34話:S級ダンジョン
土曜日の夜。2階層攻略を終えて現在アーサーと野営中だ。
「うわ、すご。」
「ん?どうした、リン。」
夜になってステータスを確認している魅了値が5上がっていることに気づいた。ということは隠しミッションを5回も達成したということだ。つまり、今日俺の曲を聞いた人が50000人以上もいるということ。
今日は一日中配信しており、ユニークスキル使用時は最大視聴者数が10000を超えた時もあった。まだ配信機器が届いてない地域があるにもかかわらずこの人数は凄い。
でもこれで動画配信でもユニークスキル"コンサート"は有効で他の人のステータスをアップさせることができることがわかった。
俺たちが配信しているとき、同様にダンジョンに潜っている他のパーティも早速配信をしていたようで色んな録画映像が上がっていた。
特に人気を集めているのはSランク冒険者7人で結成されたパーティのS級ダンジョン攻略配信だ。
彼らはS級ダンジョン最高到達回数である30階層の攻略を進めており、その様子が動画でアップされていた。S級ダンジョン攻略の様子が映像として発信されるのは世界初である。
「おお、これがS級ダンジョン...。話には聞いてたけど本当に別世界みたいだな。」
アーサーの言う通り、S級ダンジョンは俺たちが今いるC級ダンジョンとは全然違っていた。
ダンジョン内にも関わらずそこには太陽があり、森があり、大きな川があった。まるでダンジョン内にもうひとつの世界があるようだ。
一見するとのどかな世界でダンジョンには見えないのだが、俺たち人類はここ何年もずっとこの階層を攻略できないでいる。理由は単純だ。
圧倒的に戦闘力が足りてないのだ。
この階層に出てくる魔物のレベルはほとんどがAランク。にも関わらずSランク冒険者達が倒せず二の足を踏んでいるのはこの階層には強力なデバフがかかっているからである。そのデバフというのはなんと全ステータス10分の1。レベル100を優に超えるSランク冒険者たちでもステータスが軒並み10分の1にもなると普段は格下の魔物たちにさえ攻撃が通らず逆に命が危ぶまれる始末。そのため階層ボスどころか通常の魔物も倒せないでいるのだ。
『くそっ、やっぱり今回もデバフ無効化のアイテムは効いてない!』
『ごめんなさい、もう魔力が切れそう。』
『ぐっ、Aランク1匹倒すのにこんなに時間がかかるなんて...!!』
ステータスが10分の1ともなると普段は潤沢にある魔力もすぐに無くなってしまうし、筋力も落ちるため魔物に剣が通らなくなってしまう。それに敏捷も低下することで魔物の攻撃を避けられずに傷を負うことも多いのだ。
「ステータス10分の1とかエグイな...。俺のステータスだったら生まれた時とそんなに変わらなくなるんじゃ...。考えただけで嫌になるな。」
動画を見てアーサーが嫌な想像をしたのか身震いする。
動画のコメント欄もアーサーと同じような感想の物やSランクもこんなものか、大したことないとバカにする者、あと10年でS級ダンジョンが崩壊するというのに攻略の兆しが全く見えない現状に絶望する者など様々な意見で埋め尽くされていた。
「魔法士とか尚更こんなとこだと魔法1、2発撃ったら魔力切れを起こすだろ...。ん?待てよ...。」
動画について考察しているうちにアーサーは何かを思いついたのか俺の方を見る。俺もちょうどアーサーと同じことを考えていたところだ。
「もしかしてこの階層、リンだったら攻略できるんじゃね...?」
アーサーがまじまじと俺の顔を見ながら言う。正確には今も面をつけているので面越しにだが。
「だって、リン、ユニークスキル使ってる時魔力消費しないんだろ...?魔法については魔力が少なくなるだけで威力自体は変わんないから歌ってればリン無敵じゃね??」
そう、俺も同じことを思った。もしかしたらこの階層、俺なら突破できるかも、と。
「でも一応俺まだAランクだし、なんならC級ダンジョンでも虫とか出てきたら使えないポンコツだから...。」
ここ最近の自分のポンコツぶりに少し不安になっているとアーサーがグイッと身体を近づけて来て急に俺の面を取り、顔を伺うように覗き込んできた。そしてニッと笑って、
「なーにしょげてんだよ!リンらしくないな。入学式の時の威勢はどこに置いてきたんだよ!言ったろ?リンのことは俺が守ってやるって!リンならここ数年攻略できなかった30階層の攻略ができるかもしんないんだからさ!とりあえず月曜日にでもミホーク先生に相談してみようぜ。まあ俺はCランクだからそもそもついていけるか分からないけどそこは粘るからさ!」
アーサーの頼もしいんだか適当なんだか分からない言葉に少しだけ自信を取り戻すことができた。
「...わかった。確かに俺も突破できそうとは思ったしミホーク先生に相談してみる。...でもアーサーが行かないなら俺も行かないから...。ていうか仮面返せ!」
突破できるかもとは思ったが、そこにアーサーがいないのを想像すると一気に不安が押し寄せてきて自信が無くなった。いつの間にかアーサーが俺の中でどんどん大きな存在になってきている。だからこそアーサーがもしS級ダンジョンにまだ行けないのであれば俺もまだ行かない。1人では攻略できる自信が全くない。でもそれを口に出すのは恥ずかしく考えただけで顔が熱くなってきたのを感じ、誤魔化すためにアーサーから仮面を取り返した。
「ははっ!リンってなんだかんだ俺の事大好きだよな!」
俺に仮面を奪い取られたアーサーは目を丸くしたあと破顔して、わしゃわしゃと俺の頭を撫でてきた。
「うるさい!同い年のくせに子ども扱いすんな!もういいから寝るぞ!」
照れ隠しにアーサーの手をバシッとたたき落としてふて寝をする。
アーサーは笑いつつも自分の分と俺の分の布団を敷いてくれたのでいそいそと布団に入った。
ちなみにやっぱり1人では眠れないのでアーサーの布団にしれっと入ると爆笑されつつも受け入れてくれたのでそのまま温もりに安堵しながら意識を手放した。




