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嘘と自己愛

作者: 貝瀬多聞

 細かな雨が降っていた。まだ寒い二月の頃、夜の照明が雨粒に映り、星の流れるように見える。雨音はこだました。車のライトが通り過ぎる。吐く息は白く、上気した頬は仄かに赤くなった。小さく震える手はポケットに入ったまま、わずかな後悔と期待、夜は幾度もあるのに少しの緊張が唇を丸め込む。感情が弾けるように溢れ出て弱音が漏れそうになる。ごまかしの笑いで顔をそらし、大事なことは何も言えなかった。


 佐野は隠れて生きていた。社会から、人から、自分のいない環境がすぐれていると思い、居住を転々としていた。彼は何かを好んでいたのだろうか。佐野自身はこの性癖を呪いのように感じながら、自分と関わらないだけ世間はよくなると思っていた。潔癖というべきか、世間知らずというべきか、彼は呪いをばらまくことを危ぶみ、透明人間のように暮らそうと努めていた。ただ人を恐れて。


 佐野が二十を超えた頃、携帯に同窓会の誘いが来た。一切の情報を断っている彼にとっては驚きだった。聞けば、実家の親に聞いたらしい。わずかな会話の中で行くと答えて連絡を交わした。それは無邪気な戯れだったのかもしれない。自分らしくない行動に自身でも戸惑いつつ信号を渡った。からっかぜが吹いて枯葉が落ちた。日が昇って昼間になっても空は曇っていて薄暗い。イチョウの葉が舞って家々の角に溜まる。あんなに元気だったのに、毎年のことながら不安に思う。砂ぼこりの立つたびに時は進む。冬の窪みにはまり込み、日差しが遠のいたように感じる。少し目をすぼめて首を振った。枯葉の行方を知らず、季節がいつか迎えに来るのを待った。


 一か月後、彼は友人と待ち合わせた。会うのはほぼ十年ぶりだった。思い出話などをしながら目的地まで歩く。店に入ると小学校の同級生が既に集まっていた。皆、風貌が変わっている。おっかなびっくりで怯えつつ、色々と話して会を終えた。


 今更ながら、佐野は見透かすような目をした人が苦手だった。特に女性には多くそれを感じていた。もっとも、異性と話すのを不得手としていただけかもしれないが。案の定、彼は女性と話してどぎまぎした。自分は今何をしているか、あなたは元気ですかなどと話す。たわいもない内容だったが、相手の女性は大笑いしていた。これも佐野の特徴だった。女性と話すと、相手が笑ったり褒めてきたりする。彼は必要以上に媚びて妙な気分になった。その後も先生と話したり、知人と話したりして彼は帰った。許してほしいような、慰めてほしいような、すべてを白状してしまいたいという彼自身にとっては正気でない発想が頭をもたげてきた。なぜこのような頭になったのか、彼はひどく混乱して帰路についた。


嘘のない愛のある小説

それが書ければいいのにと思う

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