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#147 もう少しで…

 

 次の日は、朝早くから荒地を埋め尽くすような獣の屍骸を皆で片付け始める。

 もっとも、柵作りを行うハンター達はそっちが優先だから、俺達と兵隊達が主な片付け手になる。森の近くは、屍骸がない。死肉漁りの獣にでも食べられたのだろう。残骸が少し残っているが、その内皆なくなるとカンザスさんが言っていた。

 嬢ちゃんずも最初は嫌がってたけど、今は荷車を姉貴と一緒に引いている。そして、兵隊達が掘った大きな穴に獣の屍骸を投げ入れて土砂を被せるのだが、もうすぐ2個目の穴も埋まってしまうと姉貴が教えてくれた。

 俺は、グレイさん達とひたすら穴を掘り続ける。隣では兵隊達が穴掘りをしているけど、後どれ位掘ればいいのか見当も付かない程だ。

 ディーが羽根を伸ばしながら俺達から離れたところで監視をしてくれているので、安心できるんだけどね。


 そんな事をしている時、1人の兵隊が俺を呼びに来た。

 「アルト様がお呼びです。至急いらしてください。」

 穴掘りに飽きていた俺は、これ幸いとばかりに兵隊の後ろに付いて行った。

 そして、連れて行かれた先には、御后様とアン姫、アルトさんに姉貴とダリオンさんが、屍骸を片付ける兵隊達の傍で作業を見守っていた。


 「来たか。夜襲のおりディーの矢を受けて、空から落ちてきたものがあったじゃろう。…こいつ等がそうじゃ。」

 そう言いながらアルトさんは棒で屍骸を突いている。

 それは、見たこともないような巨大なコウモリだった。皮膜が至る所で千切れているのは爆裂球の炸裂を至近距離で受けたのだろう。そして、獣の群れの中に落ちてしまった訳だ。体の一部が欠損しているのはオオトカゲにでも食べられたのかもしれない。


 「問題は、これじゃ。」

 棒で皮膜を持上げると、その下から人間が出てきた。

 黒い革の服を着て、腰に爆裂球を2個下げている。そして黒塗りの矢が入ったケースを付けていた。弓は落ちるときにでもどこかに行ってしまったに違いない。

 意外に小作りな体を不審に思い、傍によって顔を確かめる。

 それは、顔半分が潰れているが、ミーアちゃんと同じ位の少女の顔だった。


 「そして、これを持っていた。」

 呆気に取られている俺の手に短剣を掴ませる。

 綺麗に装飾が施された短剣だった。実用には全く向かずどちらかというと儀礼用に思われる。

 「その短剣には意味がある。我やアンは持っている。そして将来的にはサーシャとミーアも持つ事になるだろう…。」


 「花嫁道具の1つですか…。」

 姉貴が震える声で聞いてみた。

 「そうじゃ。そして、これには家紋が入る。花嫁となる娘への父親からの最後の贈物じゃ。そして、その家紋は…。アキト抜いてみよ。」

 短剣を抜こうと柄を引いたが抜けない。良く見ると、細い糸…いや髪の毛がケースと装飾の施された柄の一部をきつく結んでいた。

 サバイバルナイフを使って髪の毛を切断すると銀色に光る刀身が現れる。その刀身にガトルの横顔が彫られていた。

 「髪の毛は母親のものじゃ。そして刀身に彫られた紋章は…吼えるガトル。」

 「サナトラ家の家紋じゃな。するとこの娘はあやつの妹、マリエッティということになる。じゃが、マリエッティは海を隔てたマケルトの貴族の所に嫁いだのではなかったか?」

 俺の抜いた短剣の刀身に刻まれた家紋を読んだアルトさんに、御后様が訊ねた。

 

 「かの国へ出航した後にあの裁断です。相手としても嫁入りさせるわけには行かなかったと思います。」

 何時の間にか俺達のところに来ていたジュリーさんが応えた。

 

 すると、結婚できなくなったあいつの妹が俺達に復讐に来たということになる。

 「むごい話ですね。生きていればいいことだってあるでしょうに…。」

 そう俺が呟いた。

 「確かにむごい話ではある。しかしじゃ。今回の事件をどう収拾させるかが問題なのじゃ。この娘…我等を狙った者じゃとすれば、遺体はタレットの餌じゃ。その黒い矢は全て毒矢。我等を狙ったものと容易に推定出来るがの。」

 アルトさんはそう言って、ジュリーさんに急いで焼却するように言いつけている。


 「仇を討とうとした気概は大したものじゃ。この短剣以外に宝飾品は身につけておらぬ。嫁入り道具と宝飾品を売りさばいて、今回の事件を起こしたのじゃろう。…策は上手く運んでおった。アルトもアンも、婿殿達も騒ぎを聞きつけてやってきたのじゃからな…じゃが1人、人外の戦士がおったことが唯一想定外じゃった。」

 御后様は優しく少女の顔を撫でている。


 「ディーが、空からの強襲部隊を察知したこと…ですか。」

 「そうじゃ。あの時、ディーが彼女達を打ち落とせなんだら、今ここに我等はおらん。」

 御后様が断言した。

 「ディー以外誰も気付かなかったのじゃ。後1歩の所で届かなかったという事じゃな。…その策に免じてタレットを止めてここに塚を築く事にしようぞ。ただし、名を記する事は認めるわけにはゆかん。」

 

 敵の策を見事と褒めているのかな?名も知らぬ娘がここに眠っている。という事にしたいみたいだ。それでもしでかした事を考えれば、かなり甘い沙汰なんだと思うけど…。

 「この短剣は土の神殿の苦行僧に加わった長男に渡すがいい。」

 アルトさんはジュリーさんに俺の手から短剣を取って渡した。

 そして、何か耳打ちしている。

 一瞬、はっとした顔でジュリーさんはアルトさんを見ていたが、その短剣をハンカチのような布で包み、大切そうに懐に入れた。


 ダリオンさんが小川の傍に穴を掘ると、少女を布で包んで中に横たえた。そしてその上に近くの石を運んで塚を作る。

 少女の名前は刻まない。俺達は今回の経緯を知っているがアン姫の連れてきた兵隊達はこの事を知らない。知っているのは俺達だけだ。そして俺達が他の人に、この事を話すことは無い。

             ・

             ・


 獣の屍骸の後片付けは、昼頃にある程度目処がついてきた。

 昼食後にお茶を飲んでいると、姉貴がちょこっとやってきてとんでもない事を言い出した。

 「アキト…偵察してきてくれないかな?」

 直ぐには、「うん!」とは言えなかった。

 泉の森は現在治外法権地帯。獣達の王国になっているはず。いくら俺でも少し無謀に思えてしまう。

 だが、少し考えてみるとちょっと気になる事がある。ディーは半径1kmの動体探知能力がある。そして、集結している事を俺達に知らせてくれた。では、集結していない時は獣達は何処にいるのだろう。

 アルマジロもオオトカゲもカンガルーだって、泉の森にはいなかった。どこかで待機して出番を待っているのだろうか。

 いくら俺でもオオトカゲに貪り食われたら死んでしまうだろう。それなら近づかなければいいことになる。周囲を取り囲まれぬように注意していれば、【アクセル】と【ブースト】を併用すれば逃げる事は可能じゃないのか…。


 「分かった。ディーと行って来る。とりあえず、最初の日に獣が集結していた場所まで行って来ようと思うけど…。」

 「それでいいわ。出来れば、そこまでいったら、小川沿いに南下して欲しいんだけど。」

 「それは、第2目標という事で…。」

 お茶のカップを置くと、ぽいぽいと獣を荷車に放り込んでいるディーのところに歩いて行く。


 「ディー、出かけるぞ。偵察だ。」

 2人で、片付いてきた荒地を歩いて行く。今回はショットガンの代わりに採取鎌を杖代わりに持っている。ディーは長剣とブーメランを背負っている。

 荒地の外れに来ると、早速ディーの動体探知能力を最大にして、状況を探って貰う。


 「周囲に獣の集結はありません。1時方向、約500mに3個体がゆっくりと移動中です。」

 「動体が50m以内に近づいたら…。それと獣の集結と変わった動きがあれば教えてくれ。」

 

 俺達は獣達が踏み固めた森の中を進んでいく。

 森の中は木立に日の光がさえぎられて薄暗く感じる。

 ディーがスタスタと、先頭を何事も無いように進んでいるけど、あれだけ集まっていた獣が全くいないのも気になる。

 たまに、ディーが動体反応を教えてくれたけど、キャナルを見かけるだけだった。

 森の端から1km位歩いたろうか、そろそろ獣達が集結していた場所に出るはずだ。


 突然森が開かれた。

 300m程の円形に草原が広がっている。そして、そこに生えた草は獣の足で踏みにじられていた。

 ここが、獣達の集結地点だと思う。

 

 「ディー、周囲に反応は?」

 「10時方向200m程先に1個体。12時方向100mに2個体。…先の個体が後の2個体に急速接近中です。あと30秒で接触します。」

 俺に振り返ってディーが報告してくれた。

 でも、今の話だと襲われそうになってるって事だよな。急いで、【アクセル】と【ブースト】を自分に掛けると、前に進んでいった。

 

 「両個体接触しました。接触と同時に1個体は生体反応停止。」

 ディーの声を聞き流しながら俺は脚を早める。

 そして森の木の間から見えたものは、クルキュルと戦う4本腕の男だった。


 片手剣を4本の手で握りクルキュルの攻撃を防いでいるが、既にクルキュルの蹴爪の攻撃を何度か受けているようだ。右胸に大きく切り裂かれた傷口から、動くたびに血が溢れている。

 そこに、ディーが乱入していく。

 長剣を一閃させるとディーを飛び越えながら後ろキックをしようとしたクルキュルの足が切り裂かれた。そして、落ちてきたクルキュルの首をブーメランで刎ねる。

 

 俺は瀕死の男の所に行くと、その顔を見た。その顔は面を付けているようだ。だが、その面をどのように外すかはわからない。紐も付いていないし、顔に張り付いている。

 俺が面を外すのに四苦八苦している内に男は息を引き取った。


 「ディー。周囲の状況は?」

 「動体反応ありません。」

 俺の問いに素早くディーが応えてくれた。

 「この男を担いでくれないか。急いで皆の所に戻るぞ。」

 ディーは俺の言葉に従って、4本腕の男を肩に担ぐと、イオンクラフトで滑るように森の中を進んでいった。その後を急いで追いかける。

 【アクセル】と【ブースト】を併用しても追いつけないくらいに速い。俺だって結構駆け足は速い方なんだけどね。


 

この復讐劇については、#67~#70を再度お読み頂けるとご理解しやすいかと思います。

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