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最初のイベント

エリーシャへの「実戦的」な学園案内は、校舎に響き渡る一限目のチャイムによって強制終了させられた。

「行きましょう、エリーシャ。次は歴史の講義よ。古代ドワーフの技術がいかにして現代の魔道具を凌駕していたか、老教師の退屈な子守唄を聞きに行かなくてはならないわ」


教室に入った瞬間、エリーシャの背中が小さく震えた。

わかるわよ。新参の、それも光り輝く「聖女」の素質を持つ彼女に対する、周囲の澱んだ視線。それは、かつて私が飽食し、今は「主食」にしている毒そのもの。


案の定、シナリオという名の脚本家は、どこまでも安直な「いじめイベント」を用意していた。

私が自分の席に着く間際、視界の端で一人の令嬢が、エリーシャの机に手を伸ばすのが見えた。歴史の教科書を隠し、彼女を立たせ、衆人環視の中で恥をかかせる……。


ああ、脳のシワが痒くなるほど使い古された展開ね。

私はその令嬢——ミレーヌが教科書を抜き取るより早く、音もなく彼女の背後に立ち、手に持った扇子でその手首をピシャリと打った。


「あら、ミレーヌ。その卑しい指で、エリーシャの所有物に何のご用かしら?」

「……っ!? ア、アデレイル様! これは……その……」

「言い訳を紡ぐ前に、自分の身の程を鏡で見てくることをお勧めするわ。それとも何かしら? あなたの家では、他人の教科書を盗み見なければ、ドワーフの文字も読めないほど教育水準が底辺まで暴落してしまったの?」


私の声は、教室内の熱を一瞬で奪い去った。

周囲の生徒たちが石化していく。トリスタンの石化ルートを、私一人で完遂してあげた気分だわ。


「教科書が一冊消えるくらい、私にとっては塵が舞う程度の事象だわ。でもね、ミレーヌ。もしこの子の教科書が足りないというのなら、私の家でその出版社ごと買い取ってあげてもよくてよ」


私は震える彼女の耳元に、死神の囁きを寄せる。


「そして全ページの透かしに、エリーシャの名前を入れてあげるわ。この国の歴史に、彼女の名を物理的に刻み込んであげるの。……あるいは、あなたの家の領地を丸ごと、私の私有図書館の『駐輪場』に変えてあげてもいいけれど。……選ばせてあげる、どちらがいいかしら?」


「ひっ……! 申し訳ございません! ごめんなさい!!」

ミレーヌは腰を抜かさんばかりに後退り、自分の席へと逃げ帰った。

教室内には、私が放った「威圧」という名の香水が充満している。


「見て……アデレイル様、あの平民を完全に『囲って』いらっしゃるわ……」

「逆らったら家が潰される。あの娘は、アデレイル様の聖域サンクチュアリなのよ……」


ひそひそ話が栄養剤のように耳に届く。

ああ、素晴らしい。悪名がまた一段と磨き上げられていくわ。

「地で行く悪役令嬢」の特権を乱用して、平穏を力ずくで毟り取るこの快感。


「マナ……あの、助けてくれて、ありがとうございます。でも、あんな言い方、ミレーヌ様がかわいそうで……」

「勘違いしないで、エリーシャ。私はただ、退屈な喜劇コメディを見せられるのが我慢ならなかっただけよ。あなたの教科書がなくなれば、講義の進行が遅れるでしょう? 私の貴重な時間を奪われるのが嫌なだけ」


私は冷たく言い放ち、扇子で顔を隠した。

……だめね。エリーシャの、あの「すべてを許すような聖母の瞳」で見つめられると、胸の奥がシキシキと疼く。

私は彼女を蹂躙するはずだったのに、気づけば彼女を守るために、周囲を蹂躙している。


これ、私の「悪役令嬢キャリア」としては、完全な泥沼じゃないかしら。

でも、不思議と気分は悪くないわ。ドワーフの鋳造したどんな魔道具よりも、彼女の隣にいるこの瞬間の方が、私の魂を熱くさせているのだから。

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