第7話 もっと早く、速く、疾く
タブーチルドレン本部。『雷の忌み子』の雷が、マネキンを前に音速の拳を振るう。
「ふっ!」
一撃でマネキンが粉々になり、雷は笑みを浮かべる。
「今のが1秒。速いが、もっと伸ばせる」
本部の外に出て、雷は適当なチンピラ三人を見つけた。
「ふんふんふん」
雷が敢えてチンピラの肩にぶつかってやる。
「おっと」
「あぁん!?」
「んだこらぁ!」
「殺しちまうぞ!」
チンピラ達が何かをする前に、雷がチンピラの一人の腕を掴む。
「はっ!」
「ぎゃぁぁぁぁ!」
まず一人が感電死。
「嘘だろ…」
「仲良く死のう」
さらに二人の腕を最速で掴み、一気に電気を流す。
「がぁぁぁぁ!」
「ぎのぉぉぉぉ!」
無論死亡。三人を殺害するのに使った時間は5秒。
「早く、早くぅ…」
雷は『早く』という事に執着していた。その理由は児童養護施設にいた時に遡る。
まだ能力を手に入れる前の雷にはとある友人がいた。その友人の名前は速水瞬一。
小学生にして陸上競技の才能を持っており、皆からは『最速の瞬一』と呼ばれていた。
そんな速水の親友とも言える人間が雷であった。
雷は速水のように足が速いという訳でもなく、かけっこではいつもビリであった。だが、速水は雷の事を貶す事はなく、むしろ速く走る方法を教えてあげていた。
仲良くしていた二人。しかし、例の誘拐事件の後、二人の友情に亀裂が入った。
速水は能力を手に入れた雷の事を『足が遅い馬鹿』や『ノロマ』と手のひらを返したかのように貶し始めたのだ。
当時の雷は何故自分が速水に貶されなきゃいけないのか。それがよく分からなかった。
そして、理由が分かる前に『忌み子』達が失踪。二人が会うことはもう無かったかと思われた。
2023年。『陸上王子』として名を馳せていた大学生の速水は帰路に着いていた。そんな速水の目の前にとある男が立ちはだかった。
「よう…久しぶりだな」
「ん、誰だよアンタ」
「けっ、やっぱり加害者は被害者を忘れるか」
男が速水に顔を見せ、速水が驚く。
「なっ、お前雷か?」
「お、流石に分かったか」
「久しぶりだなぁ!いやぁ、お前が失踪してたから何してるか皆気になってたんだよ!」
「嘘つくなよ。この差別野郎が」
「えっ…?」
雷が一瞬にして速水の前に立つ。
「は、速っ…」
「差別をする奴は死んでくれよ」
腹に手を当て、雷が電気を流す。
「ぎばゃぁぁぁぁぁ!」
速水は即死。
「……手のひらを返したゲスが」
雷はそう言い残し、そこを去った。
「もっと速く。遅い奴は死ぬのみなんだよ」
雷はいつの間にか、かつての友人の台詞を言っていた。