第35話 帰還と新たな忌み子
俺は仁科守義。東京行きの新幹線に乗ろうとしている男だ。
金岡との死闘から五日後、俺と聖さん、本宮は大阪駅の中央南口にいた。
お見送りには松葉杖を持った泉興業組長、泉と若頭の上杉が来てくれていた。
「ふっ、まさかタブーチルドレンの幹部を倒すとはな」
「まぁ、泉興業の皆さんの件は…」
「ももええわ。ヤクザなんていつ死ぬか分からへん。それがたまたま、今日だっただけや」
「ま、そうですよね」
聖さんが疑問に思った事を泉に聞く。
「そういえば、貴方達は今後どうするんです?」
「そこらへんも大丈夫や」
「足洗って、傘下のたこ焼き屋で働かせてもらいます」
「足を洗う…それなら、西の頭は?」
「それはもう必要あらへん」
「昨日、関西中の極道組織で話し合った結果、そういうのは決めずに、各々やるってなったんや」
「そうですか。それなら血を流さずに済む」
「そうや」
「あ、こうしてる間にもうそろそろ新幹線が来る。行くぞ」
「戻りますか」
「あーあ。もっと本場のたこ焼き食いたかったなぁ」
すると、後ろから聞いたことのある声が聞こえた。
「おぉい!待ってくれやぁ!」
「あん?」
後ろを振り向くと、そこには婆忍愚のリーダーである豊田秀臣がやって来ていた。しかも、大荷物を持ってだ。
「豊田!」
「聖、いや、聖の兄弟!俺も、東京に行かせてくれへんか!」
「はぁ?」
豊田の唐突な申し出に、聖さんは驚いた。
「俺、聖の兄弟に負けて目が覚めたんや!関東にはこんな素晴らしい奴がおると」
「そ、それで東京に行きたいと…」
「そうなんですわ!だから頼む!俺も東京に行って、あなたの組織に入れさせてくれぇ!」
「……相手はこの世じゃあ考えられない事をしてくる奴らばかりだ。それでもいいのか?」
「えぇ!あなたの為に命を散らせるんなら本望ですわ!」
「たくっ…そういえば、婆忍愚の構成員はどうするんだ?」
「それなら大丈夫です!俺の意思を継ぐ奴がリーダーやるんで」
「そうか。なら、覚悟を決めて東京行きの新幹線に乗るんだな」
「はい!」
そして関西の人間が一人増え、俺達は東京へ戻った。
一方その頃、タブーチルドレン本部では緊急幹部会が行われようとしていた。
部屋には火山、水船、バケル、獅子堂の四人とボス。
「それでは、緊急幹部会を始める」
「ボス、今回俺達を集めた理由はなんでしょうか?」
「近頃、幹部の者達が屍と化している」
「えぇ。雷、黒岩、植草、金岡。この四人が犠牲となっております」
「あぁ。革命に犠牲はつきものと言うが、いざ同胞の者達が死ぬと悲しいものだ」
「はい。10代の頃から差別され、共に苦楽を過ごした者が死ぬのも、とても苦しいものです」
「とはいえだ、儂も無策ではない」
「策が…あるのですね」
「そうだ。新たな『忌み子』だ。組織には前々からいたが、あまり表には出ていない者達だ」
ボスが手を叩くと、それに応じて二人の男が入ってきた。いや、片方は『心は女』と言えるだろうか。
「失礼します」
「どうもぉん」
「ボス、この人達が」
「あぁ。新たな戦力だ」
すると、片方のメガネをかけたインテリ風の男が自己紹介をした。
「俺は氷見谷凍次。元々『フローズンカンパニー』社長、氷見谷雪雄の次男坊だったが、優れる長男のせいで家族から蔑まされ、家出してここに入った。能力は『氷』。貴方達の言葉で言えば『氷の忌み子』だ」
そして、隣にいたオネェ風の男、いや、女?どちらとも言える者が氷見谷に続き自己紹介した。
「私、風呂本嵐之介。世間で言うところの『オネェ』って奴よ。私は見た目は男、心は女っていう複雑な人でね、幼い頃からそれで差別されてたの。今は私を理解してくれてるオネェバーで働いてるわ。能力は『風』。いわば『風の忌み子』ってものよ」
個性的な人間が二人。火山は一瞬困惑するも、苦笑いを浮かべて言った。
「ほう…中々良い新人じゃないですか」
「あぁ。本来なら三人いるはずだが…」
「へぇ。まだ一人いると」
「ソイツは今、ある人間を殺しに神奈川にいる」
「そうですか」
「ふふふ…旧幹部四人、新幹部三人のタブーチルドレンは、誰にも負けぬ。特に…仁科にはな」
ボスの言葉はTC壊滅軍を滅するという気持ちがこもっていた。