24話:C級ダンジョンその2
3階層もまたもやゴブリンの巣窟だった。2階層と違うのはゴブリンの体格と経験値。
さっきの階層のゴブリンは大きくても150cm程で子供体型だったのに比べ、この階層のゴブリンはどいつも180cmほどの筋肉質な体型をしていた。
皮膚も硬質でアーサーでも一振でやっと1匹のゴブリンの首が飛ばせるかどうかと言った感じだった。だが、経験値も300~400ほどあるようで経験値の宝庫には変わりない。
これは俺たちみたいに反則技でも使っていなければ囲まれたらひとたまりもないだろう。ダンジョンでパーティーが推奨されているのも納得だ。横穴がとてつもなく多いため、どれだけ警戒していてもこれじゃあすぐに囲まれてしまう。
俺たちは時速280㎞で飛行しているためゴブリンたちは囲む間もなく、それどころか俺たちを視認したときにはすでにミンチか首を飛ばされているといった状況だ。横穴にもゴブリンが出てくる前にどんどん炎魔法や風魔法を盛大にぶち込んでいるので一方的な蹂躙や殲滅になっている。
(どうか安らかに俺たちの経験値となってくれ。)
「あ、レベルが上がった!」
次々とゴブリンを倒しているとどうやらまたアーサーのレベルが上がったようだ。うらやましい。俺も早くレベルアップしたいところだが、アーサーとは必要な経験値の桁が違うのでまだまだかかりそうだ。
アーサーがだいぶ余裕そうにゴブリンを倒し始めたのでまたスピードを上げることにする。
「うわっ、まだ上がんの!?さっきのスピードが限界だったんじゃないのかよ!」
(誰もそんなことは言っていないが?何ならまだまだ上げることもできる。)
アーサーがまだいけそうなので330㎞までスピードを上げてみた。ちょっと剣筋がぶれ始めたがあの調子ならすぐに慣れるだろう。ミホーク先生はなぜかずっと楽しそうだ。カーブの時の遠心力なんかには声を上げて笑っている。今日だけで結構印象が変わった。
「よし、これで3階層も攻略終了だ。」
ひとしきりゴブリンを倒し終え、4階層の階段前に着いた。
「おい、リン!スピードを上げるなら何か合図をしてくれよ!びっくりしたじゃん!」
「いや、なんか余裕そうに見えたからつい。でもやっぱすぐに対応できてただろ?」
「それはまあそうだけどさあ、」
「じゃあこの調子で4階層も行ってみよう~」
俺たちのやり取りにミホーク先生はクスクスと笑っている。アーサーはプンスコしているが気にしない。
4階層では大量のブラックウルフが待ち構えていた。どうやら俺たちが下りてくるのを待ち伏せしていたようだ。こいつらは数10匹の群れで行動するらしく、ひときわ体の大きいボスが群れを統率しているらしい。通常の倒し方は向かって来るブラックウルフたちを倒したり躱したりしながらいち早く魔法士や遠距離系戦闘職の者がボスを倒し、統率が乱れたところでそれぞれを狩っていくのが主流らしい。
”ドッカ――ンッ!”
「キャウウン!!」
「ギャッ!」
「ガフッ!!」
(ま、俺たちには関係ないけど)
俺は容赦なくしょっぱなから炎魔法の”爆発”でブラックウルフたちを木っ端みじんに吹き飛ばした。まだ魔石になっていない者たちには追撃をお見舞いする。ボスを含めてすべて倒したのを確認したら風魔法で魔石を集めて終了だ。
「なんか、ブラックウルフたちに同情します。」
「うん、さすがに私も同感だよ。」
アーサーとミホーク先生が何かを話しながら遠い目をしている。俺は前世から出待ちが大嫌いなんだ。顔には出さなかったがメンバーにはよく雰囲気でバレていた。出待ちにはいい記憶が一つもない。だから今も前世を思い出してちょっとやりすぎた感はあるが後悔はしていない。美味しい経験値をありがとう。
「じゃあ気を取り直していきましょう。」
その後も続々とブラックウルフの群れと遭遇しそのたびに殲滅をしていった。ゴブリンと違ってものすごく素早いので的を捉えるのが難しく、少しスピードを落として時速300㎞で飛行中だ。アーサーの剣裁きもどんどん無駄が減っていく。前から向かってきたブラックウルフを下から切り上げて首を飛ばし、そのまま振り上げた剣を斜め左に振り下ろして別のウルフの首を落としたかと思うとすぐさま右から襲い掛かってきたやつの首に一閃。そしてその遠心力のままに体をくるりと翻しながら同時に3体の首を飛ばす。まるでギロチンマシーンのように流れるような動作で魔物の首を飛ばしていく。本当にほれぼれする剣裁きだ。
(俺も負けてられない。)
俺もできるだけ近くに来たブラックウルフは剣を使って倒していく。でもやはりなかなか狙い通りに斬ることは難しく、倒し損じたものは魔法でとどめを刺す。こんな感じで4階層、5階層と順調に踏破していき、6階層前で1度休憩を取ってから6階層、7階層、8階層、9階層と踏破した。そして現在午後4時過ぎ。俺たちは10階層へと続く階段の前にいる。
アーサーはあれからさらにレベルアップし、今のレベルは32。そして俺も1つレベルが上がりレベル38になった。
「本当に1日で10階層まで来たね。2人にはC級ダンジョンは簡単すぎたかな。」
「ほぼリンのおかげですけどね。簡単ではないですけど結構楽しいです。レベルもどんどん上がるし。」
「本当はそんなさくさくレベルは上がらないんだけどね…。知ってると思うけど次の10階層はボス階層になっているはずだから気を引き締めてね。」
C級ダンジョンからは10階層ごとにボスが出現する仕様になっている。ここを攻略中の他の冒険者からの情報では10階層には体長3mを超える鋭い牙と爪をもったウェアウルフが出現するらしい。
「アーサー、次の10階層は歌わないから好きなように動いてくれ。俺も魔法で援護しつつ好きなように動くから。」
「おう、了解。ってか、声大丈夫か??ずっと歌ってたから声がガラガラじゃないか。水飲んどけよ。」
ほぼ歌いっぱなしだったため声が出しずらい。爺さんみたいな声になっている。アーサーから渡された水筒を受け取りのどを潤す。次の階層はボスしか出てこないし歌は必要ない。のどを休めよう。
(今度からのど飴でも持って来よう。でないとのどが死ぬ。)
「じゃあ行くか、10階層!」
アーサーの元気な掛け声にうなずき、3人で階段を下りていった。
10階層にいたのは情報通り体長3mを超えるウェアウルフだった。毛並みだけ見たらすごくきれいだが顔がいただけない。耳元まで裂けた鋭い牙がのぞく口からはだらだらと涎が零れ落ちており、目はギョロギョロとしている。端的に言って気持ち悪い。生理的に受け付けない。しかも俺と目が合った瞬間目が細まりニヤリと口角が上がった。
「ヒッ」
(ダメだ。思わず悲鳴が漏れてしまった。なんだあいつ。ずっとこっちを見てニタニタしてやがる。)
「あちゃ~。リン君。あのウェアウルフにロックオンされちゃったみたいだね。どうやらあの魔物はかわいい女の子が大好きみたいで他には目もくれず執拗に女の子を攻撃するみたいなんだ。まあ攻撃といってもあいつの狙いは可愛い女の子を自分の番にすることみたいで服を破いて剥ぎ取って犯そうとするくらいなんだけど。」
何か今耳を疑う言葉が聞こえた気がした。空耳だろうか。
「この場に女の子はいないし今回は大丈夫かなと思ったんだけど、あのウェアウルフからはリン君が女の子に見えてるみたいだね。あいつ本当に女の子に対する執着がすごくて、攻撃でも女の子からのものであればめちゃくちゃ喜ぶらしいから、まあ、……頑張ってね☆」
(空耳じゃなかった。え、嘘。変態さんじゃん。おれ、れっきとした男なんだけど。あ、また目が合った。頬を染めんな!なんかハアハア言ってるし。どうしよう、本当に気持ち悪い。)
だんだんとにじり寄ってくるウェアウルフに恐怖心を抱き、青くなってガタガタ震えていると、アーサーが俺をウェアウルフの視界から遮るように前に出た。
「リン。ここは俺に任せろ。あんな奴、俺がすぐに倒してやるから安心して待っとけ。大分レベルも上がったし力試しにはちょうどいい!」
そう言ってアーサーは剣を構えてウェアウルフに向かって行った。
(何あれ。かっこいい。不覚にも少しキュンとしてしまった。)
「はあ~。この前の試験の時も思ったけど、アーサー君は天然人たらしというやつだね。いやあ、将来が末恐ろしいね。」
まったくだ。今この瞬間もウェアウルフがこちらに向かってこないように立ちまわっているし、俺と目が合わないように常に視線を制御している。ウェアウルフもでかい図体のわりにスピードに特化しており、普通のCランク冒険者であればそのスピードに対応するのがやっとというくらいだが、アーサーはずっと時速300㎞越えのスピードの中で剣を振っていたのであの程度のスピードに対応するなんてお茶の子さいさいだろう。
宣言通りウェアウルフを翻弄しながらどんどん体に傷をつけていき、1分と立たずに討伐してしまった。アーサーは剣に付いた血を振るって落とし、鞘に剣をおさめ、小走りで俺のところに戻ってきた。
「リン、大丈夫か。もう倒したから安心しろよ。さ、宝箱を確認しに行こうぜ!」
ニカっと安心感のあるまぶしい笑顔で笑いかけてくる。ウェアウルフを一人で倒したことを自慢するでもなく、逆に俺を心配するなんて。マジで人たらしにもほどがある。
アーサーは俺の手を引いて宝箱が出現するであろう部屋の真ん中に歩いていく。ミホーク先生も俺たちの後ろをクスクスと笑いながらついてきている。おそらく俺の耳が赤くなっているのを見て笑っているのだろう。くそっ。
部屋の中央に着くとタイミングよくその場が光り出し宝箱が現れた。
「金箱だ!!!!!」
でてきたのは何と金色に輝く宝箱だった。俺も初めて見る。ミホーク先生も「これは珍しい...」と息を漏らしている。今回10階層はアーサー独りでクリアしたので開けるのをアーサーに譲る。
「じゃ、じゃあ、開けるぞ…」
3人で宝箱を囲み、アーサーが恐る恐る蓋を開けた後、中身を確認する。すると中から出てきたのは白く光り輝く大剣だった。ここには鑑定士がいないので剣の詳細は分からないが神々しく輝くその剣はおそらく伝説級アイテム。風格が違う。
「すごいのが出てきたね。これ多分伝説級のアイテムだよ。もしかしたら神話級かもしれない。明日帰ったらハンスさんに見てもらったらいいよ。で、どっちがこの剣を持つの?」
「アーサーが持ちなよ。この階層のボスを倒したのはアーサーだし、職業的にもアーサーが持つのがふさわしい。」
「え、いやいやいや、確かにウェアウルフは倒したけどここまでの貢献度は圧倒的にリンの方が高いし、リンだって剣を使うだろ?こんなすごそうな剣、おいそれともらえないよ!」
アーサーは心の底からそう思ってますというように身振り手振りを交えて身を引こうとする。どこまでお人よしなんだ。こうなったらいつもの手を使うか。
「アーサー、さっきは本当にかっこよかった。俺を守ってくれてありがとう。そしてこれからもああいう敵や倒すのが難しい敵が出てくると思うんだ。その時もどうかこの剣で俺を守ってほしい。ダメ、かな?」
光り輝く剣をアーサーの手に渡しながら一緒に手をぎゅっと握り小首をかしげて上目遣いでアーサーを見上げる。アーサーがこの顔に弱いことはもう把握済みだ。
「だからその顔はずりぃって!!わかったよ。じゃあ有難くこの剣は使わせてもらう!後から文句いてももう渡さないからな!」
アーサーは顔を赤らめながらやっと剣を受け取った。大勝利だ。ミホーク先生は後ろで腹を抱えながら呼吸困難に陥っている。
アーサーは今まで使用していた剣はそのまま腰に差し、今新たにゲットした剣は腰に差すには大きすぎたため、背中に背負う形にしている。アーサーは10歳にしては体格が大きい為、俺が持つと引きずってしまいそうな剣を普通に背負えている。
(なんか悔しい。俺にも早く成長期来い。)
夕食にはまだ少し早かったのでその後も俺たちはアーサーが新しい剣に慣れるのも含めて11階層から13階層を攻略し、14階層へ続く階段前で夜を過ごすことにした。




