29話:午後
「中身がねぇ」
混雑する食堂の中、何とか2人分の席を確保し昼食を取りながらアーサーと先程クラスメイトから貰ったレポートを見る。
「いや、褒めてくれるのは嬉しいんだけどさ、もっとダメ出しとか改善点とかを期待してたんだけど...」
アーサーがレポートをペラペラめくりながら不満を零す。それもそのはず、アーサーが貰ったレポートにはほとんど"凄かった"とか"めちゃくちゃかっこよかった!"とか"速すぎて何も見えなかった"とかレポートとは呼べないようなただの感想を書いたものばかりだったからだ。
「まあしょうがないさ。お前の剣さばきが速すぎて他の奴らはほとんど見れなかっただろうから。正直俺もところどころ見えなかったもん。」
「え、マジで!?リンに言われると照れるな。」
ダンジョンで高速で移動しながら魔物を倒していたお陰でアーサーの剣術ははっきりいってステータスレベルを遥かに超えている。
「だからレポートも何を書こうか迷ったよ。あえて言うならアーサーは剣術に特化しているから、今日みたいに剣が途中で使い物にならなくなった時でも戦えるように体術とかを身につけたらいい...くらいかな。」
「あ〜、確かにな。木剣が折れた時一瞬体が固まっちまったもんな。あれがダンジョン内で起こってたら俺死んでたかも。」
アーサーが頬をかきながら答える。
「午後はエリック先生とだし、体術も混ぜ込んでみるか。で、リンはレポートどんな感じだった?リンの方こそあまり身になるレポートはなかったんじゃないか?」
アーサーの言う通り、俺のレポートも"すごすぎて何も言うことなし!"とか"今度魔法教えてください!"とかばかりだった。
(みんなレポートを感想文かなにかと勘違いしてないか?)
ただ、ギルダ達だけはちゃんと書いてくれていた。
"魔法発動までのタイムラグがほとんどなく、隙が少ないように見えた。魔法のバリエーションも多く、様々な魔法を駆使していたことにより相手に次の動作を予測されにくい点も良かった。剣に魔法を纏わせる方法は思いつかなかった。是非参考にさせて欲しい。
改善点をあげるとすれば魔法操作の精度と剣術の向上だと思う。当たり前だが、先生に比べると魔法操作において劣っていたのと、剣術よりも魔法に重きを置いているように感じたので剣術を磨くともっと隙が無くなると思った。"
ギルダは魔剣士らしく、魔法と剣の両方の観点から、メイは魔法の観点から、リュークは剣の観点からしっかり分析して書いてくれていた。
(めちゃくちゃ俺の事嫌ってそうだったのにすごい褒めてくれてるんですけど...。分析もまじその通りで参考になる。)
「今回ちゃんと書いてくれてるのはギルダたち3人だけだな。予想外すぎてちょっとびっくりしてるんだけど。あいつら俺達のこと嫌ってそうなのにレポートではめっちゃ褒めてくれてる。何、アイツらツンデレなの??」
アーサーも同じことを考えていたみたいだ。性格は難アリだが公私混同はしないタイプのようだ。
俺たちは昼食を食べ終え、レポートを読んだあと(と言ってもほとんどアーサーを入れて4人分しか無かったが)互いの改善点について話しながらまた演習場に戻った。
演習場に戻ると何人かのクラスメイトたちも戻っていた。
「あ、アーサー!リン!今時間あるか?午後の授業が始まる前までに戦い方についてアドバイス欲しいんだけど!」
「ずるい!私もお願いしたい!2人のレポートすごく詳細に分析とアドバイスしてくれててめっちゃ参考になったよ!逆にごめんね、レポートの書き方わかんなくて感想みたいなの書いちゃった...。午後はしっかり書くから!!」
こんな感じでクラスメイトからアドバイスを迫られ、軽く実践を交えながら話しているとギルダたちも戻ってきた。
彼らもレポートを詳細に書いていたため、何人かのクラスメイトが話しかけに行っている。一瞬ギルダと目が合ったがふいっとそらされてしまった。でもそこまで嫌な感じはしない。
(レポート効果かな?)
こちらも改善点は書いたものの褒めるところも多かったため、素直にレポートに書き連ねたのが功を奏したようだ。恐らく今複雑な感情を抱いているに違いない。
「おー、このクラスは真面目だねぇ。さすが学年トップのクラスと言ったところか?休憩時間は休憩してもバチは当たらねぇんだぞ?」
「皆さんあなたとは違って優秀なんですよ。さあ、皆さんそろそろ時間になりましたので午後の授業を始めますよ。」
話しているといつの間にか授業開始の時間になっていたらしくエリック先生とミホーク先生が戻ってきた。
「午後はさっきとは逆の順番で行きましょうか。ということでリンくん前へ。他の皆さんは私のところに集まってください。」
(今度はトップバッターか。最後だと思って油断してた。)
「リン、頑張ってこいよ!」
「...ああ、行ってくる。」
(アーサーやギルダたちにもらった改善点を踏まえて戦ってみるか。)
「いつでもいいぞ。」
エリック先生は右手に木刀を持ち、肩を叩きながらダルそうに佇んでいる。だが、さすが剣豪なだけあって隙が全然見当たらない。
(エリック先生には剣では絶対敵わない。だからこそより上手く魔法と組み合わせて戦う必要がある。)
「...では、行きます。」
ユニークスキル"Wind"を使い、足元に風魔法でブーストをかけて一気に先生との距離を詰める。当たり前だが剣豪の先生にとったらこんなのを防ぐのは朝飯前だ。でもこれは囮。本命はエリック先生と剣を交える瞬間に先生の後ろに発動させた風刃だ。
だがそれも先生は想定済みだったのか俺の剣をサラリと受け流し、後ろの風刃を一瞬で切り捨てた。
(やっぱりそう簡単にはいかないよな。)
先生は風魔法を切り捨てたあとそのまま流れるような動きで斬りかかってくる。
「くっ!」
(手数が多すぎる。防ぐので精一杯だ。)
「どうした?お得意の魔法が止まっているぞ。」
エリック先生はニヤリとしながら余裕の表情で攻撃をしかけてくる。
(先生はまだ本気じゃない。なのに魔法を発動する暇もない。)
俺は剣では到底敵わないと判断し、風魔法で剣の届かない空中に離れた。そして一気に魔法で畳み掛ける。
先生の周囲に逃げる隙もないくらいの無数の風玉を出現させ、一気にぶつける。だがこれにも焦ることなく、次々と切り伏せていく。
でもこれはただの時間稼ぎ。次は"Wind"のサビだ。最近はずっと使ってなかったが"メインボーカル"のスキルも同時使用する。
「うぉっっ!お前っ、その動き、ランク審査の時に見せたスキルかっっ!」
"メインボーカル"のスキルによって俺のステータスがオール10倍になったため、さっきまでとは形勢逆転だ。
エリック先生から飄々とした余裕の態度が無くなり、今は俺の剣と魔法を捌き切るのに全力を注いでいる。
"メインダンサー"も使用しているので俺に足りない剣術はスキルが補ってくれている。ゆくゆくはスキルに頼らずアーサーみたいに実力で動けるようになりたいが今はまだユニークスキルなしでは先生に太刀打ちできない。
「ぐっ、くそっ!でも、お前のこのスキル、持続時間はそんなにないんだろっ!?」
先生は俺のステータス10倍がサビを歌っている時だけということを知っている。
(サビはあと10秒くらい。それに対して残りの時間は約1分。サビが終わった瞬間にまた形勢逆転されるだろうから...)
「よしっ、耐え切った!ここからは俺のターンだ...っておわっ!!」
俺はサビが終わる前に水魔法を発動させ、先生を大きな水の塊で包み込んだ。
「ゴボッ!ガボガボガボボボボッッ!!」
そのまま流れるように"Water"に歌い変え、水魔法を維持する。先生は体を動かして何とか水から逃れようとしているが先生の動きに合わせて水を操り、脱出できないようにする。
先生はこのままではまずいと思ったのか一度動きを止め、剣を中段で構えると一気に剣気を放ち、水を一刀両断した。
「ブハッ!ゴホッゴホッ!オエッ!あー、死ぬかと思った!!」
操ってた水は先生の剣気でかき消され、脱出されてしまった。すぐさま先生と距離を取り、自身の周りに氷槍を多数発動させ臨戦態勢に入る。
「そこまで。」
もう一度攻撃を仕掛けようとしたところでミホーク先生から終了の合図が出される。
「ふふふ。エリックもリンくんにやられたね。大丈夫?」
「ゴホッ!うるせぇ。心配するフリして楽しんでんの丸わかりなんだよ!ったく、濡れ鼠になっちまったじゃねぇか。」
エリック先生が顔に張り付いた髪をかきあげ、水をたっぷり含んだ服を絞りながら言う。
(うわっ、この人も顔面が良い...。ヒゲ剃って髪をちゃんと整えたらめっちゃモテそうだな...)
「すみません、先生。すぐ乾かします!」
思ってることは顔に出さずに先生に駆け寄り、風魔法と炎魔法を組み合わせて直ぐに先生を乾かす。
「おっ!こりゃいい。気持ちよくてこのまま寝てしまいそうだ。」
「ダメですよ。あと19人いるんですから。ほら、乾いたのなら次行きますよ。」
ミホーク先生にすぐに突っ込まれてエリック先生は渋々立ち上がる。
「はぁ〜、あと19人もいるのか...。だりぃなぁ〜。」
「文句を言わない。では次、アーサーくん前へ。」
「アーサー、頑張って。」
「おう!リンはゆっくり休んどけ。」
アーサーと拳をコツンと合わせ、場所を交代する。
「では、いきます。」
アーサーは木剣を構えると、地面に向かって聖剣を放った。
「!?」
予想外の行動に先生もクラスメイトたちも目を見開く。あたりは土埃が舞い、一瞬で先生とアーサーの姿が見えなくなった。
「目くらましか...」
近くにいたギルダが呟く。
「スキルをあんな風に使うなんてやるわね。真正面からぶつかっても勝ち目は無いし、スキルも当たらなければ意味が無い。認めたくないけどやっぱりあの子も凄いわ。」
(おおお、メイがアーサーを褒めてる...!)
「今どんなふうに戦ってるんだろ...砂埃のせいでこっちからも全然見えない...」
「聞こえる音からするとだいぶ激しく動き回っているようだな。...そろそろ姿が見えそうだ。」
リュークの言葉にギルダが答える。ギルダの言う通り、だんだんと2人の姿が見えてきた。
「うわっ、すごっ!」
「速すぎて全然見えないんだけど!?」
息付く暇もなく激しく打ち合っている2人の姿にクラスメイトたちもほとんどが前のめりになって見入っている。
「なんだあの動き、どうやったらあんなに速く動けるんだ?アーサーのレベルは今いくつだ!?」
アーサーはエリック先生の剣を受け止めた後すぐに剣を傾けて受け流し、そのまま逆袈裟を仕掛けるが、今度は先生にそれを軽く受け流される。そして腹部左を狙った攻撃を身を低くして躱し、地面に手を付いて足払いをかける。エリック先生は上に飛び上がる事でそれを避けるがアーサーは狙っていたかのように地面に手を付いたまま身体を上に伸び上がらせてエリック先生の顎に向かって蹴りを繰り出す。
エリック先生は予想だにしてなかったのかギリギリ顔を仰け反らせることで蹴りを躱したが大きく隙ができ、そこに畳み掛けるように上に蹴り上げてた足を今度は踵おろしの要領でエリック先生の頭上に振り下ろす。
「あいつ、体幹どうなってんだ...!」
リュークやギルダもアーサーの超人的な動きに驚きを隠せないようだ。
先生はアーサーの足を左腕で受け止め、崩れた体勢のまま先生も蹴りを仕掛ける。アーサーはそれを剣で受け止めるが、ほぼ逆立ちのような不安定な体勢だった事から受け止めきれずに吹き飛ばされた。それでも空中でクルッと身体を回転させて姿勢を立て直し、着地と同時にすぐに先生の元に飛び出した。そして先生と剣が触れ合う瞬間、予備動作なしにまた聖剣を放った。
さすがの先生も咄嗟には聖剣のスキルを受け止めきれずに後方に飛ばされる。
「スキルを使うタイミングが絶妙すぎない!?普通あそこで使うと思わないじゃない!」
これにはクラス全員が感嘆の声を漏らす。
「はーい、そこまで。」
「おい!なんでいつも俺の反撃のタイミングで止めるんだよ!ここからがいい所なのに!」
「いやいや、たまたまですよ。10分経ったから止めたまでです。」
戦いが終了し、先生たち二人がやいやい言い合っている間にアーサーが戻ってくる。
「どうだった?リンのアドバイス通り体術も取り入れてみたんだけど...」
「いや、なんなの?予想を遥かに超えてたんですけど。才能マンかよ。」
「それって褒め言葉って受け取っていいんだよな?やったぜ!」
アーサーの笑顔が眩しい。実力もセンスもあってその上努力も怠らない。身を引き締めないとすぐに追い抜かれるどころか置いていかれそうだ。
「では次、ギルダくん。」
いつの間にか言い合いを終えた先生が3人目の生徒の名前を呼ぶ。ギルダはチラッとこちらを見てからエリック先生の元へ歩いていった。
俺はアーサーと一緒に並んで座り、ギルダの分析を始めた。




