2話:ユニークスキル
「リン、起きろ。家に着いたぞ。食べに行く前にまずは父さんと一緒に風呂に入ろう。」
いつの間にか眠っていた俺はジンの声で目を覚ました。
「んぅ…」
「そうよ、リンさっぱりしておいで。あなた、お願いね。」
「ああ、任しておけ。さあ、リン行こう。」
そうして俺はジンに抱えられたまま風呂に向かった。俺が毎回毎回恥ずかしさからリサとの風呂を拒否していたため、俺を風呂に入れるのはもっぱらジンの役目となっている。
「ほら、バンザーイ。」
まだうつらうつらとしていた俺はジンにされるがままだ。俺の服をさっと脱がせた後、ジンも自分の服を脱ぎまた俺を抱えて浴室に入った。
「湯をためている間に先に体を洗おうな。ちょっと寒いけど我慢してくれな。」
この世界では魔石が豊富に取れることもあり、魔石を活用した道具が多くある。瑠偉くんからの情報では異世界で風呂に入れるのは貴族のみのイメージがあったがこの世界では日本と変わらないくらいの便利道具が多くあり、風呂もその一つだ。火属性の魔石を使うことによって水をお湯に変えることができるのだ。地球は科学の力で発展してきたがこの世界はダンジョンと魔石の力で発展してきたようだ。
「頭を洗うから目をつむっとけよ~。」
(気持ちいい…)
ジンはいつも戦っている姿からは考えられないくらい、壊れ物を扱うようにやさしく俺に触れる。それが何だかくすぐったくて、恥ずかしくて、嬉しい。
ーん~んんん~ん~んん~♪
「お、どうしたリン、ご機嫌だな。気持ちいいか?今のなんて曲なんだ?」
つい無意識に鼻歌を歌っていた。前世から嬉しかったりリラックスしたりするとよく鼻歌を歌っていたからその癖が出たようだ。今歌ったのは前世の1stアルバムに収録されている曲だ。この曲は初めてメンバーと作った曲だから思い入れがある。俺はちょっと考えて正直に言うことにした。
「ふぁいあってきょくだよ。」
「Fire?へえ。初めて聞く曲だな。どんな歌詞なんだ?父さんにもっと聞かせてくれよ。」
実はこの世界に来て誰かに歌を歌うのは初めてだ。前世でさんざん億を超えるファンの前で歌ってきたのにジンの前で歌うのは少し恥ずかしく緊張する。ジンはどこかワクワクとした面持ちだ。
「…いいよ。じゃあいくよ。」
目をつむって大きく息を吸い込む。脳裏にメンバーとステージで初めてこの曲を歌った時の様子が思い浮かぶ。俺は一番盛り上がるサビのパートを任されていた。
ーFire 燃え盛れ
一度ついたら消せやしない
余計なものは全部燃やして
ここからはずっと俺たちのターン
ーFire もう手遅れ
俺たちの炎は防げやしない
一人たりとて逃しはしない
さあ次の標的は誰だ
ダンスの難易度もここが一番高く踊りながらここを歌い切るのはだいぶ苦労した。最初はここに入る炎の演出にビビったものだ。そんな風に考えながら歌っているとジンの慌てたような声が聞こえた。
「ちょ、ちょっとリン、ストップ!」
何だと思いつむっていた目を開けると俺の前に拳ほど小さな火の玉が浮いているのが目に入った。驚いて歌うのをやめた瞬間火の玉もフッと消えた。それと同時にポップアップが表示される。
▶スキル "炎魔法Lv1" を初めて使用しました。魔力が5消費されました。Lv2を獲得するには魔力を50000消費してください
▶ユニークスキル "Fire" を獲得しました。詳細を確認してください▽
「えっ!!」
「どうしたリン、ていうか今のは…」
「と、とおしゃん、ゆにーくすきるってなに…?」
他にもいろいろと気になることはあるがとりあえずこの世界に来て初めて聞く”ユニークスキル”について聞いてみることにした。
「ユニークスキル?確か学園では”一般のスキルとは異なる固有のスキルで1000人に一人くらいの確率でしか現れない”って聞いたが…まさか!」
「う、うん。なんかそのゆにーくすきるっていうの、でてきったっぽい」
「本当か!?まさかの我が子が天才だった!?どんなスキルなんだ??」
今までにないくらいテンションが上がったジンが目を輝かせながら聞いてくる。
「えっとね、…っくしゅっ!」
「ああ、悪い!そういえば洗ってる途中だったな風邪ひかないうちに早く湯船に入ろう。」
頭を洗っている途中で話していたため体が冷えてしまったようだ。ジンは素早く俺の頭と体を洗い終え、自分自身の身体も洗った後また俺を抱えて湯船につかった。今俺は背後からジンに抱きしめられる形で湯船につかっている。精神年齢が20歳を超えている俺としてはこの状況はちょっといたたまれないが考えないようにする。
「で?そのユニークスキルがどんなものなのか父さんに教えてくれよ。」
ジンにそう言われ、俺自身も気になっていたスキルの詳細を確認する。
▶ユニークスキル "Fire"
詠唱中、魔力消費なしで何度でも魔法を使用できる。1度発現した魔法は敵が消滅するもしくは詠唱が途切れるまで継続する。
(チートじゃん。)
このままジンに説明してみた。
「え、チートじゃん。」
俺と全く同じ感想だった。さすが親子ってか?
「詠唱ってさっきの歌のことか?じゃあ歌ってさえいれば魔力切れを起こさずにバンバン魔法を使えるって事か?リサやラナが聞いたらうらやましがるどころの話じゃないぞ!魔力消費が大きい高レベルの魔法も使い放題って事だもんな。」
このポップアップを見る限りそういうことになるだろうな。
「ていうかその説明だともしかしてお前は炎魔法のスキルも持っているのか?いつの間に!?そもそもさっきの歌はどこで覚えた?他の歌でも同じ効果があるのか?他にも魔法を使えたりするのか?」
おおう、怒涛の質問攻めだ。さて、どれから答えようと思っているとリサから催促の声がかかった。
「ちょっと~ジン、リンいつまで入ってるの~?私も入りたいからそろそろ出てきてくれない?」
「ああ、ごめん!すぐ出るよ。それよりもリサ、リンの奴がすごいんだ。俺たちの息子は可愛さだけじゃなく才能も世界一だ!」
「はいはい、あとで聞くから早く出てきて~。」
この夫婦の温度さよ。ドアの向こうからリサのあきれた声が聞こえてくる。また始まったと言わんばかりの声だ。リサも俺を愛してくれているがジンはその比じゃない。どこに出しても恥ずかしい親ばかっぷりなのだ。溺愛してくれるのはうれしいが外では控えてほしいものだ。
「じゃあリン、母さんが待ってるし出ようか。後で夜にでも母さんがいるときにもっかいさっきの見せてくれよ。そんで色々教えてくれ。」
ジンは待てができる男らしい。新刊が待ち遠しくて地団太を踏む瑠偉くんとは大違いだ。
ワクワクした顔をしているジンの言葉にうなずきながら俺たちは風呂を出た。そして母さんが風呂に入っている間にジンは獲った魔石を換金しに行った。
その間暇になった俺はさっきのスキルの検証をすることにした。その結果いくつか新たに分かったことがある。
まず、他の曲でも同様の効果があるのかについて。答えは否だ。1stアルバムに収録されている曲はアルバムの名前の通り”赤”にちなんだ曲で”火”の要素が入った曲も数曲収録されている。だがどの曲もユニークスキル ”Fire” のスキルを使うことはできなかった。
また、スキルと同じ名前のFireを歌ってみたところ、パートによって効果が異なることが分かった。歌っている最中は際限なく炎を出すことができるが、自分のパートであれば炎を自分の手足のように自在に動かすことができ、今のところ最大10個までは同時に操作できる。他のメンバーのパートでハモリを入れていたところは少し操作精度が落ち、最大5つまで同時操作することができた。ラップなどまったく自分が歌っていなかったパートについては同時操作は3つほどが限界だった。だが、練習次第で同時操作数などは増やせそうな手ごたえだった。
そしてもう一つ面白いことが分かった。他のアルバムのタイトル曲を歌った時にポップアップが表示されたのだ。
▶スキル解放条件を満たしていません。
これが表示されたのはFire以外に全部で7つ。
”Water”、”Wind”、”Earth”、”Poison”、”Darkness”、”Shine”、”Color”の7曲だ。
これらから考えるに、もしかしたら俺は炎以外にも水や風といった魔法が使えるようになるのかもしれない。炎魔法はLv5にレベルアップしたときに獲得したから恐らく他の魔法もある一定のレベルを超えたら使えるようになるのだろう。そうすると俺の職業は魔法士か何かか?これはますます早くレベルアップしたくなってきたぞ。魔法のレベルも早く上げてLv2の魔法を早く使ってみたい。
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名前:天神 琳 [リン] Lv5 0/6000
年齢:3歳
種族:人間
職業:???
[能力値]
体力 :40
魔力 :3/70
知力 :50
攻撃力:10
耐久力:10
敏捷 :20
運 :10
魅了 :70
・ステータスポイント:0
[スキル]
炎魔法Lv1 70/50000
[ユニークスキル]
Fire New!
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魔力は2分で1回復する他、睡眠でも全回復する。炎魔法Lv1は消費魔力が5だからユニークスキルを使わなければ10分で1発撃てる計算だ。睡眠時間とかを何も考慮しなければ1日に最大144発撃てる。消費魔力は720だ。でも幼児というのもあり1日に少なくても8時間は寝てしまっているから実際は最大96発、消費魔力480あたりが関の山だろう。これを毎日続けたとして炎魔法のレベルが上がるのは早くて約100日後か・・・。とりあえず少しでも睡眠中のロスを減らすために今度からゲットしたステータスポイントは魔力に優先的に振っていこう。そんなことを考えているとリサが風呂から出てきた。
「お父さんはまだ帰ってきてないの?」
「うん、ませきかんきんするっていってたよ」
「それにしても遅いわね。どこで何をしてるのかしら。…もしかして浮気...?」
一瞬で室内の温度が下がった気がした。リサから漂う冷気に身震いする。でもそれだけは絶対にない。ジンはあんな外見だしまだまだ若いからすごくモテるがリサ以外の女性に興味を示しているところを一切見たことがない。パーティーメンバーからの話によると二人の馴れ初めもジンの一目ぼれからの猛アタックで交際が始まったそうだし。本当にジンはいい父親であり夫だと思う。
「ただいまー!遅くなってすまん。リンの話を聞きたいしたまには家でゆっくりするのもいいかと思って色々と飯をかってきたぞ!」
ジンが帰ってきたことでリサも普段通りの穏やかな雰囲気に戻った。両手いっぱいに様々な料理を抱えている。いろいろとご飯を買っていて遅くなったようだ。
「あなたが遅いからてっきりどこかで浮気でもしてるのかと思っちゃった。でも疲れてたから助かったわ。ありがとう。」
「おいおい、こんなにずっとお前一筋なのに浮気を疑うなんてひどいぜ!何なら今夜愛を証明してやろうか。」
「はいはい、ご飯食べましょ。」
ジンの下ネタがさらっと流された。しょんぼりしているジンが少しかわいそうだ。
(父さん大丈夫だよ。浮気を疑ってた時のリ母さんはめっちゃ怖かったから。)
俺たちはジンが買ってきた料理を食卓に並べ夕食を取り始めた。そしてだいぶお腹が膨れてきたころにいよいよ本題に入った。
「リン、さっきの母さんにも見せてやってくれよ。」
「さっきのって何?」
「まあまあ、見てからのお楽しみだ。な、リン。」
「わかった」
俺よりも得意げな顔をしたジンの言葉にうなずいて俺は席を立った。どうせならダンスも踊ってみよう。まあこの体だからちゃんとは踊れないと思うが簡単な振り付けなら踊れるだろう。1曲通して歌ってみるか。
「それではおききくだしゃい。”ふぁいあ”」
歌のときはちゃんと言えるのに普段はどうしても舌ったらずになってしまう。
椅子に座ったままの二人にぺこりと頭を下げる。この瞬間から俺はアイドルで二人は観客だ。”パフォーマンスは常に最高のものを。”が俺たちグループの信条だった。
つま先でトントンと床をたたきリズムをとる。この曲のはじめは雷くんのパートから始まる。
俺は息を吸い込み雷くんのパートから歌い始めるのだった。




