17話:D級ダンジョン
入学式前日。
俺とリサ、ジン、アーサーの4人は早朝からD級ダンジョンに来ていた。
俺は前回の審査の通りAランク。ジンはBランク、リサはCランク。そしてアーサーはまだランク審査は受けていない(通常は学園卒業時に受けられる)ためランク無しだ。
本当であればアーサーが入れるダンジョンはE級のみだが俺にリサにジンとCランク以上の冒険者がいるためアーサーもD級ダンジョンに入場することができる。
最近はずっと試験勉強ばかりでダンジョンにくることができずレベルアップできていなかったので今日はレベルアップを目標にダンジョンに来ている。
本当は俺もAランクになったことだしジンと2人でB級ダンジョンにでも行こうかと思っていたが、アーサーが自分も行きたいと言い出したことと、急にEからB級にランクを上げるのも何があるか分からないし段階を踏んでいこうとのことでまずはD級に挑戦することになった。そしてリサも1人で待っているのも退屈だし、とのことで4人でD級ダンジョンに潜ることになったのだ。
今日は臨時で4人でパーティーを組み、スピードと効率重視で攻略を進める。つまり俺がスキルで魔物をどんどん倒し、3人はそれに全力でついてきてもらうという風に俺が基本3人をキャリーする形をとるのだ。
と言っても3人とも実力は十分なので俺が疲れた際はスイッチしてもらおうかな。
そんなことを考えていると急な浮遊感に襲われた。
「……父さん?」
「ん?どうした、リン?」
「いや、どうしたじゃなくて…なんで俺を抱えているの…?」
犯人はジンだった。ジンはおもむろに俺を抱きかかえ、片腕の上に乗せている。
「え?いつもこうやってダンジョンに行っていただろ?」
「いやいやいや、それは5歳くらいまでの話でしょ。最近は一緒に歩いていたじゃん。」
そういうとジンは唇を尖らせて抗議してくる。
「だって、明日から当分はリンに会えないんだぞ!?こうやって一緒にダンジョンにも潜れなくなるんだぞ!?今日ぐらいいじゃん!!俺にリンを補充させてくれ!」
もうすぐ三十路を迎える大の大人の全力の駄々こね程みにくいものはない…と思っていたが、ジンは顔が良い分まだマシだった。チベスナ顔になってジンを見ているとブハッという笑い声が聞こえてきた。アーサーだ。顔を背けて肩を震わせている。おい、笑わないで助けてくれよ。
「いいんじゃない?自ら足になるって言ってるんだからこき使ってあげなさい。それにリンもずっと歌いながら動くと疲れるでしょう。」
(まあ確かに、こっちの方が楽っちゃ楽だが…。)
結局リサの説得とジンのしつこい駄々こねに負けて今日は一日ジンに抱えられてダンジョンを攻略することになった。アーサーはずっと笑いをこらえているのか口元がヒクヒクしている。
(後で覚えとけよ。)
俺たちが今日挑むD級ダンジョンは学園の近くの森に発現したダンジョンだ。そのため学園の生徒たちを含め既に何組かのパーティーが攻略中とのことでパーティーごとのポータルが数個設置されている。
(最高階数は16階か。攻略まで早くてあと20日ってとこか。)
D級ダンジョンはE級ダンジョンと同じく中はほぼ岩肌でできており、けっこうな広さがあるため大量に出てくるモンスターを倒しながらだと1階層を攻略するのにだいたい5日ほどかかる。そのためダンジョンに潜るときは宿泊用の道具が必須なのだが、俺たちは今日だけしか潜れないので食料以外ほぼ手ぶらだ。
でも1階層だけで終わるなんてそんなもったいないことはしない。今日の目標は10階層までの攻略だ。
「今日は”Wind”メインで行こうと思う。1階層当たり1時間での攻略を目指そうと思う。」
そういうとジンは慣れたもんで同意を示し、リサも少し驚きながらもうなずいてくれた。アーサーは「は!?1時間!?無茶だろ!!」とさすがに信じられないといった様子だったが、まあ体感してもらった方が早い。ということで
「じゃ、始めよう。」
俺は”Wind”を歌い始めるとともに全員に風魔法をかけてそのまま猛スピードで進みだした。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
「ははっ!何回してもこれは楽しいなあ!」
「あはははは!何これ、すごい!!」
上からアーサー、ジン、リサの順番だ。ジンは今まで何回もダンジョンでこの方法で攻略したことがあったため慣れているが、アーサー、リサはこのスピードで飛ばすのは初めてだ。しかしリサはさすがというかこの状況を楽しんでいる。スピードとか浮遊感的にはジェットコースターを想像してもらうと分かりやすいだろう。アーサーは、うん、さっき爆笑した報いを受けろ。
そして俺は次々と現れる魔物たちを風刃や風玉で1匹残らず倒していく。魔物たちがどんどん首をはねられたりミンチのようにぐちゃっとなって消えていく。もちろんすぐに肉体は消えて魔石だけになるのでまだマシだが一瞬はやはりグロイ。それも相まってアーサーの顔は蒼白だ。でもこれが一番効率がいいのでやめない。魔石の回収も風魔法でできるのでスピード重視のときは”Wind”に限る。
ジンはこのスピードにも結構なれているので近くに来た魔物は剣でタイミングを合わせてぶった切っている。はっきり言って動体視力が半端ない。Dランクの魔物だとジンの攻撃一発で消えるので取りこぼしの心配もない。なので俺は身の安全はジンに任せて遠くにいる魔物をどんどん倒していっている。
リサはたまに小石とかが飛んできてできる切り傷をその都度治してくれている。アーサーはまだ顔が青いがさっきよりマシになってきている。少し慣れてきたみたいだ。
こうして魔物を倒すこと40分ちょっと。1時間もたたずに1階層を攻略することができた。この間にアーサーはレベルが1上がったらしい。こんなにすぐレベルが上がったことにとても驚いていた。でも、1階層だけで魔物を約1000匹は倒したから1人当たりの経験値はだいたい4万くらいになったし妥当だろう。
アーサーもだいぶ慣れてきたようだし、2階層ではもっとスピードを上げるか。
そして、2階層。だいたい今の時速は150キロくらい。さっきまでが120キロくらいで飛んでたから30キロほどスピードを上げたことになる。アーサーは「まだはやくなんのかよぉぉぉぉぉー!!!」と叫んでいたが気にしない。さすがにそのままだと目を開けてられないので全員を空気の膜で覆って保護している。俺って優しい。
ジンとリサはまだまだ余裕そうだ。笑いながら魔物をなぎ倒している。楽しそうで何よりだ。でも本当にジンの剣裁きはすごい。こんなにスピードを出しているのに百発百中で魔物の核を的確に破壊している。そしてなぜかこんなにも切っているのに俺が魔物の返り血を浴びることは1回もなかった。逆にジンは血みどろだ。
(いや俺を抱えながら切ってんのに俺だけ身ぎれいってどういうこと?すごすぎない??)
リサもリサで何と近くの魔物を杖で殴り飛ばしている。ホームランのように魔物が飛んでいき消えるさまはギャグマンガのようだった。アドレナリン全開になっているのか高笑いしながら殴り飛ばしているさまはちょっとした恐怖を感じさせる。アーサーもちょっと引いた顔をしていた。
そしてまた2階層も40分かからないくらいで攻略することができた。
(これ、上手くいけば今日中にD級ダンジョン攻略できたりして…?)
3階層ではまたスピードを上げて今度は時速180キロくらいで飛んでみた。アーサーはもう悟りを開いたような顔をしている。でもさっきもあのスピードで何匹かは魔物に剣を当てることができていたしやっぱりアーサーも運動神経は化け物並だ。このスピードで魔物をちゃんと切れるようになれば剣術は爆上がりするだろうし当分は敵なしになるだろう。
ちなみに3階層までずっと永遠に”Wind”をループして歌っており、だいぶ飽きてきたのでさっきからところどころアレンジしながら歌っている。ジンとリサはそれに大喜びでノリノリで魔物をなぎ倒している。アーサーも自棄になりながら剣を振り回している。今は5回に1回くらいの確率で魔物に攻撃を与えることができている。成長がすさまじい。
こんな調子で改装を攻略するごとにスピードを少しずつ上げていき、最終的に280キロまでスピードを上げた。これ以上はジンでさえも魔物を切るのが難しくなったのでやめておいた。でもこれで1階層当たり約20分で攻略することができるようになった。
そして、昼過ぎにはすでに9階層まで攻略を済ませることができた。5階層くらいまではEランクの魔物しか出てこなかったが、6階層当たりからDランクの魔物も混じるようになってきたので稼げる経験値も多くなりホクホクだ。また、5階層攻略が終わるころには俺は久しぶりにレベルアップを果たし、Lv37になることができた。ジンやリサも1ずつレベルアップできたみたいだ。
ちょうどお腹もすいてきたのでここで昼休憩をとることにする。俺たちは周囲一帯の魔物を倒した後、腰を下ろしリサが作ってくれた昼食を広げる。俺の好きな葱の入った卵焼きに鶏肉の竜田揚げ、ジャガイモのベーコン巻きにきんぴらごぼう、れんこんのつみれ焼きなどなど豪華な具材が盛りだくさんだ。
「今日は張り切っていっぱい作っちゃったからたくさん食べてくれると嬉しいわ。アーサー君も遠慮しないで食べてね。」
「ありがとうございます!俺もう腹ペコペコで…すごい美味しそう、いただきます!!」
アーサーの声に合わせて俺たちも手を合わせバクバクと弁当を食べた。途中アーサーとおかずの取り合いをしながらあっという間に弁当は空になった。
「よし、じゃあ腹ごしらえも終わったし、10階層の攻略に進もう。」
「もう行くのか!?もうちょっと休憩しない?普通1階層当たり5日はかかるってのにたった4時間ちょっとで9階層分も攻略したんだ。もう少し休んでも罰は当たらないと思う!」
「そうよ、リン。それに食べてすぐ動くと消化に悪いわ。せめてあと20分くらいはゆっくりしましょう。」
二人の説得にジンの顔を見ると、ジンもうなずいたのでしょうがなく20分休憩をとることにする。
(のども少し疲れてたしちょうどいいか。)
と自分を納得させているとまたひょいっとジンに抱きかかえられた。
(父さんは俺をぬいぐるみか何かだと思っているのか?)
俺はジンの胡坐の上に乗せられ後ろから抱きしめられる形で拘束された。アーサーがニマニマとみてくるのが腹立たしい。
「何、父さん。」
「ずっと歌いっぱなしで疲れたんじゃないか?20分経ったら起こしてやるからちょっと寝といたらどうだ?」
上を見上げるとジンが寝とけというので言葉に甘えて仮眠をとることにする。昔からジンの腕の中に入ると安心感からかすぐに眠ってしまっていたが、今回も寝ようと思って10秒もたたないうちに意識を飛ばしてしまった。俺が寝ている間の3人の微笑ましそうな視線に気づくことなくそれはもうぐっすりだった。
そして20分後、ジンに起こされてまた俺たちはD級ダンジョンの攻略を開始した。




