13話:クラス分けテスト④の2
(さて、30対1か。ユニークスキルが使えない以上、魔法を連発することはできない。どう戦うか。)
アーサーがやられて思わず大口をたたいたが、戦略は実は何も考えていない。だが、自信がないわけではない。
(成績上位者で学園長から直々に選抜されたとなるとレベル自体も俺より高いのだろう。と言っても、俺みたいなユニークスキルもなく、学園に通いながらパーティーを組んでダンジョン攻略をするとなるとせいぜい40前後ってところか。)
レベル40に到達するにはざっと合計で6000万以上もの経験値が必要になる。ランク審査を受けるまで、つまり学園を卒業するまでは誰か高レベルの付き添いがいないと全員E級ダンジョンしか潜れないため、1匹当たり100前後しか経験値がもらえないE級ダンジョンではなかなかレベルを上げるのは難しい。超レア職業の勇者や聖女、俺みたいな複数ユニークスキル持ちといった特例でもない限り、ランク審査自体学園を卒業しないと普通は受けられないのだ。これは未来ある子ども達を無為に高ランクダンジョンで死なせてしまうことを防ぐために法律で定められている。そのため、上級生たちのレベルは高く見積もっても45あたりが妥当だろう。
だが、レベルが俺より高いからと言って俺より強いとは言えない。なぜなら俺にはレベルアップごとに貰えるステータスポイント10に加え、ミッションクリアでもらえるポイント5があるからだ。生まれた時のステータスは人によって多少の差はあれど、だいたいどの項目も0~10前後だ。そこからレベル45まで上がったとすると全部でもらえるステータスポイントは450。これが俺とは違ってランダムに体力・魔力・知力・攻撃力・耐久力・敏捷・運の7つの項目(魅了があるのは俺だけらしい)に振り分けられるため、均等に振り分けられた場合、一つの項目当たりのステータスは65~80ほどになるだろう。まあ、職業に合わせて剣士なら攻撃力、盾士なら耐久力、魔法士なら魔力といった風により必要な項目に多めにステータスが振り分けられるため、一番高い項目で100前後、そのほかは60前後といったところか。
ここで俺のステータスを思い出してほしいのだが、俺は5歳で初めてミッションが出てからこの5年間、いくつものミッションをクリアしてきた。そしてミッションはクリアしたときの振り分けられる項目があらかじめ決められていたため、自分で積極的にステータスを上げていた魔力以外も必然的にステータスが上がっていた。その数値はほとんどの項目で300超え。なので、上級生のステータスと比べると恐らく一番高い項目でも3倍もの差があることになる。
(自分ではほとんど魔力にしかステ振りしてこなかったからミッションがなかったらやばかったかもな。)
鑑定の儀ではみんなレベルやユニークスキルに目が行き、各ステータスに注目があまり行かなかったため言及はされなかった。だから学園長もそこまでは考えられなかったのだろう。実際の俺のステータスからするとLv230くらいの人と同じくらいのステータスといえる。
だからまあ、一言で言うなら上級生が何人かかってこようとも余裕だという事だ。
こんなことを考えているうちに軽くもう5人倒してしまったしな。
俺の攻撃力は340あるため、3~4回ほど剣で攻撃をすると相手のバッジの耐久力を0にすることができる。0にした後は死なない程度に攻撃を加えて気絶させればOKだ。敏捷も355あるため、相手には俺の攻撃はほとんど見えなかったことだろう。
他の上級生たちも気づいたら5人倒れていたという状況にぽかんと口を開けて間抜け面を曝している。
「どうしました?かかってこないんですか?僕を倒すんじゃありませんでしたっけ?」
少し挑発をするとアーサーの顔面を殴りやがった赤髪短髪野郎がはっとして周囲に声をかけた。
「おい!ぼーっとするな!囲んで全員で一斉にかかれ!」
その声に周りも我を取り戻し、一斉に攻撃態勢に移る。最初は四方八方からの遠距離攻撃だ。魔法や矢が無数に飛んでくるが俺はそれを最小限の動きで避け、避けきれないものは剣ではじいたり叩き落したりしながら近くに寄ってきた近接型の上級生たちを次々と剣で気絶させていった。
今残っているのはさっきまでアーサーと戦っていた、アーサーに故意に危害を加えた10人だ。あえてこの10人を最後まで残した。
彼らはぜーぜーと息を切らしながら俺をにらみつけている。
「あれ?どうしたんですか。こんなものですか。正直がっかりです。僕たちにあんなに偉そうなことを言っておいて…笑わせますね。あなたたちがこの学園の成績上位者だなんて。上が腐っているから下も腐るんですかね。あなたたちのような者が将来高ランク冒険者になると考えると世も末です。権力を笠に着て他者をないがしろにするようなその腐りきった性根、俺がたたきなおしてやりますよ。」
自分でも思っていた以上に腹が立っていたのか、口からどんどん言葉があふれてくる。口調も気を付けてはいるが乱暴なものになってきていた。
「言わせておけば、調子に乗るなよ!」
アーサーに恥をかかされていたやつが言葉を返してくる。
(言葉のボキャブラリーが少ないな、それしか言えないのか?)
「うるせぇ!!」
おっと、心の中で言ったつもりが口に出ていたようだ。顔を真っ赤にしたそいつが剣を振りかざしながら近づいてくる。手元を見るとまた砂か何か握りこんでいるようだ。
(いう事もやることも変化がないな。同じ手が通用するとでも?)
案の定、剣を振りかざすと見せかけ、手に握っていた砂を目に向かって投げてきたが宙返りの要領でかわし、そいつの頭上を越すときにアーサーがしていたようにそいつの頭を前方に思いっきり押して転ばせた。
「へぶっ!!」
もともと砂を投げるときに重心が前に傾いていたのもあり、そいつはまたもや顔面から地面に突っ込んだ。そして間抜けな声も漏らしていた。
その様子に思わずといったように他の受験者たちからかすかな笑い声が漏れる。その声にそいつは耳まで真っ赤にしながら起き上がり大声で喚き散らした。
「誰だ!今笑ったやつは!!出てこい!父上にいって縛り首にしてやる!」
「そんなこと、させませんよ。それにあなたもさっきまで同じように他の子たちを転ばせて思いっきり笑ってましたよね?因果応報。目には目を、歯には歯をってやつですよ。」
「さて、じゃあそろそろこんな茶番終わらせましょうか。そういえばさっき、あなたたちは執拗にアーサーの顔面や目を狙って攻撃してましたよね?それにわざとバッジのダメージが490を超えた時に一斉攻撃を加えてました。もしかしなくてもアーサーに怪我を負わせようとしてたって事ですよね。……お前らも同じ目に合ってみるか?」
「「ひいっ!!」」
俺の言葉に残りの上級生のうち何人かが悲鳴を上げた。他の奴らもガタガタと震えている。多分今人にはあまり見せられない顔をしているんだと思う。まだこの体は声変わりも終わってないのに俺自身もびっくりするくらい低い声が出たし。
とはいえ、今の俺が怒り任せに攻撃を加えると最悪の場合ステータス差から殺してしまうだろう。なので何とか心を落ち着けつつ、でも最大限ビビらせながら一人一人気絶させていった。
(次はアーサーの目を執拗に狙っていたやつだ。)
「お前、アーサーの目ばっかり攻撃してたよな。他の子に対しても。同じ目に合わせてやるよ。」
そういって剣を地面と平行に構え、一気に相手の目に向かって突き刺す要領で3度攻撃を加えた。
「これでバッジのダメージが1000に達したな。次の攻撃はバッジが肩代わりしてくれないようだ。お前が見る最後の顔は俺の顔になるだろう。」
そう言って俺は4度目の攻撃を加えるふりをして目ギリギリのところで寸止めした。でも角度の問題から他の上級生たちからは本当に目に攻撃しているように見えただろう。
(おっと、ちょっとやりすぎたかな。まあいっか。次だ。)
そいつはお漏らしをしながら白目をむいて気絶していた。そのまま後ろに倒れていたから頭も思いっきり打ったことだろう。
「君はなぜかずっと顔にばっかり炎魔法を放っていたね。顔を焼く趣味でもあるのか?」
次は炎の魔法士の女だ。こいつもずっと他の子も含め顔にばかり炎魔法を放ち、アーサーのときはバッジが赤く光ってからも何度か魔法を顔に向かって放っていた。おそらくアーサーの頬のやけどはこいつのせいだ。
「ち、違うの、学園長に言われて仕方なくしてただけなの!!謝るから許して!それに私は女よ!?」
「女だからと言って何をしてもいいとでも?君だけ許す理由にはならない。それに君は他の子に対してもバッジが赤く光ってからも何度か攻撃を加えていたよね?ニヤニヤしながら楽しそうに。その性格の悪さは生まれつきかな?顔ににじみ出てるよ。俺が焼いて治してあげる。」
「いやっ、やめて、来ないで!私は悪くない!」
女はそう言って右手に持っている杖を振りかざしながら炎魔法の詠唱を始めたが、すべて遅すぎる。
俺は左手で杖を受け止め右手に出した炎玉を女の顔面に叩き込んだ。
「詠唱が遅すぎるよ。君が詠唱を終える前に俺は何発でも君に魔法を打ち込むことができる。君の今のダメージは・・・950か。あと3発で君の顔を燃やすことができるね。」
そう言って泣き叫ぶ女の顔にカウントしながら3発ともぶち込んだ。まあ3発目は当たった瞬間に炎を消したからやけどもしてないはずだ。
最後に残ったのは剣士の3人。アーサーの顔面を殴った赤髪短髪野郎に、アーサーに転ばされ俺にも転ばされた金髪そばかす野郎、アーサーを蹴り飛ばした茶髪ロン毛野郎だ。
「さあ、残ったのはお前たち3人だけだ。覚悟はできたか?」
3人は震えながらも罵詈雑言を吐きながら一斉にかかってきた。根性だけはあるようだ。
「お前たちは貴族で今までぬくぬくと育てられてきたみたいだからまだ痛みというものを知らないんだろう。殴られたり蹴られたりするとどれほど痛いのか、切られるとどうなるのか、理不尽に暴力を振るわれたり笑われたりするとどう感じるのか。知らなかったからこそ平気で人にできたんだろう。だから教えてやるよ。体で感じて心に刻め。俺は友達を傷つける奴は許さないし理不尽な暴力も決して許容しない。今日は手加減してやるがまた今度同じようなところを見つけたら容赦しない。学園の内外関わらずその性根をたたきなおしに行ってやる。」
俺はわざと3人に少しずつ攻撃を行い最大限恐怖を与えながら、奴らの目が恐怖一色に染まってから気絶させた。これで多少は大人しくなるだろう。
バッジを確認すると蓄積ダメージは0。完全勝利だ。ふうっと息をついていると、わあ!っと他の受験生たちが駆け寄ってきた。
「す、すごいね!リン君。あの上級生たちを圧倒するなんて!」
「正直すごいスカッとしたよ!ありがとう!」
「めちゃくちゃかっこよかった!さすがリン君!」
「私たちより2歳も年下なんて本当に信じられない!」
「そういえばそうだった!あの人たちとは5歳も離れているのになんかリン君の方が年上みたいだった!」
「最後のセリフ、めっちゃしびれたぜ!年下だけど兄貴と呼ばせてくれ!!」
「おっ、それいいな!俺も呼びたい!」
周囲の子たちが俺を囲んでワイワイと盛り上がる。俺はさっきまで自分が言っていた言葉を思い出し、羞恥心にさいなまれた。
(やばい、何も考えずに熱血ヒーローみたいなことを言ってしまった。めちゃくちゃ恥ずかしい
…)
「そういえばアーサー君大丈夫かな、気を失ってたみたいだったけど…」
1人の子のつぶやきにハッとし、俺は急いでみんなに謝ってアーサーのもとへ向かった。
「アーサー!!」
アーサーが運ばれた救護室の扉を思いっきり開けて中に入ろうとした瞬間、誰かとぶつかって尻もちをついてしまった。
「うわっ」
「おっと、大丈夫か…ってリン?」
ぶつかった相手はアーサーだった。すぐに起き上がってアーサーの顔を両手でつかみ頭の傷や頬のやけどを確認するがきれいに治っているようだった。そのほかにも袖をまくり上げて手の傷を確認したり、服の裾を持ち上げて蹴られていたところのあざを確認したりしたが最初から何もなかったかのように傷一つなかった。
「ちょ、ちょっと、近い!!おい、服を剥ぐな、脱がすな!イヤン、リンのえっち!」
「アーサー、傷は?痛むとこはないのか?」
「おい、俺のおふざけを無視すんなって。それに真顔で服を脱がすな。怖いだろ。…傷はヒーラーの人がきれいさっぱり治してくれたよ。実は救護室に運ばれている途中で目を覚ましたんだが頭を打ってたからそのまま安静にって言われてそのままここで少し休んでたんだ。いやあ、あんなので気絶するとか恥ずかしいな。あ、そうだ、リンはだ丈夫だったか?結局あの後どうなったんだ?」
「恥ずかしくないよ。あいつらが卑怯で性根が腐ってただけだ。それにアーサーの立ち回りは見事だった。正直めちゃくちゃかっこよかったよ。宙返りからあの野郎を転ばすところなんて爽快だった。」
「おおう、ありがとな。なんか照れるな。あとリンも口が悪くなったりするんだな。」
ははっとアーサーが頬をかきながら笑う。あの後のことはちょっと恥ずかしいから適当に誤魔化そうと思っていると、
「あっ、アーサー君目が覚めたんだね!よかったあ。」
「傷も治ってるみたいでほっとしたよ!」
「アーサー君もすごく強いんだね!ホントかっこよかったよ!」
と、この4日間一緒にテストを受けていた子たちが集まってきた。
「あ、そうだ聞いてくれよ、リンの兄貴、あの後すごかったんだぜ。」
「そうそう、アーサー君が気絶した後めちゃくちゃ怒って上級生たち全員を相手に、自分はノーダメージで気絶させちゃったんだから!」
「セリフもすごいかっこよかったし!!」
不穏な空気を察知した俺は「ちょっと待った!!」とストップをかけようとするが、「まあまあ」と近くの男子たちに羽交い絞めにされ、「何それ詳しく!」と興味を持ったアーサーが周りの子たちから話を聞きだすのを眺める羽目になった。
(誰か殺してくれ…。)
客観的に聞くとなおさら恥ずかしい。俺ホントにあんな恥ずかしいことを言ったのか。だんだん顔に熱が集まってきてるのを感じながらうつむいていると
「あー!リン君顔が赤くなってる!可愛い!」
「おお、ほんとだ赤くなってる。」
「そういう顔をしてると年相応に見えるね!」
「おーおー、リンはそんなに俺のことが好きだったのか。そうかそうか、いやあ、光栄だなあ。」
と、朝の仕返しとばかりにアーサーが口角を上げてうなずきながら腕を組んで横目で見てくる。
(ちくしょう、覚えてろよ。)
恨めし気にアーサーを見つめると周囲にはあたたかな笑いが巻き起こった。こんな感じで俺以外和気あいあいとしながら解散したが、俺たちのクラスは学園長のせいでまともなテストが受けられなかったため、急遽他のクラスに一人ずつ混ざって再度試験を受けることになった。その結果、半分くらいの子は10分間耐えることができ、アーサーも2割程度のダメージで試験を終了した。俺は逆に開始1分もたたずに上級生全員を退場させ試験を終えた。(他の子やアーサーにからかわれた鬱憤を上級生に向けたわけではない、決して。)そして、不当な試験を幇助したとして30名の上級生は1週間の謹慎処分、特に悪質な攻撃や下級生に対する誹謗中傷を故意に行った5名は1か月の謹慎処分となった。担当教師は見ていたにもかかわらず止めなかったとして解雇。学園長に関しては席を下ろされることはなかったが1年間の減俸と学園長の家(学園長も貴族)が所有するいくつかの領地の没収、国からの厳重注意がなされた。
ちなみに俺に関しては一切お咎めなし。勝手にルールを変更して上級生全員を気絶させたが一切怪我を負わせなかったことと、友人のために上級生に立ち向かったこと、さらには他の受験者の擁護の声が大きかったことが評価され逆に褒められたくらいだった。
まあ、なぜこのことが発覚したかというと俺があの後すぐに管理者の方に告げ口をしたからだ。昨日こっそりと渡されていた連絡先に連絡したところ1時間もたたずにテストの再手配と今回の処分が決まった。
管理者の方は仕事ができる大人だった。とてもかっこいい。それに忙しいにもかかわらずまた学園に来てくれて、今回上級生たちから心内言葉や暴力を受けて気落ちしていた子たちと話し、カウンセリングのようなこともしていた。
(うん、やっぱりこの人は信頼できそうだ。この人に連絡してよかった。)
管理者の方は子ども達が落ち着いたのを確認すると、俺にもう少しだけユニークスキルの分析に時間がかかると言い残してまた職場に戻っていった。
そんなこんなでテスト4日目を終え、とうとう最終日がやってきた。




