#016 初めての一斉召集
朝からカウンターのお姉さんと俺達は、ギルドの小さな部屋で今までの疑問点を纏めて聞いている。
依頼を受けるためにギルドに行ったが、俺達のガイド役になっていたミケランさんは村を離れていた。
そういえばガイドを何回かするのが黒レベルの仕事みたいな事を言っていた。
そんな訳で、ハンターとしての疑問点に答えてくれる人がいなかったので、カウンターのお姉さんに相談した所、ここで聞きますって連れてこられたのだ。
俺達が聞きたい事は、3つある。1つはギルドの一斉召集。2つ目は、魔獣とはなにか。そして、俺達が知らないその他のハンターに関わる事項だ。
「先ず、一斉召集ですが、町村のギルドの求めに応じて、その町村にいるハンター達が同じ依頼を受けることを言います。多くは魔獣等により町村が襲われる恐れが高い場合召集します……」
それは、ハンターレベルが赤5つ以上に者が対象となり、それ以下のレベルについては自由参加らしい。
俺達はまだ招集範囲ではないが、召集が発令された場合に参加しない場合は罰則として一定期間ハンターの資格を停止まであるようだ。
近年での召集例は2年前にエントラムズ公国のカレイム村で起ったのことだ。魔獣襲来により召集されたハンターは13名、そして4名が死亡している。
このマケトマム村では村創立以来そんなことはなかったと話してくれた。
「ある程度レベルが上がって、旅立つ者には今の話をしています。
そして、次の魔獣ですが、大気中の魔気を吸収して体が異常に発達した獣や植物を一括して魔獣と呼びます……」
魔獣の上位に位置するものは、取り込んだ魔気を結晶体に変化させることが出来るらしい。この間のカルネラが持っていた球体もそんな感じのものらしい。
これは魔法の補助効果を持っていることから、ギルドで買取ってくれると話してくれた。
色は赤から紫まで変化に富んでおり透明度の高いものほど高額になるとの事だ。
「最後に……そうですね。ギルドカードを持つハンターは税金の義務がない。そして、ギルドカードは身分証としての機能を持っているので、他国へ移動する際にも無審査で出入りできること位でしょうか」
ハンターになって直ぐには関係ない話のようだ。
これらの話はハンター内では暗黙の了解事項であり、面と向って質問されたのは初めてらしい。
確かにハンターギルドのシステムを小さい頃から見聞きしていれば当然の事かも知れないが、俺達に知る術はない。こうして聞いて確認するしか方法がない。
「話を変えますが、依頼書に書かれた採取対象や、討伐対象等を詳しく知るにはどうしたらいいですか。
ガイドを雇うのが一番なんですが、何時も雇うわけには……」
姉貴が少し俯いて小さな声で聞いている。少し同情を誘ってるみたいだけどね。
「図鑑を購入しますか? ある程度の知識は得られると思います」
「図鑑なんてあるんですか?」
俺達は吃驚した。それなら何で早く教えてくれなかったんだ。
「でも、売れたのは去年1冊だけだったんです。王都の子供向けに編集したので、町村の子供達なら誰でも知っていますし……」
「買います!おいくらですか?」
「ちょっと待ってください」
そう言って、お姉さんは部屋を出て行った。
姉貴と顔を見合わせ、ため息をつく。何で今頃って感じだ。
しばらくすると、ちょと黄ばんだB5サイズの本を持ってきた。
「これが図鑑です。王都の魔道師が複製したものですが原本と全く同じです」
頁を捲ってみると、カルネルがあった。
人間を片側に、カルネ、カルネル、カルネラと大きさが変わるのが一目でわかる。内容も、魔獣でカルネラが魔石を持つ事まで書いてあるし、触手注意と但し書きまできちんと記載されている。
その他の頁でも似たような構成で非常に解りやすい。
「あのう……、お値段は?」
「売れ残りなんで、半額の100Lでどうでしょうか」
姉貴は即決で支払いを済ませると、腰のレスキューバックに収納した。
「今の所は他に疑問はありませんが、解らなくなったらまた教えてください」
「分かりました。朝晩はハンターの方達で忙しいんですが、日中なら時間もありますから」
「「それでは、失礼します。」」
姉貴の隣で爆睡中のミーアちゃんを起こしてギルドを後にした。
「ミーアちゃん。ミーアちゃんが持ってる短剣貰っていいかな?」
「もう使わにゃいから良いけど……、にゃんにするの?」
「お姉さんの武器を改造したいの!」
また何か考えたみたいだ。
「アキト、この槍をクナイから短剣に変えてくれない?」
俺に顔を向けて、頼んできたぞ。
この間のカルネラ戦では、クナイの刃長が短いんで苦労してたみたいだから、槍先を短剣に変えるということか?
短剣なら刃長は30cm近いからクナイよりはマシになる。
「いいよ。宿に帰ってから改造してあげる」
ギルドから宿に戻ると、おばさんが話しかけてきた。
「今日は依頼を受けないのかい?」
そんなおばさんの質問に、苦笑いでごまかした。
「無理しないで、簡単な物を選ぶんだよ。無ければ待てばいいさ」
どうやら仕事にあぶれたと思われたらしい。
部屋に戻ると、姉貴はさっきの図鑑を取出して読書開始!しばらくは反応無しだろう。
俺は、ミーアちゃんから短剣を受取ると、握りを分解してみた。
短剣は薄い鉄板を加工したもので、握りの部分は刃先から伸びた鉄板を両側から木片で挟み、きつく紐を巻いた物だった。
鉄板なら加工は簡単だ。姉貴手作りの槍からクナイを外し、木の切り込みに短剣の柄の鉄板を装着すればOKだ。
短剣を見ると、手入れを殆どしていないようで錆が目立つ。雑貨屋さんに貰った砥石で槍にする前に刃先を綺麗に研ぎ直した。
全体の錆を落とし、刃先も一応研ぎ直したところで、柄の先に短剣取り付けた。抜止めの金具は少し短かったが短剣の柄に使っていた物を流用する。最後に革紐できつく巻きつけて縛れば出来上がりだ。
最後に、短剣のケースのベルト取付け部分を切り落として槍の穂先ガードにした。
「姉さん出来たよ!」
こっちを向いた姉貴にはい!って渡すと、どれどれって手に持ってバランスを確かめる。
「予想通り。これ結構使えると思うよ」
満足しているみたいで一安心。
「ところで、図鑑の方はどうなの?」
「うん。結構面白い。それに何と巻末に地図と生息分布図まであるのよ。 これでみると、この辺の凶暴なのはクルキュルとガトルそれにイネガルってとこかしら?」
「じゃぁ、明日は討伐をしてみる?」
そんな話をしていると、階段をドタドタと駆け上がってくる音がして、俺達の部屋の扉をドンドンと誰かが叩く。
「ミケランさん?」って姉貴と顔を見合わせたが、彼女はもう村にはいない。
用心深く、扉の鍵を開けると、弾かれたように扉が開いた。
「アキトはいるか?」
キョロキョロと部屋を見回す男は……、グレイさんだ。
「ここにいますけど……」
後から声をかける。驚いたように俺をみたグレイさんにはゆとりがない。
「ギルドの一斉召集があった。お前は赤3つ、一斉召集に参加する義務はないが人手が足りん。付き合ってくれ!」
「かまいませんが、何があったんですか?」
「ガトルの襲来だ。魔獣ではない。確かガトルを倒したって話だな」
姉貴が俺を向いて頷いた。なら話は簡単。
「手伝います。姉貴も十分戦えますが、ミーアちゃんは?」
「ギルドの娘に頼んでおく。それでいいな!……ギルドで待ってるぞ!」
グレイさんはドタドタと階段を駆け下りていった。
急いで装備を身に着ける。どの位続くか分からないのでミーアちゃんのバックにザックに残ってたお菓子を詰め込んでおく。非常食の代用だ。
俺達もギルドに急いだ。村中慌しい、扉を打ち付ける者、屋根に登って弓を用意する者等様々に準備をしているようだ。
ギルドの扉を開けると10名程度のハンターがホールで待っていた。
カウンターのお姉さんにミーアちゃんを頼み、姉貴とハンター達の中に入る。
しばらく待つと、ギルドの2階から壮年の男が現れた。
「皆揃ったか。この村で初めての一斉召集だ。相手はガトルだが数が多い、200以上は確実だ。生憎、村のハンターで黒は4人だ。
赤5以上は6人。しかし有難いことに赤5以下の者も参集してくれた。魔獣ではなくガトルなのがせめてもの救いだ。」
「村の出入り口は2箇所。俺が東で、西はグレイだ。グレイ、半数を連れて西へ行け。人選は任せる!」
「俺がグレイだ。マチルダ、サラミス、サニー、それにアキトとミズキは俺と来い。行くぞ!」
俺達6人はグレイさんを先頭に西の門に急いだ。
程なくして門に着くと、2人の門番が門を閉じ、村内に移動式の柵を設置している所だった。路地には荷車や籠等が軒先まで積まれ通行出来ないようにしている。
門の内側のちょっとした広場に俺達は集まると配置の打合せをする。
「俺とアキトは前列だ。マチルダはあの屋根に上り魔法で援護。サラミスは両手剣か、……俺達の後だ。サニーとミズキは弓だな、あの屋根で援護だ」
グレイさんはテキパキと俺達の場所を指示した。
「質問はあるか?」
「俺は赤7つだ。マチルダさんが黒なのは知っている。そのアキトは俺より上なのか?」
「良い質問だ。アキトは赤3つ。お前より4つ下だ。だが、赤7つと肩を並べるよりは俺はアキトを選ぶ。少なくとも俺より強い!
他に無ければ準備しろ。そこで待機だ」
俺は地面に腰を下ろすと、銀ケースからタバコを取出し、1本を口に咥える。100円ライターで火を点けると、プカーって煙を吐き出した。
グレイさんもパイプを取り出したが、火種が無くて困っている。とことこと歩いていき、ライターで点けてあげた。
「すまんな」
「いえいえ、誘って頂いて光栄です」
屋根の上の姉貴を見ると、しきりに俺を指差して自分の胸を指差してる。……これを使えってことか!
とりあえず手を上げて答えると、姉貴は頷き返した。
待つのは苦手だが男3人で一服しながら雑談するのもいいもんだ。こんなのこっちに来てから始めてかも知れない。
「ホントに強いのか?」
「クルキュルも倒したそうだぞ」
サラミスは俺より少し年長みたいだ。グレイさんの話を聞いて吃驚している。
「あれは、姉さんがボルトを撃って弱らせてくれたからですよ」
「あの太い矢か!でも1本ぐらいでは対して動きは鈍らん。あまり謙遜するな」
「でもゴツイ弓だな。弦が3本も有るし、訳の分からんものも沢山付いてる」
「3本に見えますが1本ですよ。あのカラクリで弦を引く力を半分にしているんです。普通サイズのガトルならボルトが貫通しますよ」
「とんでもない威力だな。しかし速射できるのか?」
「それが難点なんです。でもイザとなれば姉貴は俺より強いですよ」
「それで、あの短い槍を持ってるのか……」
「きたぞ!!」
門の櫓で様子を見ていた門番が外を指差して叫んだ。何時の間にか背中に矢を背負って手には弓を持っている。
もう1人は弓を引き絞って狙いをつけている。低い唸り声も聞えてきた。