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「あれ、ここはどこだ?」
俺は知らない場所にいた。
雲がもくもくと周囲を覆い尽くしている。
まるでおとぎ話かなにかの世界にでもいるかのようだった。
「ふほ。目覚めたかの」
目の前には年老いた男がいた。
くたくたのヨレヨレの、けれど服装は白く立派なものを着用している老人だ。
「あなたは誰なんでしょうか? 誘拐犯ですか?」
「そんな訳なかろう。ワシは神じゃ。そしてお主は柚乃実くんだったかの」
「ど、どうして僕の名前を! それを知ってるということは僕の知り合いかなにかですか!?」
「違うぞい。ワシは神だからなんでも知っておるんじゃ。お主の他人に知られたくない過去の過ちや、好きな女の子なんかもそういったことも全部知っておるぞい」
「うそだろ、そんなのチート過ぎるだろ。じゃあ一応聞いておくけど、今俺の好きな女の子名前言ってみてくれないか?」
「アクセルちゃんじゃろ」
「む、そのとおりだ。今絶賛ハマり中の漫画『マグマグマグカップリン』に出てくるヒロインの名前を言い当てるとは。やはりただものじゃない。認めてあげるよ」
「それは良かった。話が早いからの。さっそくじゃがお主は死んだぞい。トラックに轢き殺されてな」
「え、そんな衝撃的な事実をサラリというんですか? 僕はいったいどうしたらいいというんですか。オーバーリアクションを取ればいいというんですか」
「普通でいいぞい。そんなに鬱陶しいことをされてもワシは呆れ果ててしまうだけじゃからの。そして本来なら死んだままのはずであったはずのお主をわざわざこうして呼び起こし、そして頼み事をしようと思うておるということじゃ」
「ここは天国かなにかなんですか?」
「そうじゃ。まぁ厳密には違うがそういうことにしておいてもらってかまわない。そしてお主に頼みたいことなのじゃがな。異世界にいって魔王を倒してもらいたいんじゃ」
「ええ、なんかいきなりですね。まだ俺は自分が死んだかどうかも飲み込めてないんですよ正直言って」
「大丈夫じゃ。人間なんとかなるものじゃからの。今はとにかく時間がない。話をよく聞いて後で吟味するんじゃ」
「時間制限があるんですか?」
「今はお主の魂を無理やり呼び起こして潜在意識のようなものに語りかけておるだけに過ぎん。残滓のようなものじゃな。じゃからやがて消えゆく。それまでに話し終えねばならんゆえ、あと五分といったところかの」
「よくわかりませんが、切羽詰まっているようですね。とっとと話しやがってください」
「言われんでもそうするわい。まずどうして魔王を倒さねばならないのかということじゃが、これは魔王が強く過ぎて人間陣営が滅びようとしているからじゃ。このままじゃと文明の崩壊の危機じゃ。それは流石にその世界の管理の担当となっておるワシも見過ごせん問題じゃからの。こうやってテコ入れしようとしておるのじゃ」
「どうして俺なんだ?」
「うむ、お主を選んだ理由じゃが、これはお主の才能が突出しておったからじゃの。お主には考えられん程の魔法に対する適性を持っておるのじゃ。これはもうものすごいことなんじゃ」
「魔法? は、そんなの僕は使ったことないですよ。冗談はよしてくださいよ」
「それが冗談じゃないんじゃ。ワシは冗談と梅干しが大の嫌いじゃからの。地球では使えんくともその世界でなら魔法の力をいかんなく発揮することができる。この辺に関しても入念に話してやりたいところじゃが時間がないのではしょらせてもらうぞい」
そんな適当な……
「どうしても僕じゃないとだめなんですか?」
「お主が今のところ適正的には一番じゃな。他にも百万人以上の候補がおるんじゃが、お主がその中でもダントツの適性を持っておった。なんだか渋い顔をしておるが、その理由がワシ的にはよくわからんがの。お主は死ぬはずじゃったのに異世界に転生できる。しかも素晴らしい適性を持っておるということが保証されておるのじゃ。本来であれば泣いて喜ぶところであると思うがの」
「そうは言われてもピンとこないんですよ。まぁでも神様の頼みということなら、まぁ受け入れるつもりではいます。今はまだ正直混乱しているので、混乱しているうちに深く考えないうちにオーケーを出してしまいたいと思います」
「ふっほっほ! 今のはうけたぞい。それじゃあお主はこれから異世界に転生するからの。良い忘れておったがその世界はオルジェンという名前じゃ。文明レベルはまぁ地球に比べればかなり低いが、その分魔法文化が発達しておる。割と武の力がものをいう世界じゃからの。まぁその都度考えて行動していけば、お主の適正ならそう生活に困ることもないじゃろう。魔王を討伐したあとは、儂がお主に引っ付けたおるアンカーを引っ張り上げて再びここに連れてきてやる。そして何でも一つ願いを叶えてやるぞい」
「そんな特典が……でももし俺が魔王を倒せなかったらどうなるんですか?」
「その場合は別の転生者を擁立してチャレンジさせるだけじゃ。お主が能力的に無理そうだと判断すれば、そのときはアンカーに強力な電流を流し、お主を感電死させるからの」
「そんな怖いことをしないでくださいよ!」
「もちろん冗談じゃ。全て冗談じゃよ。もしかしたらアンカーなどというのも嘘で、本当はお主を縛るものはなにもないかもしれんぞ? まぁこれは喋りすぎたかの。まぁそんなところじゃ」
「意味わかんないですよ。ってあれ……なんだか頭がクラクラしてきたような……」
「そろそろ出発のときじゃな。それじゃお主の旅を応援しておるからのグッドラックじゃ!」
そうして俺の意識は途絶えた。