6話:ランク審査
さて、約5000人の鑑定の儀が終わった。だというのに未だに誰も帰ろうとはしない。みんな俺の持つ職業やユニークスキルに興味があるようだ。
(結局この人数の前で披露しなきゃいけないのか。まあでもミッションを達成するにはちょうどいいかも。)
何事もポジティブに考えることが大事だ。それに他の人が鑑定の儀を行っている間に少し心の準備もできた。
「では、リン。全員の鑑定の儀も終えたことだし前に出てお主のスキルを見せてくれ。」
学園長から声がかかり、俺はため息をこらえながら前に進み出た。保護者も含めた約1万5000人もの人たちの視線が俺に集まっているのが分かる。
(あー、心臓がバクバクする。やっぱり俺だけこんな思いをするのは理不尽じゃないか。学園長も他の子ども達を帰すとかそういう配慮はないのかよ。)
緊張しすぎて逆に腹が立ってきた俺はいいことを思いつき学園長に願い出ることにした。
「分かりました。でも正直、俺だけこんな大勢の前でスキルを見せるのは不公平に感じます。そのため俺からのお願いも一つ聞いていただけないでしょうか。」
「……ふむ、いいだろう。言ってみよ。」
以外とすんなり承諾してもらえた。
「ありがとうございます。では、スキルを見せるついでに俺にランク審査を受けさせてください。どっちみちユニークスキルの”メインボーカル”と”メインダンサー”を披露するには対戦相手がいたほうがいいので。」
俺の言葉にまたもや会場がざわついた。そりゃそうか、通常ランク審査を受けられるようになるのは学園卒業時からだからだ。だがそれはだいたいの者がそれまでに一人前の冒険者として認められるレベル30になることができないからだ。しかし俺はもうすでにレベル36だ。十分その資格はあるといえる。
「しかしそれは…」
「いいじゃないですか。学園長。彼はスキルから見ても十分戦闘職と判断できますし、もうすでに一人前の冒険者といえるレベルを持っています。法律でもランク審査を受けるにあたってレベル30以上という規定はありますが年齢については言及されていません。」
俺の申し出に渋る学園長を管理職の人が説得してくれてランク審査を受けれることになり、剣も借りることができた。子ども達は危ないからと全員観客席に移動した。そしてその間に俺の対戦相手が決まった。俺の対戦相手はここの教職員でAランク冒険者のミホーク先生だ。職業は大魔導士で炎、水、風の3属性が使えるらしい。リサの職、魔法士の2ランク上の職業だそうだ。ちなみに、この世界には”昇級”というものがあり、この人はもともと魔法士だったが並々ならぬ努力により2ランク昇級して大魔導士になったそうだ。
「ここの魔法戦闘の担当教諭をしています、大魔導士のミホークと言います。よろしくお願いします。」
ニコっと微笑みながら手を差し出してきた。物腰やわらかでこの人もなかなかのイケメンだ。まだけっこう若そうだし職業も申し分ないとすれば女性がほうっておかないだろう。
「僕はリンと言います。こちらこそよろしくお願いします。」
俺も手を差し出しミホークと握手をした。
(ん?この手の感じ、もしかしてこの人...)
普通、魔法使い関係の職業は遠距離攻撃タイプのため近接戦が弱い。しかしこの人の手の平は硬くごつごつとしていて何回も豆がつぶれて硬くなったような感触だった。おそらくこの人は剣も扱えるのだろう。本当、どれだけの努力をしてきたんだ。尊敬に値する人物だ。
(なかなか手ごわそうな相手だ。)
「では両者、位置について。」
ランク審査は結果ではなく過程を重要視される。基礎体力や戦闘力、戦術、咄嗟の判断力などすべてが評価対象だ。もちろん勝敗も加味されるがだいたいのランク審査の相手はAランク冒険者が務めるため挑戦者が勝つことなど皆無に等しい。
(でもせっかくやるなら勝ちたいな。)
今回ランクを審査するのは管理職の人と学園長、俺の対戦相手のミホークだ。できるだけ高いランクを貰うためにも全力を出さないと。
「これよりリンのランク審査を開始する。よーい、はじめ!」
ーさあ、はじめようか
じゅんびはいいかい?
俺はしょっぱなから相手の足元に水魔法と土魔法を組み合わせて泥沼を作り出すと同時にユニークスキル”Fire”を使用してLv5の爆発をお見舞いした。
実はユニークスキルを使用しているときでも魔力を使用すれば他の属性の魔法も使えるのだ。それに魔法士が魔法を使うときに必要な詠唱もなぜか俺には必要ないらしく、ノータイムで魔法が使用できる。そのため、魔法士によくありがちな「詠唱時に狙われる」という事が俺にはない。
こんなすぐに終わるとは思っていなかったが、案の定、歌っている間は消えないはずの俺の炎がフッと消え、ノーダメージのミホークが姿を現した。
(どうやったんだ?炎を消すとなると……そうか、空気中の酸素を消したのか。)
どうやら風魔法を使って空気中の酸素のみを消したらしい。さすがAランクなだけある。発想力もさながらその技術力もすごい。
「やるね、リンくん。3属性同時使用に詠唱破棄、水魔法と土魔法を組み合わせるのもよかったよ。じゃあ、次はこっちの番かな。防御力の方もお手並み拝見といこう。」
そういうと短い詠唱の後、無数の炎の槍がこちらに迫ってきた。
(炎槍はLv2の魔法で通常は1本ずつしか打てないはずだ。俺もユニークスキルがなければ今のところ同時に5本が限界だ。それをこの人は同時に30本以上も…。本当にすごい。)
ー君の瞳、君の唇、君の指先
頭からつま先まで君のすべては俺たちのもの
よそ見をする暇なんて与えない
邪魔するものは消してしまおう
俺たちの炎はすべて飲み込む。
俺もこの7年で同時操作できる炎の数が増えた。ハモリパートでは20ほど同時操作できるようになったのだ。そのため生成したLv3の炎玉で20ほどの炎槍を相殺する。残りの相殺しきれなかった者はメインダンサーのスキルを使って剣で受け流したりしながら回避する。このユニークスキルは”メインダンサー”という名前だけあって、動作の一つ一つがまるでダンスのようで本当にステージを行っているみたいだ。
ーFire 燃え盛れ
一度ついたら消せやしない
余計なものはすべて燃やして
ここからはずっと俺のターン
ーFire もう手遅れ
俺たちの炎は防げやしない
一人たりとて逃しはしない
さあ、次の標的は誰だ
自パートで同時操作できるのは30ほど。俺はどんどん炎玉を作り出しミホークにぶつけた。いくら酸素を消して炎を無効化できるといってもいつまでも息が続くわけがない。追撃とばかりにLv2の水刃、風刃、を放つ。
ミホークは今度は風魔法を使わずに回避している。だが、俺は今”Fire”を使用中だ。回避してもどこまでも追尾させることができる。
炎玉が軌道を変え、自分を追ってくることにミホークは一瞬驚いた顔をしたがすぐにニヤッと笑い俺の方に向かってきた。
「すごいね、自在に魔法を操れるなんて大魔導士でもそうそういないよ。4属性を操れることと言い、魔法の才能だけで言ったらBランクやAランクでも申し分ない。…でも、近接戦はどうかな。」
そういうと、ミホークが右手に持っていた杖が変形し、剣になった。その剣で切りかかってくる。
(ジンに剣を教えてもらっておいてよかった。)
とはいっても、平常時のステータスは目の前のミホークには圧倒的に劣る。手加減してくれているのが丸わかりだ。メインダンサーを使用していても一撃が重く速い為、ステータスがスキルに追いついておらず防戦一方どころか徐々に傷が増えてきた。
(このままじゃ負ける。とりあえずスピードを上げないと。)
俺は”Fire”から流れるように”Wind”へと歌い替えた。
ー空を駆ける僕らは
風になって
君を迎えに行くよ
たとえ君が世界の果てにいようとも
この曲はFireとは違い、ポップでさわやかな曲調だ。ダンスも軽やかで身軽さを強調したものが多い。そのせいか、ユニークスキルの”メインダンサー”でする動きも軽やかなものへと変わる。プラスして俺は今全身に風を纏い、スキルで無理やり敏捷を上げているからミホークからしたらさっきとは全くの別人と戦っているような気分になっていることだろう。
右脇腹を狙った斬撃を右上空に体をひねりながら足を振り上げて側宙することでかわし、身体が上下逆さまになったときにミホークの首元に剣を振りぬいた。こちらはすんでのところでかわされてしまったが、同時に足元に10ほど出していた風刃は足元を氷で固めたこともあってよけきれなかったようで左ももから血を出していた。
「くっ!」
戦闘を開始して初めてミホークの余裕の表情が崩れた。
「やるね。僕も少し本気を出しちゃおうかな。」
するとさっきよりも一段と速いスピードでミホークが切りかかってきた。しかも無数の炎槍と氷槍も同時に飛んでくる。これはまずいと俺は風魔法でいったん上空に逃げることにした。しかしこれは悪手だった。
ミホークも風魔法が使えるし俺よりレベルも技術も実力も上だ。という事はミホークも空中を自由自在に移動することができる。俺はすぐに空中へと追いかけてきたミホークに上段から切りかかられ受け止めたものの力でかなわず叩き落されてしまった。咄嗟に地面に向けて無数の風刃を出すことで勢いを相殺して事なきを得た。
(ふう、危なかった。でもこっちもここからが本番だ。)
ーFly high!! 僕らに限界なんてない
どこまでも飛んでいける
君が望むならいつだって駆けつける
サビのパートに入ったため、メインボーカルのスキルで今の俺のステータスはオール10倍だ。そのため今俺の攻撃力は2300、敏捷は2500もある。ミホークのステータスはおそらく500~800の間のためサビを歌っている間はミホークを大きく凌駕することができる。
(サビの間に決着をつけないと。)
今度はこちらからミホークに向かっていく。さっきとはけた違いのスピードにミホークが目をむいているのが分かる。さすがにやばいと思ったのか、歌をやめさせようと、彼は風魔法で俺の周囲の空気を奪おうとしてくる。でも俺もバカじゃない。スキルの特性上、歌えなくなることが自分の弱点だと分かっているんだから対策もしている。実は、ミホークが最初に俺の炎を消したときからずっと密に自分の口元に風魔法を展開していた。いつ酸素や空気を奪われても歌い続けられるように。数秒さえ稼げれば風魔法を使って空気を取り戻すことができるから、ほんのひと呼吸分の酸素を口周りに保つようにしていたのだ。
歌をやめさせるのに失敗したミホークは慌てて俺の攻撃を防ごうと自分の前に氷壁を展開したが今の俺の攻撃力の前じゃ意味をなさない。剣を一振りすると一瞬で氷が粉々に砕け散った。
ーFly away!! 僕らに不可能なんてない
嫌なものは全部吹き飛ばそう
君のもとへは楽しいことだけ届けよう
君がずっと笑っていられるように
魔力も10倍になったので惜しまずにどんどんいろんな属性の魔法も打ち込む。もちろん剣での攻撃もやめない。頬、右腕、脇腹、足首とどんどんミホークの身体に傷が増えていく。これだけステータスに差があるのにまだ致命傷となるような攻撃はギリギリ躱されている。本当にこの人すごい。ああ、やばい楽しくなってきた。
「ちょ、ちょっとまって。ストップ!こうさん、降参します!!」
「……え?」
(空耳だろうか。ミホークから降参という言葉が聞こえた気がしたが…。しまった、驚いて歌うのをやめてしまった。)
俺はすぐに剣を持ち直して歌おうと大きく息を吸い込んだが、
「だからスト―――っプ!降参しますってば!」
「…へっ?」
ミホークは持っていた剣(杖?)を手放し顔の横に両手を広げて降参のポーズをとった。その顔には冷や汗が浮かんでいる。
(なんでだ?せっかく楽しくなってきたのに。)
それに、あと1フレーズでサビが終わり、ユニークスキル”メインボーカル”の効果が切れてステータスがもとの状態に戻るところだった。そうすればまたミホークが優勢になり俺は負けていただろう。
「あの、なぜ降参を…?」
「なぜって君。あと一瞬僕が降参するのが遅れたらそのまま僕の首を切り落とす勢いだったじゃないか。僕は人生で初めて走馬灯を見たよ。」
ハハハ。と苦笑いを浮かべながらミホークが答える。
(そうだったか?普通に避けられると思ったが…)
「まあ、そういうことでこの戦闘は君の勝ちだ。僕からの評価は限りなくSに近いAランクってところかな。さっきの君は完全にSランク級だけど、ステータスにバフがかかる前はまだまだ魔法の精度が荒い部分や近接戦で弱い部分も散見したからね。それにまだ体も成長しきっていない。ほんと、その歳でそれだけ戦えるのは末恐ろしくもあるし逆に言えばぼくら人類の希望ともいえる。僕は心から君の成長と活躍を期待しているよ。」
そういってミホークは右手を差し出してきた。
「…ありがとうございます。過大評価な気もしますが、そう言っていただけて嬉しいです。僕もミホーク先生からたくさんのことを学ぶことができました。ありがとうございました。」
俺もにこやかなミホークの手を取り握手を交わす。その瞬間会場全体に大歓声が響き渡った。
ーピロン
▶ミッションを達成しました。
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ファンを作ろう 13929/10
[報酬] 魅了+5
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▶ミッションの大幅クリアを確認しました。
報酬が追加されます。
▶[報酬]全ステータス+100
「えっ!」
(ファンの数がすごいことになっている。もしかしてここにいるほとんどが俺のファンになってくれたって事か?それよりも全ステータス+100って…)
(ステータスオープン!)
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名前:天神 琳 [リン] Lv36 6800291/7000000
年齢:10歳
種族:人間
職業:アイドル
[能力値]
体力 :400
魔力 :45/480
知力 :250
攻撃力:330
耐久力:315
敏捷 :350
運 :150
魅了 :215
[スキル]
炎魔法Lv5 224185/1000000
水魔法Lv4 19185/500000
風魔法Lv4 13880/500000
土魔法Lv3 19720/200000
[ユニークスキル]
Fire メインボーカル
Water メインダンサー
Wind
Earth
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(おお、すごい。本当に100ずつステータスが増えてる…。しかもめったに上がらない運まで。これは頑張ったかいがあったな。)
ステータスアップに感動している間にどうやら俺のランクについての話し合いも終わったようだ。
管理職の人が俺に近づいてきて話しかける。
「改めて、お疲れさまでした。とても素晴らしい戦いでした。話し合いの結果、リン君は文句なしのAランク冒険者という結果になりました。おめでとう。10歳でAランク冒険者になるなんて史上初ですよ。本当に素晴らしい。こちらがダンジョンに入るときに必要なAランクの証になります。なくさないようにね。」
そう言ってゴールドプレートに”A”と書かれた首飾りを渡してくる。裏面には”Rin"と俺の名前も刻まれていた。
「そこでだが、リン。お主に提案がある。」
俺がAランクの証を首から下げていると今度は学園長から声がかかった。




