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#131 サーミストの王都

 

 昼近くに豪華な馬車が1台到着した。

 普段目にする事も無い豪華な馬車が宿の前に到着したものだから、結構な見物人が集まっているようだ。

 俺達が大森林の集落に着いた時に早々と、アン姫がお膳立てをしていてくれたようである。

 集落に滞在していたハンター数名が先行して王都に走っていたようだ。まぁ、村に着けば馬が使えるし、森を駆け抜ければ変な生物の危険は少ないのだろう。

 早速、馬車に乗りこむと、のんびりと風景を楽しみながらサーミストの首都に向かう事になった。


 大森林地帯の入口にある村を出て、深夜に野宿をする休憩所に着いた。

 村で用意してもらった夕食を焚火で温めて食べる。

 ディーに焚火の番をしてもらい、俺達は焚火の傍で横になる。嬢ちゃんずは馬車の中だ。


 次の日は、朝食を取り直ぐに馬車を走らせると、夕方には分岐点のマルキナの町に着いた。

 ここまで来ると、大森林地帯の面影は全く無い。町の周辺の畑では農民が忙しそうに6本足の牛を使って畑を耕している。

 町の宿の特上の部屋に案内され、ちょっとリッチな気分だ。

 1人で入るには大きすぎる風呂で、十分に手足を伸ばせば疲れも取れる。

 そして、少し遅めの夕食は豪華なものだった。久しぶりの焼肉は何の肉かは分らなかったけど、塩を振っただけだというのに美味かった。魚は干し魚だけど、これは近くで獲れないんだからしょうがない。それでも、黒リック並の美味さだ。暖かいスープは野菜ベース。そして、パンは白くて柔らかなパンだ。

 「このような物しか出せませんで恐縮です。」と宿の主人が言っていたけど、大森林地帯で20日近くも固い黒パンを食べ続けた事を思えば、正に天国だ。


 次の日、出発前に町の武器店で、投槍を売り払う。持っていても荷物になるだけだ。それに3本は急造の槍だから、穂先だけを回収しておく。ミーアちゃんの槍からサバイバルナイフも回収しておいた。


 「もし、王様が好きなものを取らす。何て言ったら何を貰うの?」

 馬車に戻って、王都への街道を進んでいる時に、姉貴から訊ねられた。


 「出来れば、ディー用の武器が欲しいな。まともな武器はレールガンだけだし、あれを何時も使う訳にはいかないよ。」

 「そうね。それがいいと思うわ。」

 

 「ならば、長剣にするとよい。我等の武器は片手剣を使うものが殆どじゃ。長剣の重量のある攻撃は頼もしいぞ。」

 アルトさんが俺達に知恵を付けてくれた。

 なるほど、長剣ならディーも問題なく使えそうだ。

 「ありがとう。参考になったよ。」

 俺がそう言うと、プイって横を向いて、話を続けた。


 「サーミストの長剣は有名じゃ。まだ多くのドワーフ達がその腕を競っておる。じゃが…この国のドワーフ達も少しづつ数を減らしておる。我も、この変わった片手剣を造らせるつもりじゃ。サーシャとミーアの分をな。」

 

 「私も造ってもらおうかな。ちゃんとした薙刀が欲しいと思ってるの。」

 「なら、俺も探してみよう。俺が使うんじゃないよ。お土産用だ。」

 「誰の?…あぁ、ルクセムくんにだね。そうね、護身用にいいかもね。」


 そんな事に話が弾む。サーシャちゃんとミーアちゃんはボルトを特注して貰うそうだ。基本的に投射武器だから、ボルトはいくらあっても困る事は無い。魔法の袋に入れておけば良いだけだし。


 街道の両側に広がる畑に集落が見え始めた。数軒ずつ寄り添うように建っている。

 その数が段々と増してくると、遠くに城壁が見えてきた。

 サーミスト自冶国の王都サーミスタである。


 「サーミストには王族はおらん。貴族達の連合国なのじゃ。12の貴族が集まって政治をしておる。その12貴族の中から代表を決めて、王としておる。アンは現在の王を務める貴族の長女じゃ。」

 

 ちょっとした、民主主義みたいだ。でも投票権は貴族だけなんだろうけど。世襲制じゃないから、能力に問題があるものを選ぶことは無いだろう。意外と現実的な制度のような気がする。


 楼門を潜って城壁の中に馬車は入っていく。

 この王都もモスレムの王都と造りが似ている。真直ぐに城壁内の大通りは南に向かって延びていた。

 十字路を何箇所か通り抜けると、次の十字路を右に曲がった。その先にあるのは、モスレムの王宮よりも一回り小さい王宮だった。

 

 王宮の直ぐ手前の大きな石造りの建物の前で馬車が止まる。

 直ぐに建物から数名の男が現れると、馬車の扉の両側に立つ。そして壮年の男がうやうやしく馬車の扉を開いた。


 「モスレムのアルテミア姫、サーシャ姫それに虹色真珠の持ち主にしてザナドウを狩りしハンターの方々。お待ちしておりました。さぁ、どうぞ此方に…。」


 俺達は、壮年の男に続いて建物の中に入ると、家一軒が丸々入るホールがそこにはあった。

 どうやら、迎賓館に案内されたみたいだ。

 早速、部屋に案内されると俺の部屋には姉貴とディーがいた。

 

 ディーは部屋の椅子に軽く腰を掛けて座った。そんな姿を見ると殆ど人間と思ってしまう。御后様達は今でも人間だと思っているみたいだけど、今更訂正する事も無いだろう。

 「この後はどうなるんだろうね?」

 「たぶん夕食だと思うよ。そして明日は王様に謁見だろうし…武器屋には午後出かければいいと思うけど…。」

 「じゃぁ、皆で行こうね。」


 そんな事を話していると、部屋の扉を軽く叩く音がして侍女が入ってきた。

 「王様が直ぐにお会いしたいとのことです。」


 意外とせっかちな王様のようだけど俺達に異存は無い。早速、侍女の後について建物の外にある馬車に乗る。アルトさん達は、とっくに乗っていた。


 歩いて10分は掛からないところを馬車で行く、というのも少し引っかかるものがあるけど、俺達を乗せた馬車は王宮の広い階段に横付けされた。


 今度の案内者は武装しているところを見ると近衛兵のようだ。

 何の鱗かは分からないけど、革鎧の上を鱗で被っている。王宮内の光球に照らされて綺麗な色に反射している。そういえば、モスレムの王宮の近衛兵はダルバの鱗だった。


 近衛兵2人に先導されて、王宮の中に入っていく。大きなホールの中央の広い階段を上ると、大きな扉の左右に近衛兵が槍を持って立っている。

 俺達がそこまで歩いていくと、扉の前で近衛兵が槍を交差させた。

 

 俺達を案内してきた近衛兵と何事かを話すと、槍が収められ、近衛兵が扉を開く。

 

 近衛兵が部屋に1歩足を踏み入れると、大声で口上を述べる。

 「モスレムのアルテミア姫、サーシャ姫、虹色真珠の持ち主にしてザナドウを狩りしハンターの方々到着いたしました。」

 

 そして俺達を部屋の中へと誘う。

 その部屋は謁見の間ではなかった。同じ椅子に腰をかけた12人の者達がいる。1人だけ、針金で作ったような王冠を着けているのが選ばれた王様なのだろう。

 

 「良く来てくれた。アンの披露宴では度肝を抜かれたが、あれからは他国より羨ましがられておる。わしとしては鼻が高くなった気分じゃ。居並ぶ元老も喜んでおる。本来はアン達にも来て欲しかったのじゃが、御后様と妃殿下がおられるとあっては内々というわけにもいくまい。…さて、わざわざ寄り道して貰ったのは外でもない。ザナドウの嘴と肝臓の礼じゃ。あれだけの宝じゃ。望むものはあるか?」


 「1つお願いがあります。俺達の仲間の1人が武器を持っておりません。サーミストでは優秀な武器が造られると聞いております。長剣を1つ頂きたい。」

 「何と、安き願いよな。…しかし、長剣といえども種類は多い。どのような長剣を望むのじゃ。」

 「両刃で出来る限り重いものを…。」

 「今用意させよう。エトラム、武器庫より今の願いに沿うものを持ってまいれ。」

 

 は!っと胸に腕を叩き付けて近衛兵が部屋を出て行った。

 

 「しかし、実際のところ御主達を見て驚いた。その若さでザナドウを狩るとは、そして若い娘達がそれに関わっているとは…。して、どのようにザナドウを狩ったのじゃ。使者は嘴と肝臓を賜ってそれを聞いて来なかったのじゃ。ここにいる元老達も、それが聞きたくて集まった次第。是非とも聞かせて欲しい。」


 王様はそう言うと、パンパンっと手を叩く。

 すると、侍女達が人数分の椅子を持ってやって来た。また別の侍女が小さなテーブルを持ってくる。

 お茶が運ばれて来ると、姉貴に急かされて俺はザナドウ狩りの顛末を語った。


 「何と勇ましきハンターよの。そのような簡単な道具でザナドウの横腹を貫くとは…。我が娘もそのように戦ったのか。我が一族の誇りであると伝えてくれぬか。」

 「伝えましょう。」


 そこに、近衛兵が大勢武器を携えてやってきた。

 「長剣で重いものと言いましても、このように種類が豊富です。」

 

 先程の近衛兵が王様に報告する。

 「確かに種類があるわい。アキト殿。好きなものをとらせるぞ。」

 「ありがとうございます。ディー、どれがいいの?」


 ディーは椅子からスクッと立ち上がると、床に並べられた得物を物色する。そして、一際大きな長剣を手に取る。片手でケースより引き抜くとジッと刀身を見ている。

 

 「これにします。重さとバランスも問題ありません。」

 ディーの言葉に頷くと王様に向き直る。


 「あの長剣を頂きます。」

 「あれは、確か…。」

 「ドワーフが造りましたが、重過ぎて誰も使いこなす者が無かった品です。特別な装飾があるわけでもなく武器庫の奥に仕舞われ続けていました。」

 もっと煌びやかな長剣を選ぶだろうと思っていたのであろう。運んできた近衛兵が驚いている。

 「王の言葉に二言はないが…あの娘につかえるとは信じられん。」

 王様達も吃驚している。


 やはり、信じられないみたいだな。ここは簡単なデモンストレーションが必要なのかも知れない。



 「ディー。剣舞って知ってる?」

 「記憶回路に数種類の剣舞があります。」

 「今、踊れるかな?」

 「やってみます…。」


 俺は王様達に体を向けた。

 「長剣の礼にディーが剣舞を披露したいといっております。御鑑賞ください。」

 王様と元老の貴族達が頷くのを見て、ディーに合図を送る。


 ディーは壁際の広い場所に移動すると、スラリとケースから長剣を抜き放った。左手で長剣を持ち、右手にケースを持つ。

 そして、ゆっくりと長剣を回すように振り上げて、剣舞を舞い始めた…。


 音を立てずに飛び上がり、体を捻るようにして長剣を繰り出す…。

 膝よりも低い姿勢にまで体を沈め、切り上げるように長剣を振るう…。

 ケースを右手に沿わせて相手の剣を受け流し、体を回すようにして長剣でなぎ払う…。


 一つ一つが何の動きかを知る事ができる。そしてその動きは連続した動きであり、美妃舞う仕草のように見える。


 ディーは最後に長剣を数回回すとケースにカシャンっと金属性の音を立てて舞を終らせた。


 皆呆然とした面持ちでディーの舞を見ていたが、やがて王様がパチパチと手をたたいた。すると、そこにいた者達が一斉に拍手をする。

 

 「さては見事な舞である。その長剣はいささか重過ぎると思うておうたが、杞憂であった。持って行くがよい。そして、その長剣で倒した怪物の数々を知らせてほしい。」


 王様が感じ入っように俺達に告げた。

 その言葉を俺は待っていた。

 

 「さては結構な得物を頂きありがとうございます。ささやかですが、これは、我等が感謝の気持ち。受取ってください。」



 俺がそう言うと、姉貴が腰のバッグから魔法の袋を取出し布に包んだ物を取出した。

 恭しく王様の前に持っていくと、王様の前にひざまずいて布を取り払った。


 ウオォォ!…その場にいた全員がその中身に驚いて悲鳴をあげる。

 「これは、この大きさ、太さ…まさか、まさか!!」

 王様も驚いているようだ。何なのか判るんだろうか?


 「アキト殿にお尋ねする。これは大森林での狩りですかな?」

 元老の1人が重々しい声で聞いてきた。

 「狩りと言うよりは狩られる立場と言った方が正しいのではと思っております。たぶん2度と狩る事は無いでしょう。」

 「アキト殿と言えどもですか…。その牙はレグナスのもの。ある意味、ザナドウを超える宝と言えるでしょう。よいのですかな、このような宝を我等に賜れても…。」

 「元々はこの国の獣です。我等は獲物を狩る道具があればそれで十分です。」


 「もし、何かに困る事があれば、我が国を訊ねてくだされ。…ザナドウの嘴、レグナスの牙。たぶんモスレムならば2つとも御持ちと思われるが、他国では持つものがおるまい。これ以上の友好の品があるじゃろうか。我が国は小さく、他国からは一段低く見られておるのはご存知でしょう。しかし、モスレムとの結びつきが一段と強くなれば、我が国の発言も増すと言うもの。ありがたく頂いておきます。」


 どうやら、王様は御妃様の考えが分かるみたいだ。

 それなら、俺から何も言う事は無い。

 改めて王様に長剣の礼を言うと、王宮を去ることにした。


 馬車に乗ろうとした俺達に近衛兵が近づいてくる。

 「待って下さい。ひょっとしてアキト殿は明日、武器屋を巡ろうとお考えじゃありませんか?」

 「はい。その予定でいますが…。」

 「でしたら、このままドワーフの工房にご案内します。買うよりも作るほうが自分に合ったものが手に入りますよ。王様のご好意です。ありがたく受取ってください。」

 

 長剣1本でいいと思うんだけどね。でもせっかくだし…と、俺達はそのまま馬車の御者台に乗った近衛兵の案内でドワーフの工房に行く事になった。

 

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