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#128 レグナスとの戦い

 

 アキト達が洞窟の奥に消えた後、この洞窟入口のテラスは俺達が番をしている。

 レグナスの目撃例がこの付近に集中している噂を聞いた為だ。

 アキトを婿殿と言ってはばからない御后様やサーシャ様の母親であるイゾルデ様にとっては、気がかりだろう。

 アキト達はザナドウさえも倒しているが、それでもレグナスには手こずるだろう。場合によっては、不幸な事故が起こらないとも限らない。

 俺達はそんなアキトの為に、可能な限りレグナスにダメージを与える事を目的としてやってきた。

 もちろん、レグナスが出なければ、この遠征は単なる御后様の気晴らしとリハビリになるのだが…。


 「少しヤバイかもしれんの…。」

 テラスの外れで、下に広がる森を見ていたユリシーが呟いた。

 

 「レグナスか?」

 「判らんが、森が騒がしい。あそこを見ろ。」

 彼が指差した森の一角は、確かに周囲と様相が違っていた。

 森の木立が揺れているのだ。あの木立ならば太さは優に2Dはあるだろう。それを木立全体を揺らすようなものがいるとすれば…。それは何だ。

 

 「何ぞ、見つけたのか?」

 「判りません。ですが、近づいているようにも見えます。」

 イゾルデ様の問いに、森から目を離さずに応える。

 距離は10ミル程度であろうか、少しづつ此方に近づいているような気がする。


 突然、森の木立の上に長い首が伸びた。

 丸い頭の両側から角が伸びている。何となく、ダラシットの頭を連想させる。


 「あれは、プロトンじゃな。雑食じゃから、俺達も近くにいれば襲われるかも知れん。」

 「危険なのか?」

 「プロトンはずうたいが大きい。そして動作はそれ程機敏ではないんじゃ。走って逃げれば大丈夫じゃ。」

 

 「プロトンとは、しばらく振りに会うの…」

 何時の間にか、御后様が俺達の後に立っていた。そして、短い筒をプロトンの方に向けて覗いている。


 「その筒は?」

 「アルトより拝借した品じゃ。婿殿からの贈り物じゃ。と言うておったが…。遠くのものを大きくして見ることが出来る魔道具らしい。」

 

 そう言うと、俺にその筒を渡してくれた。

 早速、覗いて見ると…。

 丸い視野の中に、プロトンの丸い頭が大きくはっきりと見える。角のように見えたのは触手状に飛び出した目のようだ。丸い頭の半分程の大きく裂けた口には歯があることまで見える。

 プロトンが進むに連れて立木の葉が大きく揺れているのが判るし、慌てて飛び去る鳥さえもこの魔道具を通して見ることが出来るのだ。


 「ダリオン。あっちの方を見てみろ。」

 ユリシーの声に、一旦魔道具から目を離して彼の指差した方向を確認する。

 確かに何か動いている。

 急いで魔道具で様子を覗う。

 しかし、森の木立は動くがそこにいるものまでは見えない。木立の上部に住む鳥達が広い範囲で飛び去り逃げ惑っているようだ。

 

 「判らんな。この魔道具では森の中までは見通せぬ。」

 「そうか…。じゃが、プロトンの移動速度よりも、あれの移動速度が速い。それに、見ろ!あちらの方からも来るようじゃ。」

 それは、この山裾に極めて近い森の中を木立を揺らしながら急速にプロトンに近づいていく何かだった。

 

 魔道具を御后様に返すと、ユリシーと2人で森の動きを見守る。

 「どうやら、大型獣の狩りのようじゃな。前方から周りこんでプロトンの動きを止めて背後から襲い掛かるつもりのようじゃ。」


 確かにそのような動きだ。しかし、あの家1軒分程の大きさを持つプロトンを何者が狩るというのだ。


 ガアオォォォー…。

 プロトンに迫る森のざわめきが途切れたかと思うと、大きな叫び声がはっきりと聞えた。

 プロトンの首が森に沈むと、次に現れた時は血潮に染まった頭だった。長い首が森の中でのた打ち回っている。

 そして、力尽きたように森の中に沈んだ。

 

 だが、森のざわめきは終っていない。プロトンが沈んだ辺りの森の梢は細動している様に見える。

 

 「間違いない…レグナスじゃ。しかも、最低でも2匹じゃ。」

 「此方に来ると思うか?」

 「判らん。じゃが、時間の問題のようじゃの。来るとすれば、もう直ぐじゃ。」


 森の細動が終る…。さて、どちらに彼らは向かうのか…。

 俺は大きく目を開いた。

 彼らが目指したのは、我等のいる山の方向だったからだ。


 「来ます!…準備を。」

 俺達は急いで迎撃の準備を始める。

 薪を焚火の前に高く積み上げる。レグナスの接近と共に一気に焚火を広げて、その隙に【カチート】を解除して洞窟に逃げ込むのだ。

 洞窟内では【カチート】を使う事は出来ないが、直径は15Dに満たない。レグナスの動きをかなり制約出来る。狩ることは不可能でも深手を負わせる事は出来るだろう。


 山裾の森が大きく揺れたかと思うと、大型のトカゲが現れた。

 いや、トカゲとは別種の生物だ。

 列柱のように太い足。小さな前足は役に立つのだろうか。

 前かがみに太い尾でバランスを取りながら山を登り此方に向かってくる。

 ウオオォォ…。

 叫び声を上げるその大きな口は、俺をも丸呑みに出来るぐらいだ。そして鋭く長い牙がその口を縁取っているのが見える。

 頭全体が赤く染まっているのは、プロトンを貪り食ったなごりなのかもしれない。


 「よいか。油を掛けるぞ!」

 ユリシーが木製の水筒から油を薪に掛け始めた。

 そして、ドオォーン!っという音が続けて木霊する。

 爆裂球の炸裂音だ。

 だが、レグナスは気にせずに俺達に迫ってくる。

 ドゴオォォン!!

 地震のような衝撃を俺達に与えてレグナスは【カチート】に衝突した。

 

 転びながらも立ち上がったジュリーの顔色は真っ青だ。

 「ダリオン。焚火を強めて。そして後退の準備よ!」

 

 俺は焚火の燃えた枝を薪の山に投げ入れた。油のおかげでたちまち勢い良く燃え上がる。そして、皆のいる洞窟の入口方向に【カチート】内を移動した。


 ドゴオォォン!!

 再度、地震のような衝撃を俺達に与えて、2匹目のレグナスが【カチート】に衝突する。

 バン!っと何かが破裂するような音がして、俺達の前の焚火の火勢が強まる。

 「退却じゃ!」

 御后様の怒号が響く。

 先を争うように俺達は洞窟に逃げ込んだ。

 200D程奥に進むと用意していた薪を洞窟の入口方向に積み上げる。風が洞窟の奥より吹いてくるので、ここで焚火をしても煙に巻かれる事はないはずだ。


 洞窟の入口が突然暗くなる。フォー、フォー…っとレグナスの呼吸音が聞える。

 どうやら、中に入ってきたようだ。


 ジュリーが【メル】を放ち薪に火を点けると、俺達の20D程前にレグナスの顔があった。

 火で顔を焼かれたようで、洞窟の壁に体をぶつけながら後退していく。

 そんな、レグナスにアン姫が矢を放つ。

 グアァァ…っと叫んでレグナスがドンドンと苦し紛れに体を壁に叩きつける。

 アン姫の放った矢は、奴の片目を射抜いていた。


 「あんな大きさでも、弱点はあるものですね。」

 「そうじゃのう…。我も弓を練習せぬといかぬのかのう。」

 「アルトとサーシャがおるではありませんか。御后様は我等にご命令して頂ければ…。」

 「我はまだまだ現役じゃよ。」

 

 御后様達は相変わらずだが、やはりこんな時には心強い存在だ。

 アン姫様も、とんでもないお転婆娘だと思っていたが、武芸の腕は一流のようだ。

 レグナスは壁に身を擦りつけながら何とか洞窟から抜け出たようだ。

 たまに、洞窟の入口が暗くなるのは俺達を覗き込んでいるからなのだろう。

 ここで硬く守っていれば、レグナスの洞窟侵入は阻止出来るだろう。


 「アキト様達の様子は判らないのですか?」

 「それがじゃ。婿殿が洞窟に入ってより、水晶球に映らんのじゃ。」

 俺の問いに御后様は残念そうな顔をして応えた。

 

 「事故にでもあったのでしょうか?」

 「それは無いじゃろう。この洞窟の深遠まで行ったハンター達も無事に帰ってきておる。そして、そこには文字の刻まれた壁があるだけだと言っておる。この山になんらかの妨害を行なう仕掛けがあるのやも知れぬ。」


 カラメルの優れた技を、妨害できる物等あるのだろうか。

 やはり、アキト達が調査に行ったのは正解だったのかも知れない。

 もし、そのようなものがあるのだとすれば、それを知る事が出来るのは、彼らだけであろう。


 どうやら、長期戦になりそうだ。

 レグナスは、あいかわらず洞窟の入口のテラス部分に居座っているらしい。

 たまに、こちらを覗きこむが洞窟の中には入ってこない。

 

 焚火を小さくしてポットを掛ける。

 しばらくするとジュリーが俺達にお茶を入れてくれた。

 あれからどの位時間が過ぎているかはわからないが、お茶を飲むと空腹を感じる。

 再度、お茶をカップに入れて貰うと、硬い黒パンを齧り、干し肉を焚火で焼いて食べる。

 「ほれ!」とユリシーがお茶に蜂蜜酒を入れてくれる。

 ほんのりと漂う酒の匂いと甘い味が俺の心を静めてくれるようだ。


 「私とアン姫様で焚火の番をします。ダリオン様達は少しお休みください。」

 ジュリーの勧めで、俺とユリシーは少し洞窟の奥に移動すると、湾曲した壁に背をつけてゆっくりと目を閉じた。


 ズーンという壁の振動で俺は目を覚ました。

 ドオドォーンっという【メルト】特有の炸裂音が洞窟内に木霊していく。

 戦闘の最中のようだ。

 急いで焚火の所まで行くと、ジュリーとアン姫様が応戦している。

 御后様とイゾルデ様も【メル】を放っていた。


 「遅くなりました。」 

 「まぁよい。とりあえず追い返したぞ。」

 「また入ってきたのですか?」

 「そうじゃ。アンに片目をやられたレグナスとは違うやつじゃ。少し小柄じゃったから、苦労したぞ。」


 すると、まだ2匹いることになる。食料、水は20日以上は十分に持つ。薪も3日は持つだろう。それまでにレグナスが諦めてくれるのをジッと待つことになるのだろうか。


 今度は俺とユリシーが焚火の番をする。

 俺は遠距離魔法は出来ない。となれば身動きに苦労するレグナスに、【アクセル】で身体機能を上げた状態で、この長剣を叩きつける事になる。

 どの程度効果があるかは疑問が残るが…。

 

 「レグナスの対処に悩んでおるのか?」

 「まあな。接近戦しか俺には出来ん。」

 するとユリシーは袋から爆裂球を取出した。

 「【メル】よりは上だ。【メルト】よりは落ちるがな。…ほれ。」

 そう言って、俺に爆裂球を5個分けてくれた。

 

 「これを投げるのか。しかし、洞窟は大丈夫か?」

 「さっきは、ジュリーとか言う娘が【メルト】を放っておったぞ。あれよりは威力がない。大丈夫じゃろう。…だが、この洞窟は緩やかな坂で此方が低い。投げる時は、1つ、2つと数えて2つ数えた後で投げるのじゃ。」

 

 確かに、こちらに転がってきたのでは元も子もない。上着の大きなポケットに爆裂球を入れておく。

 そして、ユリシーとお茶を飲みながら、レグナスの到来をジッと待つ。


 ゴンゴンっと小さく壁が振動する。

 洞窟の入口方向を見ると、レグナスが壁にぶつかりながら此方に進んでくる。


 ポケットから爆裂球を取出し、右手に持つと左手の指に爆裂球の紐を巻きつける。

 ドン、ドンとユリシーの放った【シュトロー】がレグナスの鼻面に当たるものの奴は気にも留めない。

 俺は、爆裂球の紐を引くと、数を数え2つで奴に投げつける。

 ドオォン!っと炸裂音が洞窟に木霊するとやつはその場で止まった。

 

 シュンっと音を立てて矢がレグナスの目に向かう。奴が目を閉じると、矢はその目蓋の厚い皮で突き立つことが出来ずに床に落ちた。

 ドオォン!…ドオドォン!!

 俺の投げた爆裂球の直ぐ後に、ジュリーの放った【メルト】が炸裂する。


 奴は頭を洞窟にぶつけながらもがいている。

 これで追い払えるかと思ったが、今回は違っていた。

 奴は更に俺達に迫ってきたのだ。

 

 ドンドン…ドオドォン!!…ドオォン!

 氷柱と火炎弾が奴の頭に炸裂するが、奴は止まらない。


 俺は、ゆっくりと背中の長剣を抜いた。そして、【アクセル】を自分に掛ける。

 レグナスが顔を焼きながら焚火を越えようとした時、俺は奴の前に飛び出した。


 ウオォー!っと叫びを上げて奴の顔面に剣を振るう。

 ガシン!っと剣が弾かれるが、少しは効果があったのか俺の剣がぶつかった場所からは血が噴出している。


 再度攻撃を仕掛ける為に間合いを取った時だ。

 ブゥゥゥゥゥン…ドォン!!

 俺の直ぐ傍を何かが高速で飛んでいき、レグナスの顔面に突き刺さった。

 それは、投槍と金属の棒のようなものだった。


 気が狂ったようにもがき始めたレグナスを見て、確信した。

 アキトが戻ってきた…。

 今回はもう1つのパーティ達の戦いです。

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