表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
101/541

#100 狙いはザナドウ

 ネウサナトラム村はアクトラス山脈の麓にある。

 村の南に広がる段々畑の取り入れが済むと狩猟期はすぐにやってくる。

 

先週から村に在住するハンターと村人でジギタ、サフロン、デルトン等の薬草を集め始めた。昨年も大量の薬草を集めた思い出があるけど、去年の薬草ではダメなのだろうか?

 

薬草の賞味期限についてジュリーさんに聞いてみたら、

 「作って1年位でしょうか…。でも、全く効かないのではなくて、有効性が少しづつ落ちるんです。3年物で半分と覚えておいてください。」

 何て、言われてしまった。

 俺が持ってる薬草類は全て去年ものだ。来年位に交換すればいいだろう。


 今朝早くからミーアちゃんとサーシャちゃんはカヌーでトローリング…。

 残りの俺達4人はジュリーさんのお茶と駄菓子でくつろいでいるんだけど、話題はどうしても狩猟期に行ってしまう。


 「魔物がぞろぞろと出てきた時には狩猟期なぞ考えもしなかったが、狩猟期を無事に迎えられるというのは良い事じゃ。」

 「ホントですね。でも、ギルドのポスターには少し条件が付いてましたよ。」


 「何じゃそれは?…獲物を狩るに条件なぞ必要とは思われぬが。」

 「確か…。参加レベルが赤5つ以上で、5日毎に生存報告をギルドか臨時出張所にしないといけないみたいです。それと、1パーティの人員は10人以上って書いてありました。」


 「フム…。たぶん安全策という訳じゃな。魔物を全て狩ったかは分からぬし、魔物に追われて山の奥から出てきた獣もおるじゃろう。じゃが、10人は少し問題じゃぞ。我等は6人。後4人足りぬ。」

 アルトさんは困った顔をしているけど、町でそんな顔を見せるとお持ち帰りされてしまいそうだぞ。

 

 「姫様。確か、アン姫がいらっしゃるのでは?」

 「それでも、3人足りぬ。キャサリンとセリウス、ミケランを招きたいが、まさか双子を連れて行くわけにもゆくまい。」


 保育園という概念はこの世界にないみたいだ。もっとも日本に初めて保育園が出来たのって何時何だか分からないけどね。

 でも、そうすると1名足りないってことになる。ルクセムくんはまだ赤3つだから、論外になる。

 そんな訳で俺達4人は、う~ん…っと考え込んでしまった。

 最悪の場合はトレードって事になるのかな。

 でも、俺達のメンバーって皆変わってるからな…。入った人がトラウマにならなきゃいいんだけどね。


 「メンバーはアンが来てから再考するとして、今度はどのような作戦で行くのじゃ。昨年は意表ついてグライトの谷にしたが、今年は谷中にハンターがたむろしているはずじゃ。」

 アルトさんの問いに、姉貴がバッグから地図を取出した。皆がカップをかたずけたのを見て、テーブルに地図を広げる。


 これは、去年の作戦地図だ。

 平場を抜けたリスティンが、岩棚で待ち構えるハンターを避けて、グライトの谷に来るはずだと力説したのを覚えている。


 「これは、昨年の地図です。今年のハンターがどの位の規模になるかは分かりませんが、昨年と同じと考えてみます。新規の参加者は単独で参加することはないと考えてもいいでしょう。不慣れな山脈で多数のハンターがいるのですから同士討ちの危険性が高いからです。」

 「我も同じ考えじゃ。ここ数年のハンターの数は約150人前後。今年の規約じゃと15チームが山に入ることになる。…さて、我等は今年何処に布陣するのじゃ」


 姉貴は、地図の一角にナイトを置いた。そして、さらにグライトの谷の入口の東にクイーンを置く。

 ポーンを15個取ると、森の上の荒地に横一列に並べる。


 「さて、他のチームの作戦は、見つけ次第に狩るチームと待ち伏せを行なうチームに分けられるでしょう。そして、後者の場所は一昨年のこの場所と昨年のこの場所です。」

 

 姉貴は黒のポーンを岩棚に3個、グライトの谷の底に2個置いた。

 

 「確かアンドレイは昨年は此処じゃったな。今年は谷の底に行くじゃろう。」

 「はい。しかし単一チームではないでしょう。必ず他にも其処に行くパーティがいるはずです。」

 「それはそうじゃ。誰しも獲物は多く狩りたい。だから昨年の岩棚は結構賑わったらしいぞ。」

 アルトさんはそう言うと空になったカップをジュリーさんに差し出す。

 ジュリーさんは、そんな彼女になにも言わずにお茶を注ぐと、俺にもニコリと微笑んでカップに注いでくれる。何か嬉しいぞ。


 「そうなると、15チームの残りの10チームが見つけ次第に狩るチームとなる訳ですが、彼らはどんな狩り方をするでしょうか?」

 「ふーむ…。坂であれば当然上から下に狩るのが道理じゃ。となれば、一旦山頂まで登り獲物の群れを見つけ、ゆっくりと下りてくるはずじゃ。」


 「となれば、此処と此処の2箇所も規模は小さいですが獲物が逃げ込む場所にはなるのです。」

 姉貴が指差したのは西の沼に下りる谷間と森の小道だった。


 「そういえばダルバを狩った時にリスティンの群れがいたね。」

 姉貴が俺の言葉に頷く。


 「リスティンは獣ですから、水を飲むはずです。その水飲場はどこかを考えると、西の沼が最適なんです。それに、リスティン狩りを主に生業としているアンディさんの話だと、リスティンを狩るのは西の森の上の荒地付近だと話してくれました。」


 だとすれば、西の沼で待伏せすべきじゃないのかな?…わざわざグライトの谷の方まで追いかけて狩らなくてもいいわけだし。

 

 「では、何故リスティンは沼に下りん。沼地さえ通れば村の西に広がる森に行ける筈…。そうか。そういう理由なのか。」

 アルトさん自分で疑問を呟いてたら自己完結しちゃったぞ。


 「分かりましたか。…たぶんそういう理由だと思います。」

 俺の頭の上にはデッカイ『?』がピコピコと飛び跳ねている。

 俺の姿を見て溜息をついたジュリーさんが、アルトさんを嗜めた。


 「姫様。アキト様にも分かるように説明してあげませんと…」

 「分からぬのか?…魔物じゃよ。魔物本体というよりは魔物がいたという痕跡がリスティンの通過を阻んでおるのじゃ。」

 「経験の無い若いリスティンは下りてくるでしょう。ですから此処は待ち伏せポイントとして成立します。そしてこの森の小道もハンターに追われて逃げている時に前方にハンターが現れれば、視界の広い場所ではなく隠れる場所がふんだんにある森中に移動するはずです。」


 「たまに荷車に体当たりしてくるリスティンの話を村人から聞いたことがあるが、そういう理由じゃったのか。」

 

 荷車は森の出口の休憩所に何台か狩猟期には待機している。

 荷運びの依頼の合図で森の小道を進んだ時に山手から追われたリスティンが逃げ場を失って荷車に体当たりしたということか。

 

 「場所が場所ですからロープを道に数本張るだけで数匹のリスティンを狩ることができるはずです。狩猟期のように大勢のハンターが、山に入っている時に限定されますけれども、低レベルのハンターには良い狩りと言えるでしょう。」


 「私から1つ宜しいでしょうか?…殆どのハンターは、見返りを求めます。やってくるハンターの主力は黒5つ前後でしょう。そうすると普段の彼らの収入を越える獲物が取れなくてはやってくる意味がありません。そして、今回のチームは10人以上という制約を考えると、チーム内の連携、チーム間の連携によって初期段階でリスティン狩りは終わってしまうような気がするのですが。」


 「そうですね。ジュリーさんの言う通りだと思います。ですから私達は狩猟期の獲物をリスティン以外の獣とします。」

 姉貴が悪戯っぽい目で俺達を見まわした。

 あんな目をしている時には絶対碌なことを考えていないぞ。


 「リスティン以外と言うと…イネガルか。フム、面白いアン姫も喜ぶじゃろう。」

 アルトさんの目が輝いている。

 やっぱりこの姫様は戦闘狂だと改めて思い知った。

 だが、姉貴の答えは違っていた。


 「イネガルでもありません。私達が今回狙うのは、ザナドウです!」

 ガタン!っとアルトさんが吃驚して立ち上がる。

 俺とジュリーさんは飲みかけたお茶を噴出した。


 「ザナドウじゃと。あれは倒せる物ではない…幾多の英雄達が挑んだのじゃが、尽く触手に絡まれてザナドウに潰された。禁忌ではないが手を出せば確実に死が待っておる。そんなことから、たどり着けない楽園『ザナドウ』を名前にしておるのじゃ。」


 「それにあの時説明したと思いますが、ザナドウの利用価値はありません。倒すと言う考え方を持たない方が良いと思いますが。」

 「でも、この図鑑には小さく手書きで、『その嘴は魔石に勝る。』とありますよ。」


 ジュリーさんは大きな溜息をついた。

 そして椅子に座りなおすとお茶を一口飲む。



 「図鑑の通りです。余りにも犠牲者が後を絶つことなく出ることから、ギルド内で先程私が言った噂を広めたのです。此処千年間に倒したザナドウは2匹です。しかも、2匹共に寿命が尽きて瀕死の状態であったと伝えられています。そして、得られたその嘴は国の宝として各国が持っているようですが、私は残念ながら見たことはありません。」


 「この世で最高の宝か…。ミズキが言い出したと言う事は、狩る自信があるということでよいな。」

 「十分にありますよ。ですがかなりのリスクは背負う事になるでしょう。」

 

 「何が必要なのじゃ。」

 「必要なのは、アキトとセリウスさん。それにセリウスさんが作った投槍です。」

 

 やはり姉貴がやろうとしていることはマンモス狩りだ。

 ザナドウが陸蛸なのは何となく分かったけど、マンモスと同じように投槍だけで倒せるのだろうか?


 「そういえばセリウスが、クロスボー並みの飛距離を持つ投槍を持っていると言っておったが、…そんな投槍なぞ存在するのか?」

 

 俺の顔を胡散臭げに見ている。

 確かに情報と道具は与えたけど、それを使うのは練習次第。実際、朝早くからセリウスさんが練習しているのを見ると、継続は力と言う言葉が浮んでくる。

 

 「アルトさん達が練習している的を使って投槍の練習してますから後で様子をみたらどうですか?…結構驚きますよ。」


 こうして、今回の狩猟期に何を狩るのかが決定された。後は、今席にいないチームのメンバーに詳細を説明する事になろう。

 でも、俺には大至急やるべきことができた。俺用の投槍と投擲具の製作である。

 姉貴に軍資金を出してもらうと、駆け足で鍛冶屋に飛んでいった。そしてすぐに穂先を注文する。狩猟期までの日数から3本がやっとだという返事を貰うと、今度は雑貨屋に行く。

 

 いつもの女の子から少し長めの短剣を5本購入すると一旦家に戻り、装備ベルトを装着して東の門から歩き出し近くの森で槍の柄と投擲具に適した枝振りの木を探す。

 そして、ようやく目的の物を手に入れると棒を肩に担いで家に戻った。


 今夜からひたすら木を削ることになりそうだ。

 しかも、作ってからの練習も必要だし、これは結構忙しくなるぞ。

 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ