23話:C級ダンジョン
「うぎゃああああああああああ!!!」
朝一番、耳元で大音量で叫ばれた時、皆さんは何を思うだろうか。
「うるさい」
俺は思うより先に手が出るタイプだった。思わず殴り飛ばしてしまった。
「おまっ、えっ、えっ…?なんで俺お前を抱きしめて…???てか、え?なんか目赤くない??ええええ~~????」
俺に殴られた頭を抑えながら大変混乱していらっしゃる。どういうことかをアーサーの視点から説明すると、朝寝返りを打とうとしたが打てずその寝苦しさに目を覚ますと自分の腕の中に寝ている俺がいたというわけだ。もっと細かく言うと互いに向き合った状態で自分の左腕には俺の頭が乗っており、右手は小さく丸まった俺の身体の上に抱きしめるように乗っていた。しかもその俺の目元は赤く腫れている。これが年頃の男女だったらはっきり言って事後だろう。
だがなんてことはない。俺はあの後泣き疲れたうえにアーサーの体温に安心して寝落ちしてしまい、アーサーも無意識にポカポカとした俺の子ども体温に引き寄せられただけというわけだ。
「おはよ。アーサー。今日はちゃんと一人で起きられたじゃん。じゃあさっさと準備していこう。今日は楽しいダンジョン攻略だ。」
俺はまだ混乱しているアーサーをよそにさっさと顔を洗い歯を磨いて支度をする。
「あ、そういえば今日の服装って体操着でいいのかな。」
「いいと、思う…」
だんだんと落ち着いてきたみたいだ。まだぼーっとしているようだが少しずつ支度を進めている。まあそのうち慣れるだろう。自分で言うのもなんだが俺は夜泣きの頻度が高いからな…。これからもお世話になります。
そんなこんなで俺たちは支度を終え体操着でスタジアムに向かった。体操着も制服と同様、黒い生地に赤のラインがところどころに入ったシンプルでかっこいいデザインになっている。ストレッチ素材で動きやすいし結構気に入った。
スタジアムに集合した後はそれぞれ基礎演習組、ダンジョン攻略組に分かれて、ダンジョン攻略組はさっそくそれぞれのダンジョンに向かって出発した。ダンジョンに行くのは俺たちのクラスから5人、他のSSSクラスからもそれぞれ3~5人ずつが選抜されていた。純粋な実力や基礎体力だけで見たらSSS1クラス以外にも優秀な生徒がたくさんいるようだ。俺たち以外は全員近くのE級ダンジョンにクラスごとにパーティーを組んでいくらしく、各パーティーにそれぞれのクラスの担任がついて行くそうだ。ただ、俺たちは2人でC級ダンジョンに行くというのもあって安全のためにミホーク先生とエリック先生二人ともがついてくる関係でギルダ達にはSSS2クラスの副担任であるアネッサ先生がついてくらしい。他の生徒と各クラスの副担任はこのままスタジアムで基礎演習となる。
俺たちが今から行くC級ダンジョンは少しだけ学園から離れており、移動時間がもったいないとのことでテレポートアイテムを使用した。
「おお、ここがC級ダンジョン…。見た目的にはE級やD級とそんなに変わらないな。」
アーサーが周囲を見渡して独り言のようにつぶやく。
「まあね。実際最初の方はE級の魔物しか出てこないし洞窟内もほぼ1本道だから迷う心配はないよ。でも数だけは多いし階を重ねていくとランクの高い魔物が出てくるから気は抜かないようにね。まあ、今日と明日の2日間だけでは1階も攻略できないと思うからのんびりいこう。」
ミホーク先生がアーサーの言葉にゆったりとした口調で答える。この前も思ったが”先生”として話すときとそうでない時では口調が変わるようだ。
「なんでもいいから早く行こうぜ~。あ、つっても俺たちはよっぽどお前たちが危険にならない限り手出しはしないからそこだけ頭に入れとけよ。ま、お前たちなら大丈夫だろうが。」
エリック先生が大きなあくびをしながらいう。とても眠そうだ。
というわけで今日はアーサーと二人でパーティーを組み、ダンジョンを攻略することになる。先生たちとはパーティーを組んでいないため俺たちが倒した魔物の経験値はすべてアーサーと俺との2人で山分けだ。
(絶好の経験値獲得日和だ。)
「先生、2日で1階だけなんてそんなもったいないことはしません。目標は高く、今日中に10階層を目指します。」
「10階層?おいおい、1階だけで一体どのくらいの広さがあると思ってんだ。ざっと150㎞はあるんだぞ。大人が普通に歩くだけでも余裕で3~4日はかかるってのにそれを魔物を倒しながらどうやって10階層まで行くんだよ?」
「へえ、興味深いな。私もどうやって行くのか気になります。」
「ま、まさかリン。ここでもこの前のやつをやるのか…?先生たちもいるしやめておいた方がいいんじゃ…」
上から俺、エリック先生、ミホーク先生、アーサーの順で話している。アーサーは少し顔を青くして口元をひくつかせている。
「もちろんやるに決まっているだろ。大丈夫。最初はゆっくり行くから。先生たちもちょっと失礼しますね。では行きますよ。」
そう言って俺は”Wind”を歌い始め、ダンジョン攻略を開始した。
「こぉぉぉれのどこがゆっくりなんだよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!」
いやいやいや、まだ時速100㎞程度しか出してないしこの前に比べたら全然遅い方だろ。歌っている最中なので言葉を返せないため、魔物を風魔法で倒しながらアーサーを振り返り顔だけで意思疎通を図ってみた。そしたらアーサーはお前の感覚は狂ってる!とプンスコしていたので意思疎通は失敗したらしい。
先生たちはというと、
「あははははははっはははっはっはっはっはっはっは!」
「うぎゃあああああああぁぁぁぁっぁぁぁぁっぁぁぁっぁぁぁっぁぁぁっぁぁぁっぁ!!!!!!!」
二人とも正反対の反応をしていた。どこかで見たような光景だ。とてもデジャヴ…。
どっちがどっちかというと、上がミホーク先生で下がエリック先生だ。ミホーク先生はそれはそれは楽しそうに飛びながらお腹を抱えて笑っている。笑いの一因には今にも気絶しそうなほど叫んでいるエリック先生もあるようだ。指さしながら笑い転げている。
(この人ゲラだったのか…?)
反対にエリック先生はそんなミホーク先生に怒る余裕もなく叫び続けている。曲がり角が来て曲がるたびにこの世の終わりのような悲鳴を上げている。
(エリック先生はもしかしなくても絶叫系が苦手だな…?)
アーサーと言えばそんなエリック先生を過去の自分を見るような大変気の毒そうな顔で見ている。
そして飛び始めて20分。気づけばミホーク先生の死にそうな笑い声しか聞こえなくなり、エリック先生もやっと慣れたのかと思って後ろを振り返ると何と白目をむいて気絶していた。ミホーク先生は過呼吸になりかけ、えずきながらもまだひいひいと笑っている。俺は慌てて歌を終え、そっとエリック先生を地面におろし駆け寄る。アーサーも異変に気付いて駆け寄ってきた。
(た、魂が抜けてる……!!)
まさかここまで苦手だとは思わなかった。エリック先生の口からエリック先生の魂がこんにちは、そしてさようならしかけている。どうしようかと思っていると漸く笑いの波から抜け出したミホーク先生がおもむろにエリック先生を抱え、
「しょうがない、エリック先生を宿舎に戻してくるので2,3分だけ待っててもらえるかな。」
と言ってアイテムを使い、一瞬でその場から消えた。そして言葉通り2,3分後にまたフッと戻ってきた。
「お待たせしました。いやあ、エリックがあんなに叫ぶなんて面白いものを見せてもらったよ。ああ、彼は宿舎で寝かしてきたので心配ないよ。じゃあ、さっきの続きと行こうか。私はどれだけスピードを出しても構わないから二人の好きに攻略を進めるといい。本当に危険なとき以外は手を出さないから頑張ってね。」
「はい、分かりました。」
という事でまた俺はユニークスキルを使用し、ダンジョン攻略を続行した。ミホーク先生に遠慮はいらないと言われたので一気に280kmまで速度を上げる。
「俺にも確認を取れよぉぉぉぉ!!」
アーサーが何かを叫んでいるが叫びながらも魔物を倒せているので問題は無いだろう。1階層は先生が言っていた通りE級の魔物しかいないようでなんの危険もなくどんどん倒せている。ただ数だけは多いので取りこぼしがないように常に風魔法は展開中だ。
俺はこの前と同じく、自分たちの近くの魔物は全てアーサーに任せ、アーサーの剣が届かないところの魔物を優先的に風魔法でミンチにしている。たまに魔力を消費するために炎魔法も交えながらおよそ1時間ほどで1階層を攻略し終えた。
そして永遠に"Wind"をリピートしていたお陰でアーサーとミホーク先生のステータスも3上がったようだ。
「ハンスさんから聞いてましたが、本当にリンくんの歌を聞くだけでステータスが上がるんだね。魔力が少し増えたのを感じるよ。」
俺は無意識にアーサーとミホーク先生を仲間だと認識していたようで2人とも多分3ずつステータスが上がったらしい。アーサーは攻撃力が上がったようだ。俺のミッションのカウントも増えている。
「リン、5分でいい、5分でいいからちょっと休ましてくれ……。少し酔った……おえ。」
2階層への階段前でミホーク先生と話しているとアーサーがグロッキーになっていた。この前のD級ダンジョンと比べてだいぶカーブが多かった為悪酔いしたようだ。でも酔いながらだもバッサバッサ魔物を倒せてたのはすごいと思う。
ということでアーサーの希望通りきっちり5分休んでから2階層の攻略を開始した。
2階層はゴブリンの巣窟のようになっており至る所に横穴や罠のようなものが見られた。横穴には炎魔法をぶち込んでゴブリンを殲滅し、たまに飛んでくる弓矢はアーサーが切り捨てるか俺の風魔法で防いでいる。
そもそもスピードがスピードなので罠が発動した瞬間にはもう既に通り過ぎていることがほとんどだ。
たまに道いっぱいにゴブリンがぎっしり詰まっていることがあり(大変気持ち悪い)、その時はアーサーの聖剣で蹴散らして道を作り、俺が残りを炎魔法で焼却している。
(流石に炎魔法で燃やしているところに突っ込んだり風魔法でミンチにした血肉を浴びるのは嫌だからな。)
しかもこれを俺が歌っているせいもあり、なんの打ち合わせもなく行っているので、ミホーク先生からは感嘆の声が聞こえてくる。
これで出会ってまだ1週間ちょっとというのが自分でも驚きだ。ほとんどアーサーが俺に合わせてくれてるので成長速度から見てもこういうのを本当の天才と呼ぶんだろう。本当に今世も良縁に恵まれた。
(それにしてもこの階層はなかなか美味しいな。永遠にこの階層をリピートしたいくらいだ。)
この2階層にでてくるゴブリンは1匹あたり経験値が200以上あるのがほとんどらしく、倒す事に経験値が100以上入ってくるのだ。
横穴に炎魔法をぶち込んだ時なんか一気に3000程経験値が増えたりもして気分はウハウハだ。
瑠偉くんがこういうゲームにハマってたのが今ならとてもわかる。実は目の前にステータス画面を出しながら魔物を倒しているんだが、経験値のところがぐんぐん増えていっているのが楽しくて仕方ない。これは病みつきになってしまう。
今歌ってなかったらおそらく気持ち悪い笑い声が出て2人に引かれていたことだろう。
アーサーも順調にレベルアップしているようで動きにもキレや余裕が出てきた。
アーサーを見ていると俺も剣を振りたくなってきたので腰に挿していた剣を抜きゴブリンが通り過ぎる瞬間に合わせて剣を振る。が、しかしアーサーのように上手く仕留めることができない。アーサーはよくこのスピードで的確にゴブリンの首を飛ばせているものだ。しかも一振で一気に3匹の首を飛ばしたり、そのまま切り返してまた別のゴブリンを仕留めたりと動きに無駄がない。
(チクショウ、かっこいいな……。俺も負けてられない。)
そう意気込んで魔法も駆使しつつ、可能な限り剣を使うが半分ほどしか思うように仕留められず、結局は魔法で倒している。
そうこうしているうちに2階層も攻略を終え、3階層前に着いた。
「ミホーク先生、この前お願い聞いてくれるって言いましたよね?」
「え?ああ、うん、言ったね。」
「時間がある時でいいので俺に剣の使い方を教えて欲しいです。」
そういうとミホーク先生は一瞬キョトンとして
「え?僕でいいの?知ってると思うけど僕の専門は剣じゃないよ?それならエリックの方が適任じゃないかな。」
「ミホーク先生の戦闘スタイルは俺のとすごく似ているし剣術だって俺より遥かに上です。俺の理想は魔法を使いながら剣でもランクの高い魔物と戦えるようにすることです。でも今ので俺は2つを同時に扱うことの難しさを知りました。なのでその戦い方を教えてください!」
「リンだけずるいぞ!俺も教わりたい!それにどこまで強くなる気だよ。俺に追いつく隙を与えてくれよ。」
アーサーが地べたに座りながら抗議してくる。
「アーサーくんは私よりエリックの方が適任でしょう。エリックには私から頼んでおきますよ。それに見たところ、剣術に関してはアーサーくんが飛び抜けて学年トップの実力を持っている。だからこそリンくんは悔しくて私に師事を仰いだ。そうだよね?」
「え、そうなのか!?」
(おい、嬉しそうにするな。)
「……そうです。アーサーにも負けたくないので……。」
「俺だって負けないからな!というか剣術で負けたら俺の立つ瀬がないだろ!!」
俺たちの掛け合いにミホーク先生が微笑ましいと言った顔で見てくる。
「指導に関しては分かったよ。また学園に戻ってから話そうか。今はダンジョンを攻略しよう。今日中に10階層まで行くんだろ?」
「はい。」
そうして約束を取り付けた俺たちはまた3階層の攻略をスタートした。




