表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
冒険者よりも安上がり  作者: 田中
第1話
2/16

1-2 納税の義務

 もしも、フィニスが普通の冒険者でもう少し馬鹿であれば、自分は特別な相棒に選ばれた特別な冒険者なのだと自惚れることもできただろう。

 しかし、フィニスは優秀だった。

 冒険者になるための公務員試験を首席で突破し、キャリアを約束されてすらいた。だからこそ、そんな夢を見られるほど馬鹿ではなかった。


 自分の無力さも、過剰な期待も、すべて冷静に見つめられるだけの頭は持っていたのだ。


 それでも、そのハイエルフを伴っているのは、彼にとってミコが唯一信用のできる自身の味方であるからだった。

 なにより、フィニスにとってミコ以外の相棒を探すことは最大のリスクだった。

 その瞬間から相棒が二人に増え、特定魔力生物使役税がのしかかってくるのだ。フィニスにとって、それが死の次に避けたいことだった。


「ミコ、どうだ? この屋敷」


「そうだな、人間が死んでるのは間違いないだろう。これは、人間の血の匂いだ。その理由……は、血臭からして何らかの外傷だろう。腐敗して体液が流れたにしては腐臭がしない」


 普段はあれこれ服を着替えているミコも、仕事の時はしっかりと戦闘用の服を着込みブーツを履いている。乗馬用のブーツは、通常のものよりしっかりと紐が結べる。だからこそミコは気に入って履いてるのだ。

 仕事で来ているという意識が一応あるのだろう。

 以前フィニスがそれを聞いたところ、ミコは「当然だろう」と言いたげな表情を浮かべて鼻で笑ったものだった。


「さて、じゃあ行くか」


 その家には冒険者の魔力が残っている。冒険者の逝去後も最長一五年はその冒険者の魔力で魔力生物は食い繋いでいけると言う。

 そのため、いまもこの家の中には冒険者の相棒であった魔族やエルフ、獣人などが残っている可能性が高かった。


「殲滅か?」


「いや、話し合いだ。俺、乱暴なのやなんだよな」


 フィニスの言葉に、ミコが鼻で笑って返す。


「乱暴なのが嫌なら、ギルドと争うのをやめてさっさと冒険者に戻ったらどうだ?」


 ミコからの言葉に鼻を鳴らすことで返事をすると、屋敷の内部へとミコが足を踏み入れるのを眺め、フィニスは黙ってその後ろへと続いた。


「話し合いとは言っても、冒険者が残っていたらどうするんだ?」


「冒険者集合自治団体法令第七条に則って、代表の一人と対話ってやつをやるさ」


 そう話していたフィニスとミコの前に、エルフの青年が姿を現す。先程まで人の気配も無かった中に現れたその姿に、フィニスは肩を跳ねさせる。


「ギルドの方ですか?」


「ああ、そうだ。君は冒険者マーテルの使役魔力生物かい」


「はい。私はエルフのゼノと言います。私以外の者は自室に戻るように伝えていますが、顔を出させたほうがいいですか?」


「いや、まずは君から話を聞こう。どこか話せるところはあるか? 俺のバディはどうにも、現代っ子らしく足腰が弱くて冒険者になれなくてな」


 ミコの言葉に、フィニスが軽くミコの脹脛を軽く蹴る。それにゼノが小さく笑って「こちらへ」と先導する。

 招かれたのは、冒険者マーテルの自室だった。

 伽藍とした部屋の中にはピンク色の秋桜が飾られているだけで、こざっぱりと片付けられている。

 しかし、生活感は無い。


「ここが一番綺麗ですので、どうぞ」


 ゼノに座布団を勧められ、ミコとフィニスはそこへ座す。その対面にゼノが座り、軽く頭を下げる。

 ゼノは深く、深く息を吐き出してから言葉を紡ぎ始める。


「大変な時に、ギルド所属の役人様と相棒の方に来て頂けて安心しました」


「それで、一体何があったんだ?」


 こういった時には、役人よりも魔力生物が話をするほうが良いということをフィニスは経験から分かっていた。

 だからこそ、話し始めたミコにも驚くことはなかった。


「……マーテルさんが、恋をしたんです」


 その言葉に、フィニスとミコは顔を見合わせる。



──冒険者である、マーテルさんは自他ともに認める優秀な方でした。

 人間の目から見るなら整った顔立ちをしていたでしょう、魂も汚れることなく美しく精錬で、魔力も豊富でした。縁談も数多来ていたと伺っていました。

 しかし、マーテルさんは彼女の相棒に恋をしてしまったんです。口数は少なく穏やかで、マーテルさんの周囲にはいないタイプだったのでしょう。

 マーテルさんは徐々に余裕を失い、パーティのメンバーにも揶揄されるようなことが多くなってしまいました。


 私たちは、……人間に使われる身。

 しかし、だからこそ、その使い手を選ぶこともあるのです。種族によっては女人を軽んじる者もおります。恋をした冒険者を、バディとして尊敬できないと言う者も、おります。そのような中でマーテルさんは徐々に壊れていきました。

 マーテルさんが初魔力生物……獣人のループスさんに夢中になっていると詩を諳んじて、そこから嘲弄するような歌合せが行われることもありました。


 彼女は、優秀であったにも関わらず、そのために壊されてしまったのかもしれません。

 マーテルさんは、誰に対しても威嚇をする猫のような方でした。それでも、唯一ループスさんと一緒にいる時だけは穏やかだったんです。共にいると安らぐことができたのでしょう。

 マーテルさんが亡くなったのは、今月の初めでした。その前日に、マーテルさんとループスさんは話をしておりましたから、そこで何かあったのかもしれません。


 同日に、ループスさんも……亡くなってしまいました。

 マーテルさんの初めての魔力生物はループスさんで、私は三人目の相棒でした。二人目はハーフリンクのミニウエレでしたね。



 静かに語るゼノに、フィニスはひとつ頷くことで返した。

 まるで醜悪ないじめのようなことが起きていたらしいこの場に、「パーティは解散、全員処刑だな」とフィニスは独りごちる。

 それに、ゼノは言葉を返すことも無く穏やかに微笑むのだった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ