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「うぅ、ありゃ……?」


 俺は気づけば知らない場所に立っていた。

 そこは草原地帯のようだった。

 どうして俺がこんなところにいるのかがわからない。俺様がこんなところにいるということが、それが何を意味することになるのか、俺には全然わからなかった。


「むむ、そういや俺は異世界に転生するとかいう話だったことないか? そして俺は魔王を倒すとかそういう話でもあった気がするぞ。なるほど、あの神様もどきと話した記憶はてっきり夢の中でのものかと思っていたが、どうやらそういうわけでもないらしいな」


 となればこれはもはやすばらしいゲームだ。

 異世界というゲームの世界に駆り出されたのだ。

 そう考えるのが早いだろう。


「ふ、まさかこの俺様が地球を去りこんなゲームの世界に足を運ぶことになるとはな。となると魔法なんかも使えるじゃないか。とりゃ」


 俺は適当に手を前方にかざした。

 しかし何も起こらなかった。


「何も起こらない……だと!? そんなバカなことがあるのか、俺としたことがこれはすごく痛いぞ。痛すぎてどうにかなりそうだぞ。失態、こんな失態は許されない! 誰かに見られでもしたら、俺はとても悲しい気分になってしまう! 死にたくなってしまうじゃないか!」


 俺はしきりに辺りをキョロキョロした。

 誰かが俺を監視しているかのような感覚を覚えたのだ。

 しかし周りには誰もいない。

 どうやら勘違いのようだった。


「ふぅ、なんとか俺の中の秩序は保たれたようだな。これは僥倖。しかし魔法の撃ち方がわからない。確か俺には魔法の才能があるとかどうのこうの抜かしていた気がするんだがな」


 もしややり方が間違っていたのだろうか。

 確かに考えても見れば適当に手を前にかざしただけで魔法などが出るというのもずいぶん都合のいいはなしだ。そんなあたかもゲームっぽい仕様にはなっていないということなのか。

 

「とあああああああああああああああああああああああ!!」


 俺は精神を集中させた。

 魔法とは忍耐がものをいう。そして想像力だ。

 肉体に頼るんじゃない。己の精神に問いかけるのだ。

 そうすることで、必ずや道が切り開かれる。

 そんな気がした。

 どことなくだがそんな気がしたんだ。


「いっけええええ! ファイヤーボール!!」


 俺は技名を叫んだ。

 渾身の咆哮。

 これだけ大きな声で叫んだのだ。もしこのあと何も起こらないということになれば、俺は確実に自害を選ぶ自身があった。

 しかし俺の懸念は杞憂に終わった。

 俺の手から何かが勢いよく解き放たれたかと思えば、それはすごいスピードで前方に飛んでいき、派手な大爆発を引き起こしたのだ。

 すごい火柱が上がり、草原の一帯が炎の海となって廃土とかそうとしていた。


「す、すごいぞ……なんだこれ! これが魔法というやつなのか! まさか本当に撃つことができるなんてな。やはりここは異世界。そして俺の才能が凄まじい。こんなの笑うしかないぞ……」


 俺は自分の才能におそれを抱いた。

 こんなもの兵器でしかない。

 俺は今この時点から兵器となったのだ。

 すべてを破壊してしまう。もしこのことが機関にバレでもしたら、俺は確実に命を狙われてしまう。


「だめだ。この力はそうひけらかすべきではないな。この力はできる限り温存しておこう」


「な、なんだこれは!?」


 ふと人の声が聞こえた。

 俺はびくっっと反応してしまう。

 鳥肌たった。なんなんだよ!


 見てみれば、俺が放った炎の跡を何人かが呆然と見ていた。

 馬車があって、その周囲に人がいる。

 異世界っぽい服に身を包んだ人間たちだった。

 数はざっと五人ほどだろうか。

 この世界の住民、つまり異世界人だろうと俺は推測を立てた。

 いわば地球人の敵……。

 俺は警戒心をより強めた。


「おい、あそこに人がいるぞ!」


「君、ここで何が起こったか知っているのか――」


「ま、待て! こいつ怪しいぞ! 簡単に近づくんじゃない」


「なんだ、もしかしてこれを引き起こした犯人があいつとでも言うのか!」


「その可能性は捨てきれないだろう。もしかしたら人の皮をかぶった化け物ということも考えられる。だって妙に達観してるじゃないか!」


「た、確かに、こんな状況だというのに慌てた様子がない……」


 どうやら彼らは俺のことを警戒しているようだった。

 だがそれは俺も同じ。

 まずは相手がどういった奴らなのか探る必要がある。


「おいお前ら!」


「しゃ、しゃべった!」


「こ、こっちに来るぞ!」


「戦闘準備だ!」


 俺が近づいていくと、男らは戦闘態勢に入った。

 腰に刺していた剣を抜いたり、背中にしょっていた大弓を構えたりしている。


「や、やめろ、そんなので攻撃してこようとするんじゃない!」


 俺は怖くなってしまった。

 もう自分が何なのか本格的にわからなくなる。

 これが取り乱すというやつなのか。本物の恐怖。自分が死ぬかもしれないとなったとき、人はこんなにも足がすくみ、惨めになってしまうのか。

 俺は人間の本質的な弱さを悟った。

 今の俺はもう完全な戦意喪失状態。相手が攻撃してこようともそれに反抗する手立てがまるでない。


「あ、あいつうずくまったぞ!」


「観念したか。おい、取り囲め! くれぐれも慎重にな!」


 ああ、俺は死ぬんだ。死ぬのなんて……いやだ!


「どりいいいいいやあああああああああ!!」


 俺は立ち上がった。

 死ぬわけには……いかない!


 俺は渾身のファイヤーボールを男らに向かって解き放った。

 大爆発。

 男たちは木っ端微塵になった。

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