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#014 釣りの見物人

 

 「え! パトロール?」


 グレイさんは、串焼きにしたリリックを俺が入れたお茶を飲みながら話してくれたことを要約するとそんな感じだ。

 リリックの高額買取で村のハンター達が一斉にリリック獲りに出かけたらしい。大勢のハンターが集まるとちょっとした事で諍いが起きる可能性が十分にある。


 いくらハンター内の掟が、相互不干渉であってもちょっとした喧嘩までご法度であっては息が詰まる。しかし、ハンターは常に武器を携帯しているから死人が出るような喧嘩になる前に仲裁してやる必要があるとの事だ。


 「村のハンターで黒の上位者3名が見回ってるってことだな。全く迷惑な話だが、リリックは食えるし、珍しい物も見ることが出来た。俺的には満足している」

 「ハンターについて少し教えていただけませんか? なったばかりで解らないことばかりなんです」


 「あぁ、いいとも」

 

 そんな事で新たに解ったことは、黒レベルのハンターは毎年3回は、低料金でギルドの求めに応じなければならないという事。これは、ミケランさん達のガイドやグレイさんのパトロール等がそれに当たるという事だ。

 でも、技量的に低い黒レベルと、高い技量を持つ銀レベルには該当しないようだ。最も、銀レベルは王国に数人とのことだから、いろいろと忙しいのだろう。

 

 更に、ギルドの緊急要請という全レベルハンターの一斉招集がある。これは、魔物の襲来等が発生した場合等に王国の軍隊に一時的に編入されるもので、毎年何処かの国で行われているとの事だ。

 召集期間中の食事と住居は提供されるし、召集期間に応じた報酬も支払われるとのことだが、その戦いで命を落とす若者も多いとの事だ。

 

 「脅かす訳じゃないが、赤5つまではこの村にいることだ。人口が多ければ多いほど魔物襲来の可能性が高まる。獣討伐を数回引受けて自分の力量を確認しておけ」

 「アキトはガトルや、イネガルこの間は、クルキュルも倒したにゃ」


 ミケランさん……。この場でそれを話すのはどうかと思いますが。

 

 「ホントに赤3つなのか? 俺でもクルキュルは願い下げだぞ!」

 「運が良かっただけですよ。ミケランさんもいましたし……」


 「ちょっと、付き合え!」


 俺の弁明も空しく、グレイさんは俺を立たせると、自分の装備を外しはじめた。


 「どうした。ちょっとした小手試しをしたいんだが……武器は無しだぞ」

 

 ぼうっと立っている俺にグレイさんはそう言って催促する。

 仕方なく装備ベルトのバックルを外して、サスペンダー毎脱ぐように装備を外した。

 軽く屈伸をして準備運動を終了させる。


 焚火から離れてグレイさんが立っている。スタスタとその前に行き、軽くお辞儀をした。

 グレイさんを前にすると、やはり凄い威圧感だ。

 身長は俺より少し高い位だが、筋骨隆々として格闘技の選手みたいに見える。

 2m程の距離を取って、左手を低く前に出し右手を後方上に、そして体を低く構える。


 「始めて見る構えだが、それでいいのか。……行くぞ!」


 言った時にはもう俺に向って素早く足を踏み出して顔面に上から拳が向ってきた。

 左手で、外側に撥ね退けるように回避すると同時に相手の手首を握る、体を半回転させると同時に左手を捻りながら右手でグレイさんの肩を軽く押し上げると、……グレイさんの体が前のめりに回転して地面に叩きつけられた。


 「何をしたんだ。魔法か?」

 「グレイさんが自分で自分を投げたんですよ。腕を折られないように体が反応したんです」


 「そうか……。詠唱も無しに魔法は使えんしな。……行くぞ!」

 

 今度は回し蹴りで俺の脇腹を狙ってきた。海兵隊のマーシャルアーツみたいだけど、この手の攻撃方法は簡単に対処できる。

 半歩下がって体を半回転させると相手の後が取れる。更に半回転させて同じように回し蹴りでグレイさんの後頭部を狙う。


 グレイさんは分かっていたように両腕を交差させて俺の蹴りを防いだが、それは俺も予想していた。

 一気に体を落とすと、両腕で体を支え両足でグレイさんの膝を蹴り抜く。


 「ウガァ!」って叫んで俺のほうに倒れてくるところを体を転がして下敷きになることを防いだ。


 と、其処へ、ドドォーン!!と爆炎が轟いた。

 慌てて、グレイさんは飛び起き俺と共に辺りを見回す。

 

 「コラー! 何やってるの2人とも。喧嘩はダメでしょ!!」


 デカイ声が遠くから聞え、何人かの人影も見える。走ってくるその姿が大きくなると……、姉貴達だった。


 やって来たのは4人。姉貴達とエルフの女性だった。


 「はじめまして。マチルダです」


 と言った後は、グレイさんへの口撃だ。まるでおれの母さん並に威力がある。みるみるグレイさんが項垂れ始めた。


 「あのう…、喧嘩してた訳じゃないんですけど」


 俺が弁明なんて聞いてもくれない。


「この際だから言い聞かせてるんです。」


 更なるお叱りをグレイさんに浴びせている。


 とりあえず放っておいて、姉貴達に近づいた。ミーアちゃんが姉貴に隠れている。


 「ほらほら、ちゃんとお披露目しないと……」


 姉貴が後のミーアちゃんを押し出す。

 うん。可愛い。……薄茶色の綿のシャツとパンツ。上着はなめし皮のワンピースだが、皮の縫目を全て一つ一つ縛って垂らしているからインディアンの少女のようだ。足には短いブーツを履いている。

 腰のベルトには俺製作のバッグとスコップナイフのケースが腰の後になるように取り付けてある。


 「可愛いよ。ミーアちゃんは何を着ても似合うね」



 そう言ったら、顔を赤くして素早く姉貴の後に隠れてしまった。


 キャサリンさんはミケランの傍で状況確認をしているようだ。

 どうやらメンバーが揃ったみたいなので、水筒の水をポットに注ぎ足してお湯を沸かし始まる。


 「あのう……、お昼を一緒に食べませんか?」


 姉貴が取込み中のマチルダさんに声を掛ける。


 「すみません。内のグレイは直ぐにこうなるんです」

 「ありがとう、頂くよ。」


 2人も焚火の傍にやってきた。グレイさんは少し足を引き摺っている。それを見たキャサリンさんが急いでグレイさんに近づいた。

 グレイさんの引き摺っていた足に右手を当てると何やら呟いている。


 「【サフロ】!」


 最後に言った言葉と同時に右手が光ったかと思うと、キャサリンさんが立ち上がった。


 「癒しの魔法を掛けましたが、どうですか?」


 グレイさんは真直ぐ立ったり、ピョンっと跳ねたりして足を確認している。

 「大丈夫だ。ありがとう、助かった」

 「私からも、礼を言います。まさかこんな所に水の魔法の使い手がいるとは思いませんでした」



 お弁当は何時もの黒パンサンドにお茶だけど、後から来た人達にはリリックの串焼きが1本づつ追加だ。俺達は先に頂いたんだけど、ミケランさんは羨ましそうに姉貴達を見ていた。


 「ところで、どれ位釣れたの?」

 「これだけにゃ。20匹以上あるにゃ」


 キャサリンさんの質問にミケランさんが自分の事のように報告する。


 「凄いですね。橋の下の方で獲ってる人達はまだ数匹ですよ」


 マチルダさんが驚いてる。


 「そうだろう。だから俺もここで見てたんだ」

 「見てるだけならそうしなさい。何で自分より格上のハンターと手合わせなんかするんですか」


 「でも、アキトは赤3つだぞ。おれの方が格上だ」


 自信を持って答えるグレイさんにマチルダさんは驚いたようだ。

 

 「たぶんグレイさんよりも技量が上の方でも、素手の攻撃は防がれると思います。

 私達が習得した武術は相手の攻撃を利用した攻撃ですから、強ければ強い程反撃力が上昇します」

 「最初に投げ飛ばされたあれか? 確かに何時投げられたか分からなかった。そういえばアキトは俺が自分で身を投げたと言っていたが」


 「その通りです。私達には不自然な形を自ら元に戻す自然な動きが備わっています。ですから相手に不自然な体制を強いれば……」

 「自分で転がるのか……。とんでもない武術だな。言われてみればその通りだと納得するが」


 「でも、欠点が1つ。自ら攻撃できない。ですから、さっきの技も防衛手段に特化した技なんです」

 

 姉貴とグレイさんの会話でマチルダさんの疑念も少し薄らいだようだ。

 少し変わった護身術とでも思ったみたいだけど、合気道の本質はそうではない。そこは姉貴も言う事はなさそうだ。

 

 昼食を終えると、また俺は竿を握り、リリックを釣り始める。

 たちまち数匹を釣り上げると、マチルダさんが驚いて見ていた。


 「お昼をどうもありがとう。まさか、ここでリリックを食べられるとは思わなかったわ」


 マチルダさん達は俺達に丁寧に礼を言って、小川の上下に分かれて歩き始めた。

 今回のリリック獲りの監視が目的だと言っていたし、本来の任務に戻ったようだ。


 しばらく釣り続けたが、入れ食い状態なのでたちまち焚火の周りはリリックで一杯になった。

 竿を収めて片付けを始める。


 「沢山獲れたにゃ」


 ミケランさんが喜んでる。それをキャサリンさんが苦笑いしながら見てる。

 姉貴が背負ってきた籠に、岸辺に生えていた大きな葉っぱを敷いて戦利品包む。これなら、周りから注目されずに済みそうだ。

 

 小川を上流に辿って橋の方に歩いていくと、ハンター達が小川の傍にいっぱい集まっている。


 人は多いのだが、釣れてるところを一度も見ずに橋についた。やはり、リリック釣りはこの世界では難しい依頼なのだろうか。

 そんな事を考えながら帰路についた。


 ギルドに収めたリリックは30匹。俺達の人数分は差し引いてだ。それでも、2匹程余計に貰ったミケランさんは大喜びだ。

 カウンターのお姉さんから貰った銀貨3枚をミケランさんは姉貴に差し出したが、姉貴は1枚だけ貰って、残りをミケランさんに渡した。


 「こんなに貰えないにゃ。獲ったのはアキトにゃ」

 「だから、1枚貰いました。今回の依頼はミケランさんが教えてくれたものだし、リリックを処理したのはミケランさんでしょ」

 

 宿に帰るとおばさんにリリックを渡し、1匹だけミーアちゃんに料理して貰った。2匹貰えると知ったおばさんの喜びもミケランさん並だ。

 聞けば、若い頃に食べたのが最後だと言うし……。

 俺達漁師になったほうが良いのかも、と思ってしまう。


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