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なんか付いてくることになったラブレリカという少女に最寄りの街まで案内してもらうことにした。
「あそこよ!」
「え、もう付いたのか?」
歩き始めてまだ十分と立っていない。
にもかかわらず丘から見下ろしたところに城壁のようなものが見え始めた。
まぁ確かにいきなり辺境の平原とかに転生させるほど神様もバカじゃないか。その辺は一応考えてくれていたんだな。だとしたら最初から街の中とかに転生させて欲しかったんだけど。
「街についたらどうするの? 早速さっき言ってた目的とやらのために動くわけ?」
「え? さぁ、特に考えてなかったな」
「何よそれ、というかその目的ってのはなんなの? 気になって夜しか眠れそうにないんだけど」
「うーん、まぁ秘密だよ」
まぁ一応俺の目的としては魔王を倒すという嘘のようで本当の目標があるわけだけど、それを正直にいったところでどういう反応をされるか分からないからな。俺はまだ常識人で通していく予定だし、カミングアウトは様子を見てからにしたほうが良いだろう。
「く、何かと秘密が多い男ね……まぁいずれ絶対に突き止めてやるから首を洗って待ってなさいよね!」
そんなつまらないことを話しているうちに街の門まで到着した。
「身分証を」
特に列とかはできておらず、すんなりの門の関所までたどり着けた。
怖い感じの門番がいて、俺にそう問いかけてくる。
ええ、どういうこと? そういや普通に考えてなんもなしに街に侵入できるわけもないのか?
「えーっと、僕の顔を見てください。どうですか? 全然怪しくないでしょう?」
「何してるのよ……ああそういえば山奥にこもってたんだっけ。じゃあそういった類のものを持ってるはずもないわよね。いいわ、私のおつきということで入れさせてあげるわ」
ラブレリカが何か門番と会話をした。
すると怖いと思っていた門番はにっこりして俺を門の向こうに通してくれた。
なーんだ、楽勝だったな。もしかしてこの少女がいなかったら俺詰んでたくない?
「あっさり入れたよ、なんだか知らないけどありがとう」
「ふん、まぁ別に感謝されるいわれはないわ。あなたは知らないかもしれないけど、おつき、いわゆる従者ってことにすれば一緒に通して貰えたりするのよ。で、ここがモナの街よ」
街の中に入り、街並みを観察してみる。
まぁやはりと言うべきか日本とはぜんぜん違う。
中世ヨーロッパ風とでも言っとけばいいのかな。街ゆく人々もそれっぽい古めかしい衣装を着ている人がほとんどで、それなりに活気づいているようだ。
ふわっと鼻をつく香りもすごく独特で、なんだか知らずのうちに雰囲気に飲まれそうになってしまう。
なんだかよくわからないけど感動するな……いろいろ見て回りたくなっちゃうな。
「何ぼうっとしてるのよ。言ってた通り無事街まで送ってあげたわよ。これからどうするつもり?」
「決めたよ。俺この街に住むんだ」
「は? いきなり何言ってんの?」
「そして赤ちゃんを生むんだ」
「頭おかしくなったの!?」
でもなんか適当に行動してたけど、俺は今日からこの世界で暮らしていかないといけないんだよな。となると衣食住の確保は最優先事項なわけで、となれば必然的にお金が必要になってくる。そうだな、まずは宿にでも泊まりたいな。なんかちょっと歩いて疲れたし、よし、宿に泊まろう。
「まぁどうなっても私はあとについていくだけだから」
「俺はお金を稼ごうと思うんだ。ちなみに君はどうやってお金を稼いでるの?」
「え? 言ったと思うけど私は冒険者活動をしてるのよ。その報酬とかで全然お金には困ってないわよ。私は最強ですごくて特別なんだから」
冒険者かぁ。しゅごく面白そうだなぁ。やっぱりこの世界にも異世界なだけあってそういうのがあるんだぁ。異世界って思ったよりもわかりやすいのかもな。まぁ俺の適当な予備知識がどこまで通用するかはわからないけど。
「俺に冒険者、どうかな?」
「へ? まぁお金を稼ぎたいってことならいいんじゃない。よかったら案内しようか?」
なんだ、すごく気が利くじゃないか。もしかして根はすごくいい子だったりするんじゃないか? 俺はこの子のことを誤解していたのかもしれない。早急に修正作業に入らなければならないと思った。俺はこの時限りは研究者になる。この子についてもっと研究して実験を繰り返し理解を深めていく必要性があるんだ。
そんなことを思いながら首を縦に振った。
少女に案内された建物は周囲のものよりかなり大きかった。
木造で三階建てはあるんじゃないだろうか。立派の一言だな。すごすぎるよ。
「連れてきてくれてありがとう」
「何を、結構あんたって素直よね、まぁ別に私も適当に依頼を受けてきてどのみち寄る予定だったらついでって感じ? まぁ何も問題ないってこと、さ、入りましょ」
ラブレリカに続いて中に入る。
内部も外観に違わずかなり広かった。
正面に受付っぽい場所があり、右手のスペースには酒場のようなものが併設されている。
武装している人間たちがまばらだがいた。
「こんにちわ!」
俺は元気よく挨拶した。
何人かが俺の方を振り向いた。
だがそれだけだった。
俺はひどく虚しい気持ちになった。