7話:クラス分けテスト①
「今年から学園に通わないか?」
学園長の言葉に周囲の人たちがざわつく。だが、教師陣たちは驚きながらも学園長の言葉に同意しているようだ。
「常ならばお主が入学するのは2年後だ。しかし、お主ほどの実力の持ち主をあと2年も放っておくのはもったいない。どうじゃ?」
(さっきとは手のひらを返したような態度だな。)
どこか胡散臭い顔をした学園長が歩み寄ってくる。あと2年はジンとダンジョン巡りをしてレベルを上げようと思っていたんだが、さて、どうするか。
「私からも頼みます。君も知っていると思いますがS級ダンジョンの崩壊まであと10年なんです。しかし正直クリアはもう絶望的と言ってもいい…。だからこそダンジョンが崩壊したときのために私たちは1人でも多くの実力ある冒険者を育てなければなりません。今、学園に通っている子たちはダンジョン崩壊時のための授業と訓練を受けてもらっています。君にもその訓練を1日でも早く受け、人類の希望の1人となってほしいのです。」
今度は管理職の人から声がかかった。どうやらこの世界の人たちはS級ダンジョン攻略を半ばあきらめているらしい。それもそうか、S級ダンジョンは階数が未知数の上にまだ30階しか攻略できていないらしいからな。
(まあ、でもどっちみち2年後に通うか今通うかの違いだもんな。)
ジンたちがいる方を振り返ると頷いてくれているのが分かった。
「…分かりました。今年から通わせていただきます。」
こうして1か月後の入学式から俺も正式に学園に通うことが決まった。
それからはあっという間だった。学園は寮なので引っ越しの準備もさることながら学園で着ることになる制服や体操着の採寸、授業で使用する教材の購入などやることが盛りだくさんだった。それに加えて入学1週間前から5日間かけて行うクラス分けテストのテスト勉強も行った。
今年のハルバード学園の入学者は通常入学者の2886人に加え、他国からハルバードに入学希望を出してやってきた実力者312人、さらに俺と同じく鑑定の儀によって実力ありと認められ早期入学することになった54名が加わり、総勢3252名となった。
この人数をクラス分けテストの結果からレベル別に100クラスに分けるそうだ。そして上から10クラスずつSSSクラス、SSクラス、Sクラス、A~Gクラスとランク付けし、各クラスそれぞれ一番上から1~10までの番号が振られている。例えば学年で一番実力あるクラスがSSS1クラス、一番実力が劣るクラスがG10クラスといった感じだ。
そして今日からクラス分けテストが行われる。正直、この1か月間、前世で受けた大学入試並みかそれ以上に勉強した気がする。どうせ受けるならトップの成績をとりたいしな。
初日は学科試験だ。科目は前世で言うところの国語、数学、古代語、化学、生物、物理、歴史、地理だ。
これをまさかの1日で全部受けるそうだ。国語、数学、古代語の試験時間は90分。そのほかは60分だ。朝の8時から始まって試験がすべて終わるのが19時半。誰だ、こんな日程を組んだのは。せめて2日に分けてほしい。
まあだが試験内容はそれほど難しくなかった。どころか簡単すぎた。
1限目:国語
第1問、次の( )に当てはまる言葉を答えなさい。
私の父の職業は魔術師だ。( )私の職業は剣士だった。
第2問、次の言葉の意味を答えなさい。
①一石二鳥
②初志貫徹
③七転八起
など。文章問題に関しては小学生レベルの問題だった。簡単すぎて何かのひっかけかと思い90分ずっと問題とにらめっこしていたがただただ簡単なだけだった。ああ、ちなみにこの世界で使われている文字や言語はなぜか前世の日本語と全く同じだった。そして古代語は前世で言う「英語」だ。古代の書物はすべて英語で書かれており、教材として使用することも多い為この世界で古代語は必須科目となっている。
2限目:数学
第1問、Aさんは100円のリンゴを3個と120円の桃を2個買いました。全部で何円ですか。
第2問、Aさんが分速60mで学園を出て10分後にAさんの忘れ物に気づいたBさんが分速120mでAさんを追いかけました。BさんがAさんに追いつくのはAさんが学園を出てから何分後ですか。
数学は半分くらいが上のような文章問題で後の半分が魔法陣を利用した角度の計算や証明問題だった。正直、30分もかからず解き終わってしまった。昨日は今日のために遅くまで勉強していたのもあって残りの時間は寝ようとしていると試験監督から声がかかった。
「難しいのは分かりますが諦めるのは感心しませんね。もしかしたら解けるかもしれませんし、時間一杯頑張ってみなさい。」
どうやら問題が解けずに諦めようとしているように見えたようだ。
「いえ、そうではなく…もう解き終わりましたので。」
「…えっ!」
俺の言葉に試験監督だけでなく近くに座っていた学生たちからも驚く声がした。
「そんなバカな…今回の試験は例年に比べてもかなり難しく作られているはず…。ちょっと回答を見せてください!」
そういって試験監督は俺の回答を確認し
「……合ってる。」
さらに仰天していた。という事で俺は周囲のざわめきを無視して1時間眠ることにした。
3限目:古代語
第1問:How's the weather today?
第2問:Write the four elements.
古代語は普通に中学校のテスト問題みたいだった。文法問題が3割程度にこの世界を題材にした物語の長文読解が7割程度。だがこれも大学受験を行った俺にとっては朝飯前で数学と同様30分程度で解き終わった俺はまた1時間仮眠をとった。
3科目が終わった後は昼休憩の時間だ。このまま教室で昼ご飯を食べる者もいれば学食に行くもの、外に食べに行くもの等様々だ。俺は朝買っていたパンを食べることにする。
(…落ち着かないな。)
周囲の視線がすごい。数学の試験のときからずっとチラチラ見られている。まあ慣れてはいるが、さすがに食べづらい。そんなことを思っていると話しかけてくる人がいた。
「なあ、一緒にたべてもいいか。」
顔を上げると鑑定の儀のとき、聖騎士と鑑定されていた子がいた。
(確か名前は…)
「ああ、俺はアーサー・クレイルっていうんだ。よろしく。」
「うん、俺はリン。平民だから苗字がないんだ。こちらこそよろしく。」
なぜかよろしくされたから俺も名乗ってよろしくしておいた。するとアーサーは自然な感じで俺の隣の席に座り昼食を食べ始めた。
(おお、さすが貴族の子。弁当も豪華だ。)
アーサーの弁当はまさかの五重箱だった。見た目はとてもおいしそうだが、量で言えば俺の5~6倍はある。見た目はひょろっとしているのに意外と食べるのかもしれない。
「それで、もしよかったら何だが、この弁当を食べるのを手伝ってくれないか。」
そうではなかったみたいだ。どうやらいつも弁当が必要なときはこの弁当箱なんだそうだが、量が多すぎて食べるのに苦労しているのだとか。残したらいいんじゃないかと思うんだが、せっかく作ってくれた料理人に申し訳なくて残せないらしい。だが今日はいつもみたいに無理して食べるとこの後の試験に響くため、同い年の俺に助けを求めたらしい。まあ、俺からしたらただで美味しいご飯にありつけられるし願ってもない。
「うん、俺は別に構わないけど。逆にありがたいし。」
そうして俺はアーサーと二人でアーサーの弁当を食べることにした。相変わらず周囲の視線はうるさいままだ。
「なあ、聞いてもいいか。何でリンはそんなに強くて頭もいいんだ。言ったら悪いけど、平民ってことは小さいころから教育や訓練を受けてきたってわけでもないんだろ?」
アーサーの質問に周囲の視線が一層強まったのを感じる。まあ特別隠したいわけではないが、前世のことをいうと変な奴扱いされそうだし適当にぼかして答えることにした。
「あーレベルについては鑑定の儀のときに話した通りだよ。3歳のころから父さんに頼んでダンジョンに行っていたんだ。ダンジョン自体は赤ん坊のころから父さんたちのパーティーと一緒に潜っていたから多分他の子よりも興味を持ちやすかったんだと思う。それで潜っているうちに炎魔法を獲得してね。それからはさらに楽しくなっちゃって週に1~2回は父さんと2人でE級ダンジョンに潜っていたんだ。」
「えっ!やっぱりあの時の話は本当のことだったのか?って、ちょっと待て、E級ダンジョンとは言えたった2人で潜ってたのか!?しかもリンはその時3歳だろ?ご両親は止めなかったのか??」
(あれ、信じてなかったのか。)
アーサーは口に入れていた食べ物をもう少しで吹き出すところだったらしく盛大にむせていた。
「ああ~、実は炎魔法を獲得したときに一緒にユニークスキルのFireも獲得したから全然2人でも余裕だったんだよ(ていうか最初は父さんに抱えられながら俺一人で倒していたけど。)」
「えっ、3歳でユニークスキルを??いや、でもリンは今ユニークスキルを6つ持ってて…でもあれ、ユニークスキルってそもそも1つ持っているだけでも結構珍しかったような…???」
大変混乱していらっしゃる。周囲の人たちも頭上に大量の?が浮いているのが見て取れる。
「まあ、そんな感じでユニークスキルを使って1日にだいたい600~700の魔物を倒していたら自然とレベルも上がった的な…?」
「600????いやいやいや、パーティーでも1日潜ってせいぜい多くても200~300程度が限度のはずなんだが...。」
漫画で言えば目の中にぐるぐる模様がある感じだ。アーサーが右手で額を抑えながらなんとか落ち着こうとしている。
(まだ混乱しているみたいだし今のうちに魅惑の唐揚げを頂こう。…おお、口の中でじゅわっと肉汁があふれてくる。保温魔法で温かいままというのも高得点だ。)
パクパクと唐揚げやだしがよくきいた卵焼き、甘辛く味付けされた肉団子などを次々と口にしているとアーサーも少し落ち着いたみたいだった。
「…うん、いいや。とりあえず置いておこう。じゃあ、勉強の方はどうしていたんだ?さっき先生がリンの数学の回答を見てすごく驚いていたけど。あの問題かなり難しかったよな?俺は小さいころから家庭教師をつけてもらって数学を習っていたからある程度は解けたけど全部は分からなかったし、時間も実を言うと足りなかったくらいだ。でもリンはそれを30分もかからないくらいで解き終えていたよな?今までどうやって勉強していたんだ?」
アーサーの言葉に周囲もうんうんと頷いている。
(どう勉強していたって言われてもなあ。前世で難関大の大学受験までして合格したんだから、中学生の定期テストレベルの問題くらい朝飯前なんだよなあ。)
「ん-。努力自体は嫌いじゃないんだ。だから勉強もそれほど苦じゃないし苦手でもない。それに俺は実は負けず嫌いでね。早期入学が決まってからの1か月間死ぬ気で勉強した。」
(うん、嘘はついていない。どのくらいのレベルの問題が出るか分からなかったから今までダンジョンで稼いだお金を切り崩して書店で結構な本を買って寝る時間も削って勉強したし。まあ、そんな必要なかったみたいだけど。こんなことなら父さんと一緒にダンジョンに行ったらよかった。)
「リンが努力家だというのは分かったけど、でもたった1か月でそんなに学力が上がるもんなのか…?もう嫉妬を通り越して尊敬の念しか浮かんでこないよ。」
(そんなやれやれみたいな顔をされても…。まあ、これも瑠偉くんが言っていたような一種の転生特典ってやつなんだろうなあ。)
「なあ、リン。今日テストが終わった後少し時間あるか?もしよかったらなんだけど今日のテストで分からなかったところを教えてほしいんだ。もちろんお礼に夕飯をおごるよ。良かったらご両親の分も!どうだ??」
(ん-、何だろうなぜかアーサーに犬の耳としっぽが見える。心なしかくーんくーんと鳴いているようだ。前世ではグループで一番末っ子だったからなんかちょっと新鮮だな。それに努力するやつは嫌いじゃない。)
「いーよ。じゃあ約束ね。」
そうしてアーサーとテスト後の約束をし、午後のテスト時間までアーサーとともに化学の予習をしながら(ほぼアーサーが質問をして俺が答えていた)過ごした。ちなみに周囲の人たちはなぜかうらやましそうな眼をこちらに向けていた。




