5話:鑑定の儀
今日、今年10歳になる子ども達が、2年後戦闘職と鑑定された者たちが通う学園に集められ鑑定の儀を行う。このような学園は世界中に全部で30あり、俺たちが暮らすギルガ帝国はそのうちの3つを有している。そしてここは帝国の西側に位置するハルバード学園だ。普通は自分たちの暮らす場所から一番近いところに通うのだが、この学園は世界でも1,2を争うほど有名らしく、わざわざ遠方からこの学園に入学しに来るものもいるんだとか。
ざっと周りを見渡すと5000人くらいの子ども達が集められている。戦闘職と非戦闘職の割合はちょうど半々らしいのでこの中の約半分がこの学園に通うことになるのだろう。
ちなみにここは学園のスタジアムらしい。見た目はほぼ前世の陸上競技場だ。子ども達はスタジアムの芝生部分に集められ、保護者達はその周りの観客席にいる。そして前方には鑑定のスキルを持った鑑定者とこの学園の教師と思しき人たちが2人一組になって席に座っている。その中央、鑑定者たちより少し後ろの位置に座っているのはこの学園の学園長と国の管理職らしい。管理職は有望な人材をあらかじめチェックするために来ているんだとか。
「ではこれから鑑定の儀を始めます。人数が多いため10列に並んで順番に鑑定を受けてください。鑑定結果については今後のために記録を取らせていただきます。戦闘職と判断されたものは2年後この学園に通うことになりますので鑑定後もそのままお待ちください。非戦闘職の方は鑑定後帰っていただいても構いません。」
いよいよ始まった。取り仕切っているのは魔法士の格好をした30代くらいの女性教師だ。美人だけど少し気難しそうな雰囲気だ。俺も一番近い列に並ぶ。
俺の並んでいる列の1人目の職業は”農家”。非戦闘職だ。レベルも0のまま。2人目は”鍛冶師”こちらもレベルは0で非戦闘職だが一般にサポート職とも呼ばれている。サポート職と呼ばれる職業の者たちも強制ではないが望めばサポート職専門の学園に通うことができる。3人目は”剣士”のようだ。
(父さんと一緒だな。)
前面のスクリーンに投影された鑑定結果を見てみる。
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名前:カイン Lv0 0/1000
年齢:10歳
種族:人間
職業:剣士
[能力値]
体力 :130
魔力 :5
知力 :30
攻撃力:40
耐久力:30
敏捷 :15
運 :10
[スキル]
剣術Lv1
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(へえ。表示形式はほぼ俺のと同じなんだな。でも魅了がないな。)
その後も次々と鑑定がされていったが他の列に並んでいる子も含めほとんどの子どもがレベル0のままだった。有力貴族のこどもだけ何人かレベルが上がっていた子もいたが、それでもレベル10に達している子はいない。それもそうだ、どうせ15歳になったらいやでもダンジョンに入らなければならないのに好き好んで危険を冒す奴はそうそういない。それにたとえAランク冒険者がついていたとしても無職で高ランクダンジョンに入るのはリスクがあるし結局経験値も等分されるため、ソロとかで入らない限り経験値を稼ぐのは難しい。でもまあ貴族の威厳を保つために衛兵にキャリーでもしてもらっていくつかレベルを上げたんだろう。
と、そんなことを考えていると会場がざわついた。なんだと思って右の方の列を見ると理由が分かった。
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名前:アーサー Lv18 11565/90000
年齢:10歳
種族:人間
職業:聖騎士
[能力値]
体力 :180
魔力 :70
知力 :70
攻撃力:100
耐久力:120
敏捷 :80
運 :40
[スキル]
聖剣Lv2
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希少な戦闘職”聖騎士”に加え、10歳でレベルが18に達している。周囲の話を聞くに、あの子は貴族で騎士の家系らしい。なんなら父親も聖騎士なんだとか。でも聖騎士になって喜ぶというよりはどこかほっとしている感じだ。父親は厳しい人なんだろうか。教員や学園長と何かを話した後、元の場所に戻っていった。
その後は特に目立った子もおらずとうとう俺の番が来た。
「出身地と名前を言ってください。」
「セイカ村のリンです。」
セイカ村というのは俺の住んでいる村のことだ。実はこの7年で大分レベルが上がりスキルも獲得したが、いまだに自分の職業を知らない。今もステータス画面を前に出しているのだが職業欄はずっと???のままだ。
(今まで獲得したスキルから考察すると魔法士系だとは思うんだが…。まあ、変なスキルもあるが。)
「では鑑定を始めますので水晶の上に手をかざしてください。」
俺は鑑定士の人に言われるまま台座に置かれた水晶の上に右手をかざした。そして鑑定士の男性が何か短い呪文を唱えるとスクリーンに俺のステータスが表示された。すると一気に周りがざわつき、学園長や管理職、教員たちも息をのんだ。
「これは…!」
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名前:リン Lv36 6800291/7000000
年齢:10歳
種族:人間
職業:アイドル
[能力値]
体力 :300
魔力 :380
知力 :150
攻撃力:230
耐久力:215
敏捷 :250
運 :50
[スキル]
炎魔法Lv5
水魔法Lv4
風魔法Lv4
土魔法Lv3
[ユニークスキル]
Fire メインボーカル
Water メインダンサー
Wind
Earth
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あれから俺は7年でレベルが36に到達した。そしてレベルアップごとに獲得した経験値をすべて魔力につぎ込んできた。それなのに他のステータスも上がっているのは5歳のころから現れるようになったミッションをクリアしてきたからだ。体力づくり系のミッションもあれば魔物を10分以内に50匹以上倒せなどのタイムアタック系のミッションもあった。一つクリアするとステータスポイント5ポイントが対象の項目に割り振られ次のミッションが出てくるといった感じだ。ちなみに今のミッションは、
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ファンを作ろう 0/10
[報酬] 魅了+5
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らしい。この学園のスクリーンには魅了は反映されないらしいが今の俺の魅了は110ある。でもまあ、それよりも気になることがある。
(職業がアイドルになってる…。確かに前世の職業はアイドルだったが今世もアイドルって...。そもそもこの世界にアイドルって他にいるのか?これは戦闘職と非戦闘職どっちの分類になるんだ?)
「アイドル…?そんな名前の職業なんて今まで聞いたことがないわ。学園長、ご存じですか?」
「いや、わしもいろんな職業を見てきたが初めて聞く。文献でも、見たことがないはずじゃ。」
学園長たちも言葉自体初耳で意味も知らないといった感じだ。しばらく教師陣で話し合っていたが、直接聞いた方が早いと思ったのか学園長から声がかかった。
「リンといったかな。この職業について君は何か知っているか?それにその年でどうやってそこまでレベルを上げた?スキルもすでに4つ獲得しているようだし、特にユニークスキルを6つも持っているなんて今まで聞いたことがない!」
どこかいぶかしんでいる様子だ。自分の理解を超える者に対して人間は恐怖や疑心を抱くものだ。とはいえ、俺も職業については今日初めて知ったし、前世のアイドルならまだしもこちらの世界でのアイドルがどういう位置づけかは分からない。そのため、前世のこと以外すべて正直に話した。
「職業については僕も今日初めて知ったため分かりません。レベルについては3歳のころから父と二人でよくE級ダンジョンに行っていたためです。スキルはレベルが一定以上上がるごとに自然と獲得しました。ユニークスキルの”Fire”、”Water”、”Wind”、”Earth”は魔法の獲得と一緒に獲得し、メインボーカルとメインダンサーというユニークスキルは魔物との戦闘中に獲得しました。」
”Wind”はレベルが20になった時、”Earth”はレベルが30になったときに獲得した。メインダンサーは初めて剣をもって魔物と戦った時に獲得した。メインボーカルは戦闘中にちょっと楽しくなってコンサートのときみたいにアレンジして歌ったらなぜか獲得した。
「3歳からダンジョンに入っていたのか!?しかも父親とたった二人だけで!?君のお父さんは凄腕の冒険者なのか?」
ジンはこの7年で何とBランク冒険者までランクが上がった。リサや他のパーティーメンバーも全員この7年でCランクまで上がったため今ではC級ダンジョンにも入場可能だ。
「はい、父はすごいです。自慢の父です。尊敬してます。」
観客席からジンの喜び咽び泣く声が聞こえる。実際、たった7年で2ランクもアップするのは快挙だ。特にCランクとBランクの間には大きな壁があり多くの冒険者はC級どまりで終わることが多い。だから別に俺がファザコンだとかそういうことではない。まあ、ジンのことは好きだが。
教師陣は観客席のジンの顔面崩壊を見て少し引いているようだ。しかし、一人そんなことはどうでもいいというように、鑑定の儀を取り仕切っていた魔法士が興奮気味に尋ねてくる。
「それよりも、そのユニークスキルってどんな効果があるのかしら?魔法と一緒に獲得したという事は魔法と組み合わせて使用するようなスキルなのかしら?良かったらここで見せてくれない!?」
「まあまあ、落ち着いて。ライラ先生。リンくん、まずはどんな効果なのか聞いてもいいですか。」
今度は学園長の左隣に座っていた初老の優し気な管理職の人が尋ねてきた。
「はい、ユニークスキル”Fire”、”Water”、”Wind”、”Earth”はそれぞれ特定の歌を歌っている間、炎魔法、水魔法、風魔法、土魔法を魔力消費なしで無制限に使用することができます。メインダンサーとメインボーカルはさっきの4つのうちどれかをうたっているときに使用できるスキルでメインダンサーは次にとるべき動作が足跡として見えたり体がオートで最適な動きを行ったりします。メインボーカルは曲の中でサビを歌っているときに自分のステータスが10倍になるスキルです。」
「消費魔力なしで魔法が使い放題ですって!?何それうらやましい!!私もそのスキル欲しい!」
ライラと呼ばれていた先生がとても取り乱している。第一印象とはずいぶん違った性格をお持ちのようだ。一種の魔法オタクのようなものだろうか。
「魔法無制限使用もそうだが自動戦闘やステータス10倍は一概に信じられんな。まるで”勇者”のような、いや、勇者を超えるようなスキルじゃ。リン、それが本当なのであればここでそのユニークスキルを使用してみよ。」
学園長はまだ俺を疑っているらしい。こんな大勢の前でユニークスキルを使用しろと言ってきた。さすがに気が引ける。今までこの比じゃない人数の前で歌ってきたじゃないかというかもしれないが、ファンの前で歌うのとまったく俺のことを知らない、俺に興味がない人たちの前で歌うのとは全然違う。後ろを見ると俺に好奇の目を向けている者、興味が無さそうな者、嫉妬を浮かべている者など様々だ。初めてステージに立った時のことを思い出す。あの時もいろいろな感情のこもった目に曝されて頭が真っ白になった。でもあの時はメンバーたちがそばにいてさりげなく緊張をほぐしてくれたためステージをやりきることができた。だが今は俺一人だ。正直言って怖い。俺はどうにかこの状況を回避しようとした。
「そうですね、信じられないのももっともだと思います。ですが、今は鑑定の儀の最中でまだ職業が分かっていない者も多く残っています。そのためもし僕に興味を持っていただけて鑑定の儀の後にお時間を頂けるようでしたらその時にお見せします。」
「…ふむ、いいじゃろう。では鑑定の儀の後そのままここに残るように。」
「分かりました。」
何とかこの場での使用を避けることができた。あとは鑑定の儀の後すぐに他の者たちが帰ってくれることを願うばかりだ。俺はため息をこらえながら元の場所に戻った。戻っている間も他の子たちから注目を集めてしまっていた。身なりのいい貴族の子ども達からは横を通るときに舌打ちをされたりもした。まあ、女の子たちからはこの顔のおかげか好意的な目で見られたが。
その後も何人か珍しい職業の者、レベルが20近くある者が出てきたが俺のステータスを見た後だからかそこまで話題にはならなかった。
こうして約5000人の鑑定の儀が終わった。




