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さっそうと目の前にそいつが姿を現す!
それは狼の姿をしていた。
灰色の毛並みに、鋭く赤い眼光。
狼といってもかなりデカく、その辺の熊などひとなぎにしてしまいそうだった。フェンリルとかそういう類のワードを思い浮かべた。
「ああ、森の守護者さん。ひさしぶりね!」
「お、お主何のようだ! 我は何も悪いことなどしてないだろう!」
だがそんな威厳ある姿とは裏腹にかなりビビっているようだった。
具体的にはラブにビビっているようだった。
「悪いことしてないって、この前普通に襲ってきたと思うんだけど……」
「あ、あれは仕方ないであろう! 我は森の守護者たるゆえ侵入者を排除する使命があるのだ! それにお主が化け物だと知っておったら余計な手出しなどしておらんわ!」
「理由になってなくない……?」
やはり両者は顔なじみらしい。
「なぁラブさん、こいつに会いに来たってことで間違いないんだよな?」
「ええそうよ! この前偶然知り合ったんだけどね! この子に乗っていったらかなり早く着くと思って!」
健気にいいアイデアでしょとばかりに笑うラブ。
うん、確かにものすごく身のこなしとかすごそうだし速そうではあるけどさ……森の守護者とか名乗ってるんですけど。その辺は大丈夫なんだろうか。いや、大丈夫じゃない気がする。
「まぁそう警戒しなくていいわ。今日はあなたに頼みがあってきたの」
「た、頼みだと……? わざわざ我に会いに来てまでする頼み……嫌な予感しかせん」
「全然簡単な頼みよ! あなたに乗り物になってほしいの!」
単刀直入に言いきった。
「乗り物? それはどういうことだ?」
「言葉のとおりよ。私達を遠くの地まで乗っけていってほしいのよ。なんかあなた速そうでしょ?」
「な!?」
守護者は絶句していた。
それはそうなるだろう。
「お、お主、この我をなんだと思っている。我は守護者たるものぞ! そのような幼稚な真似できるわけなかろう!」
「この前命は見逃してあげたくない? その分の借りを返すときでしょ!」
「言い分が完全にめちゃくちゃであるぞ! 殺さないから言うことを聞けとはどんな極悪人なのだ!?」
「え、でも最初襲ってきたのはそっちでしょ? 普通返り討ちにあったとしても文句はいえないと思うけど」
「ぐっ……それは、その……」
守護者は押され気味だった。
一体過去に何があったというのだろう。
あんまり詮索するのはやめておいてあげた方が良い気がする。
「じゃあ良いわよね? 断るって選択肢をしてもいいけど、その時はあの時の続きをお見舞いしてあげるわ!」
「ぐ、だったらもう選択肢はないようなものでないか! この悪魔め! しかしそれだけは無理だ、本当に無理なのだ!」
「え? どういうこと?」
「我はこの森の守護者として生きている。ゆえに制約上この森から出ることができぬのだ!」
「嘘ついてるとか言わないわよね?」
「あ、当たり前だ! 本当なんだ信じてくれ! そもそもおいほれと森を離れるようでは森の守護者が務まらんだろう! 森を守る。その使命だけを代々忠実に守りつづけたからこそ今があるのだ」
「うーん、なるほど……そう言われちゃったらそうとしか言えないし、どうしたものかしら」
森の守護者は森から離れられないらしい。
どうやら詰んだらしかった。
「別にそれならしょうがないじゃないんじゃないか? そもそも守護者を森から離れさせるのも違うと思うし、別の方法を考えよう」
「そうね……ここまで来てあれだけど、こうなったらもう馬車で行くしかないか。野宿とかを繰り返すことになるけど……」
野宿、だと?
そうか、そりゃそうだよな。馬車で移動中も休憩はとらないといけないわけで、そうなると完全に外で寝泊まりするはめになってしまうだろう。
え、普通にいやなんですけど、野宿とか絶対しんどいだろ、そんなのやったことないし、蚊とかめっちゃ出そうじゃない? 俺は蚊が死ぬほど嫌いなんだ。いや蚊だけならまだいい、その他の虫なんかもたんまりいるだろうし、なんならここは異世界だ。とんでもないサイズの虫がいたりするかもしれない。それに普通に魔物もいる。
「いや、野宿はまずいだろ」
「え、だってそうするしかないわよ?」
「なぁ守護者さん。守護者ってのは代々引き継がれてるもんなんだろう? それは合ってるよな?」
「む? なんなのだこいつは。偉そうに我に話しかけてきおって……」
「ああ、この人はまぁなんというか私の連れよ。一緒に旅をすることになってるの」
それを決めたのはあんた一人だけどな。
「旅の連れ……ってことはこいつもお主くらい強いということか……?」
守護者の顔に再び恐怖がにじみ始めた。
一体過去に何を見たというんだ。
「どうなんだ?」
「ま、まぁその通りだ。代々継承しておる。がそれがどうしたのだ?」
「継承っていうのはどうやってやるんだ?」
「む? それはまぁ簡単なことよ。引き継ぎの儀を執り行えばよい。まぁただ当然誰でもなれるというわけではないぞ。当代の守護者が認めた相手でなければ、当然その資格は得られんからな」
「なるほど、だったら別のやつに守護者を継承してしまえばあんたは森から出られるわけだな?」
「…………」
守護者は黙りこくった。
それは肯定である以外のなにものでもなかった。




