40話:ワイバーン討伐
「グアッ!?」
最初嘲るようにこちらを見ていたワイバーンの顔色が変わった。そして声を上げて苦しみ出したと思ったらすぐに身体が硬直したように飛行能力を失い、次々と地面に激突していった。
先程使った風魔法、あれに先日新たに獲得した毒魔法を織り込んだのだ。風魔法でつけた傷だけでは致命傷にならずともそこから体内に侵入した毒によってワイバーンたちは体の自由を奪われていく。
俺が使用したのは麻痺毒。レベル1の毒魔法ではまだこの毒しか扱えない。でもそれで十分だ。飛行能力を失ってあの高さから落ちるだけで致命傷となる。あとはそれでも息がある個体にもう一度風魔法で攻撃を加えればそれで終わりだ。
空中にいたワイバーンを全て片付け終え、俺はサビパートが終わる前に地上に降りてきていたワイバーンも全て風魔法で始末を付ける。しぶといやつには毒魔法や炎魔法も織り交ぜて戦ったのでもう魔力もほとんど底をついてしまった。
「はぁ、はぁ、はぁ」
歌を終えるとステータスが元の10分の1に戻った為一気に体が重く感じる。俺は鉛のような体を動かしてアーサーの元に駆け寄った。
「アーサー!大丈夫!?」
アーサーは体を横たえ、傍ではシリネがアーサーの状態を確認していた。他の面々もワイバーンを倒し終えたことで近くに集まってきた。
「はは、大丈夫だって!シリネさんにも回復魔法をかけてもらったし!」
「いえ、恐らくだけどアーサーくん肋骨が何本か折れてるわ。私も今の戦闘でほとんど魔力を使い切っちゃってたからまともに回復魔法をかけてあげられてないの。だから今すぐには治せないのよ。ごめんなさい。」
シリネは申し訳なさそうにアーサーに頭を下げる。先程の戦闘でみんな少なからず身体に傷を負っている。でも重傷者がいないのはシリネの力が大きい。シリネは聖女でヒール専門職だ。だが片っ端から仲間の傷を癒すことはせずに、先頭に支障をきたす傷を中心に治癒していた。アーサーが吹き飛ばされた時も真っ先に駆けつけ回復魔法を施したが、元々デバフによって低下した魔力に加え、いくら効率よく治療していたとしても回数を重ねればすぐに魔力は枯渇してしまう。アーサーが傷を負った時点でもうシリネの魔力は0に近かったのだ。
これでアーサーが致命傷を負っていたらと思うとゾッとする。今回は命に関わる傷ではないためシリネの魔力が回復するのを待つ時間があるが、そうでなければ為す術なく命を落とすしかない。
(俺も回復魔法が使えたら...。いや、それよりもエリクサーのようなものがあれば万が一の時にも...)
「リン、そんな顔すんなって!別に死ぬわけじゃないし!シリネさんも謝らないでください!回復魔法をかけてくれたお陰で少し楽になりました、ありがとうございます!」
無意識に握りしめていた拳をアーサーがそっと掴み手を広げてくる。
「...仮面つけてるんだからどんな顔してるかわかんないだろ。それより怪我人はじっとしてろ。」
体を起こそうとするアーサーを静止してもう一度地面に横たえさせる。
「今日はここで野営をしよう。ただ、さっきみたいに襲撃される可能性もある。ここは開けているから敵を見つけやすいが逆を言えば敵からも見つかりやすい。今の状態で襲われれば命を落とす危険もある。まずは各自警戒を解かずに体力や魔力の回復に専念しよう。」
クリスが全員の注目を集めて言う。確かにクリスは利き腕を怪我しているし、ゼクトも頭から血を流している。ハクやローズは大きい怪我はないにしても身体中傷だらけだしシュベールやディクトルは魔力や体力を使い果たしてしまい杖や武器で体を支えている状態だ。無傷なのは俺とミホーク先生くらいだ。とはいえ俺もミホーク先生も魔力を使い果たしてまともに戦える状態ではないが。
体力はもう限界に近いが、見張りを立てて野営をするにしてもこのままじゃ危険すぎる。
(もうひと頑張りするか。)
「...みなさん、そのままそこを動かないでくださいね。」
俺はそういうとみんなの不思議そうな視線を無視してゆっくりと立ち上がり、ユニークスキル"Earth"を使用した。
(ほんと、魔力がなくても使用できるの便利だよな。やっぱこれがいわゆる転生者特典ってやつか?)
俺はフラフラになりながらも"Earth"を歌い、大地を操作した。
「キャッ!何!?」
「すげ、土地が動いてる...」
「なんて規模の魔法なんだ...!」
俺は今みんなが腰を下ろしている部分を地中に下げていき、3mほど降りた所で上部を土魔法で覆って天井を作った。これで地下室のような空間の出来上がりだ。ただこれだけだと酸素がなくなって窒息してしまうため天井の四隅は網目状の通気口にしてある。
「これで敵から見つかる心配も減ったかと。天井部分もだいぶ頑丈に作ってあるのでちょっとやそっとじゃ壊れる心配もないと思います。」
全員が一瞬にしてできた地下室を見渡し目を見開いている。
「お前は一体...」
クリスが何かをいいかけるが、色々と限界だった俺はそのまま意識を飛ばし、その場に倒れ込んだ。




