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#119 王都の神殿


 王都に来て2日目、朝食を終えた俺達は嬢ちゃんずと共に、王都のギルドに出かける。

 アルトさんが一緒だから道に迷う事も無い。

 道幅6mはあるだろう、立派な石畳の通りだ。真ん中に白い線が引いてないのがちょっと違和感がある。

 王宮を出て、真っ直ぐに南に通りを歩いていくと十字路の南西角にある石造りの3階建ての建物が王都のギルドだった。

 ドアを開けて中に入ると、広いホールの先に受付カウンターが並んでおり、受付嬢が数人こちらを見ている。

 さっそくカウンターに行くと、王都到着の報告を行う。

 王都の依頼掲示板にも興味はあったけど、次の場所が控えているので、ここはサッサと手続きだけ済ませると通りに戻っていく。


 「水と風の神殿が先で良いのじゃな。」

 「はい。でも最終的には全部の神殿に行きますよ。」

 「分っておる。最上級魔法は神殿でのみ得られるのじゃ。じゃが、それはミズキだけにしておいた方がいいじゃろう。それなりの魔法力が必要じゃ。アキトでは、後が続かん。」


 まぁ、魔法は姉貴に任せることで俺に異存は無い。【メル】が覚えられれば十分だ。

 神殿は王宮を取巻くように配置されており、王宮の東に土と水の神殿が、そして西側に火と風の神殿が配置されている。

 大通りをキョロキョロと見物しながら、水の神殿に行くことにした。

 通りに面した建物は石造りの2階建てだ。火事を恐れての事だろうけど、立派な景観だが人の通りは少ない。

 

 「街道から続く通りの北側は、王宮、神殿、兵営があるが、その他は殆どが貴族館じゃ。通りの南側に、商人や職人それに庶民が暮らしておる。」

 

 神殿は30m四方の比較的小さな建物だ。周囲を列柱のある回廊が取り囲んでいる。

 「以外と小さいんですね。」

 「当たり前じゃ。神殿に暮らすものはおらん。神官達は…、ほれ、隣のこの建屋に住んでおる。神殿は神聖な場所ゆえ、最小限の神官が訪れる者を待っておるのじゃ。」

 

 本殿と社務所みたいな感じなのかな。それなら小さくとも問題はないはずだ。

数段の階段を上がり、神殿の開かれた扉を入ると、中央に大きな石の神像が立っている。

 水の神は女性のようだ。丸みを帯びた体を薄絹で包み訪れる人を招くように両手を前方に差し出すようなしぐさで石に彫られている。


 「どのようなご用件でしょうか?」

 静かに俺達に近づいてきた神官が訊ねた。

 「実は…。」

 俺は、あらかじめ考えてきた言葉を並べる。


 「…と言う事で、是非とも水の神のご加護を賜りたいと思い、参じたしだいです。」

 「それは、それは。しかし、良くお気づきになられました。陶器については私もお見せいただいたことがあります。我らが水の神の御加護できっと良い品ができると思いますよ。」

 

 そして、姉貴が紙包みを神官に渡す。

 お布施って必要かどうかは分らないけど、神殿は孤児を保護する施設も営んでいる。それに少しでも寄与できるなら問題はないはずだ。

 「これは、これは…。ありがたく使わせていただきます。」

 神官が丁寧に礼を言う。

 「ところで、最初の陶器を作る際に、火と土の御加護を頂きました。そのお礼として、このような神像を陶器で造りましたが、…これは神を冒涜することになるのでしょうか?」

 「決してそんなことはありません。…ほほう、このような形が出来るならば是非我が神像もお作り願いたいものです。」


 そして、俺達は水の神の神像を授かった。

 この神殿で得る魔法は2つ。氷の矢を放つ【シュトロー】と深手の治療が可能な【サフロナ】だ。どちらも姉貴が得ることは予定の通りだ。


 「次は風の神殿じゃな。」

 アルトさんの案内で風の神殿に出向く。ちょっと遠回りだけど、順序は大切だ。

 そして同じように神像を授かり、魔法を得る。

 魔法は、鎌イタチ単数形の【フューイ】と複数形の【フュール】だ。

 【フューイ】を俺が、【フュール】を姉貴が覚える事にした。


 「次は土の神殿じゃ。ここでは、絶対に広域防御結界の【カチート】を覚えるのじゃ。あまり使う事はないかも知れぬが、大森林地帯に行くなら持っていて損はない。」

 土の神殿の神官は、姉貴が差し出した陶器の神像を拝むように押し頂いた。

 早速、アルトさんお勧めの【カチート】を姉貴が覚え、中級魔法の毒消し効果を持つ【デルタ】を俺以外の全員が持った。


 そして、最後に火の神殿に赴く。

 神官の服装が少しデラックスになっている。白の法衣の襟や裾等に金の刺繍糸で細かな模様が入っていた。

 たぶん、この神官が大神官と呼ばれる人なのだろう。


 「ご用件は、御后様さまより、承っております。」

 「その件は最後にしましょう。クオークさんもまだ御出でになられていないようですし…。先ずはこの神像をお納め下さい。」

 

 俺は、陶器の神像を3体手渡した。

 「これは、これは…。」

 目を細めて神像を見ている。結構気に入って貰えたらしい。

 「定期的に製作していただけるとありがたいですな。この神像は各地の分神殿に安置いたしましょう。」

 俺は頭を下げることでそれに応えた。

 各神殿ともどうやら好意的に受け止めてくれたようだ。小さな神像を作ることは窯の利用上なんら問題はない。数個づつであれば継続的に神殿に収められるだろう。

 そして、この神殿で念願の【メル】を俺は手に入れた。姉貴は当然【メルダム】を取得する。


 そんな中、クオークさんが数名の供を従えて神殿を訪れた。

 「お待たせしました。何とか間に合ったみたいですね。…大神官殿、早速案内を頼みます。」

 「分りました。…では、こちらに。」


 大神官の後を俺達は付いて行く。

 大きく神像を迂回すると、神像の裏側に2人が並んで歩ける程の通路がある。その通路を進んで神像の裏側に来ると、大神官は神像に手を着き何事かを呟く。

 真近で見る神像は石の壁だ。その一部がぼやけ出したかと思うと、地下に続く長い階段が現れる。


 「ここから入ります。」

 大神官は俺達にそう告げると、神像の階段を下りていく。

 横幅3m、高さも3m程の階段は、何処までも下に伸びている。そして、照明も無いこの階段室は壁全体がぼんやりとした明かりを俺達に提供していた。


 それでも、10分程度階段を下ると終わりが見えてきた。

 水平に伸びる直径5m程の丸いトンネルが階段の先に続いている。

 そのトンネルを進むと、程なくして一辺が2m程の立方体が俺達を待っていた。


 「これが、神殿地下にある魔道文字の石碑です。数個の文字の意味は分りますが、読む事は誰も出来ません。」


 俺は立方体の周囲をざっと一巡して、記載の概要を確認する。

 「読む事が出来ますか?」

 「何とか。…大神官殿に確認します。これを読む事は忌むべきことですか?」

 「仮にも神殿奥に安置されたものです。忌むべきものではありませんが、読む事が出来るのですか?」

 「読む事は可能です。意味がどこまで分るかは分りませんが…。」

 「では、読んでください。私もかつてこの文字を読もうとしましたが断念した1人です。」

 クオークさんは野帳を広げて、鉛筆モドキを持っている。準備はいいみたいだ。


 「では、この面から読みます。」

 俺は、立方体の正面の文字を読み始める。


 地上に出た者達はまもなくその容姿を変える

 地上の生態系は爆発的にその形を変えていく

 かつてなき事態に残された都市の長老は集う

 そしてバビロンの民は千の単位で地上へと進む


 地上は緑にあふれ、大洋は静かに波をうつ

 太陽は、我等に恵みを与え

 夜には2つの月が我等を照らす

 沢山の獣達は人工子宮の中で胚より育ち

 我等が贄となるべく都市より出る


 海面の変動は治まり大洋は静けさを取り戻す

 そして異形の者が我等に接触するも

 互いの版図が異なれば諍いを起こすべきもない

 我が同胞は地上に広がり

 その姿をさらに変える


 かつて人類は天空に版図を広げるも

 その栄光は今はない

 遠く去った同胞を思い

 われらはここに再起しよう

 かつての栄光を忘れることなく


 「…と読めます。」

 「何を残そうとしたのでしょう。」

 「自分達が生きた証なのかもしれません。…かつて地上で大きな戦があった。そしてその戦を逃れた人々が、自分達の文化が衰退するのを見続けていたのでしょう。」

 「それが、この魔道文字の正体ですか。…悲しい物語ですな。」

 

 大神官はそう言うと、神に祈る仕草を立方体にしている。

 彼なりの慰めの祈りなのだろう。


 「段々と記録が増えますね。沢山集めれば、それだけ真実が見えてくるでしょう。」

 俺が読んだ言葉を書き留めていたクオークさんが言った。

 「でも、1つ忠告することがあります。それは、必ずしも知る事が良いとは限らない。ということです。」

 「それは、十分に分かっているつもりです。でも僕は知りたいのです。言い伝えと現実はあまりにも乖離しすぎています。その空隙を埋める物が、魔道文字で書かれたこれらの記録です。」


 「私からもお願いしたい。かつて神は1つであったと言い伝えにはあるのですが、今は4神が祭られております。私は神に使える身…。疑問を持つ事はあってはならぬ事ではありますが、未だに私は悩んでおるのです。何故最初から4神ではないのか。なぜ、そのような言い伝えを今に伝える必要があるのか…。」


 意外に難しい問題だと思う。一神教が多神教に変わるのは俺達の世界に無かった事だ。その逆は多々あるんだけど…。

 

 分かった事は1つだけ、バビロンの民は地上に出て拡散していった。そしてその環境に応じる為に姿を変えていったという記録が写本と一致したと言う事だ。

 人類の進出に合わせて、獣達も同じといえる。再度の地上暮らしを行う為に多数の動物の胚を保管していた。それを少しづつ人工子宮で大きくして地上に放ったのだ。


 嬢ちゃんずは頭の上に??を浮かべているが、冬の夜長話として後で教えてあげよう。

 そして、俺達は地下の碑文を後に地上に戻る事にした。


 とりあえず神殿巡りは終了した。

 王宮の部屋に戻ると、昼食を持った侍女が直ぐにやってきた。

 

 「御后様が、昼食後にお待ちすると仰っております。お茶の後で御案内致します。」

 そうだった。

 早速昼食を取ると、装備ベルトを付けて昨夜作った投擲具を背中に挟み込んだ。

 素早くお茶を飲み干すと、侍女の後に着いて姉貴と共に錬兵場に向かう。


 王宮の建物の西側にそれはあった。ちょっとしたサッカーグランド程の大きさがある。そして周囲には見学を容易にするため、数段の階段状の席が設えてあった。


 俺達が着いた時は、丁度嬢ちゃんずがクロスボーの試射をしていた。

 200D程はなれた場所から、弓の的の中心点にボルトが突き立つのを近衛兵達が驚嘆の目で見ている。


 俺達が来た事を近衛兵が誰かに知らせに行く。

 そして、俺達の前に現れたのは、懐かしいダリオンさんだった。


 「待っておったぞ。御后様はもう直ぐいらっしゃる。だが、その前に、俺はミズキの腕を見ていないが、ミーアは300Dで同じ事をすると言っている。また、その【メルト】はジュリーの放つ【メルト】とはだいぶ異なると言っておった。是非見せて欲しい。」


 姉貴は、「しかたないなぁ…。」なんて言っているけど、やる気満々だ。

 早速、嬢ちゃんずの後方に位置する。その距離は約500D…。姉貴が狙える限界だ。これだけ離れていても、ボルトの威力はまだ十分に有効だ。

 

 遠矢に近い距離を姉貴が取ったことに改めて観客の近衛兵達は驚いている。

 姉貴はクロスボーに足をかけて弦を引き絞る。

 ロックされたクロスボーにボルトをセットして、片膝立ちで構える。

 シュンっという発射音が微かに聞え、嬢ちゃんずの的になっていた的の中心点にドンっとボルトが突き立った。


 近衛兵達は声も出ない。彼らの使う通常の弓の限界点から射撃を行なって的の中心点を射抜いたのだ。

 姉貴が両手を広げて前方の人払いをしている。

 ダリオンさんが両手をメガホンにして錬兵場から離れるように指示している。

 

 姉貴が何か呟くと、姉貴のあげた右手の上にドッジボール程の紅蓮に輝く球体が現れた。1 つ・・2つ・・3つ。  「行っけー!!」 姉貴の右手を振り下ろす動きに合わせて、3つの怪しい球体が左、真ん中、右の方向に飛んいった。 そして、錬兵場の2m位上で、その球体は突然10個程に分裂すると地面に着弾する。 ドドドドドドドドドドォーン!! まるで、クラスター爆弾が爆発するみたいだ。


 近衛兵達はポカンとした顔でそれを見つめている。


 「アキト…。今のは何の魔法だ?」

 「姉貴の【メルト】の変形版ですよ。一度に沢山の【メルト】をイメージしたら出来た。と言ってましたけど。」

 ダリオンさんが俺を指先でちょいちょいと呼んで質問してきたことに、俺は応えたけど、ダリオンさんは納得していないみたいだ。

 「あれは、もう【メルト】とは言えん。火属性の違う魔法だ。」

 そう呟くダリオンさんに、うんうんとマハーラさんが頷いている。


 「あぁ、そうでした。この杖を作って頂いてありがとうございます。機能を知って吃驚です。魔法が1.3倍のブースト効果。その上、精神集中と魔法力補充の効果があるなんて…。もう一生大切にします。」

 「何時も、家の連中がお世話になってるお礼です。気にしないで下さい。」


 そんなことで騒いでいると、錬兵場の一角が騒がしくなる。

 何だろうと思って、騒ぎの方向を見ると嬢ちゃんずと一緒にいるのは、全身を鎖帷子で固めたアルトさんのお母さんではないか。

 鎖帷子の上に軽い上着を着込んではいるけど、中世の騎士の姿を彷彿とさせる。

 そして、背中に担いでいるのは、何とデカイ長剣だ。長さは1.5m位あるし、刀身の横幅だけでも10cmを超えているようだ。

 あんな剣が振れるのだろうか?…そんな疑問が沸くほどだ。


 御后様の所に歩いていくと、先方も俺に気付いたようだ。

 「何やら、面白い見世物を逃してしもうたらしい。じゃが、我が見たいものは、ザナドウをしとめたという婿殿の技量。先ずは投槍の妙技を所望したい。」

 

 ちょっと気になる言葉はあったが、御后様の傍に控える近衛兵の持つ投槍を受取ると、嬢ちゃんずの練習していた位置の後方まで歩いて行く。

 約300Dの位置に着くと、背中に挟んでいた投擲具を抜いて、投槍の後部を投擲具のくぼみに入れる。

 そして、前方の的を睨む。


 誰もが無理だと言う顔で俺を見ている。

 御后様を横目で見ると、俺の視線に気付いて小さく頷いた。

 俺も頷き返すと、投槍を高く上げて、左腕を後方一杯まで伸ばす。

 そして、右手で方向を定められた投槍が、投擲具を持った左腕を一気に振り下ろす反動で、ブゥゥゥンっという振動音と共に宙を飛び、ドン!っと的に突き刺さる。


 錬兵場はしばし静寂につつまれた。

 そして、パン、パン…と手を打つ音に続いて、わあぁぁぁーっという歓声に包まれる。


 「さては見事な技である。ザナドウを倒すのも無理はない。…では、婿殿。始めようぞ!」

 御后様はそう言うなり、1m程の石の擁壁をひらりと飛び越えて、こちらに歩いてくる。


 「いいわね。奥義は使わない事。負けてもいいんだからね。」

 姉貴は俺にそう言うと、採取鎌を手渡して、錬兵場から出て行った。

 

 「片手剣と長剣更には短い杖を自在に操るとは聞いておったが、さてどれを使うおつもりか?」

 「慣れたところで、この鎌を…。」

 「全て使うてもかまわんぞ。その武器、全て初めて見るものじゃ。」


 俺達は錬兵場の中央に立つと、一気に後方に飛び互いの距離を取る。

 お后様が身を捻りながら抜いた長剣は、やはり巨大だ。どう見ても10kg以上ありそうだが、それを右手で持つと、軽く剣先を上にして俺をうかがう。左手は大きく開いて後方にある。

 俺は鎌を左手で数回回すと、中央部を持って下手に構え正面を向いて低く構える。右手は平手で顔の横だ。

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