序章ー入学
ガタンゴトン…ガタンゴトン…
耳に、列車のジョイント音(※1)が突き刺さる。
もう何回も、何十回も、下手したら百回以上乗った。
電車に乗るのは慣れているはずだ。
それなのに、自分の心は、極度に緊張していた。
なぜなら、今日が入学式の日だからだ。
ふと、我に返った。
「まもなく、日立です。」
電車のアナウンスが聞こえてきた。
自分は静かに電車を降りる準備をし、ドアを開けるボタンを押し、雪崩のように列車から出てくる人々からいち早く抜け出し、駅の改札を抜けた。
日立は何回か来たことがあるが、少し駅から離れれば、もうそこは自分にとって未知の領域だ。前見学に来たときに通った道を何とか思い出し、学校まで早歩きで向かう。
時間には余裕があるはずなのに。
中学校の時は、家を出るのが遅くなることも多々あったので、それの名残だろうか。
学校に着いた。
学校は、自分たちを迎え入れるため、無駄に壮大な準備をしていて、場所によっては未だに教師たちが作業している。
早く来すぎた。校門の近くで待つのは気が引ける。しょうがなく駅へ戻り、いつもの三人で改めて来ることにした。
「おーい!」
井上と高安の呼ぶ声がした。
井上浩明。小学校5年生からの友達で、おそらく転校してから最初に出会った友達だ。
高安恵里菜。小学校6年生からの友達で、井上との共通の友達だ。井上とは小中学校でクラスが別になったことが2回あったが、高安とは1回も別クラスなったことがない。なので、休み時間など、事あるごとに話をする。
いつもの三人と、いつもと変わらない話をするが、全員、どこかすごく緊張している気がした。
校門が開いた。この時点で、なぜか結構人がいた。新入生が学校へと一斉に入り込んでくる。自分はその人の波に飲まれながら、校舎へと向かった。
クラスのメンバーを確認した。幸い、井上も高安も同じクラスだ。教師の指示に従い、入学式の会場へと向かった。
入学式の話はほとんど聞かず、井上に何か大事なことを言っていたかだけ聞いた。結局、その「大事なこと」なんてのはなかった。
中学校と同じように入学の説明書や校則など、一通りのものをもらって、今日の学校は終わった。
「次は、佐和です。」
電車のアナウンスが鳴った。
「うちはもう帰るけど、佐々木と高安はどうするの?」
そう聞くと、佐々木も帰ると言ったが、高安は、「水戸まで行ってマニメイト行ってから帰る」と言った。
「行きたいけど金ない…」
そう愚痴をこぼしたが、こういうのはほぼ自分にしか聞こえないような声で言うので、もちろん聞こえず、反応も返ってこない。
佐和駅に着き、列車が止まった。
「じゃ」
高安にそう言って、自分と井上は、一緒に家の方へ歩いた。入学式の緊張も終わり、ほぼいつもと同じ通りの会話をし、井上が帰るところで手を降って、少し加速し、早歩きで帰った。
明日からどんな日々が待っているのだろう。
楽しみで仕方がなかった。
続く
※1 ジョイント音︰列車の車輪がレールのつなぎ目をまたぐときに鳴る「ガタン」という音。