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#148 国造り?

 

 兵隊達が穴掘りをしている近くで、ディーに担いできた遺体を降ろすように告げる。

 1人の兵隊に大至急御后様達を呼んできて貰えないかと話しかけると、直ぐに柵の方に駆けて行った。

 

 しばらくすると一行がやってきた。

 「お呼び出しして申し訳ありません。この者を皆の前に出していいかどうか判断に迷ったものですから…。」

 直ぐに、ジュリーさんとダリオンさんが検分を始める。

 革の服にあるポケットまで調べているようだ。


 「獣使いと見て間違いありません。しかもかなりの高位です。」

 そう言って、銀の笛を御后様に見せた。

 「紋章が刻印されておるの…。」

 「その紋章は、マケルト王国に隣接したスマトル王国にある傭兵ギルドの物に間違いありません。」

 ジュリーさんが応えた。

 「では、マリエッティはマケルトからスマトルに流れたと言う事になるの。それ程に行動力がある娘とは思えぬが。」

 御后様に行動力が無いと言われても…自分で比較したら誰でも大人しいと思うのは俺だけなのだろうか。

 「たぶん、マリエッティだけではないと思います。傭兵の交渉で高位のレベルを持った者を雇うにはそれなりの実力を相手に提示する必要があるでしょう。貴族の当主またはハンターレベルの黒5つ以上は最低でも必要と思われます。」

 「ふむ…。調べる必要があるか。ところで、森はどうじゃ。」


 俺は、森の状況を手短に話した。

 獣の集合地点まで行ったが周辺に獣は殆どいない事。そして、クルキュルに襲われたこの男の事を…。


 「この男が様子見だとすれば、さらに高位の獣使いがおったという事になる。じゃが、それは有り得ぬ話じゃ。」

 アルトさんが考え込みながら言った。

 「1つ考えられるぞ。」

 「国造り…ですね。」

 御后様の言葉に姉貴が応える。


 「この時代に国造りですか。今の世は安定しております。あえて切取りの世を作ろうと画策したというのですか?」

 「そこまでは考えておるまい。森の東は遊牧民の土地じゃ。そこならば我が国がとやかく言う話ではない。トリスタンめ何を考えておるのか…。」

 

 御后様はこの国以外にはあまり感心がないようだ。隣にどんな国が出来ても、この国が安定ならば許容すると言う事なのだろうか?

 「我が国への影響が無いと判断すれば、トリスタン様は直ぐに手を引きます。そこを逆に利用したものと考えますが…。」


 ジュリーさんが御后様に応えた。

 「トリスタンは物事を単純に捉えすぎるのじゃ。全て是非で判断しよる。まぁ、それが直ぐに出来るゆえに政務が滞る事は無いのじゃが…。ここは、王の判断を必要とするじゃろう。」

 御后様は最後に俺にご苦労じゃったっと言って柵の方に歩き出した。


 でも、この遺体はどうするんだろうと思っていたら、ダリオンさんが担ぎ上げると、獣の屍骸と一緒の穴に放り込んでしまった。

 そして俺の方を見て手招きをする。

 どうやら、これで一件落着のようだけど、俺にはさっぱり分からない。柵に戻ったら色々と聞いてみよう。

             ・

             ・


 柵は順調に仕上がっているようだ。

 詰め所が門の反対側にも出来ているし、簡単な造りだけど見張櫓まで出来ている。櫓の高さは5m位だから2階の屋根位の高さがある。

 俺はダリオンさんについて古い方の詰所に入っていった。

 詰所の真中にテーブルがあり、周りに椅子が沢山置いてある。ここが指揮所になるんだと思う。

 

 主だった連中が集まっている。

 「婿殿の偵察のお蔭で、森に獣達は集結していないことが判明した。じゃが、あくまで森の一部じゃ。明日にでも手分けして再度調査が必要じゃろう。油断は禁物じゃ。」

 御后様の言葉に俺達は頷いた。


 「本日の婿殿の調査で、スマトル王国が少し絡んでおるようじゃ。これは、至急国王に判断して貰わねばなるまい。…ジュリー、一旦王都に戻り上申せよ。トリスタンを交えてじゃぞ。」

 ジュリーさんは、御后様から笛を受取ると詰所から出て行った。

 「ダリオンはこの柵が完成したなら、森の東に砦を作る準備を始めよ。森の一番東にある立木から5M東に杭を100D間隔に打て。我が国の国境を先に決めるのじゃ。」

 「母上は遊牧民族と一戦交える御考えか?」

 アルトさんが御后様に訊ねた。

 

 「いいや。彼らは温厚で戦を好まぬ。しかし、先程の銀の笛が気懸かりなのじゃ。スマトル王国の王子は2人と聞いておる。1人はそのまま王国を継ぐであろう。そして、もう1人の王子が、貴族となって王の手助けをするなら問題は無い。じゃが、それを望まぬ場合はどうなるか…。未開の地に新たな王土を建国してもおかしくはないじゃろう。

森の東の地は果てしなく広がる荒地じゃが、至る所に水場があると聞いておる。意外と豊かな王国ができるやも知れぬ。」

 

 フロンティアというのだろう。希望を持って王子と共に多くの人々が入植するんだろうと思う。でも、今そこで暮している放牧民達はどうするのだろうか?


 「東では戦いの最中という訳か…。」

 「遊牧の民はどちらに逃走するのでしょうか?」

 アルトさんの呟きにアン姫が言葉を継いだ。


 「たぶん…東、じゃろうな。西では、我が国と衝突する。東に追いやられるであろうよ。不憫なことじゃ。」

 「お婆様。モスレムは何もしてあげられないの?」

 サーシャちゃんが言った。

 「残念なことじゃが、何もしてやれぬ。…モスレムの兵の数は王国の防衛に必要な数だけじゃ。幾ら周辺諸国と同盟を結ぼうとも、森の東に大軍勢を送れば、我が国はあっと言う間に、戦乱に巻き込まれてしまう。」

 

 モスレムに出来る事は、東の領土を明確にしておくこと。その国境線を越えたなら反撃をするぞという意思表示をする事だけなのかもしれない。

 となれば、利用価値の高い森を領土として東に砦を1つ作れば事足りる。

 砦には数十人の兵を待機させておけば十分だ。何と言っても森が要害になるし、森を抜けたところに村があるわけだから、こちらとしては有利に反撃体制を整える事が出来る。

 

 「獣騒ぎは終ったと見てよいじゃろう。じゃが、森の調査が終るまでは油断するでないぞ。明日は、我等で森の調査じゃ。後2日程で柵作りも終るじゃろう。」


 その日は一日中、兵隊達は獣の後始末だったらしい、夕食を食べながらダリウスさんが言っていた。

 「明日は俺達も柵作りを手伝うから、北の柵は終わりだ。東と西は村人達が進めるそうだ。」

 「しかし、森の東に砦ですか。交替で村に住むでしょうから、村は一気に大きくなりますね。」

 ダリウスさんの話にグレイさんが応えた。

 「この柵を使って村を広げる甲斐があるな。今年中には10軒以上の家が建ちそうだ。」

 「もう直ぐ、町になるかもね。」

 「この村の北に小さな集落があったと記憶してるんですが、今でもあるんでしょうか?」

 俺は、ミーアちゃんが住んでいた集落について訊ねてみた。

 「あぁ、あの村のことか。あまり交流はないが、この村によく獲物を持って来るな。この村が大きく成ったら、あの村も薪等の需要が増えるから豊かに成るんだろうな。」

 グレイさんが誰かを思い出したのか、そんな事を呟いた。


 それを聞いたミーアちゃんは少し嬉しそうだ。ずっと小さい頃から暮していたからね。あまりいい暮らしでは無かったかも知れないけど、想い出は多いんじゃないかな。

 「すると、この村で必要な薪は泉の森から伐採するんじゃないんですか?」

 「泉の森の伐採は原則的に禁止だ。国やハンターが必要に応じて切ることはかまわないが、村人が切る事は殆ど無い。山の森から切ってくるんだ。」

 「木を切ると、泉の精がお怒りになるって、村人は言ってるわ。怒ると干ばつが来るって信じてるみたいね。」

 マチルダさんが理由を教えてくれた。

 確かに、東を流れる小川は泉が水源だからな。結構な量を噴出しているみたいだ。

 でも、小川から畑は随分離れているから、森が縮小しても影響が無いようには思える。

 しかし、自然を守る事って、意外と迷信が利用されているんだなと感心してしまった。

             ・

             ・


 次の早朝。朝食を終えた俺達は詰所に集まった。

 「皆で、泉の森の調査じゃ。我はカンザスとグレイ達を連れて橋を渡って森の中間部の調査じゃ。婿殿はディーを連れて森の下側を頼む。ミズキはダリオンとアルト達を連れて泉の周辺部を探る。可能であれば獣達が何処から来たのかを確認して欲しい。今夜は森で一泊する事になろう。万が一の場合は爆裂球を2つ鳴らすのじゃ。よいな!」


 御后様の采配で俺達は柵から南へと移動する。

 確か、橋は破壊したと聞いていたけど、どうするんだろう?

 橋に行って見ると、2本の丸太が渡してあった。丸木橋よりはいいけど…。ちょっと危なそうだ。サラミスがバランスを崩して危うく小川に落ちそうになったけどどうにか渡り終えた。

 後で、巡回しているハンターが丸太を回収して通れなくするとカンザスさんが言っていた。


 「ディー。状況は?」

 「周囲1kmに動体反応は3つ。11時方向150m。1時方向400m。2時方向200mです。全て単体で行動しています。」

 

 早速、こちらの値に換算して御后様達に教えてあげる。

 「便利な能力じゃな。分かった。其方を確認しながら進むとするかの。では明日にまた会おうぞ。」

 御后様はそう言うとカンザスさん達と森の小道を真直ぐに進んでいく。

 俺とディーは、ここで、2時方向に進んでいく。確か200mと言っていたな。

 問題は、この先にいるのが何かってことだ。

 ディーの動体探知は方向と場所は分かっても、それがキャナルなのか、クルキュルなのかはまるで分からない。

 

 森の中だ。手回し良く戦えるように、背中のグルカを抜くとゆっくり2時の方向に進んでいく。

 「後、50m。」

 俺の耳の近くでディーがそっと告げた。

 立木の陰に隠れながら前方を見る…。そこにはリスティンに似た小型の草食獣が草を食んでいた。


 あれなら、問題は無い。

 「ディー、周囲の状況は?」

 「3時方向に1個体。300mです。」

 「ディー、先行してくれ。対象物より50mで停止してくれ。」

  

 森の中の薄暗い藪を掻き分けて進んで行くと、ディーが突然停止した。

 素早く、前方を確認する…。

 なんだ?…そこには狸みたいなのがいたんだけど、瀬戸物の狸みたいな奴だ。大きさも近所の居酒屋さんの前に置いてあった奴と同じぐらいに見える。

 確か狸は雑食性…。此方から攻撃しない限り襲ってこないはずだ。それに俺達がここにいることはまだ気が付いていないようだ。

 

 「ディー。次の反応は?」

 「ありません。このまま、南に向いますか?」

 「そうだな。担当分を早めに廻ろう。ディー、悪いけど動体探知を最大にして、確認出来たら知らせて欲しい。」

 「了解しました」

 

 俺達は南に向う事にした。

 そして、その後に遭遇した獣はリスティンが2回。キャナルが1回。ガトル数匹の群れが2回だった。

 大型の獣はいないようだ。

 そして、俺達は沢山の獣が通ったと思われる場所に出た。

 下草が踏みにじられている。それは、左から右に続いている。左に進めば御后様達の調査範囲になる。俺達は荒れた下草が続いている右方向に進むことにした。

 



 

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