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俺たちは謎の盗賊軍団と対峙していた。
「意味がわかりません。その装備はどこで手に入れたのですか……?」
盗賊たちは物凄い良さそうな装備を身に着け、更には全員が馬にまたがっている。
「はん、簡単な話さ! 俺達の実力さえありゃ騎士団であろうと相手じゃねぇ。たっぷり遊んでやったぜ。なぁ?」
頭と思しき男の問いかけに、他の面子もケラケラと怪しく笑っている。
「これからは俺達『アリエッティーズ』の時代なのさ! わかったかい? これから俺達の便器になるオネェちゃん?」
「なぜあなた方のような者たちがこんな場所を縄張りにしているのですか!?」
「はぁ、そんなこと教えねぇといけねぇの? 簡単だろ、目の前をチロチロ横切っとけば鬱陶しくなって向こうから来てくれるだろぉ? がっぽりと良いもんを備えてよ、こちらから行く手間が省けるっつぅもんだぜ」
よほど腕に自信があるのか、その発言はまっすぐでとても虚言などとは思えなかった。
「てことで分かっただろ? 分からされただろ? なんならデモンストレーションで足を切り落としてやってもいいぜ? 胴体さえありゃいくらでも楽しめんだ。ふぎゃぎゃぎゃぎゃ!」
「ひっひっひっひっひ!!」
「ふへへへっ!!」
背後の盗賊仲間たちも気持ちの悪い笑みを浮かべている。
実力は定かではないが、そんなに弱いということもないのだろう。
でなければこんなに余裕そうにしているはずもない。
……なんだ、全然聞いてた話と違うんだが。
「は、つい無駄話を挟んじまった。続きは俺達のアジトでたっぷりと聞かせてやる。いやという程にな。そんじゃ、可愛いお嬢ちゃんはこっちへ……へへ、よく見りゃ相当のたまもんじゃねぇか。こりゃそそるなぁ。おい、その男はお前らの好きにしていいぜ」
「うほっ、刻む! ちょっとずつ刻ませてくれぇ!」
「ふひひ」
相手は完全にこちらを襲ってくる体勢に入った。
もう殺されるのも秒読みだ。
「お、おい……どうするんだモンタン! なんかこいつら強そうだぞ!」
とは言いつつ、昨日訳のわからないゴロツキに放ったエスパー魔法を使えばなんとかなるんじゃないかと思ってる自分がいたが、ちょっと雰囲気づくりでポーカーフェイス少女を急かしてみる。
「……あなたは逃げてください。私がなんとか引き付けておくので、全力で走って」
モンタンの顔はもう完全に強張っていた。
覚悟を決めた表情をしている。
え、それってモンタンが囮になるってことか? 逃げればいいとか言ってたけど、もしかして俺のことを気遣ってくれてるのか? 自分を犠牲にしてまで俺のことを……モンタン、ごめん、かなり見直したよ。
「でもそれじゃモンタンが」
「……私の失態です……ちょっとした雑魚であれば私が適当に蹴散らすつもりでしたが……これは罰なのです、調子に乗って他人を巻き込んでしまった、私の罰……」
「さぁ、お嬢ちゃん? 危ないからその男から離れようねぇ。大丈夫、頭はああ言ってるが、俺は新品をなぶり回したいタイプだから」
男らが馬から飛び降りまさに近づいてくる。
「走って! 早く! 早く走れッ!!」
モンタンは鬼気迫った表情で俺を突き飛ばし、どこからか取り出した不思議な紋様のナイフで男の一人を斬りつけた。
「ぐぎゃあああああ!!」
男は不意打ちを食らい両目を真横に切り裂かれていた。
ものすごく痛そうだ。
「クソっ!!」
もう一人近くまで来ていた男が、立派な長剣を抜き、モンタンに斬り掛かった。すごい洗練された動きに見えた。というか俺の目でやっとギリ捉えられるかどうかの凄まじい速さだ。
シュン!
モンタンは受付嬢の服装からはとても想像できないくらい機敏な動きで宙に飛んで回避した。
そしてそのまま蹴りを男の顔面に叩き込む。
蹴りがモロに入った男は、衝撃のままに後ろに倒れる。
めちゃくちゃ軽快かつ流麗な動きだ。
体術としてこれ以上ないんじゃないだろうか。
思わず見とれてしまっていたが、相手はその男二人だけではない。
モンタンは横から再び襲いかかってくる男の剣をナイフでそらすように回避し、そのままの流れで首筋にナイフを突き刺そうとする。
しかし横から割って入ってきた男の剣に対応せざるを得なくなり、攻撃は諦めナイフで受けようとする。
ただそれはフェイントだったのか、その男の蹴りがモンタンの腹部にクリーンヒットした。
「くはっ……」
長い脚が、無慈悲に小柄な少女の腹を撃ち抜く。
体勢を崩すモンタンに、別の男の左足の蹴りが本格的に入り、俺の方に吹き飛んできた。多勢に無勢、ボコボコだった。
「うお!」
俺はなんとか奇跡的にモンタンを受け止める。
だが足腰の弱い俺のことなので、当然受け止めきれるわけもなく一緒にある程度地面を転がってしまった。
「う、く……」
モンタンはなんとか意識は保っているようだ。
だが蹴りがかなり効いているのか、相当辛そうに見える。
やべ、なんだかぼうっと状況を眺めてしまってた……気づけばモンタンがこんなことに……!
「に、げてって……言ったのに……」
俺の腕に抱かれるモンタンは口の端から血を流しながら、虚ろな目で俺にそんな言葉を投げかけてきた。こんな時まで俺の心配か、根は本当にいいやつなんだな。
「あーあ、ジョンがやられちまった」
「まぁ油断しすぎだな、自業自得だ」
盗賊らは余裕そうな表情を浮かべながら剣を遊ばせながら俺達に近寄ってくる。
狩りを楽しんでいるかのようだ。
もはや虫の息の獲物を見て、どう調理してやろうかとしか考えていないのだろう。
「おいおい殺すなよ、死体を犯す趣味は流石にねぇからよ。へへ、いいもん見れたなぁ」
そう言う盗賊の頭もかなり気分は良さそうだ。
あー……こりゃ俺も反省かもな。こんなことになるまで放っておくのは流石に男としてなしだよな。可愛い女の子一人守れないなんて、やっぱり俺は根っからの馬鹿でアホだ。
俺はモンタンを優しく抱き寄せた。
そして力を放った。
なんてことはない、昨日の謎魔法だ。
周囲の盗賊らは、消し飛んでいった。
馬も一緒にいなくなってしまった。
「ふぅ、良かった防がれたらどうしようかと思ったわ。おい大丈夫かモンタン」
「……うぅ………………へ?」
俺の胸の中にいたモンタンは、ゆっくりと周囲の状況を把握して、かすれるような小さな声をあげた。




