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#015 畑を荒らす白い奴

 

 ハンターの就寝時間は結構早い。

 これは一日中、出歩いていることから結構疲れるためだ。それに、ギルドでの依頼は早い者勝ちなので、早起きして依頼を受ける者が多いためだと思う。


 「依頼を受けてから朝飯が普通だな」


 俺達にグレイさんも言っていた。

 郷に行っては郷に従えの言葉を実践しようと早々とベットには入ったが、今までの生活習慣を急に変えることは簡単ではない。

 しばらくは姉貴と話をすることになる。

 今夜はグレイさんに教えて貰った一斉召集と魔族の話をした。


 「そうなの。一斉召集についてはギルドでの話に無かったわね。明日聞いてみましょう。それと魔族だっけ、どんなのかな?」

 「赤5つまではこの村に居ろって言われた。人が多いほど可能性が高いそうだよ」


 「まだ3つだから、しばらくこの村にお邪魔することになるわね」

 「いや、ミーアちゃんが1つだから、まだまだ居る事になると思うけど」


 「ミーアちゃんって武器は使えないのかしら?」

 「あの部落でずっと薬草採取で暮して、危険が迫れば木に登ってたみたいだし、使えないと思うよ」


 「でも、何時かは使う事になると思うの。ミケランさんに相談してみようか。同じ猫族みたいだから」

 「そうだね。……じゃぁおやすみなさい」

 

 そんな訳で早速次の日はギルドに押しかけ、ガイドを依頼する。


 「昨日はありがとにゃ。」って言いながらやってきたミケランさんに早速相談を持ちかけた。


 「そうにゃ……、猫族は素早いにゃ。だからこれを使う人が多いにゃ」


 そう言って、腰の片手剣を叩く。

 やはり、片手剣か。でも、ミーアちゃんには重そうだけどね。


 「最初からミケランさんみたいな剣じゃないとダメですか?」

 「いろんな種類があるにゃ。でもアキトみたいなのは見たことないにゃ」


 「150L位で買えますか?」

 「そこそこの物が買えるにゃ。武器屋に行ってみるにゃ」


 皆でぞろぞろと武器屋に行く事になった。もっともたいした距離ではない。ギルドの通りの向かい側なのだ。


 「おはようございます」って入ってみると、有るわ有るわ、陳列棚いっぱいにいろんな武器がそろえてある。

 カウンターの奥から男が出てきた。


 「おはよう。誰の武器だね」

 「この子の武器が欲しいんですが、片手剣で軽そうなのはありますか?予算は150Lなんですけど……」


 「それなら、この辺だな」


 そう言って武器屋のおじさんは、3本の片手剣を棚から下ろしてカウンターに並べた。

 それぞれが特徴的だ。両刃の直刀、片刃の直刀、少し反りのある片刃。

 持ってみると、バランスが良いのか以外に軽く感じる。


 さて、ミケランさんの持ってるものは……とミケランさんを見ると、俺の視線に気が付いたようだ。


 「私のは、これにゃ」って腰の片手剣を抜いた。

 店が狭いので直ぐに戻したけど、少し反りのある剣だった。


 「猫族の人には、これが人気だね」


 おじさんも、反りのある片手剣を一押しする。

 ここは同族のミケランさんに倣って、武器屋お勧めの剣を購入する事にすべきだと思って姉貴を見ると、顔に片手を当てて考えてる。

 

 「何か不満なの?」と姉貴に聞いてみた。


 「これだと、ミーアちゃんのベルトに下げる形でしょ。まだ小さいから歩く時邪魔になるし、イザという時に走って逃げることができないと思って」

 「ははは……、そんなことを考えてたのかい。そこまで考えてくれる者が一緒だと嬢ちゃんも安心できる。

 その答えは簡単だ。ケースの下の方に金属のリングがあるだろう。それを利用すると、こんなふうに背中に背負う事が出来るんだ」


 武器屋のおじさんは近くの引き出しから革紐を取り出し、ケースへの取付けを見せてくれた。

 

 「それでは、この剣をお願いします」


 姉貴の返事に「分かった。」と言って、ミーアちゃんの背中に取り付けてくれた。

 よく見ると、革紐ではなくベルトだ。小さな肩当ても付いている。最後にケースのリングに革紐をつけて腰のベルトに結び付ける。

 

 「よし、なかなか似合うぞ。それ程重い剣ではないが、走ってずり落ちないように腰のベルトに紐で結んでおいたぞ」


 「ありがとうございます。」って姉貴は代金を支払う。……ぴったり150Lみたいだな。あれ?RPGだと値切るのが基本のような気がするけどね。


 ミーアちゃんが片手剣を背負った姿を、満足そうに姉貴達は見ている

 「ミーアちゃんの装備が出来たところで、簡単な討伐依頼をしたいんですが。ミケランさん、また選んで貰えませんか?」

 「分かったにゃ。ギルドに行くにゃ」

 

 ギルドの掲示板をミケランさんが見ている。最も、赤レベルの討伐依頼なんてあまり無いみたいだ。


 「これが良いかにゃ」


 ミケランさんは掲示板の下の方から1枚の依頼書を外した。


 「カルネル退治にゃ。畑のカルネルを退治して欲しい。報酬は50Lにゃ」

 「あのう……、カルネルってなんですか?」


 まだ、俺達には名前で姿が分からない。アリットみたいなことにならないとも限らないから、姉貴の質問は当然だ。

 

 「カルネルは植物にゃ。カルネって言う植物が魔気で変異したのがカルネルにゃ。

 大きさはミーアちゃんより頭1つ小さいけど、動き回って攻撃するにゃ」


 どんな植物だそれ!って感じだけど、依頼書には赤丸が3つ付いている。 赤3つで丁度いい依頼ってことだから、ミーアちゃんにギリギリ対処出来るレベルだ。


 俺達で弱らせ、ミーアちゃんで止め。……どちらかと言うとレベルアップの裏技みたいな対処方法のような気がする。


 早速、カウンターのお姉さんにハンコを押して貰うと、ザックを預けて4人で指定された畑に出かける。

 畑の位置は泉の森へ行く小道を歩いて途中の十字路を北に向った所だった。

 今回、姉貴はクロスボーを預けてきた。身軽に手作りの短槍と短刀(俺は短刀とは認めない、あれは小太刀だ)が目に付くけど、丸めたポンチョの下にはM36があるはず。

 

 山に向って段々畑が広がっている。道は緩やかなのぼり坂だ。

 いくら緩やかでも長時間歩くと結構キツイ、少し汗ばんできたのは気候のせいばかりではないはずだ。

 

 「ここにゃ。ほら、あそこにいるにゃ」


 ミケランさんが立止まって、畑の森の方角を指差す。

 姉貴は双眼鏡を取出すとその方角を見て、一瞬吃驚したようだったが、俺に双眼鏡を渡して見るように促した。

 そして、双眼鏡で見たものは……。


 大根だ!大根が群れている。白くて細長く、頭には緑の葉っぱも付いている。でも、小さいながらも目と口があるようだ。

 そして2本の足?ですばしこく動いている。腕は体に比べて長細く、手は無い。畑の畝に栽培されたホウレン草みたいな野菜を腕で丸め取って食べている。歯もあるみたいだぞ。

 

 「カルネルは素早く動いて噛付くにゃ。それに、腕が伸びて絡みつくから注意するにゃ。でも、その前に一休みするにゃ」


 ミケランさんはそう言って、畑の畦に腰を下ろし、水筒の水を飲んでいる。

 俺達も同じように一休み。

 

 「作戦を立てるにゃ。畑の上からアキト。下から私。真中がミズキとミーアちゃんにゃ。

 3方向から退治していくにゃ。畑を出て森のほうに逃げ出したら私が素早く森側に回り込むにゃ。その時はミズキが私の場所に急いで移動するにゃ。」


 一箇所に追込んで最終的には包囲殲滅するって事だよな。ミーアちゃんも1方向を最終局面で担当することになるけど、範囲が狭いなら、俺達が協力出来るから問題ないだろう。


 「アキトと私が移動し終えたら合図するにゃ。そしたらミーアちゃんと前進するにゃ」


 ミケランさんに俺達は揃って頷くと、俺は畑の上の方に急いだ。

 大根達をほぼ真下側に移動すると姉貴に向って手を振った。畑の下側でミケランさんが手を振っているのが小さく見える。

 

 姉貴達がカルネルに向って進んでいく。ミーアちゃんは剣を抜いているみたいだ。日に当たってキラキラ光っている。

 俺も、採取鎌を持って下に下りていく。見た目ダイコンだし、強く叩けば砕けるんじゃないかな。

 

 「ウニャー!」って叫びを上げてミケランさんがカルネルを両断した。そして、次のカルネルもぶった切っている。

 俺も、「オォリャー!」って手近なカルネルをぶっ叩く。ゴリ!って鈍い手ごたえがあってカルネルが数辺に割れる。


 先の鍛造鎌による衝撃で、面白いようにカルネルを破壊できる。

 姉貴の方を見ると、槍では両断できないみたいだけど、傷を負わせてふらついてるカルネルをミーアちゃんが剣で両断している。

 

 ミケランさんが森の方に移動を始めた。それにあわせて姉貴が右に回りこみ始める。

 俺は素早く左側のカルネル達を倒すと、前進しながらミーアちゃんの方向に少しづつ移動する。


 カルネルの数は多いけれど、一方的な殺戮に近い。それでも、ミーアちゃんはチョコチョコと移動しながら懸命に剣でカルネルの胴体を輪切りにしている。

 やはりハンターなりたてには丁度良い討伐だなって考えながら、包囲陣を狭めていく。

 

 そして、最後のカルネルを「エイ!」ってミーアちゃんが倒した所で、ミーアちゃんの始めての討伐は完了した。

 皆で倒したカルネルは数十匹を越えている。

 姉貴と「良かったね」って喜んでいると、ミケランさんが俺達を叱責した。


 「油断しちゃダメにゃ。……これだけの数が揃っていれば、カルネラがいてもおかしくないにゃ」


 そして、周囲を窺っている。

 カルネラって何?って聞こうとしたところに、畑の土をドバッ、ドバッって割りながら、白い触手がウネウネと5本現れた。

 俺達を取り囲んでいる。


 「カルネラの触手にゃ。触手を攻撃して本体を出すにゃ。……アキト、叩いてもダメにゃ」


 ミケランさんが言った時には、もう俺は触手の1つに採取鎌を叩き付けていた。

 ブヨンって手ごたえがして採取鎌が弾かれる。

 鎌を投出し、グルカナイフを左手に持ち、改めて触手に斬りつけると、スパッって両断出来た。

 地面に落ちた触手がウネウネってしばらく動いている。ちょっとグロいな。

 半分の長さになった触手を更に半分にする。俺の身長程に短くなった時、ズズズゥーっと畑が大きく割れて本体が現れた。


 直径1.5m、高さ4m程の大きさだ。形はカルネルと同じだが、俺を見てる眼光は鋭く、直径1m程の口には鮫みたいな歯がびっしりだ。


 「カルネラは赤5でも苦労するにゃ。少しづつ切り刻むにゃ」


 ミケランさんの指示で触手で叩かれないように本体を少しづつ刻んでいく。

 ダイコンのぶつ切りを作っているような感じだが、結構短くなった触手をブンブン振り回すので、一撃離脱が俺達の攻撃方法だ。


 触手が有って1人の状況では確かにカルネラは脅威だろう。でも、触手を無くした状態では素早く動く事も出来ず、噛付き攻撃だけになることから、4方向からの攻撃で十分対処できる。

 最後は殆どタコ殴り状態であったがどうにか倒すことが出来た。


 動かなくなったカルネラの頭部の葉っぱの下辺りをミケランさんが剣で何度も突き刺して何かを探っている。


 「ここにゃ!」と言ったかと思うと、剣で抉るように何かを取り出した。


 「カルネラになると魔気が結晶化するにゃ。大概は頭辺りにあるにゃ」


 そう言って姉貴に小石程の球体を渡した。


 「これって?」

 「魔石にゃ。濁った赤……品位が低いにゃ。けど換金できるにゃ」


  魔石は、高い品位になると透き通った紫になるらしい。でも、低レベルの魔物だとこんな物らしい。


 「カルネルやカルネラって魔物なんですか?」

 「そうにゃ。植物や獣が魔気を吸い込んで魔物になるにゃ。人もなるときがあるにゃ」

 

 魔物は生態系から逸脱した突然変異種と考えればいいのか?

 そうすると、かなり突拍子もない能力を持つものもいることになる。これはあらかじめ調査する必要があるかも知れない。

 

 畑はめちゃめちゃになったが、依頼書には畑の事に触れてないからこれでいいのだとミケランさんが説明してくれた。


 「カルネルを土に埋めれば良い肥料になるにゃ。後は農家の仕事にゃ」


 なんて言っている。

 でも、依頼書の依頼内容は良く読む必要がありそうだ。ハンターは依頼書の通りの仕事をする。何か契約社会の縮図を見ているようだ。



 ギルドで依頼終了の報告をした後で、魔石の換金を頼むと100Lになった。都合150L。ミケランさんに40Lを分けて、ミーアちゃんのデビューは無事終了した。


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