39話:ワイバーン
午後も2回ほど"Fire"を使って次で今日の攻略は終了にしようということになった。
「...1つ聞いてもいいですか?」
「ん?どうした、リン?」
俺はずっと聞きたかったけどあまりにも自然すぎて中々聞き出せなかったことを尋ねた。
「なぜ俺は抱えられてるんでしょうか?」
そうなのだ。あれから戦闘時以外の移動の際はずっとゼクトの腕の中にいる。戦闘が終わるとゼクトにひょいっと抱えられて今も腕の中で次の場所へ移動している。
「いや、だって私たちも戦っているとはいえ、いちばんの功労者はダントツでリンくんでしょ?だから移動時くらい休んでもらおうと思って!あ、ゼクトの腕の中が居心地悪いならお姉さんのところに来てもいいのよー?」
そういってシリネがこちらに向かって腕を広げる。それと同時に暴力的なまでのたわわな胸がぷるんと震えた。一瞬揺らぐものがあったが仮面のおかげで自我を保ち丁重にお断りを入れることができた。
「俺ももう少し大きかったらリンを抱えられるんだけどな〜!あと2、3年後にはゼクトさんみたいに安定してリンを抱えられるようになるからな!」
「いや、2、3年後には俺ももっと大きくなるから。ていうかなんで俺が抱えられる前提なんだよ。」
(なぜみんな俺を抱えたがるんだ。俺はぬいぐるみじゃないぞ...!)
アーサーも同じ年齢なのに俺だけが子どものように扱われることを遺憾に思いながらも、ゼクトの腕の中がジンと同じくらい心地が良く、ついつい身を任せてしまう。
「はっはっは!リンは俺の腕の中がいいってさ!残念だったな!」
俺がリラックスしてゼクトにもたれかかった事でゼクトが勝ち誇ったようにシリネやアーサー、ハクなどに言う。
「気をつけろ!なにか来るぞ!」
そんな茶番を繰り広げていると突然クリスが声を上げた。その声を聞いて全員すぐさま臨戦態勢に入る。俺もゼクトの腕から飛び降りてユニークスキルを使えるように場所を確保する。
「上です!」
ミホーク先生の言葉で上を見ると前方からワイバーンの群れがやってくるのが見えた。どうやらワイバーンたちの領域に入ったらしい。
(まずいな、森を焼いたことが裏目に出たか。)
周りに遮蔽物がないため、ワイバーンからは格好の的になるし、逆にこっちからは足場が無いため空中に攻撃する手段がほとんどない。魔力もほぼ使えない現状では俺が空中で仕留めるか撃ち落とすしかない状況だ。それに高ランクの魔物だけあってスピードもかなり速い。
(炎魔法は少しでも掠れば燃やしきることはできるが操作スピードは遅いんだよな。ワイバーンのあの移動速度だと躱される可能性の方が高い。とすると向いてるのは...。)
「風魔法をベースに使います!仕留め損ねた分はお願いできますか!?」
もうワイバーンとの距離は100mもない。他の人の返事を待たずにすぐさまユニークスキル"Wind"を使用する。
風刃と風玉を多数発動しワイバーン達をどんどん撃ち落としていく。なるべく一撃で殺せるように首を狙ってはいるがワイバーンの動きが速いのと自分の魔法操作の精度が十分でないのとで命中率は60パーセントというところだ。
(っ、やっぱり魔法操作が課題だな。ユニークスキルを使っていてもあのスピードでは狙ったところに当てられない!)
翼などを切り落として墜落させたワイバーンについてはクリスたちのパーティーが、俺を狙って降下してきたものについてはアーサーとミホーク先生が対処してくれてはいるがやはりステータス10分の1のデバフのせいで1匹を倒すのにもだいぶ手こずってしまっている。
「ぐっ!!」
(アーサー!)
俺目掛けて猛スピードで飛んできたワイバーンから俺を庇いアーサーが攻撃を受け止めたが、攻撃をいなしきれずに吹き飛ばされてしまった。
「っ、大丈夫だ、リン!そのまま続けて!」
一瞬動揺してダンスを止めそうになってしまったがアーサーがそれを見抜いてすぐに声をかけてくれたことでユニークスキルを維持できた。
(そうだ、ここでユニークスキルをやめたら全滅してしまう。)
歌いながら周囲を見渡すと重傷者はいないがみんなそれなりに傷を負ってしまっていた。
(ちゃんと戦えるのは俺だけなんだ。俺がしっかりしないと。)
次はサビパート。ユニークスキル"メインボーカル"が使える。俺は大きく息を吸い込んではるか遠くまで声を響き渡らせた。
(さあ、ここからが本領発揮だ!木っ端微塵にしてやる!)
俺は風をどんどん圧縮し、空中のワイバーンに向けて大きな竜巻を作り出した。そして竜巻の中には無数の風刃を取り込ませ、巻き込まれたワイバーンは一瞬で血肉となって消えていった。
危機感を覚えたワイバーンは撤退の姿勢を見せるが仲間を傷つけたヤツらを1匹たりとも逃がしたりはしない。
今の俺はステータス10倍。つまり普段通りのステータスに戻っている。だから今はそこまで魔力をセーブしなくても大丈夫だ。
ということで俺は風魔法に1つ工夫を加えて魔法を放った。急所を狙っまたその攻撃をワイバーン達はギリギリのところで躱すが、完全に躱しきれたのは片手で数えれる程度だ。そいつらには追撃で魔法を放ち身体に傷を与えることができた。
ワイバーンらは俺が攻撃を外したと思ったのか嘲るようにいやらしい笑みを浮かべながらこちらを見下ろしているが、すぐにその顔色を変えた。




