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#138 気化爆弾

 

 アクトラス山脈は白く雪に覆われているが、森の辺りはもうすっかり雪が融けている。

 俺達は森への小道を進むと、休憩所で一休みだ。


 「ディー。北の群れはこの近くなのかい?」

 「どちらかと言うと、通り過ぎています。昨日見かけた群れは此処より東南東に行った荒地でした。」

 「通り過ぎたのなら、その方がいい。森に逃げ込まれる事はないだろう。さて、どうやって群れを追い詰めるのだ。」

 セリウスさんがパイプを煙らせながら聞いてきた。

 

 「見敵必殺で行きます。俺達は6人ですから、俺とディーで北から群れを襲撃します。スロットとネビアそれにミケランさんとセリウスさんはこの小道を基点に南側で待ち構えて下さい。スロットとネビアは小道沿いにセリウスさんはリオン湖側にミケランさんは中間点です。間隔は200D位でいいでしょう。最終的にはリオン湖の畔に追詰めて殲滅したいと思います。」

 

 「迎撃ではなく、来た群れを更に東南方向に追い飛ばすということですか。了解しました。でも、向かってくるガトルは切りまくりますよ。」

 「それでいい。包囲網が荒いからどうしてもそうなるはずだ。場合によっては追いかけなくてはならないかも知れないけど、そんな時はネビアの魔法が頼りになる。」

 そう言って、爆裂球3個をスロットに渡す。

 「使い方は判るな。牽制に使えると思う。」

 

 「俺達の準備が出来たら爆裂球を炸裂させる。それを合図に追い立ててくれ。」

 セリウスさんの言葉に頷くと、全員に【アクセル】を掛ける。これで動きが良くなる筈だ。更に自分に【ブースト】を掛ける。これでも、身体機能は約1.5倍。ディーの加速装置の2倍には及ばないが、そこそこ追い立てることは出来るだろう。


 ディーと一緒に森の脇を東に進んでガトルの群れを探し始める。

 「見つけました。約500m先の斜面に群れの反応があります。個体数は約30。こちらに気付いておりません。」

 ガトルの群れに少しずつ近づいて行く。残り200m位だ。

 その時、ドオォンっと炸裂音が響いてきた。

 

 「ディー、狩りの時間だ。下を頼む。」

 「了解しました。」

 ディーは滑るように斜面を下っていく。足が動いていないように見えるけど、気のせいなのかな。

 俺もショットガンを抜いて群れを目指して走る。群れに100m程近づいた時、俺の右手方向に爆裂球を投げる。

 ドオォンっという音と共にガトルの群れが南に向かって走り出した。、

 その群れを追い立てるように走る。

 北に逃げようとするガトルは先回りをして待ち構えてショットガンで倒す。

 遠くにセリウスさんが見えてきた。

 セリウスさんは群れの方向を見ながら素早く4人の配置を直している。小道に逃げようとするガトルはスロットの投げた爆裂球の炸裂に吃驚して南へと進路を変えている。


 そして、ネビアとの距離が100m程になった時、俺達はセリウスさんを基点に斜めに配置を変更する。

 ガトルはだんだんと包囲が狭められると、こちらに向かってきたがこのメンバーで後れを取る事はない。

 ネビアに向かってくるガトルはスロットが全て片付けているし、その前にネビアの魔法で傷つけられるガトルの方が多いくらいだ。

 ショットガンの弾を補給しながら1匹ずつ片付けていく。ディーは地面を滑るように移動して、左右200m程をカバーしてる。

 羽根を広げているようにも見えるが羽ばたいているようには見えない。しかし、ディーの動きに足が連動しておらず地面を走っているようには見えない。ホントに滑るように動いているのだ。

 たまに長剣が翻る時は、ガトルが絶命した時なんだろうけど…。


 だんだんと包囲を狭めてリオン湖の岸辺に追い込んでいく。

 最後は俺とセリウスさんそれにスロットが爆裂球をガトルの群れに投げ入れると、ミケランさんとスロットが群れに突入する。

 逃げ出すガトルは俺とディー、セリウスさんが討取り、ネビアも【メル】で確実に仕留めていった。


 「あっけないものですね。」

 「ガトルの群れをあなどってはいかん。毎年多くのハンターがガトルに命を奪われているのだ。数匹なら一度に襲われない限り問題はないが、10匹を越えたなら2人でも手に負えん。」

 「それは、グレイさんにも散々言われました。群れを狩る時は、片手剣を使う者と魔道師を必ず入れとけって。」

 「奴にしてはまともな教えだな。そう考えておけば間違いはない。」

 

 「ガトルの牙を回収したらひと休みだ。そして、西の群れを狩るぞ!」

 大きな声で皆に告げる。

 ディーと岸辺に穴を掘ってガトルを葬る。途中で狩ったガトルは牙だけ回収して放置する。死肉を漁る獣は多いし、虫だって死肉を漁る。明日には骨になっているだろう。


 「ディー。さっき飛んでなかった?」

 俺は気になっていた事を聞いてみた。

 「はい。イオンクラフトにより地上10cmを滑空していましたが…。」

 「それって、高いところも飛べるの?」

 「瞬時に飛立ち滑空することは可能ですが、持続的に高度を取る事は3分が限度です。イオン噴流の生成に多大なエナジーが必要になりますから…。先程の機動であっても20%のエナジーを使っています。」


 意外と燃費は悪そうだ。でも、今日みたいにいい天気なら結構充電出来そうなきがしないでもない。

 ガトルの牙を回収したところでひと休み。皆で焚火をしながらお茶を飲む。

 セリウスさんがお茶を飲みながらパイプを取出す。俺も付き合ってタバコを吸い始めた。

 「北の群れはうまい具合に荒地にいたが西の群れはどうなんだ?」

 「昨日は森の際で確認しました。」

 「あちゃー…。全て狩るのは出来ないにゃ。」

 「やはり、森に逃走するということですか?」

 「そうだ。いくらアキトやディーが素早くとも森の中では話にならん。小柄な四足の方が早く移動出来る。…ここは群れの頭数を減らす方向で狩るのがいいだろう。」

 「2人1組で、100D位の間隔で分け入りますか?」

 「そんな感じだな。俺とミケラン。ディーとネビア。アキトとスロットで組むのが良いだろう。先程見ていたがディーの戦闘範囲は極めて広い。ネビアを十分カバーできるだろう。アキトの方もアキトで先制してスロットが止めを刺していけば問題ないはずだ。」

 「セリウスさんの方も気を付けて下さいよ。2人が片手剣ですから素早い攻撃ができそうですが、群れが大きければ食われます。」

 「もし群れが大きければ、俺達の距離を狭める。ネビアの魔法攻撃が期待できるからな。」


 30分程の休憩であったが、ディーはその間6枚の羽根を広げていた。少しでもエナジーを確保したいのだろう。

 そして、俺達は腰を上げる。焚火を足で踏みつけて消すと、北門を目指して村に戻る。

 村の通りを歩いて南門に出ると、農道を南へと歩く。

 

 爆裂球の炸裂音が遠くに聞える。姉貴達も頑張っているみたいだ。

 姉貴や、アルトさん。その上御后様までいることだ。あっちは心配せずに、先ずは西のガトルを狩る事に専念しよう。


 登り窯の所に着くと、ディーに群れの探査を依頼する。

 「昨日より南に移動しています。個体数40で散開して東に移動しています。距離400m方向は西南西でミズキ様の方向に接近中です。」

 「姉貴達との接触時間はどの位ある?」

 「後10分程度です。」


 「ディー。姉貴の所に先行して迎撃しろ。俺達はここから南に下がりガトルを追い立てる。」

 「了解しました。」とディーは羽根を広げ地上すれすれを滑るように南東方向に消えて行った。

 

 「ディーさんの足…動いてませんでした。背中の羽根で飛んでいったのですか?」

 ネビアが目を見開いて俺に聞いてきた。

 「ディーは人間みたいだけど、ちょっと違うんだ。でも俺達の味方だから心配しないでいいよ。確かに、あの羽根で飛んでるんだけど高くは飛べないんだ。それでも移動速度はとても速いから、たぶん間に合うだろう。」


 「さて、俺達も群れを追うぞ。…あちらはミズキの采配に任せよう。俺達は俺達の獲物を追うぞ。」

 荒地を突っ切りガトルを追撃する。

 小走りに進みながらショットガンに銃剣を付ける。この銃剣はサバイバルナイフ程度の刀身だが、ショットガンのリロードの隙はこれで対処できるはずだ。


 ディーが俺達のパーティから抜けているので、俺と、ミケランさん、セリウスさんが横に並ぶ。俺とミケランさんの後方にネビアが、ミケランさんとセリウスさんの後方にスロットが位置して東に向かって進んでいく。


 前方にガトルの群れが見えてきた。何故か周囲の匂いをしきりに嗅いでいるようだ。 

 そしてその先には南北方向に滑るように移動してガトルの前進を阻んでいるディーが小さく見える。

 そして、俺を見たディーの顔から光が断続して放たれる…。


 これは…。信号? ちょっと待て、確か「S.T.O.P…STOP」止まれってことか?

 俺は慌てて、ミケランさんとセリウスさんの歩みを止める。

 「どうした。何かあったのか?」

 「ディーからの連絡です。止まれ!と言ってます。」

 俺達が止まった事をディーは確認したようだ。頷いた事が遠目でも分かった。

 

 その時、ガトルの群れの中で小さな爆発が起こった。引き続いて半径100m程の巨大な火の玉が俺達の耳を破るような大音響を上げてガトルを飲み込んでいく。

 

 「何だこれは、こんな魔法なんぞ見たことも、聞いたことも無いぞ!」

 一瞬の火の玉の中心部に向かって風が吹いている。

 「気化爆弾…。」

 「ディーか?」セリウスさんが俺に聞いた。

 「爆裂球の一種です。さっきの火の玉の範囲では窒息死します。今、さっきの火の玉に向かって風が吹いていますから、風が納まってから進むことにします。」


 「焼け死ぬだけではないのか。隠れていても防ぐ事が出来ないのか…。」

 「そうです。地域殲滅兵器で武器の1つですが、魔法と考えてもいいでしょう。使いどころが難しい兵器です。…さて、風も納まったようです。進みましょう。」


 俺達は再度東に向かって進む。

 途中、ガトルが群れていた場所には沢山のガトルの死骸が横たわっている。焼け焦げているもの、そして全く無傷に見えるもの。

 ディーが頑張っていた場所まで行くと、放心したように呆然と立ち尽くすルクセムくんがいた。傍にいたキャサリンさんも震えているようだ。


 キャサリンさんの肩を掴んで落ち着かせる。

 「まだ終っていない。何が起こったかは後で説明するから、今はガトルの群れを狩る事に専念してくれ。」

 隣では、ミケランさんがルクセムくんを元気付けている。

 「…あぁ、アキトさんですか。ディーさんって何者なんです。背中には羽根がありますし、歩かずに移動しているんですよ。そして…。」

 「魔道具で作られた体なんだ。魔物ではない。俺達の味方さ。」

 キャサリンさんには、そう言って説明した。それ程間違ってはいないと思う。


 そこに、ディーが移動してきた。

 「ミズキ様から伝言です。ここから、南に下がり下の森からガトルを追い出して欲しいとのことです。餌を播いて誘き寄せようとしたらしいのですが、先程の爆発で森に下がってしまったそうです。」


 せっかくのお膳立てがふいになってしまったようだ。

 しかし、これでガトルの群れは残り2つになる。ここは、俺とディーでと考えていると、御后様がやってきた。


 「婿殿。派手にやっておるのう。ミズキの采配じゃと、森からの追い出しというところじゃろう。我も少し手伝おうぞ。」

 ディー並みに動ける御后様の名乗りは嬉しい。後をセリウスさんに託して俺達3人は下の森に向かって駆け出した。

 しかし、御后様って何でこんなに身体機能が高いんだろう。俺だって1.5倍になっているのにうかうかしてると置いてけぼりを食らいそうな勢いで走っている。

 

 そして、俺達は下の森にやってきた。

 早速、ディーがガトルの群れを探知する。

 「森の中程、500m程先です。群れは1つになりました。個体数約100。動きません。」

 「どうするのじゃ。やはり、これかの?」

 御后様が爆裂球を取出した。


 

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