騎士団のパン職人3
第三弾です。シリーズ設定した方が良いんですかね。
騎士団の朝は早い。
朝食の準備に取り掛かるレティシアは更に早い。明け方から起きて、騎士団宿舎の隣にある女子寮にて身支度をして朝食の準備-パンを焼き始める。
昨夜のうちに仕込んでおいたパン生地の顔色を見ながら、レティシアは今朝も楽しくて仕方がない。
好きなパンだけ焼いてお金をもらえる!なんて素敵なお仕事なんだろう。
「おはよう」ダークさん、マルタさん、チャムさん、トムまでも今日は早い。
朝食の準備を今朝は皆が黙々といつも以上にテキパキ。総勢30人分。朝の鍛錬を終えた騎士のお腹を満たすために。
ダークさんは特製の具沢山スープ。今朝はキャベツ、玉ねぎ、根菜、豆をコンソメで仕上げ、大きな焼きソーセージ、スクランブルエッグをマルタさんと早々に終わらせていた。
昼の下拵えもトムとチャムさんがものすごい真剣に済ませていく。
私も大量のブールを焼き上げ、ブールがパチパチと天使の音をたて、香ばしい香りを放つ中、昼の準備に入る。焼き立てのパン幸せ!
パカーン!パカーン!と薪を割る音が厨房外の広場から聞こえる。まだまだ薪の在庫は大丈夫と話したのだが、「高温で一気に焼く」と言ってしまったせいで、薪はどんどん割られていく。
原因はトムだ。いや、ピザだ。やっぱりトムか?
ひと月あたり前に遡るが、街で流行っているピザが食べたい!とトムが
「レティシアなら焼けるだろ?」と簡単に言ったのだ。
チャムさんとトムは騎士さんにスープやメインなどをあらかた配りおわり、野菜の下処理をしながら、楽しそうに、街にできたピザ屋さんの話を始める。
俺、食べたことないんだと、最初はトムだけがピザの話をしていたが、チャムさんまでも街でお店を見てきたらしく、2人で最近はピザの話しばかりしていた。
食堂でがっつりと焼いた肉とスープ、焼き野菜、その時はライ麦パンだったかな?を食べていた騎士さんたちまでが2人の会話を聞きつけ、ピザ!あれか〜。食ったやついる?などいい出した。
何人かの騎士さんが、なんとデートで行ったことがあるらしい。自慢げに美味しさを語る騎士さん。ついでに彼女さんの惚気も聞かされちゃった。
そこからトム、チャムさん、騎士さんたちまでピザが食べたいと騒ぎ出したのだ。
「お前ら騒がしいぞ」と団長さんが注意したが、止まらないピザ熱。
副団長までが食べたがり、ダークさん、マルタさんも「勉強のために食べてみたい」と言った。普段、ストッパー役の3人までが!
△
私の実家は貧乏子だくさんの子爵家で、使用人が少なく、弟妹と一緒に屋敷の掃除や厨房の手伝いをしてきた。私は厨房に入り浸り、料理人と一緒に屋敷中の食事を毎日作るようになった。令嬢?なにそれ、美味しいの?な日々。
うちの料理長は凝り性だった。
パン酵母も何種類も試したり、サンドイッチ用のパンの粉の配合がどうとか毎日色々工夫する。
そして、パン窯に飽き足らずピザ窯を厨房の外に作ったのだ。
ピザ窯を作るためのレンガの予算を父に求めていた鬼気迫る様子は、普段温厚な料理長はどこ行った?だった。
パン窯で良いだろう?と言った父に、暑苦しく語り、毎日毎日しつこく語った。
ウンザリした父は予算をやりくりして、材料分だけ捻出した。何で材料分だけなの!お父様。
そこから料理長は「レティシアお嬢様には、もうお教えできることは何もございません。特にパンは私よりお上手かと」と言い放ち、時間のない中、街の工房へ通い詰め、ピザ窯を自作していったのだった。コツコツとレンガをつみ、執念で作り上げた立派すぎる窯を。
それを目の当たりにしてきたレティシアは「簡単ではない」ことを知っている。オープンの温度では出せない、あの高温で焼いたピザ。美味しい。知ってる。だけど、簡単じゃないんだ!と叫びたくなった。
実家でピザ窯がお目見えし、最初に食べて震えて美味い美味いと笑い出した父を見て、母が「たまには少しの贅沢もいいでしょう」と言ったが最後、みんなが食べたがり、1人一枚軽く食べてしまったのだ。
足りない。更に焼かれるピザ。料理長とレティシアでピザ生地を伸ばし…何回やったかわからなくなったころ、チーズが終わった。
チーズなくても良くね?と誰かがいい、ソースだけなら、あれが合う、イヤこれだと更に焼くはめになったのだ。
怖ろしいことに一年に一度、屋敷の使用人へ慰労を兼ねたピザ祭りが開催されるようになった。
騎士さんたちにピザを振る舞う?嫌な予感しかしない。
ダークさんも凝り性だった。スープで気づこうぜ、自分!と罵りたくなったが遅かった。ダークさんが団長さんに直談判したのだ。
ピザ窯が欲しいと。
やっぱりか。
いつにないダークさんの圧と騎士さんたちからの熱望。
店に行け、店に!と団長は抗ったが、副団長の「では、毎日、飽きるまでピザを食べに行って参ります。その間、書類仕事は一切致しません」との言が決め手となり、団長が折れた。
団長からのポケットマネーで工房から職人がきて、厨房外にピザ窯が作られた。街のピザ屋さんの窯を作った職人さんがきた。
「レティシア、ピザに必要な材料はダークと相談してくれ。今回は俺が金を出す」
おー太っ腹。さすがお貴族様。あ、私もそうだった笑
そして今日、ダークさんは朝の仕込みを終わらせて、窯に火入れ、薪を焚き始めた。
薪を割っていたのは副団長。たくさんあるからと言ったのに。
薪を焼き、窯が良い感じになるには1時間はかかったはず。
ピザに必要な、あのデカいヘラ?ピザピールは良い笑顔で副団長が買ってきた。何でか名入り。
トマトソースは子爵家料理長直伝のレシピ。30人分くらいいけるはす。トマトは大量にマルタさんとチャムで刻み、ニンニクはトムにやらせた。コトコト煮詰めてオリーブオイル、ハーブとトマト、ニンニクのたまらない香り。
昨夜から仕込んでいたピザ生地も柔らかく弾力がある良い感じに仕上がった。一枚分ずつに切り分け、丸めていく。
具材もダークさんが調べて色々用意していた。
私は生のソーセージの皮から出し、中身をちぎったものとマッシュルームやピーマンの乗ったピザが好き。
ダークさんは、邪道と切り捨てた。
え〜美味しいのに。
昼近くになり、厨房外にできたピザ窯の周りにテーブルを出した。騎士さんたちが集まり出す。
私がピザ生地を伸ばし、マルタさんが生地にソースを塗り、チャムさんが具材とチーズを乗せて、トムが厨房外に運んでいき、ダークさんが副団長の名前入りのピザピールに乗せて焼く。あっという間に焼けていくピザ。
私は騎士さんとは接触禁止(父からの働く条件)のため、厨房外には出ない。黙々と生地を伸ばしていった。流れ作業にも慣れた頃には騎士さんたちにピザは行き渡り、お代わり待ちとなった。
やっぱりな〜一枚じゃダメなんだろうと思った。
団長さんが厨房にやってきて、マルタさん、チャムさん、トムと私にピザを配ってくれた。うん、美味しい。焼き立てもっちり。耳の部分はぷっくり膨れ、少し焦げ目。そこ大好き。邪道って言ってたのに、私にはソーセージとピーマン、マッシュルームのピザを焼いてくれた。嬉しい!
ダークさんは騎士さんたちと具材やソースについて熱く語りながら食べていた。やっぱり祭り。エール欲しいと言った騎士さんたちが団長から怒られていた。
2枚目を食べながら、トムが「すげー美味いな!簡単って言ってごめん」と言った。「でも、またやろうな!」とニカって笑った。
ナポリピザをイメージしています。ダークさんはマルゲリータ派。騎士はさすがの大食いで3枚、4枚と食べましたが、最高記録は副団長の7枚。しばらく、野菜メニューを増やしてもらうことを決意したレティシアでした。




