第14話 異形との対峙
――ずしん。
それは音というよりも、内臓を直接掴み揺さぶるような、大地からの重低音だった。
壁にびっしりと張り付いた苔が、まるで沸き立つ波のようにうねり、洞窟全体が意思を持った巨大な心臓のごとく脈動を始める。
「……この先だ。逃げ場のない、最奥の広間だな」
グレイスの大剣を握る手に、白くなるほど力がこもる。
一行はグレイスを先頭に、濃密な魔力が渦巻く奥へと足を進めた。
しばらく進むと、それまでの閉塞感が嘘のように空間が開け、息を呑むほど広大な大空洞に出た。
大空洞の底は深い湿地のようになっており、淀んだ水面には、まるで呼吸に呼応するかのように無数の光の粒が漂っている。
その淡い瞬きは、地下に広がる静謐な星空を思わせた。
緑と蒼、そして幽玄な紫を帯びた蛍火のような光。それらは苔の胞子に宿り、重力に逆らうように宙を舞いながら、中央で一つの巨大な輪郭を描き出していく。
苔に覆われた山のごとき巨体。
だが、それは醜悪な怪物というよりは、太古の森そのものが実体を持って姿を現したかのようだった。
幾千もの蔦は緑の髪のようにしなやかに垂れ下がり、幾重にも重なった苔の層が、鋼鉄をも凌ぐ硬度の鎧となってその巨躯を覆っている。
その胸の空洞の奥深くで、剥き出しの心臓のように淡い光がドクンドクンと脈動していた。
「……きれい……」
恐怖よりも先に、抗いがたい神秘への畏敬が冒険者たちの心を支配し、震える声が漏れる。
だが次の瞬間、苔の巨体は怒りに触れた神のごとく地を踏み鳴らし、洞窟全体を激しく震わせた。
舞い上がった膨大な光の粒は、美しき死を運ぶ猛毒を帯びており、周囲の空気を肌を刺すような重圧へと一変させる。
「見とれてる場合じゃない! 死にたくなければ戦え!」
グレイスが怒号と共に剣を構える。
「……あれが本体ですよ。この一帯の苔を統べる、思考を持った“核”だ」
リュネルは静かに、落ち着いた声音で告げると、手にしていた短杖を魔力の流動と共にしなやかな長杖へと変じさせた。
神秘と脅威、そして圧倒的な生命力が同居する存在。
一行は、自然の摂理が歪んで生まれた異形の怪物と、ついに対峙したのである。
苔に覆われた巨体は淡い光を帯びながら威圧的に立ちはだかる。
その神秘的な姿に、広間には再び恐怖と畏敬が入り混じった張り詰めた沈黙が落ちた。
「……さぁ、待ちに待った暴れる番だな! 先生、あれもさっきみたいに、燃やしちゃダメなやつか?」
「……いや、もう悠長なことは言ってられないね。ソラン、出し惜しみせず一気に片をつけて。みんなの安全は僕が守り抜くから」
「りょーかい!」
ソランが不敵にニヤリと笑うと、爆発的な踏み込みで前方へと躍り出た。
その紅金の瞳が闘志で輝き、両の拳には激しい業火が迸った。
一気に距離を詰めたソランの姿はもはや残像にしか見えず、苔の至近距離でその姿を捉えたかと思った瞬間――。
――ドォォォォンッ!!
凄まじい轟音。
炎を極限まで圧縮して纏わせた拳が苔の胸部らしき箇所を直撃し、分厚い緑の塊を大きく抉り飛ばす。
続けざまに放たれる神速の連打が湿った苔を強引に焼き焦がし、洞窟内に空気を震わせる衝撃波が何度も響き渡った。
「どうだっ! 跡形もなく消し飛べ!」
ソランは荒い息を吐きながら、確かな手応えと共に拳を引いた。
だが――。
苔の巨体はその猛攻を受けてなお、ゆっくりと山のように揺れただけで倒れる気配がない。
抉られたはずの部位はじゅくじゅくと沸騰するように泡立ち、次の瞬間には周囲から新たな苔が濁流のごとく盛り上がり、何事もなかったかのように欠損を塞いでしまった。
それは、ソランの放った炎の傷跡を嘲笑うかのような、絶望的な自己再生だった。
「なっ……! 冗談だろ、今のを喰らって無傷だってのか!?」
ソランが驚愕に目を見開く。
「……驚異的な速度で再生しているね。エネルギーの供給源が尽きない限り、削り合いは無意味だ」
リュネルが背後で静かに呟いた。
苔の巨体が地の底から響くような声で低く唸ると、大気がびりびりと震えた。
その胸の奥で光が強く明滅するたび、連動するように洞窟全体の苔が獲物を狙う蛇のように脈打つ。
ソランは悔しそうな表情で歯を食いしばり、再び勢いよく飛び出して炎の猛攻を繰り出した。
必殺の打撃、重い蹴り、鋭い手刀に鋭利な肘打ち、嵐のような畳み掛けを浴びせるが、その度に苔は瞬時に、それも先ほどより早く再生してしまう。
「リュネル!」
その膠着した戦況を見かねたグレイスが、焦燥と共に叫ぶ。
「どうする!? このままじゃ、こっちの体力が先に尽きるぞ!」
グレイスの額には脂汗が浮かび、表情には明らかに焦りの色が濃く滲んでいる。
リュネルは一瞬だけ瞑目し、意識を研ぎ澄まして苔の微細な魔力の揺らぎを観察した。
再生のプロセスが走る瞬間、胸の奥の光が一瞬だけ不自然に強くなる。その中心点こそが――。
「……見えた。あそこだ」
リュネルの群青の瞳が深層にある光の源を射抜く。
「あの苔を操っている“核”そのものを狙うんだ。外側の装甲をいくら叩いても、この環境下では無限に再生する。けど――あの中心にある核さえ破壊できれば、外側の苔は瞬時にただの植物に戻るはずだよ」
「なるほどな、つまりその核を潰せば、俺たちの勝ちってわけだな!」
ソランが再び、より一層強い魔力を拳に溜めて構える。
「理屈はそうだけど、あの核を厳重に守っている表面の苔が、意志を持って防壁を厚くしているのが厄介だね」
リュネルが長杖を地面に力強く突き立てると、魔法陣から溢れ出た柔らかな光が全員の体を包み込んだ。
「だからーー1人じゃなく、みんなで連携して、その一点をこじ開けるんだ」
グレイスが呼応して剣を構え、冒険者たちも震える足を踏みしめて頷く。
ソランはリュネルの言葉ににやりと笑い、天に向けて炎の拳を掲げた。
「了解、先生! 俺がその鉄壁の皮を剥いで、道を開けてやる!」
苔の巨体が挑戦者を拒絶するような地響きを伴う雄叫びを上げ、洞窟全体が激しく揺動する。
その禍々しい中心を全員で睨みつけながら、一行は命運を賭けた、かつてない決死の連携に挑もうとしていた。
巨体が発する鼓動はもはや音ではなく、物理的な圧力そのものとして一行を圧迫していた。
洞窟全体が、まるで一つの巨大な肺のように膨らみ、しぼんでいるのではないかと錯覚させるほどの閉塞感だ。
苔の繊維が巨大な重量に耐えかねて擦れ合い、不快な軋み音が空気の底を這って耳を打つ。
リュネルの指示を受け、冒険者たちが各々の間合いから遠距離攻撃を仕掛け始めた。
グレイスは一撃で岩をも凍てつかせる氷の斬撃を連続して放ち、苔の表面を硬化させようと試みる。
その隙を突くようにソランは爆炎の連打を浴びせ続け、再生の暇を与えない。
しかし、なおも苔の増殖速度は彼らの猛攻を上回っていた。
「……ふむ、あの細胞の再生速度……尋常じゃないね。魔力を媒介にした有機物の再構築……あれの原理や構造を完全に解明できれば、医学の歴史を塗り替えるような、あらゆる欠損に応用できる術式が作れるかもしれないな。とりあえず、緊急時の止血や医療関係にはもってこいだ。いや、待てよ……臨床試験において、そもそもこの胞子が人体に害を及ぼさないという保証が……」
「先生! 気持ちは分かるけど! 今はそんなこと考えてる場合じゃないでしょーがー!!」
前線で戦うソランが、肩をすくめながら叫ぶ。
「――はっ! ごめん、つい」
「ふっ、こんな絶望的な状況でも君は変わらないな、リュネル」
自分の世界に没入しかけたリュネルだったが、寸前のところで我に返った。
ソランは再び猛々しく前衛へと戻り、グレイスは飛んでくる苔の礫を氷の斬撃で叩き落としながら、巧みに攻撃をいなしていく。
若手冒険者たちも、リュネルの付与魔法に励まされ、遠距離魔法攻撃や弓、投擲武器による執拗な攻撃を続けた。
全員の息の合った連携攻撃により、わずかではあるが巨体を壁際まで押し返してきたかと思われた、その時。
洞窟の最奥、巨体の胸腔から禍々しい緑蒼の光が、大輪の花が開くように爆発した。
苔の巨体が、その真の全容を現すかのように立ち上がった。
それはもはや森そのものが歩き出したかのような圧倒的な質量。
頭部には二つの鋭い燐光が灯り、胸腔の奥で心臓のように拍動する光球が、怒りに呼応して激しく明滅する。
その脈拍に合わせて、壁一面の苔が一斉にざわめき、牙を剥いた。
「総員、散開! 前衛は斜め交互に陣を組め! 盾持ちは“苔に触れさせない”ことだけを最優先に考えろ!」
グレイスの、戦場を支配する鋭い声が響き渡った。
その瞬間、巨体が丸太のような腕を大きく振るった――いや、それはもはや腕“だったもの”だ。
無数の蔦が瞬時に解け、数百本の毒鞭へと変貌し、雨のように一行へ降り注ぐ。
「防げっ!」
冒険者たちは咄嗟に身を縮め、鋼鉄の盾でその猛攻を受け止めた。
蔦が盾に衝突した瞬間、鈍い、肉厚な金属音が空洞に反響する。
だが、恐ろしいのはその衝撃だけではなかった。盾に触れた箇所からジィジィと白い腐食煙が立ち昇り、堅牢なはずの鋼鉄が、じゅくじゅくと酸に溶かされるように溶け出し始めたのだ。
同時に、冒険者たちの何人かが顔を歪め、苦しげな症状を訴え始める。
喉を焼くような息苦しさ、焦点の合わぬ視界不良、そして指先から這い上がる手の痺れ。 どうやらあの蔦には、強力な毒が仕込まれており、盾の金属と反応して有毒ガスとして気化し始めているようだった。
目に見えぬ毒の脅威に、一行の間に明らかな戦意喪失と士気低下の気配が、音もなく忍び寄る。
(……空中の毒素濃度が限界値を超えたか。それなら……)
「《大地の環よ、天の轍よ。穢れを祓い、命を守る聖なる盾となれ――『穢れを祓う守護の環』!》」
リュネルの足元から、清冽な蒼い結界がドーム状に広がり、空間に滞留していた毒素を瞬時に中和・浄化していく。
泥濁していた空気が一気に澄み渡り、呼吸が劇的に楽になったことで、冒険者たちの瞳に再び闘志の火が灯り、攻撃に勢いが戻った。
「防御と浄化は僕がすべて引き受けます! 皆さんで一気に畳みかけてください!!」
続けて、リュネルは長杖を力強く床に突き立て、空中に複雑な印を結ぶ。
すると、幾重もの高度な結界術式が彼の足元に幾何学模様を描きながら組み上がっていった。
「――《ゲアラ・アイアス!(月光の円盾)》」
透き通った白銀の膜が前衛の面々を一人ずつ覆い、上空から叩きつけられる無数の蔦を、バチィンと火花を散らして弾き飛ばす。
膜面に走る亀裂も、リュネルが供給する魔力による光の紋章が即座に縫い合わせ、鉄壁の守りを維持した。
「ここだ! 今こそ反撃の時だぞ!」
グレイスがその好機を逃さず、死角から鋭く踏み込み、蔦の根元を氷の刃で鮮やかに断ち切る。
若手たちも勇気を振り絞って後に続き、蔦を切り裂く役と、その切断面に魔法薬を素早く擦り込む役へと鮮やかに分かれた。
リュネルが以前配っていた魔法薬の効果が浸透し始め、あれほど俊敏だった蔦のしなりが、目に見えて鈍り始めた。
ソランは、再生を繰り返す苔の外殻と、執拗に迫る蔦を冷静に見やり、低く呟いた。
「……ちっ、拳のリーチじゃ、あの中の核までは間合いが足りねぇな。だったら――」
ソランは深く、長く息を吸い込み、両の手の平に紅金の火を灯した。空間に指先で古の紋様を描き出し、自らの熱が描く軌跡を丁寧になぞる。
「来い!」
空気が引き裂かれるような音と共に、噴き出した炎の奔流が螺旋を描き、一本の長大な槍の形へと凝縮されていく。
古代の紋章が槍身を激しく走り抜け、紅蓮の光が脈動するその武器は、もはや魔法を超えた神業の領域にあった。
(ははは……その手があったか。ソラン、随分と本気になっているみたいだね)
リュネルは、教え子の成長を喜ぶように、口元を綻ばせて小さく笑った。
ソランが炎の槍をくるりと一閃させると、その熱が足元の湿地の水を瞬時に蒸発させ、真っ白な蒸気が尾を引いた。
「……リュネル、炎で焼くのは逆効果だと、君が止めていたはずでは?」
グレイスが、驚愕と動揺を隠せない表情でリュネルの隣に駆け寄る。
「『燃やす炎』ならね。ですが見てください、あの槍を。ソランはあれ以外にも数本の武器を持っていますが、あの槍の炎は、対象を焼き払うのではなく、熱そのものを一点に超圧縮して『穿つ』ための性質を持っている。つまり、胞子を飛散させる前に熱で蒸発させてしまうんですよ」
「……なるほど、力任せの馬鹿だと思っていたが、あいつもあいつなりに考えて戦っているというわけか」
リュネルは、自慢の家族が褒められたかのように嬉しそうに笑った。
「先生、隙を作ってくれ! この一撃で、あの分厚い皮を削り取る!」
ソランが槍を低く構え、その穂先が太陽のごとく鋭く光り輝く。
「――了解。任せて!」
リュネルが優雅に指を弾くと、彼の背後に数十……いや、数百本もの白銀に輝く魔力の剣が整然と展開された。
その剣群はリュネルの手の繊細な動きと完全に同期し、彼が右手を力強く振り下ろした瞬間、巨体に向けて一斉に放たれた。
白銀の剣は光の尾を引きながら、四方八方から逃げ場を塞ぐように巨体へと殺到する。
次々と、間断なく急所に突き刺さる光の剣の雨。その圧倒的な手数の前に、苔の巨体は防御に徹せざるを得ず、その巨大な動きを完全に封じ込められた。
その絶好の好機を逃さず、ソランが黄金の炎を噴き上げながら跳躍する。
ソランが渾身の力で槍を振るうと、黄金の炎塊が巨大な三日月状の刃となって巨体の側面を深々と焼き裂いた。
ついに苔の頑強な外殻が崩れ始め、内部の蠢く赤黒い繊維が露わになる。
「やった……ついに通ったぞ!」
若手冒険者が希望に満ちた声を上げる。
「もう一本だ、喰らえ!」
着地と同時に、ソランは今度は槍を力一杯に投擲した。
炎の尾を引きながら流星のごとく飛んでいった槍は、露出した繊維の真っ芯へと見事に命中した。
苔の合わせ目が苦悶に波打ち、再生のための繊維が奔流となって走るたびに、奥にある核の光が一瞬だけ異常なほど強まる。
(……やはり。再生のタイミングで、一時的に核の負荷が跳ね上がる。今はまだ“外部の修復”に全力を注いでいる段階だ。核自体はまだ、あの奥で無傷――)
リュネルは戦場の激動の中でも極めて冷静に状況を見極め、次の一手の最適解を弾き出す。
ソランの連続攻撃により、巨体は苦しげに地を叩き、身悶えする。
だが、この洞窟の主もただやられるだけの存在ではなかった。
苔の核から鼓膜を劈くような不気味な高音が響き渡ったかと思うと、床の苔が津波のように盛り上がり、太い腕のような苔の柱が何本もニョキニョキと地面からせり上がった。
天井からも鎖のように連なった苔の“触手”が垂れ下がり、上空と地上からリュネルたちを万力のように挟み潰そうという包囲攻撃を開始する。
「先生、上だ! 押し潰されるぞ!」
一際太い苔の腕が上空からリュネルの結界を真正面から叩きつける。
その一撃の重量感は凄まじく、透明な結界の膜が「ギギギ」と軋みを上げ、悲鳴を上げる。
白銀の膜面に星状の亀裂が走り、リュネルの表情がわずかばかり厳しさを増した。
「……耐えられるか、先生!」
「……心配ないよ。これくらいなら想定の範囲内だ」
(……全く。これだから大人数でやるのは骨が折れるんだ)
リュネルは足元で輝く術式に左手をかざし、短い祝詞を唱えた。
すると、結界の層が一瞬にして厚みを増し、叩きつけられた蔦の暴圧を柳のようにしなやかに受け流した。
その横でソランは槍を横薙ぎに一閃させ、迫り来る苔の腕を次々と輪切りにしていく。
飛び散る火花の尾が夜の闇に弧を描き、切断面は槍の超高熱によって瞬時に炭化され、再生の連鎖が鈍っていく。
グレイスもまた、巨体の懐深くへと低く潜り込み、苔柱の付け根を氷の斬撃で鮮やかに切り裂いた。
「よし! このまま一気に押し切るぞ――!」
勝利を予感したその瞬間、巨体がその核の奥底を激しく震わせた。
胸核の直前にある、不気味に膨らんだ袋状の苔が限界まで膨張し――爆発した。
――それはまさに、胞子弾の雨。
音速に近い速度で射出された無数の胞子の弾丸が、リュネルの結界を激しく叩く。
それは単なる物理的な衝撃ではなく、付着した瞬間に魔法の構成成分を蝕み、綻ばせていくという厄介な性質を持っていた。
さらに恐ろしいことに、地面に当たった弾は即座に芽吹き、新たな触手となって足元から這い上がってきた。
「むやみに前へ出るな、まずは足を止めろ! 周囲を警戒しろ!」
グレイスの切迫した怒号が飛び、若手たちが勢いづいた踏み込みを寸前で堪える。
リュネルは即座に、予備の薬瓶を数本取り出すと、うごめく足元の触手群に向かって精密な軌道で投げつけた。
瓶が砕け散った瞬間、中の液体は瞬時に気化し、青白い霧となって胞子の活動を劇的に鈍化させる。
「ソラン!」
「言われるまでもねーよ、まかせろ!」
ソランは槍の投擲から、流れるような近接槍撃へと切り替えた。短いステップで間合いを保ちながら、迫り来る苔腕の関節を片端から正確無比に穿っていく。
斬る、刺す、そして断つ――。
それは以前の彼が持っていた、拳の豪快さとは一線を画す、洗練された“正確さ”。
彼の動きは、荒れ狂う炎でありながら、同時に冷徹な刃物のような鋭利さを備えていた。
しかし、ソランの凄まじい攻撃に対抗するように、主である巨体もまた、何十本もの新たな苔腕を生成し、その攻撃と再生の激しさをさらに一段階、引き上げていった。




