは赤1つですが、実力はありますよ。」

 俺の配置を聞いたレックスさんは驚いて口をポカンと開けている。


 「まて、赤1つでは無謀ではないのか。ひょっとしてお前達は赤レベルを使い捨てにしてここまで来たのか?」

 復活したレックスさんが俺に詰め寄る。握り拳に力が入っているところを見ると、答えしだいでは俺をぶん殴るつもりのようだ。

 「いいえ。彼女の実力は俺を超えています。ギルドの水晶球が反応しないので赤1つから変化していないんです。…ディー、お前の剣をレックスさんに見せて。」

 

 ディーは大剣をレックスさんに片手で渡すと、レックスさんは最初片手で受けたが直ぐに両手で支えた。かろうじて持っているみたいで、両手がブルブルと震えが始まっている。

 

 「この途轍もない大剣をこの娘は片手で持っていたのか?」

 「そうです。王宮の武器庫から褒美に貰いました。かなり古い品らしいのですが誰も重くて使わなかったと聞いています。」

 「分かった。確かにこの大剣を片手で振るうものが赤1つとは思えん。アキトを信じよう。」

 そう言ってディーに大剣を返すと、ディーはクルクルと片手で大剣を廻して背中の鞘にバチンという音を鳴らして仕舞いこんだ。

 

 「ディーは周囲6Mの動きを感知できます。今のところ変化はありませんから、のんびりとお茶やパイプを使っていてもいいですよ。俺も、一服させてもらいます。」

 俺が銀のケースからタバコを取り出して一服し始めると、焚火の周りの皆もそれぞれにくつろぎ始めた。ディーがポットでお茶を沸かすと、ミーアちゃんたちが皆に配り始める。


 「ところで、少し訊ねたいのだが…。」

 「なんでしょうか?」

 「あの嬢ちゃん達が担いでいるのは見たこともないものだが、あれは弓なのか?」

 「クロスボーといいます。少し形は変わってますが弓の一種です。200Dの距離で半Dの的を射抜きますよ。ただ、連射が出来ないのが難点ですが、3人で交互に撃つことで補っています。」

 「小さい嬢ちゃん達だが頼りにはなるか…。ついでに教えてくれ。あの2人の腰にある片手剣だが、あの柄は角でもなく、骨でもない。あれは、ひょっとして…。」

 「牙ですよ。たぶんレックスさんが想像している通りのものだと思います。でも聞かれたら角だと言って置いてください。」

 「そうしておくよ。ホントの事を言っても誰も信じまいがな。若いときに大森林で一度見かけて死に物狂いで逃げ帰った。あの口にずらりと並んだ牙の太さ、長さを今でも覚えている。」

 どうやら、レックスさんは今まで誰も暴君を倒した者がいないことまでは知らないみたいだ。知らないならそれでいいこともある。


 突然、ディーが声を上げる。

 「群れが動きます。西北、800mの150個体。南南西、600mの55個体、少しずつこちらに向ってきます。…新たに群れが増えました。西990mに320個体急速に接近してきます。」

 「急速接近の群れは地上を走ってくるのか?」

 「そうです。このままの速度では、南南西の55個体の到着とほぼ同時になります。」

 「距離200で合図をしてくれ。」

 

 姉貴の顔を見る。

 「姉さん。ディーの合図で光球を2個砦の西に放ってくれ。アルトさん達は距離300Dで爆裂球を投擲。その後は姉貴の【メルダム】を100Dで放つ。これはアルトさんが合図してくれ。後は楼門の上はアルトさんに任せる。」

 

 そこまで言うと、俺は焚火の周りに集まる全員の顔を眺めた。

 「では、戦い開始だ。行くぞ!」

 全員が同時に立ち上がると、それぞれの持ち場に散っていく。嬢ちゃんずは梯子を上って4m程の門に付けられた櫓に上って行った。そして3人で力を合わせて梯子を引き上げていく。あれなら獣が上るのは無理だ。

 

 「西北西の群れ、距離300m。西の群れ距離500m。」

 姉貴が薙刀を地に着きその柄を片手で持つと、腕を上に上げた。たちまち光球がその掌の上に2つ浮かび上がり辺りを照らし出す。

 「距離200m」

 そう告げるとディーは爆裂球の紐を引いて西に向かって投げた。

 姉貴も光球を西に投げる。

 しばらくして、ドオォンっとくぐもった炸裂音が聞えてきた。

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