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#111 大工さんがやってきた

 

スロットとネビアが宿から私物を引き取って、ジュリーさんが使っていた部屋に置いてくると早速山荘の建設予定地に案内した。


 「ここが山荘の建設予定地だ。杭の打ってある範囲が庭になる予定なんだ。」

 「結構いい場所じゃないですか。流石は王族の山荘予定地ですね。この一角に住む事が出来るなんて夢のようです。」

 スロット達は気に入ったようだ。でも、それは大事な事だと思う。気に入る、入らないは仕事をする上での士気に影響するし、気に入らない仕事はとかく投げ遣りになりがちだ。


 家に戻って、当座の仕事の確認をすることにした。

 「2人には、支出の管理をして欲しいんだ。雇い人への支払い、材料の支払い、食事の材料の支払い等がいろいろとある。きちんと帳簿を付けておいて貰えると助かる。」

 「そして、雇い人の昼食の管理もして貰いたい。50人を超える人数になるはずだ。村の小母さんを何人か雇い入れる事ができたから、必要な材料を供給するのが役目になる。もちろん支出はきちん帳簿に残してほしい。」


 「たぶん2人で共同で行なうような形になりますが、構わないでしょうか?」

 「君達に任せるよ。とりあえず、金貨20枚を預けておく。足りなくなればミズキに言ってくれればいい。」

 

 俺の言葉に、姉貴は俺達のサイフとは別の袋から金貨を20枚取出した。

 「そうだ。村人への支払いは1日15L。それを5日毎に集計して渡すことにしている。昼食を作る小母さん達への支払いは1日10L。大工さんはこれからの交渉だ。それで、スロット達だけど、1月で1人銀貨5枚でどうだろう。家ができるまではここに住んでいいし、食事代も掛からないから、十分に冬越しは出来ると思う。そして、山荘の管理が始まれば住居と給与、1月2人で銀貨5枚が支払われる。掃除等の管理費は別に1月銀貨2枚を出すから、それで村人を雇えばいい。」


 「判りました。早速、筆記用具を購入してきます。」

 「その購入も先程の金貨を使ってかまわない。山荘を建てるために必要となるものは、一括して先程の金貨で購入するんだ。スロット達のサイフと山荘の建設費の入れ物をキチンと分けておけば管理しやすいだろう。」


 「了解しました。早速行ってきます。」

 スロットは早速家を飛び出して行った。


 「ところで、食器等は揃ってるの?」

 「1人が1つの木の椀とカップを1個、それにスプーンは持っています。」

 「ここで暮らすとなると食器等を揃える必要があるわね。私達は余り贅沢はしないから、少し物足りないかも知れないけど、ここにいる間はこの家の食器類を使ってね。」

 

 「ありがとうございます。ところで、お嬢さん達を見かけないんですけど…。」

 「今朝、アルトさんやアン姫様達と王都に発ったのよ。クオークさんとアン姫の披露宴に出席する為にね。来年には来るかもしれないけど…ちょっと寂しいわね。」

 「そうなんですか…。元気なお嬢さんでしたのに会えなくて残念です。」


 「ネビアさんは、あの3人の歳が同じ位だと思ってる?」

 姉貴が悪戯そうな目でネビアを見てる。

 「そうですね。14歳位でしょうか…。一番女の子らしい年頃だと思いますけど。」

 「あの中で、一番オマセな言葉を使う子がいるでしょ。あの子がアルトさん。アルテミア・デ・モスレム…。トリスタン様の妹よ。」


 「えぇー!…剣姫様なんですか!」

 「そうよ。銀4つ。私等まだまだ到達出来ない所にいるハンターよ。でも、他の女の子と何時も一緒だから判らないでしょうね。」

 

 たぶん、誰も区別できないと思うぞ。アルトさんの精神年齢が、ミーアちゃん達と同じような気がする。あの3人が一緒だと、どう見たって同い年のお友達って感じがするもの。


 「来年にはここに来ると思うから、その時はきちんと挨拶しておけばいいわ。」

 「そうします。…でも、驚きましたわ。」


 そんな話をしていると、スロットが帰ってきた。大きなバッグを抱えている。

 そのバッグをテーブルの上に置くと、鉛筆モドキや、付けペン、インク壷、丈夫な紙を綴じた本のようなノート、メモ帳等が顔を出した。

 「とりあえず、これだけあれば帳簿を付けることが出来るでしょう。足りないものがあれば追々揃えていきます。」

 

 姉貴とネビアが簡単な野菜スープを作る。俺とスロットで暖炉の火で黒パンを炙ってパンを縦に半分にすると薄く切ったハムを挟む。

 テーブルに黒パンと木の椀に入れた野菜スープが配られると、俺達の昼食となる。

 

 「外で、焚火で作ったスープばかりでしたから、こうやってテーブルで食べるのはいいですね。」

 スロットが早々とパンを食べ終えて話出す。

 そんな彼に、姉貴はお茶を入れてあげる。

 

 「明日からは、朝と晩はここで食べられるけど、昼食は皆一緒に大鍋のスープよ。」

 「50人以上って言ってましたよね。想像出来ないな、そんな料理は…。」

 「それを監督するのも貴方達の仕事よ。頑張ってね。」


 まぁ、多人数の調理はそれ程難しくはない。スープなら尚更だ。それ程緊張することはないと思うけどね。


 誰かが扉を叩く音がする。

 姉貴がは~い。って返事をして扉を開けると、セリウスさんが入ってきた。

 「邪魔をするぞ。…スロット達か。よく来たな。」

 

 セリウスさんは空いている席に座ると、早速姉貴がお茶を入れたカップをセリウスさんの前に置く。

 「明日の朝から始める。集合は、西門前の広場だ。30人を石と土砂運びに、20人を林の伐採に使おうと思う。昼食作りのご婦人方5人は朝食後しばらくしてからギルドに集まる。そしたら、建設予定地に案内して、昼食作りだ。」

 「食材の入手は…。」

 「明日は10月の11日、丁度村の朝市がある。そこで、大量に買い込んで魔法の袋に保管すれば10日以上持つはずだ。量は…ルクセムの母親を頼れ。前の経験で判断してくれるだろう。」


 スロットがセリウスさんの話を次々とメモしている。

 「昼食後にネビアさんと一緒に会ってきます。揃えなければならないものもあるかも知れませんし。」

 「それがいい。それと、黒パンも宿に頼んでおくといい。前の時は大変だったからな。」

 「そうでしたね。…スロットさんも一緒に来て下さい。場合によっては今日の内に買い物をするかもしれません。」

 スロットは荷物持ちだな。背負い籠はあると言っていたから大丈夫だろう。

 

「それと、アキトは俺と来い。通りから建設予定地までの道を作らねばならん。道は明日作るとして、その道に掛かる立木に印を付ける。明日はその目印の木を伐採するんだ。」

 確かに、林に道は無い。資材の搬入を考えると早い段階に道を整備する必要がある。

 「判りました。できれば馬車が容易に通れる位の道にしたいですね。」


 そんな訳で2手に分かれて明日の準備を始める。

 林の所に行くと、造成予定地の真ん中に間隔が4mの杭を打つ。そしてロープで通りまで伸ばし、通りにも幅4mの杭を打った。ロープで囲まれた範囲の立木を伐採すれば、幅4m位の道路を作ることができる。

 将来的には縁石と敷石が敷かれるのだろうが、工事期間は丸太を引いておく他は無いだろう。


 「結構な立木の数だが、昼食の薪や道の補強で足りなくなるだろう。造成区画の立木も印を付けて一緒に伐採しておく方が楽かも知れないな。」

 「そうですね。そこにもロープを張っておきましょう。」

 

 ロープを張り終えると、造成の内容があらかた見えてくる。

 造成範囲は岸辺に対して100m、湖に向かって50mの大きさだ。

 その内湖に10m位張出して造成することになる。更に、林の造成基点と湖の標高差は50cm以上ある。かなり大規模に土砂を運ぶ必要がありそうだ。


 「大工はギルドを訪ねるように言ってある。来ればシャロンが連絡してくれるだろう。少なくとも明後日には此方に来るだろう。そうしたら、建設用の木材を伐採し始める必要がある。とりあえず50人を確保しているが、状況に応じて人を増やす事も必要だ。」

 「その辺の段取りはマケリスさん達と相談します。」

 「そうだな。…では明日の朝、西門の広場で待っている。」

 

 セリウスさんと別れて1人我が家に戻ってみると、大量の食器類がテーブルに乗っていた。

 「どうしたの?…こんなに沢山の食器??」 

 「前回は食器を持参して貰ったけど…、今回は買い込んだのよ。早く昼食を配れるように小さな鍋類も購入したわ。当然調理用のナイフ類もね。後は、あそこってまだ井戸がないでしょ。だから水を汲む桶や洗う桶も購入したわ。」

 

 やはり俺達だけでは思いつかない事がいろいろとあるみたいだ。

 いよいよ明日からだが、こんなことで大丈夫なんだろうか。…少し心配になってきた。


             ・

             ・


 朝食を終えて、俺は西門の広場に歩いて行く。姉貴達はギルドでルクセムくんの母親達と合流して朝市で食材を買い込む予定だ。3人とも籠を背負って出かけたけど、どれだけ購入してくるつもりなんだろうか。

 

 西門に近づくにつれ、大勢の話し声が聞こえてきた。

 急いで広場に駆けつけると、マケリスさん達やセリウスさんもとっくに集まっている。

 

 「来たか。早速始めるぞ。マケリスが手筈を付けている。30人と荷車10台でステーキを釣った下流から石を運ぶ。残り20人は林の伐採だ。俺は石を運ぶ連中に同行する。お前は林の伐採の監督をしろ。…まぁ、実際はセリエムが村人の対応を取るから、お前はセリエムと打ち合わせるだけでよいはずだ。」


 「始めるぞ!」

 マケリスさんの一言で、ざわついた広場がシンと静まる。

 そして、荷車と30人がマケリスさんの後を付いて行く、最後尾はセリウスさんだ。


 「さて、私達も始めますか。」

 「そうですね。先ずは、通りからの道を作りましょう。このロープの範囲に入っている林の木を切って、後は丸太を並べて木道にしてください。」

 

 早速、セリエムさんは5人一組の班を作ると、湖側と通りの両方向より林の伐採を始めた。

 林の立木は太いものでも直径が30cm程度である。道の区画内には数十本の立木があったが、どんどんと数を減らしていく。

 半分程立木を伐採したところで、大きな籠を担いだ姉貴達がやってきた。

 

 「結構早いペースで進んでるね。伐採だけなら今日中に終りそうに見えるわ。」

 「いや、伐採後を木道にするから、結構かかると思うよ。ひょっとして昼食の準備?」

 「そう。結構な荷物だわ。…一輪車は通せるよね。でないと、手で運ぶのは大変よ。」

 

 姉貴の後ろには一輪車に大鍋を乗せたスロットがいた。その上籠を担いでいる。結構使われてるみたいだ。


 「たぶん場所を選んで進めば大丈夫だ。」

 姉貴にそう言ってから、伐採をしている村人に手でメガホンを作ると大声を上げる。

 「ちょっと、手を休めてくれ!…昼食の準備だ!!」


 村人が作業を中断した隙に姉貴達は浜辺に移動して行った。一輪車の移動は結構大変で何人かの村人に手伝って貰っていた。

 やはり、木道の完成を急ぐ必要がありそうだ。

 セリエムさんに相談して1班を木道作りに向かわせる。伐採した通路沿いに丸太を横に並べていくだけの作業だが地面や切り株の凹凸を見極めながら行うので結構大変な作業だ。表面の凸凹は木道の上に砂をひいて緩和させればいい。


 姉貴達が南側の岸辺に移動したのを確認して伐採作業を開始する。残りは後半分だ。

 木道は伐採した立木を道幅に切断してどんどん並べていく。数m並べると丸太の両端に縦に丸太を載せてカスガイで固定していく。

 

 通りから岸辺に出る通路区画の立木を全て伐採し終えると、造成箇所の立木を伐採していく。

 丸太の太さは、一番太くても30cm程度だから、いくら丸太があっても足りない位だ。

 一通り丸太で木道を作ったところで、小休止を取る。

 時間的にはお昼少し前位だけど、まだ、石運びの連中が帰ってこない。

 昼食は、全員そろったところで取りたい思う。


 軽く一服を楽しみ、村人はパイプや水筒の水を飲んでいる。

 そして、次の作業を開始する。

 一輪車で岸辺の砂を運んで木道の溝に埋める作業だ。なるべく凸凹をなくしておけば、それだけ資材の搬入が楽になる。

 20m程の木道に、とりあえず砂を入れた頃に石運びの村人が帰ってきた。早速出来たばかりの木道を荷車が通り過ぎる。

 それぞれの荷馬車には数個の石が乗っている。1個30kg位だろうか。

 ガラガラと湖畔に積み下ろされる石は、一回の搬送では微々たるものだ。


 皆が揃っている事をマケリスさんが確認して、昼食となる。

 姉貴達が作ったのは簡単な野菜スープと黒パンが1人1個づつだ。

 簡素な食事ではあるが、肉体労働を続けたものにとっては美味しく思える。

 明日は、カヌーで黒リックを取ってこようと思う。少しは村人に喜んで貰えるだろう。


 昼食を終えてお茶を飲みながらひと休みする。

 そして作業を開始する。セリウスさん達は石を運び、俺達は造成箇所の林を伐採する。

 伐採した木は太い部分は建材にすべく一箇所に重ね、10cm以下の枝や幹は1m程に切って薪用に取っておく。

 この林は広葉樹と杉が主であり、松は無かった。

 ベネチア式の土台工事には、山の林に行く必要がある。


 そして、夕刻までには造成箇所の林はすべて伐採された。改めて造成区域の大きさが実感できた。我が家の庭の3倍はある。

 場合によっては、山荘の建築だけで湖方面の庭は春以降の工事になるかもしれない。

 石の運搬をしている村人の到着を待って、初日の作業を終了した。

 明日は、広場ではなくこの場に集まることを告げて解散する。


 「マケリスさん、ちょっといいですか。」

 「何でしょう。」

 マケリスさんと、セリエムさんが足を止める。

 

 「造成区域に杭を打ちたいんですが、松が無いんです。何とかなりませんか。」

 「松は狩猟期の獲物運びの折に見つけてあります。結構数は揃いますよ。林の伐採が終っているので、明日は20人を松の伐採に向かわせましょう。荷車は3台程追加しなければなりませんね。何とか調達しますが、場合によっては数台を町から購入しておくほうがいいかも知れません。壊れたら交換してあげなければなりませんからね。それとスコップ等を用意しておく必要があります。数は…とりあえず10本もあればいいでしょう。」


 スロットが一生懸命メモしていく。

 きちんと書き込まれていることを確認して、マケリスさん達と別れて我が家に急ぐ。

 

 家に帰ると、姉貴達が夕食を準備していてくれた。

 「ご苦労様。大変だったでしょ。」

 「まあね。でも、マケリスさん達がいるから問題ないよ。」

 「でも、大工事ですね。どんどん資材を購入していく必要があります。」

 「さっきの注文は、明日村の雑貨屋に行けば何とかなるよ。雑貨屋に無ければ町に発注してくれるから、心配ない。」

 「給与はセリウスさんやアキトさん達にも渡さないといけませんね。私の一ヶ月の給与と同額でお願いします。」


 確かに、俺達も働いているのだ。大金を持っていると言っても、俺達をただで使ったとあってはアルトさん達も後味が悪いだろう。ここは、ありがたく頂く事にする。


 夕食を取りながら明日の段取りを話し合う。

 夕食後はスロット達がテーブルで帳簿を付けている。

 俺は、暖炉の前でジュリーさんの依頼をこなす。布を広げて早速彫刻を始めた。

             ・

             ・


 次の日、朝食を終えて現場に着くと、もう全員が揃っている。

 今日は、30人が石の運搬で20人が松の伐採だ。俺は皆が出かけた造成区画で、昨日伐採した木の後片付けをする。

 その日の夕刻までには、20cm程の松が50本近く集められた。石も3m程の高さの山になって積み上げられた。

 

 そして3日目、待望の大工2人が町からやってきた。

 親方からやっと一人前と認められ、大工道具を一式送られた幼なじみ同士の大工だった。歳は、グレイさんと同じぐらいだろうか、25歳前後に見える。


 早速、現場に案内する。

 「ここに作っていただきたい。規模は王族用の山荘だからそれなりだね。」

 「1つ、問題があります。これだけ岸辺に近いと大型の山荘を作れば土台が沈下します。やはり、通りの向こう側に作られたほうがよいと思うのですが…。」

 

 やはり、不動沈下を懸念しているみたいだ。

 「たぶん沈下を懸念していると思いますが、それを防ぐ方法があります。その措置をした上で建築してください。結果的に地盤沈下で建物に住めなくなっても貴方達に責めを負わせるつもりはありませんから安心してください。」


 2人は顔を見合わせる。

 王族の山荘を手がけたとなれば、2人の評判は著しく向上する。しかし住むに耐えない山荘だったという評判がたっては全てが台無しになる。


 「判りました。しかし、その地盤対策が済んでからもう一度決めさせてください。それが有効だと判れば直ぐに建築に取り掛かります。」

 「では、一旦家に戻りましょう。概略の仕様は書きとめています。それを形にしてください。」

 

 俺達は家に戻ると、早速仕様書を2人の大工に見せた。

 そして、紙にどのような不動沈下対策をするのかを描いてみせる。

 そして、この方法で施工した土地に大型の石造構築物を建設する事が可能であることを俺達の国に伝わる技術として説明した。


 「なるほど、樹脂の多い杭を多数打ち込んでその上に建築するのですな。…確かにこんな方法は我が王国には例がありません。しかし石造建築をその上に作れるのであれば、木造建築であれば重量も軽く問題ありますまい。いいでしょう。貴方達の案を使って建築しましょう。」

 「でも、1つ問題があります。これだけの山荘を作るとなると、山から木を切ってそれを使うという事は不可能です。乾燥が済んでいない木材は狂いが生じますから。そこで、町や王都から木材を調達しようと思いますが、それは可能ですか。」


 確かに、セリウスさんの家は山から切って来た木材で直ぐに建てたけど、生木で建築すると乾燥と共に歪みが出るとは聞いたことがある。

 小さな家では問題もないだろうが、大きな山荘だとそれが顕著に出てしまうらしい。


 「分かりました。それで、どの位の材料費になりますか?」

 「図面を引かねば正確な数値は出ませんが、材料費で金貨10枚は必要でしょう。場合によってはさらに5枚程度用立てして貰う必要があります。」

 アルトさんから預かった金貨は50枚を越える。問題は無い数値だ。


 「問題ありません。材料を調達してください。支払いは全て彼、スロットに回してください。彼が金庫番です。」

 「分かりました。宿に帰って直ぐに始めます。」

 2人がそう言って席を立とうとした

 「ちょっと待ってください。まだ、貴方達の給与を決めていません。いくら必要ですか?」

 またしても2人は顔を見合わせる。

 「王族の仕事は対価はありません。その代わりに私達の業績として記録に残ります。この山荘もそうではないのですか?」

 「働く以上給与は必要です。2人で1日銀貨1枚…でどうでしょうか?」

 

 この申し出に2人は目を見開いた。たぶん給与が予想以上だったのに驚いたのだろう。

 「申し分の無い山荘を作らせて頂きます。それで、お願いなのですが、短期で建築するには大工が足りません。改めて4人追加させてください。それと、材料手配の手付金を頂きたいのですが…。」

 

 「金貨1枚を材料の手付けとして使ってください。後銀貨10枚を預けますこれで大工を雇ってください。」

 スロットは俺の言葉に彼の部屋に戻ると金貨と銀貨を用意してきた。

 俺はそれを大工に渡す。


 「私は、エイムと言います。こちらはカリムです。明日、カリムが町に出かけて早速手配を始めます。造成工事は10日以上掛かるでしょう。その間に私は図面を仕上げます。そして10日あれば、カリムは大工と材料を持って帰ってくるでしょう。では早速はじめたいと思います。」


 そう言って2人は宿に帰っていった。

 「持ち逃げ…という事は無いですよね。」

 「それは無いだろう。仮にも王族の山荘を手がけると見栄を切ったんだ。名を上げるチャンスをあれだけの金で棒に振ることはないと思うよ。」

 「それならいいんですが…。」


 スロットはそう言いながら帳簿に出費を記載する。

 意外と几帳面な正確だ。やはり彼に来て貰ったのは正解だったと思う。

 

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