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#012 薬草採取と魚釣り

 

 次の朝、宿のおばさんの有難いお小言とお弁当の包みを頂いて宿を出た。

 おばさん曰く。


 「いいかい。小さなことからコツコツと……が基本だよ」


 どっかで聞いたようなフレーズではあったが、その言葉に間違いはないと昨日の件で十分理解したつもりだ。


 そんな訳で先ず雑貨屋に向かった。

 採取がメインになればミーアちゃん以外に採取品を入れる籠も必要だ。それに薬草等によっては草の根ごと採取するものもあるはず。

 たぶん専用の何かがあるだろうってことで、ギルドに行く前に立ち寄ることになった。


 「おはようございます」


 って雑貨屋に入ると、おじさんがカウンターでパイプを煙らせている。


 「薬草採取なんかに使う道具はありますか?」

 「あるよ。……これを皆使ってるな。ケース込みで15Lだ」


 そう言って棚から取出したのは、長さ20cm位の金属製ナイフみたいなものだった。

 ナイフと違う点は、片面が湾曲してスコップみたいだし、横幅も7cmはある。

 でも先端は尖っているし、両側も軽く研いである。このままナイフとしても使えそうだ。


 「では、これを3本と、小さな籠を1個ください」


 姉貴は、代金を支払うと俺に品物を受け取らせる。おじさんは、おまけだと言って小さな砥石も付けてくれた。

 籠をミーアちゃんに背負って貰うとギルドに向かった。


 ギルドのカウンターで、姉貴が早速ガイドの依頼をすることにした。


 「すみません。またガイドをお願いしたいんですが……」

 「はい。ちょっと待って下さいね。……え~っと、キャサリンさんがいますね。待ってて下さい」


 お姉さんはそう言って階段を上って行き、しばらくすると若い女の人を連れて下りてきた。


 「彼女がキャサリンさんです。黒1つですが、魔法も使えますよ」

 「キャサリンです。水の魔法が使えますよ」


 「よろしくお願いします。私は、ミズキ。そっちがアキト。そして、ミーアちゃんです」

 「それで、今日はどんな依頼を行うんでしょうか?」


 キャサリンさんはそう言って首をチョコンって横に傾ける。仕草的には、可愛いかも知れないけど……。

 どう見ても姉貴よりは上だ。そんな仕草は、卒業しないといけないような気がする。


 「前回はアリット採取でしたから、出来れば簡単な採取系の仕事をしたいんです。文字が読めないので選んで欲しいんです」

 「解りました。では掲示板に行きましょう!」


 俺達はキャサリンさんに引きつられて掲示板の所に行くと、彼女は掲示板の下の方を探し始めた。


 「薬草採取がありますね。依頼数は多いんですが、この季節なら何とかなると思いますよ」

 「どんな内容ですか?」


 「え~と、採取依頼。対象は薬草のサフロン30本以上、毒消し草のデルトン10本以上。報酬はサフロン:2L、デルトン:3Lです」

 「それは、何処に生えてるんですか?」


 「日当たりの良い小川の土手等に生えてますよ。現物は現地で私が教えましょう」

 「では、それにします。……もし時間があれば、依頼書の読み方を教えてください」


 「いいですよ。では、出発しましょう!」


 姉貴はキャサリンさんから依頼書を受取ると、俺の籠からザックを取出しカウンターに持っていった。

 カウンターでガイド料を払い、依頼書にハンコを押して貰うと、前のようにザックを預ける。これで、準備完了だ。

 

 早速ギルドを出ると、村の門番さんに挨拶して、泉の森に向う。

 姉貴は早速キャサリンさんに依頼書に書いてある文字の読み方を教わっているようだ。アリット採取の依頼書も取出して、キャサリンさんと話し込んでる。

 俺と籠を背負ったミーアちゃんは、姉貴達の後ろをのんびり手を繋ぎながら歩いている。たまに振返って俺を見る姉貴の目がちょっと怖い気がするのは気のせいだろうか……。


 しばらく歩いていると十字路に出た。小川はこの先のはずだ。

 木橋の架かっている小川に出ると、橋を渡って今度は川下に歩いていく。

 

 「畑近くの薬草は農家の人の収入源ですからね。離れたところで採取です。」


 そんなものかと思いながらも、皆でキャサリンさんに付いて行く。


 村を出て2時間近く歩いただろうか、キャサリンさんが「ここでーす。」って言って止まった所は、小川までなだらかな傾斜地が続く場所だった。


 キャサリンさんが土手の草むらを少し探して、2本の草を俺達の所に持ってきた。


 「この、ギザギザ葉っぱで長いのが、サフロンです。そしてこの丸い葉っぱで短いのがデルトンです」


 俺的にはヨモギみたいなのがサフロンで、タンポポみたいなのがデルトンって覚えることにした。

 

 「採取依頼ですから、根の近くで採取する必要があります。採取用のナイフはありますか?」


 「これですね!」って姉貴はミーアちゃんが降ろした籠から、スコップみたいなナイフ(これからはスコップナイフと呼ぼう)を取出した。


 「ありますね。持ってない時は皆さんのナイフや短剣をつかうことになります」


 「じゃぁ、始めましょう。」


 そんな軽い声で、俺達は一斉に薬草採取を始める。

 タンポポ、タンポポ……ヨモギ、ヨモギ……って呟いてたら、「何の呪文ですか?」ってキャサリンさんに聞かれてしまった。


 とりあえず、「早く見つかる、おまじないです。」って答えたけど、遠くで姉貴が笑ってた。


 昼近くになったので、採取作業をひと段落して昼食を取ることにした。

 近場で薪が取れないので、固形燃料でお湯を沸かす。


 「へぇ~、こんな便利なものがあるんですね」


 ポットのお湯が沸く様子を見ていたキャサリンさんが感心してた。

 シェラカップにお茶を入れて皆に配ると、姉貴が宿のおばさんに作ってもらったお弁当を配る。お弁当の中身は野菜と薄く切ったハムを挟んだ黒パンだ。


 モシャモシャと食べていると、ピチョン!って音がした。


 「お魚がはねた!」


 ミーアちゃんが水面を指差した。


 「どんな魚なんだろうね。」って姉貴がミーアちゃんに微笑んでる。


 「たぶん、リリックだと思います。この小川に結構いるんですよ。食べても美味しいですし……。」

 

 そう聞いては黙っていられない。

 早速周囲を探す……、あった。たたたって走って行き雑木の真直ぐな奴を1本切取ると、枝を払って即席の釣竿を作る。

 腰のポーチからサバイバルセットを取出すと釣針と糸を出す。

 糸を釣竿に結び、糸の途中に適当な小枝で浮きを作る。糸の先に釣針を結べば出来上がり!

 釣針にハムの欠片を付けるとポチャンと水面に投げ込んだ。

 後は、待つだけだ……。


 「お兄ちゃん、今ピコピコってなってたよ。」

 「ミーアちゃん。まだ、待つんだ。」


 皆が俺の後で水面の浮きを見詰めてる。

 

 そして、浮きがグーンって水中に沈んだ時、竿を持つ手を軽く返す。この動作だけで釣竿の先端は2m近く上がり、ガッチリと魚を釣針に掛けることが出来る。


 たちまち、グン、グーンっと釣竿を引き込まれる。結構な大物だ。

 適当にいなして魚を水面まで上げ、空気を吸わせる。これでおとなしくなるのだ。

 岸辺に近づけて、一気に取込む。陸に揚がった魚はバタバタ跳ねていたが、やがて動かなくなった。


 「これって、マスだよね?」

 「マスじゃなくて、リリックです。美味しいですよ。長持ちするように表面を炙るんですが……」


 今度は、姉貴が素早く岸辺で辺りの枯草を焚きはじめた。釣竿を作るときに払った小枝に内臓を抜いたリリックを差して炙り始める。

  

 「次は?」って要求してるし……。


 でも、直ぐに次が来た! 同じように取込むと姉貴に渡す。

 今度は、内臓の抜き方をミーアちゃんに教えているようだ。串の刺し方まで教えてる。

 ミーアちゃんが焚火の端にリリックを刺した時、更なる獲物を釣り上げた。


 「ホントにお上手ですね。皆さん苦労して取っているんですよ」

 「釣をしらないんですか?」


 「似たようなことはしてるんですが、さっき見たような曲がった針は初めて見ました」

 

 ひょっとして、直針ってやつ? 真直ぐな針の真中を糸で結んで釣るって話は聞いたことがあるけど……。

 そんな事を考えながらも、次々と釣り上げる。それをミーアちゃんがせっせと炙っていく。


 さて、こんなものかとミーアちゃんの方を見ると小さな焚火の周りに15匹位魚が炙られている。

 姉貴の方は、キャサリンさんと俺達が採ってきた薬草を分類している。


 「サフロンが40本、デルトンが25本ですね。採取完了ですが、戻りますか?」


 キャサリンさんの完了確認で、姉貴が小さくガッツポーズをしている。ホントに子供っぽいんだから。

 

 「アキトの方はどうなってるの?」

 「大体、15位獲れたよ。売れればもっといいんだけど……」


 「売れますよ。確か上のほうにそんな依頼がありました。誰かが依頼を受けていれば、食堂で買取ってくれます」


 まだ明るい内にギルドに帰ると、早速依頼完了の確認を受ける。ついでにリリック獲りの確認をしたところ、依頼用紙を持ってくればいいとのことなので、早速掲示板からキャサリンさんが用紙を剥がしてきた。


 「リリックは10匹以上で1匹5Lですね。」


 数を確認すると15匹……10匹で依頼を完了し、3匹は持ち帰り、後の2匹は……。


 「あにゃー。アキト達にゃ。今日は、キャサリンと行ったにゃ。私は飲みすぎて今日は休みにゃ……」

 「これ、今夜キャサリンさんと食べてください」

 

 俺が2匹のリリックを差し出すとミケランさんの目が輝いた。


 「リリック、リリックにゃ。……リリックにゃ」

 

 万歳して、今度は踊りだした。俺の両手を持ってぶんぶんしてるし……そんなに美味いのか?

 

 姉貴がお姉さんに頂いた報酬は、205L。


 「キャサリンさん。今日はご苦労様でした」


そう言って、52Lを姉貴はキャサリンさんに渡した。


 「ガイドの報酬は1割です。こんなに頂けません。リリックまで貰ってますし」

 「今日は1日、私達のパーティの一員でしたから、報酬は山分けです」


 「どうもありがとう」って、キャサリンさんはまだ浮かれているミケランさんを連れてギルドを出て行った。

 「また明日」って、お姉さんに挨拶して宿に戻ると、早速宿のおばさんにリリックを料理して貰った。


 皿に盛られたリリックの香草焼き、……絶品だ。

 ミーアちゃんが「こんな美味しいの初めて!」って言ってるし、姉貴もあまり好きではない魚料理を残らず平らげた。

 ミケランさんが踊りだす訳だ。

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