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十分な休憩も済んだので、いざ賢者の森とやらに出向くことにする。
森の中はそんなに暗いというわけでもなく、所々で木漏れ日が差し込んできてむしろ黄緑できれいだった。
「魔物ぜんぜん出なくないか?」
「そう簡単に出るわけ無いでしょ、浅いうちはまだまだ出ないわよ。でももうちょっと歩いたら前方にオークがいるわ。そろそろ準備しておいてちょうだいね」
「え、なんでわかるんだ?」
超能力者かなにかなのか?
「勘よ。まぁ外れることもあるからあんまり当てにしないでね」
「なんじゃそりゃ」
そしてそこから三分ほど歩いたところで、本当に前方にオークと思しき影を見つけた。
木陰から覗いてみると、三体分が談笑しているように見えた。
「マジでいたぞ。本当に豚人間みたいなんだな」
「え、なに、もしかしてオークも始めて見たの? 本当に田舎者ね、ここまでくると笑いがこみあげてくるわ。まぁ笑わないけどね」
「でも豚なのに全然こっちに気付かないな。鼻がいいのかと思ったけど」
「私もその辺は良くわからないわ。まぁ人間よりはいいかもしれないけど、そこまでなんじゃない」
ラブもにわか知識しかないらしい。でも俺のオークに対する知識はこいつよりも下なのか。そう思うとついてしまうため息の量も一つ増えてしまいそうだ。
「じゃあ早速ぶち殺そうぜ。それで依頼達成なんでしょ」
「いや、オークは縄張りを持つことで知られてるわ。もしかしたら巣のようなものがあって、そこに帰るかもしれない」
「なるほど、一網打尽というやつでありますか。了解であります」
あったまいい!
ウキウキで待機していると、オークたちが移動し始めた。
俺達はそのあとを十分な距離をあけて尾行することにした。
しばらく進んでいくと、村のような場所に来た。
「おい、オークたちがいっぱいいるぞ!」
オークたちがいっぱいいた。
本当に人間が住んでいそうな村で、そこでオークたちが普通に行き来しているような感じだ。
丘の上から見下ろしている形なのでよく見える。
「尾行して大正解だな! こりゃ大量だぜ!」
「これは……」
興奮する俺をよそにラブは言葉を失っているようだった。
「おいどうしたんだよ。まさかこの期に及んでトイレとかじゃないよな。仕方ない行ってこいよ、俺は紳士にここで待っといてやる」
「そんなんじゃないわよッ! ああ、いや、これはちょっと悲しい結末だなと思ってね」
「ん? どういうことだ?」
「あそこは多分もともと人間の村よ」
「……え?」
「こんなきれいな木造の建物をオークたちが建造できるはずがないもの。しかもまだ新しいように見えるから、廃墟となってそんなに時間は経ってないはず」
「はっ! つまり……どういうことだ?」
「つい最近人間の村がオークの群れに滅ぼされたってことよ!」
「バカ、な……」
俺は言葉を失ってしまった。
あんまりだ。こうも簡単に人の住処が魔物に奪われてしまうなんて。
「村人たちは何やってたんだ? こんなにあっさりオークたちに侵略されちゃうなんて」
「わからない。ギルドにも多分報告は言ってないと思うから、群れの力がそれだけ強かったのかも……それでも逃げ出せた村人が一人もいないというのは少し変な話な気もするけど……」
ラブは足りない頭を捻って何か考えているようだ。
「まぁ何はともあれやるんだろ?」
「そうね。まぁいうてもこういった惨状は結構各地で起きてるものよ。終わったことを考えても仕方ないわ! これからを考えましょう」
ラブは案外さっぱりしているようだった。
人が死んでるであろう状況にてこんなにも元気になれるとは。
俺はどうやら舐めていたようだ。もしかするとこの子を見習わないといけないのかもしれない。
「よし、わかった。作戦はどうする?」
「そんなの突っ込むしかないでしょ? こんなところで眺めてたって何もわからないし解決しないわ」
「脳筋結構!」
俺は村に向かって走り出した。
「ぜぇぜぇ」
思ったよりも距離があって、到着したころにはつかれてしまった。
「さぁ、もういっそのこと暴れてしまいましょ。どうせ生き残りもいないだろうし、人質とかの心配もないと思うわ! 派手に暴れて注目を集めたほうが都合よく集まってくれるってものよ!」
ラブは相変わらず元気だった。
そして流石に村の中まで来ていたので、すぐに一部のオークたちに気付かれた。当たり前だった。
「ぶおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
オークたちが雄叫びを上げた。
大地を揺るがすがごとく野太く力強い咆哮。
俺は思わずちびりそうになった。が、ぎりぎりつまんで踏みとどまった。
「怖い、怖くなってきたよ。ラブさま助けてくれ」
いざオークを前にすると腰が引けてしまった。
なにせオークはでかい。体長は優に二メートルは超えるだろう。実際に敵意を向けられてしまうと、もともとただの高校生の俺にとってはかなり耐えられないものがあった。
「何言ってるの。あんたの魔法を見せるときでしょ! さぁ、見せて頂戴! そのためにあなたと一緒に来てるんだから!」
そうこうしているうちに相手は待ってくれるつもりはないのか、二匹のオークがこちらに向かって突っ込んできた。