第一話『パンツ』
晴れた日だった。やたらと空が高くて、無駄に気分が良くなるような天気だった。
ただの散歩——なんて優雅なものじゃない。
ちゃんと理由はある。
例の買い物の帰り道だった。
何の買い物か?なんて、聞くまでもないと思うけども、あえて言おう。
人類が履く、大切なもの。
そう、パンツだ。
下着だよ、下着。
——人類の必需品だ。
なぜそれをわざわざ買いに行ったのか。
理由は単純で、うちの犬に破かれたからだ。
布で遊ぶのが好きなのは知っているけど、よりにもよってパンツを選ばなくてもいいと思う。
地味に高いから。
「(高校生は貧乏なんだよ……)」
ゲームに課金して、本を買って、それだけでお小遣いなんてすぐ消える。
え、バイト?無理かな。
うちの高校はバイト禁止だ。
学業に専念しなさい系の、よくある男女共学。
……まぁ、たまに人のアイフォンのパスコード勝手に変えるやつがいるけど。
え、偏差値?
普通……学校じゃなくて私の?
……中の下、にはいって欲しいかな……。
ちなみに人のパスコード勝手に変えてくるやつは学年1位だよ。
世の中、理不尽だね。
「ただいまー」
「おかえり、ねぇちゃん」
「わん!」
玄関を開けた瞬間、いつもの光景が迎えてくれる。
——はずだった。
おはぎちゃんが全力のお出迎え。
……そして弟。
その子、だれ?
「あ、ねぇちゃんこの子、俺の彼女」
「こんにちは!」
ま、まぶしい。
とにかくまぶしい。
緩く巻かれた髪に整った化粧、笑うとできる素敵なえくぼ。
完璧か?
生まれ変わったら、彼女になりたい。
弟は高校一年生。
私は高校三年生。
同じ「高校生」なのに、この差はなんだろう。
温度差がすごい。
え、私に彼氏?
いると思う人、手あげて。
…………それが正しいよ。
本当に、理不尽な世の中だ。
さっさと部屋に戻って、昨日の本の続きでも読もう。
え、受験勉強?
残念、私は推薦です。
進路はもう決まっております。
「そうだ!ねぇちゃん、これ」
「……何これ?」
「何って、姉ちゃんが頼んだんじゃねーの」
「?頼んでないよ」
弟が顎で示した先。
そこには大きな段ボールが一つ置かれていた。
私の身長の半分ほどもある、妙に存在感のある箱。
「とりあえず俺、これから彼女と出かけるから。留守番よろしく!」
「…りょうかい」
楽しそうに出ていく弟と、その後をついていく彼女。
取り残されたような気分になる。
玄関の閉まる音が、やけに静かに響いた。
残されたのは、私と——その荷物。
改めて見ると、やっぱり大きい。
玄関に置くには少し邪魔なくらいで、妙に圧迫感がある。
頼んでいない以上、開けずに返品するのが正しいはずだ。
……はずなんだけど。
「わんわん!」
「おはぎちゃん?どうしたの?」
「うぅー…わんわん!わん!」
「いや、すごい吠えるじゃん」
普段とは違う鳴き方だった。
警戒しているような、威嚇しているような。
明らかに、何かがおかしい。
……もしかして、死体でも詰まってるのか、これ。
そんな冗談めいた考えが頭をよぎった、その瞬間。
おはぎが、段ボールに噛みついた。
「こら、おはぎ!これはだめ」
「ウウゥぅぅぅぅううー……!」
「いや、すごい唸るじゃん」
唸り声が低い。
本気で警戒しているときの声だ。
明らかに、様子がおかしい。
それに、噛みつきがすごい。
全然、荷物から離さない。
……中身、大丈夫だろうか。
中を開けて確認したいが、開けても良いものなのか。
迷っている、その時だった。
ビリッ
「あっ」
段ボールの破れた音がした。
古びたアンティーク調の柄が少しだけ見えている。
開けない方がいいと思う。
でも、人間というのはタチが悪い。
……好奇心に負けてしまった。
手を伸ばし、段ボールに触れる。
ビリビリビリィッ
無造作に入っていたのは、なんと。
「あ、鏡」
だ——
そう言おうとしたその瞬間、何かに引きずり込まれた。
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白い天井が、見える。
体が痛い。
ここはどこだろうか。
辺りを見まわしながら、ゆっくりと起き上がる。
そこには、
パンツ一丁の男がいた。
第一話「パンツ」
「ギャァーーーーーーーーーーーー!!!!!」
「いや、うるさっ」




