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天才だったし、そう言われていた。
学院の中でも飛び抜けた頭脳を持っていた。
他のどんな少年少女よりもいい成績を残し、結果もついてきた。
生命学についての実験もたくさん成功させた。
教員も顔負けの成果を見せつけ、誰よりも尊敬され、認められる。
未来は王国の要職につき、順風満帆な人生を送れる。
はずだった。
「お前のやったことは到底看過できない。ジュリック、貴様をこの学園から追放する」
突然のことだった。
いやその兆候はかねてよりあったのかもしれない。
利権に目がくらんだ大人たちにより、事実無根の罪をでっち上げられ、衛兵に突き出された。
自分の果たした手柄は根こそぎ奪い取られた。
おそらく彼らは次の論文の発表により賞賛を浴び、少なからず名を売ることになるのだろう。
だがそのようなことはもう関係なかった。
拘留は免れたが、多額の賠償金を背負わされ、借金生活が始まった。
成果を上げるたびに自分のことのように喜んでいた母親の顔から笑顔が消え去った。
家庭崩壊が起こり、家族全員散り散りとなった。
手元に残ったのは多額の借金だけだった。
そのような男が世間への復讐に走るようになるのは、時間の問題だった。
「それでこんなことをするようになったってわけか」
オークを操っていた男、名はジュリックと言うらしいが、観念したのかコンコンと自分のことを語ってくれた。なおその辺にあった適当な縄でぐるぐるまきに拘束されてはいるが。
「……学院時代に俺が発明した生命のプロトコルの基礎理論は奴らに盗まれた。しかし奴らの進歩はそこまでだ。俺には未来がある。俺は努力を重ねて応用理論をいくつも見つけた。それをここまで慎重に温めて、着々とアウトプットして、一歩ずつ確実に俺のジュリック軍団を強化していく算段だったのに! お前らが現れさえしなければな!」
ジュリックは吠えていた。
現状も相まって、失礼ながら負け犬と言葉がすごく似合うなと思ってしまった。
「でも魔物をここまで完璧に操れるとかすごいよな。完全にお前の言う事を聞いてたぞ」
「あそこまでにするのには結構たいへんだったんだぞっ。生物ごとの脳周波から遺伝子の仕組みを紐解いて見える化しないといけないからな。オークの種族について掘り下げるだけでもかなりの労力を取られた。今はフリーズバードの解明に勤しんでたところ、だったのに!」
「へー、でもそれならひょっとして人間も操れたりするんじゃないか? それだとかなり面白そうというかめちゃくちゃ怖いことになりそうだけど」
「ふん、思ったよりは話が分かる男のようだな。そうとも、俺の最終目標はそこだ。しかし人間の脳周波はかなり複雑でな。まだまだ学問の研鑽が必要だ。オーク程度の単調な脳ならなんとかなったが……まぁそのへんはすべてを手中に収めてからでも遅くはない、と思ってたのに!」
「どうするラブ? この男そんなに悪いやつでもなさそうな気がしてきたし、解放してやるか?」
「何言ってるのよ、そんな危ないことできるわけないでしょ。ここはもう蒲焼きにしてあげましょう。さっきから自分のことをずっと語ってるけどなんの興味もわかなかったわ。そんなやつは蒲焼きがお似合いよ!」
「か、かばやきいいいいぃ!?」
ジュリックは震え上がっていた。
なんだ、何がやばいのか全然わからないぞ。
「まぁそれは冗談にしてもこの男の知識はかなり有用に違いないわ! 衛兵に突き出して、この世のために役立ててやりましょう!」
「ふん、お前も結局あいつらと同じ脳みそをしてるらしいな。ヘドが出るぜ。衛兵に捕まるくらいならもういいぜ、好きにしろよ。殺したけりゃ殺せば良い!」
なんだか白熱してきましたねぇ。
しゅぱん!
突如として男の首がちょん切れた。
男の頭部はなんとも言えない表情のまま床に転げ落ちた。そして血しぶきがスプラッシュ!!
「……え?」
「殺していいって言ったから殺してやったわ!」
殺人鬼がきゃっきゃと教えてくれた。
俺はこの人の前では下手なことは言わないと決めた。
「まぁ実際扱いには困ってたしこれでいいだろ。こいつももう魔物みたいなもんだったしな」
確かにこいつは天才だった。俺達、というよりラブがした行為はひょっとすれば世界にとってはかなりの損失だったのかもしれない。しかし衛兵に手渡すという手間を考えればこうするのがベストなはずだ。それに実際こいつは悪いことをしていた。裁きを加えるのが選ばれし者の役目というものだろう。
すっきりした俺達は一応村をくまなく探索した。
するととある小屋にオークの子どもがいっぱい住んでいた。
正直すごく可愛かったが、ラブが瞬殺してしまったので愛でる余裕もなかった。
また別の小屋には半裸同然の女たちがいっぱいいた。
お腹が膨れていたりもした。
俺達は何事もなかったかのようにそっと戸を閉めた。
そして別の小屋では武装した男らの死体があった。
調べてみると、冒険者カードを首から下げていた。
Eランクという文字と、フェンという名前、そしてモナ支部という文字が刻まれていた。
こいつらが先に調査に向かっていた冒険者パーティーだろうということになった。
冒険者カードだけ持って帰り、遺族に渡してあげることにした。




