25話:C級ダンジョン 野営
「2人共お疲れ様。すごいね。たった一日で13階層まで突破しちゃったよ。魔石もすごい数が集まったんじゃない?」
さすがに疲労もたまってきたし、いい時間になったので14階層へ続く階段前で俺たちは野営をすることにした。倒した魔物も今日だけで恐らく優に2万は超えている。換金したら一体いくらになるのか楽しみだ。
「とりあえず見張りの順番を決めようか。誰から何時間交代で行う?」
ダンジョンの魔物を一通りすべて倒したと言っても安心はできない。なぜならここはダンジョンで、最終階のボスを倒して攻略しない限り時間の経過とともにどんどん魔物が生み出されるからだ。俺にとっては経験値が増えるし願ってもないことだが、眠っているときに襲われたらひとたまりもない。しかし、俺には土魔法がある。
「見張りは必要ありませんよ。」
そう言って俺は地面に両手を当てて土魔法を使用し、今俺たちが通ってきた道を壁でふさいだ。これで魔物が俺たちの前に現れる心配はなくなった。俺たちのいる階段前のエリアはダンジョン内で唯一魔物が生まれない場所。そのためその前の道を塞いでしまえば一気にセーフティーゾーンへ早変わりというわけだ。
「おおー!すげえ、道がなくなった。」
「そういえばリン君は土魔法も使えたんだったね。これはいいね。安眠できそうだ。でもこうなると本当に私がついてきた意味がないね…。あ、そうだ代わりに夕食をご馳走しよう。料理の腕には自信があるんだ。」
ミホーク先生はそういうと自身の収納袋から鍋やフライパンなどの調理器具と様々な食材を取り出し調理を始めた。風魔法で一瞬でブロック肉をさいころ型に切り、フライパンにごま油を垂らして炎魔法を用いてこんがりと焼く。その間に水魔法で鍋を水で満たし、キャベツやベーコン玉ねぎといった具材をゆで、そこにパスタを入れて3分。あっという間にニンニクの聞いたサイコロステーキとスープパスタが完成した。
まさかダンジョンででき立ての料理を食べれるとは思っておらず、思わずごくりとのどを鳴らしてしまった。
「さあ、遠慮はいらないよ。今日は疲れただろうからたくさん食べてくれ。」
「「いただきます!!」」
2日間は購買で買ったパンだけで過ごすつもりだったからこれは正直とてもありがたい。スープパスタはパスタの固さが絶妙だし野菜も甘みがあってうまい。なおかつ何の調味料を使っているのかコクがあっていくらでも食べられそうだ。サイコロステーキなんか口に入れた瞬間にジュワっと肉汁があふれ出し、一瞬で肉が溶けてなくなってしまった。
「やばい、ミホーク先生、めちゃくちゃ美味しいです!!そこらのレストランとかより断然うまい!あの、おかわり貰ってもいいですか!!」
「食材にはこだわっているからね~。いいよいいよ、どんどん食べな。喜んでもらえて何よりだよ。」
(これはこの前みんなで言った高級焼き肉店の肉を思い出すな…。もしかしてこの肉はそこで買っているのか…?)
「リン君はおかわりいるかい?」
「いただきます!」
アーサーと俺はミホーク先生の厚意に甘えてスープもステーキも3回ずつおかわりし、今は腹の重みで一歩も動けない状態だ。
「気に入ってくれたようで良かった。じゃあ、明日もあるし今日はもう寝ようか。」
寝るには少し早いが他にやることもないのでミホーク先生が寝ることを提案してくる。
「ちょっと待てください。結構汗をかいたので風呂に入りませんか?」
「いや、そりゃ入れたら入りたいけど…ってまさか。」
俺はにやりと笑ってまた両手を地面に当て、大人3人が入っても十分な大きさの浴槽を作った。そしてそこに炎魔法と水魔法を使ってお湯を張る。そして何となく四方に壁と簡易なドアも作り簡単な銭湯の完成だ。俺たち3人以外に誰も来ないのは分かっているのだが、気持ち的に広い空間で全裸になるのは気が引けるため壁も作っておいた。
「おお、すごい、まさかダンジョンで風呂に入れる日が来るとは…素晴らしい…!」
ミホーク先生は驚きつつ喜んでくれているようだった。さっきのお返しができたようで何よりだ。アーサーはというとだんだん俺の突飛な行動にも慣れてきたのか特段驚いている様子はなく、純粋に風呂に入れることに喜んでいる。
「よし、じゃあお湯が冷めないうちに風呂に入りましょう!せっかくですし背中流しますよ。」
こうして俺たちはみんなで風呂に入った。簡易な椅子も作り湯船につかる前に頭と体も洗う。見た目は本当にミニ銭湯という感じだ。約束通りアーサーと二人係で先生の背中を洗おうとしていると先生の背中に右肩から左腰に掛けての大きい傷を見つけた。見た目的にだいぶ昔の傷の様だ。
「先生、これ、どうしたんですか。」
「ん?ああ、学生時代は私もけっこう無茶な戦い方をしていたからね、その時についた傷だよ。」
俺の質問に先生はなんでもない顔をして答える。でも大きさ的に、下手すると命を落としかねない傷だったはずだ。
「もう痛くはないんですか。」
「うーん。たまに痛んだりはするけど、もうほとんど痛みはないよ。なんだい、私のことを心配してくれているのかい?優しいね。」
アーサーも質問を重ねるがさらっと流された。何となく、あまり触れられたくない問題の様だ。その後は軽く会話をしながら体を洗い終え、3人で湯船につかった。
「はあぁぁぁ~。心身ともにしみわたる~~~。」
この人、こんなおっさん臭いことを言っているがとてもイケメンである。しかもこの人も脱いだらすごいタイプでしっかり筋肉がついていたし腹筋もバッキバキだった。クッソうらやましい。早く俺も6パックになりたい。
「ほんと、気持ちいいですね~。疲れが吹っ飛ぶ~。」
こっちもおっさん臭いがこいつもイケメンでまだ10歳である。ていうか、今さらだが俺の周り顔面偏差値高くないか?イケメンと美女しかいない気がするんだが…。
身体も十分あったまったので風呂から出て着替える。ちなみに着替えはもともと清拭後に着替える予定だったので収納袋に入れて持ってきていた。
「ふう、さっぱりした。リン君ありがとね。じゃあもう寝よっか。寝袋は持ってきているかい?」
「「はい!」」
という事で俺たちは3人寝袋を並べて川の字になって眠ることにした。右から順にアーサー、俺、先生の順番だ。でも2人と少し距離があいているからかなかなか眠れない。
「なあ、アーサー、もうちょっとそっちに行ってもいい?」
「んあ、なんだ、リン、眠れないのか…?」
こそっとアーサーに声をかけるとアーサーは眠りに落ちる寸前だったらしく、むにゃっとした声で返事が返ってきた。
「しょうがないなあ、いいよ。もっとこっちにこいよ。」
アーサーとそんなやり取りをしていると先生の方からクスクスと笑い声がしてきた。
「ふふふ、リン君にそんな一面があったとは。しっかりしているようでもまだまだ子どもらしい面があって安心したよ。」
先生もまだ眠っていなかったみたいだ。カアッと顔が熱くなる。
「どれ、私もまぜてよ。3人でぎゅうぎゅうになって寝よう。」
そういって先生もアーサーの方につめてきて言葉通り3人で俺を真ん中にし、くっついて横になった。
「っふふ、まるで親子か兄弟のようだね。こういう経験も新鮮で楽しいね。」
先生はなぜかずっとご機嫌でクフクフ笑っている。アーサーはもともと夢うつつだったこともあり、すでにもう夢の中だ。本当にいつでもどこでも寝つきがいい。うらやましい。でも俺も2人に挟まれたことで人の体温に安心しだんだん瞼が重くなってきた。そして眠りに落ちる寸前に「おやすみ。良い夢を。」という先生の穏やかな声を聴き意識を落とした。
次の日の朝、目を覚ますと先生はもうすでに起きて身支度を整えており、何なら朝食の準備もしてくれていた。
「あ、起きた?おはよう、よく眠れたかい。朝ごはんの準備ができてるからアーサー君を起こしてくれるかな。食べたらさっそく昨日の続きと行こう。」
朝食も先生の手作りらしく、いろんな具材が挟まったサンドイッチが用意されていた。おいしそうな見た目と匂いにお腹がぐぅぅ~っと鳴る。
先生に言われた通りアーサーを起こそうと隣を見るが、まだ全然起きる気配がないくらい深く眠っている。試しにゆすりながら声をかけてみるがうんともすんとも言わない。だがついこの前優しく起こすと約束したばかりなので乱暴はできない。さて、どうしたものか。
「アーサー。いい加減に起きろ。先生が朝食を用意してくれているぞ。」
「う~ん、もうちょっと…」
「早くしないとアーサーの分も俺が食べちゃうぞ。」
「あと5分だけ……」
「ほんとに食べちゃうぞ。いいんだな?」
「うう~ん……」
何を言っても一向に目を開けてくれない。返事は何とか返ってくるがまだ半分は夢の中といったところだ。
「アーサー君がこんなにも寝起きが悪いとは…。面白いくらい起きないね。」
先生はあきれを通り越して感心してしまっている。
こうなったら最終手段だ。
俺はアーサーの耳元に口を近づけ、できるだけ色っぽい声でつややかに囁いた。
「アーサー。早く起きないと…キスしちゃうぞ…?」
その瞬間アーサーが左耳を抑えて顔を真っ赤にしながら跳び起きた。といっても寝袋を着ていたからうまく起き上がれずそのまま前にペシャっと倒れこんだが正しい表現だけど。アーサーは俺が囁いた左耳としたたかに打ち付けた顔面、特に鼻を抑えながら口をわなわなと震わせながらこちらを見てきた。
「やっと起きた。先生が朝食を作ってくれたんだ。早く食べて支度するぞ。」
おれは何事もなかったかのようにアーサーに話しかけた。
「な、おまっ、今っ…!」
「約束通り優しく起こしたろ?言っとくけど普通の起こし方で起きないお前が悪いんだからな。これで起きてくれなかったらどうしようかと思ったよ」
そういうとアーサーは顔を赤くしながらも押し黙った。
「リン君、何を言ったの?アーサー君の顔がずいぶん赤くなってるけど。」
囁く声で言ったから先生には聞こえていなかったみたいだ。でもニヤニヤしているから大腿の予想はついていそうだ。
「ああ、それは…」
「わー!わー!先生、朝食の準備ありがとうございます!!すっごく美味しそうですね!なかなか起きなくてすみません!!」
何を言ったか説明しようとするとアーサーの声にさえぎられた。どうやら黙っていてほしいみたいだ。
(冗談なんだから別に言ってもいいと思うが、まあ今回だけ黙っといてやるか。)
アーサーは赤くなった顔を手で仰ぎながら誤魔化すようにどうでもいい話題をどんどん振り、俺たちもしょうがなくその手に乗ってやりながら3人で朝食を終えた。そして素早く身支度を済ませてダンジョン攻略を再開するべく14階層へ続く階段を下りていった。




