12話:クラス分けテスト④の1
試験4日目。
アーサーと一緒に学園に向かっていると他の子たちから次々と声をかけられた。
「リン君、おはよう!」
「昨日はすごかったね!」
「今日も頑張ろうね!」
「リン君、今日もかっこいいね!」
などなど。まあ中には聞こえるか聞こえないかくらいの大きさで「調子に乗るなよ。」というような声も多少はあったが。
声一つ一つに手を振りながらにこやかに挨拶を返しているとアーサーがニヤニヤしながら「今日もモテモテですねぇ。」と揶揄って来たので小突いてやった。
今日は防御力や回避力のテストで、なんと上級生の協力のもと試験が行われる。一人当たりの試験時間は最大10分で10人の上級生からの攻撃をひたすら防御・回避するのだ。もちろんこちらから攻撃するのもありだそうだが、まあ、それはできれば、の話だ。
上級生たちもこれが卒業時のランク審査の評価に関わるため、本気で挑んでくる。生徒たちには上級生も含めダメージを1000まで肩代わりしてくれるバッジが配布される。これを右胸につけて試験を行うことで怪我や事故を防ぐことができる。蓄積ダメージが500を超えた時点でバッジが赤く光るため、その時点で10分経っていなかったとしても試験終了となる。上級生のバッジが光った場合はその上級生は退場となるそうだ。
ちなみに、このバッジはダメージを数値として表示してくれるため、試験終了時の数値が小さければ小さいほどより高評価を貰えるらしい。
俺たちは鑑定の儀を受けた場所で今回の試験の説明を受けた後、それぞれ昨日と同じ試験場に向かった。
が、途中で学園長に呼び出され、今日から二日間、ユニークスキルの使用禁止を言い渡された。理由としては他の子との戦力差を少しでもなくすためなんだとか。最初はスキルもすべて禁止にされそうだったが、一緒についてきてくれたアーサーが抗議してくれて何とかスキルは使用してもいいことになった。
「なんか、あの学園長感じ悪くないか?リンにだけ当たりが強い気がするんだが。指導者としてどうなんだ?」
学園長室を出てからアーサーが不満をこぼす。そう、俺と話しているときは高圧的で不遜な感じだったのにアーサーと話しているときは口調軟らかく丁寧な物言いだったのだ。平時あんな感じの人かと思っていたがどうやら人によって態度を変えるタイプの人間らしい。それについてアーサーは不信感を抱いたようだ。
アイドル時代にもそんな奴らはごろごろいたし、というか俺の周りはグループメンバー以外そんな奴らばっかだったから慣れているが、俺のためを思って怒ってくれているアーサーに少しうれしくなった。
「まあ、別に大丈夫だよ。俺はすべての人から好かれたいと思っているわけじゃないし、自分が好かれたいと思う人から好かれていればそれでいい。」
そう言ってアーサーを見るとアーサーがニヤッと悪戯っぽく笑いながら
「それって俺のこと?」
と聞いてきたのでこっちも逆にキョトンとした顔を作って
「そうだけど?俺はアーサーが好きでアーサーからも好かれたいと思っているんだけど違うのか?」
と聞き返した。するとアーサーは両手で顔を覆って
「それはずりぃだろ…」
と蚊の鳴くような声で答えた。耳まで真っ赤になっている。からかいがいのあるやつだ。さらにいたずら心が芽生えた俺はアーサーの両手を取ってずいっと顔を近づけ、自他ともに認める可愛い顔を作ってから
「それで俺のこと…好き?」
と聞いてみた。アーサーはその場に崩れ落ちてうーと唸った後
「ちゅき…」
と言っていた。遠くで黄色い悲鳴が聞こえる。俺は満足し
「ほら、試験に遅れるからいくぞ。」
と、アーサーを置いて歩き出した。アーサーの「この人たらしー!!」という叫びが後ろから聞こえる。
思わずブハッと吹き出して笑ってしまった。
そんな茶番を繰り広げながら俺たちは試験会場に入った。
学園長に呼び出されていたため、俺たち以外はもうすでにそろっているようだった。上級生たちも30名ほどいた。どうやら10名ずつかわるがわる試験を担当するようだ。
(それもそうか、35人分もぶっ通しで見れるはずないもんな。)
今回の試験は10分の戦闘の後、上級生たちから5分間フィードバックがもらえるらしい。そのため、1時間当たり4人ずつ試験を行うので試験が終わるのは17時の予定だ。
(今日も長丁場になりそうだな。)
例のごとく、俺の順番は一番最後なので17時頃までずっと暇だ。心なしか、上級生たち全員からとてつもない視線を感じる。
(なんだ?昨日は上級生はいなかったから俺のことはそれほど知らないと思うんだが…)
「では全員そろったので試験を始めます。概要については先ほど説明があった通り、10分間、皆さんはできるだけダメージを受けないように立ちまわってください。受けたダメージは胸のバッジが肩代わりしてくれますので怪我の心配はありませんが、ダメージが500を超え赤く光ったらその時点で試験終了となるので注意してください。」
試験官がもう一度試験内容を簡単に説明した後、一人目の試験が始まった。四方八方からの攻撃に一人目の子はなすすべもなく、1分もたたないうちに試験終了となった。
(容赦ないな。まるでリンチだ…。)
フィードバックも「初動が遅すぎる。」「次の動きがバレバレ」「攻撃が来たときに目をつぶるな、死ぬ気か?」などぼろくそに言われていた。
あまりの容赦のなさにほとんどの子たちがビビッて委縮してしまっている。二人目の子なんかすでに涙目だ。足もプルプルと震えている。
その後も試験は続いたがどの子も10分どころか3分と持たずに試験を終了していった。それに上級生の中には何人か意地の悪い奴もおり、わざと顔を狙って攻撃したり、攻撃をよけきれずに転ぶ子がいれば声をあげて笑ったりしていた。フィードバックでも「こんなのも避けられないとか終わってんな。」とか「落ちこぼれしかいないのかよ。つまんね。」など、もうフィードバックでも何でもないただの暴言を吐いている奴もいた。
そのおかげでこっちの空気はお通夜みたいだ。鼻をすすって泣いている子もいる。これに対して試験官は何も言わない。どうやら暴言を吐いている奴や態度が悪い奴らは全員有力貴族の子どもらしく、親が学園に多額の寄付をしているためほとんどのことは黙認されているんだとか。
(気分悪いな。どこに行ってもこういうやつらはいるな。)
1人当たり3分もかからないうち試験が終了していったので試験が始まって3時間ほどで残りはアーサーと俺だけになった。
アーサーも委縮しているのかと思ったが、全然そんなことはなかった。自分の番になるとスッと静かに立ち、
「行って来る。」
と上級生のもとへと向かっていった。
その短い言葉からは怒りの感情が読み取れた。ここ数日でアーサーは存外正義感が強く、曲がったことが嫌いな性格だと分かった。どうやら試験中の上級生の態度に静かに怒りを募らせていたらしい。
(やる気十分だな。だが問題は…)
アーサーの相手となる10人の中には上級生たちの中でも特に態度が悪かった5人全員が含まれていた。彼らは全員ニヤニヤとしながらアーサーを見下ろしている。
「おー、次は早期入学者の奴か。ちょっとは手ごたえがあると期待してもいいんだよなあ?」
「いや、まて。あいつ、クレイル家の奴じゃないか?父親が聖騎士でAランク冒険者の。」
「げっ、ほんとだ。クレイル家だったら遊べねえな…」
最初は新しいおもちゃを見つけたようにニヤついていたがアーサーがクレイル家だと分かると態度を軟化させた。どうやら貴族達の中でもクレイル家はずいぶんと高い地位にあるらしい。
めちゃくちゃ今さらだが今までのアーサーとの接し方を振り返って少し心配になってきた。
「かまいません。この試験にクレイル家も父も関係ありませんので。他の方と同様に試験を行ってくださって大丈夫です。」
「おっ、そうかぁ。じゃあ遠慮なく。後で前言撤回とかするなよ?まあ、ちょっと手が滑るかもしれないが試験だしいいよな。せいぜい俺たちを楽しませてくれ。」
(ホント、ゲス野郎だな。俺もだんだん腹が立ってきた。)
アーサーを含め全員が位置に着いたので試験管の合図で試験が開始された。
しょっぱなから顔面を狙った炎玉が繰り出され、アーサーがそれを右に体をずらして避けるがそこを狙っていたかのように前後から首と足首を狙って剣が振り抜かれた。アーサーは首を狙った剣を自分の剣で受け止めつつバク中のように空に飛びあがり、首を狙ったやつの頭を左手で押しながらさらに後ろに回避し囲みから抜け出すことに成功していた。
(おお!かっこいい。めちゃくちゃ身軽だな。押された奴は何人も転ばせて大笑いしてたやつだな。今度は自分が転がされて少しいい気味だ。)
アーサーが優勢な様子に他の子たちも歓声を上げている。
「くそっ!調子に乗るなよ!」
恥をかいた上級生は顔を赤くして毒づいている。その間にも他の上級生たちが次々と攻撃を繰り出すがアーサーはどれもギリギリのところで回避している。そして立ち回りもうまく、常に囲まれないように動いている。それでもいくつかは避けきれず当たってはいるがこの調子でいけば10分間逃げ切れそうだ。
すると二人の上級生が剣を振りかぶりながらアーサーのもとに向かっていった。一人がアーサーの左肩に剣を振り下ろすがそれを難なく避ける。そしてもう一人が剣で切りかかるふりをしながらいつの間にか手に握っていた砂をアーサーの顔に投げつけた。まさかの攻撃にもろに食らってしまい、前が見えなくなっている。その間にアーサーの近くにいた二人はアーサーの顔面を思いっきり殴ったり倒れたアーサーを蹴り飛ばしたりしていた。アーサーは何とか体制を立て直してよけようとしているがなかなか目が開けられないらしく、どんどん攻撃を食らっている。とうとう右胸のバッチの数値が490を超えたあたりで最初に恥をかかされた奴が「いっせいにかかれ!」と合図し、ずっと用意していたのか無数の矢や魔法、剣戟、スキルがアーサーを襲った。その結果、アーサーのバッジは蓄積ダメージが一気に1000を超え、肩代わりされなかったダメージがそのままアーサーに加わってしまった。
「グッ!」
アーサーはそのまま大きく後ろに飛ばされ動かなくなった。
「アーサー!!」
俺は急いでアーサーのもとに駆け寄ったが意識を失っているようだった。頭からは血を流し、頬も少しやけどをしていた。左腕からも血が出ている。咄嗟に腕でかばったようだ。
「ヒーラーを呼んでください。」
「…え?」
「早く!!」
「わ、分かりました!」
この状態を見てぼーっと突っ立っていた教師に指示を飛ばす。
「あれぇ、もしかして気絶しちゃった?やっぱり10分もたなかったかぁ。もっと楽しませてくれると思ったんだけど期待外れだったな。」
恥をかかされた奴がニヤニヤとバカにしたような顔を浮かべながら近づいてくる。他の奴らもアーサーを見てくすくすと笑ったり嘲笑したりしている。グツグツと煮えたぎる感情とは逆にスッと頭が冷えていくのが分かる。
「呼んできました!」
教師がヒーラーを数人呼んできてアーサーを軽く治療した後そのままヒーラーたちはアーサーを治療室に連れて行った。
(さて、やるか。)
「最後は僕の番ですね。最後だしせっかくなのでルールを少し変えませんか?」
「ちょっと!勝手なことは…」
「へぇ、どんなルールにするんだ?」
教師はすぐさま反対しようとしたが、貴族の上級生が興味を示したことで口を閉ざした。
(よし、かかった。)
「まず、10分間とか、バッジが光るまでとかいうのはやめて相手が気絶するまでにしませんか?」
「俺たちは別に構わないぜ?だが気絶するまでとか自虐趣味でもあんのか?まあ、それならお望み通りぼっこぼこにしてやるから安心しな。」
(果たして気絶するのはどっちだろうな。)
「もう一つ、見ているだけの人も暇でしょう?なので上級生の皆さん、全員対僕で試験を行いましょう。」
「おいおい、それじゃより一層一瞬で終わっちまうじゃねえか。」
「大丈夫ですよ。僕はこれでもこの前ランク審査を受けてAランクと判定されましたから。皆さん程度なら全員でかかってきても相手できますよ。」
「…言ってくれるじゃねえか。いいぜ。じゃあ全員で相手してやるよ。…ハハッ!本当は言うつもりはなかったがいいことを教えてやる!俺たちは全員学園長から直々に選ばれてお前の相手をするように言われている。そしてお前を倒すことができたら卒業時のランク審査でAをくれるんだと。つまり俺たちは全員お前をぶちのめすために集められたメンバーなんだよ。他の試験場みたいにランダムに振り分けられたわけじゃない、俺たちは全員成績上位者だ。それに今お前は学園長からユニークスキルやスキルの使用を禁止されているはずだ。もう今さら撤回なんてできないぜ??」
上級生の言葉に一緒に試験を受けていた子たちが驚きとともに心配そうな目を向けてくる。
「確かにユニークスキルは禁止と言われましたが、スキルはアーサーのおかげで使用してもいいことになったんですよ。ですのでご心配なく。ユニークスキルがなくてもスキルさえあれば十分ですよ。」
(ああ、怒りでどうにかなってしまいそうだ。さっきのアーサーの顔がちらついて頭から離れない。目の前のこいつらを1秒でも早くぶちのめしたい。そろそろこの表情を保つのもしんどくなってきたな)
「だから、さっさとやろう。」
さっきまでのにこやかな笑みと柔らかな口調を消し去り、試験開始の合図を告げた。
―――――――――――――――――――――――――
名前:天神 琳 [リン] Lv36 6800291/7000000
年齢:10歳
種族:人間
職業:アイドル
[能力値]
体力 :405
魔力 :485
知力 :325
攻撃力:340
耐久力:320
敏捷 :355
運 :150
魅了 :215
[スキル]
炎魔法Lv5 227595/1000000
水魔法Lv4 22750/500000
風魔法Lv4 17450/500000
土魔法Lv3 34540/200000
[ユニークスキル]
Fire メインボーカル
Water メインダンサー
Wind
Earth
―――――――――――――――――――――――――




