第31話 情報の条件
俺は仁科守義。泉興業の隠れ家で作戦を立てる男だ。
遡る事数分前。俺と聖さん、組長の泉は吾妻組の事務所にて金岡の指示による襲撃が。
時を同じくして、本宮と若頭の上杉は組事務で金岡の襲撃を受けた。
この2つの襲撃より、泉と上杉除く泉興業の組員は全員死亡。ほぼ壊滅状態となった。さらに泉は吾妻組組員の吉岡に襲われ足を撃たれた。現在、泉は闇病院にいる。
俺と聖さん、本宮と上杉は現在、泉興業傘下の半グレ『婆忍愚』のヤサに隠れている。
「すいません…俺が未熟なせいで…泉興業の人たちを…」
悔しがる本宮に上杉は慰めた。
「いいんですわ本宮さん。人はいずれ死ぬ。それなたまたま今日だっただけで…」
「……ぐぅっ」
そんな二人をよそに、俺と聖さんはTC壊滅軍から送られた金岡の情報を見ていた。
「金岡錬…タブーチルドレンの幹部で、『鋼の忌み子』。奴の能力は体の一部を鋼に変える事が出来たり、どこかに鋼線を張る事が出来る…さらに幼少期から学んでいたフェンシングの技術を使い、レイピアのような鋭い刃で相手を貫く…か」
「なんとも厄介な相手ですね」
「お前が今まで戦って来た奴らはスピード狂や、岩の如き男。植物を操る奴なんかがいたが、今回はスピードに加え体を変える事が出来て鋼線を張る…三人のいいところを詰め合わせたような奴だ」
「はい。前の三人に比べ、今回は厳しい戦いになりそうです」
すると、部屋にある男が入ってきた。
「失礼すんで」
「貴方は…?」
「俺は婆忍愚の豊田秀臣。あんたらにいい情報を渡そうと思ってなぁ」
「情報?」
「あぁ。確か…金岡って奴の情報や」
「何だと?」
唐突に明かされた情報。聖さんは豊田に確認をした。
「その情報は、確かなものだな」
「あぁ。そうや」
「なら、その情報を…」
その時、豊田の笑顔が悪いものになる。
「おいおい。誰が無料でこれ渡すと思ってんねん」
「何?」
豊田は無料で渡さない理由を話す。
「俺らを懇意にいてもろてる上杉さんはともかく、関東の奴らがいるとどうも嫌なんだわ」
「ほう」
「何だと…」
俺の頭に血が上る。拳を握りしめ、俺は豊田に近付こうとする。
「止めろ。仁科」
だが、それを聖さんが止めた。
「聖さん…」
「ほぉ、関東のもんは喧嘩したくないやな。臆病者やね」
「俺らはケンカするために関西まで飛んできた訳じゃない。落ち着くんだ」
「くっ…すいません」
だが、俺には分かる。聖さんも、心の奥底で豊田を殺したいぐらい怒っていることを。
「とはいえだ豊田さん。俺達も金岡を倒すという目標を持ってここで隠れている。何とかしてそれをくれないだろうか?」
「そうでっか。なら、漢といえばこれやろ」
豊田が拳を突き出す。
「ほう…殴り合いか?」
「そや。俺が参ったと思ったら、その情報渡したる。でもなぁ、お前がもし負けたらこっから出ていきや」
「ふん、いいだろう」
「ここの部屋はちと狭い。屋上でやろか」
そして、二人はそこを出た。
「聖さん…(大丈夫だろうか)」
屋上の二人。お互いに殺気を向ける。
「どっからでもかかってこいや」
「それなら、お言葉に甘えて」
聖がいきなり豊田に飛びかかる。
「ふんっ!」
「おっと、遅いでぇ!」
豊田は聖を引き付け、拳を受ける直前でバックステップをとった。
「ちっ」
「俺は『引き付けの天才』なんて呼ばれとる。今までひょろっちぃ攻撃なんて受けたことない!」
「そんな余裕を言えるのも、今の内だ」
聖が下段の回し蹴り。だが、豊田はそれに対し…
「ほっ」
「なっ、跳んだか」
ジャンプを選択。そして跳び終わった脚は、聖の顔を捉える。
「おらぁっ!豊田ーキックぅ!」
「まずいっ」
そしてその蹴りは聖の顔を喰らった。
「ぐぅっ!」
「ケケケ、どうや。俺のキックは」
「ちぃっ」
鼻血を拭き、笑みを浮かべる聖。
「俺ァ、こんな攻撃何回も受けてきた。今さらこれでギブアップするかぁ!」
「ほぉ。強いやんかオッサン!」
次に豊田はハイキックを聖のコメカミに目掛け、脚を跳ばす。
「ほあぁっ!」
「せいやぁっ!」
だが、コメカミと足の間に腕を挟んでそれを防いで見せたのだ。とはいえ、その代償はデカい。
「ぐぅっ!」
踵の攻撃が腕の骨をほぼ破壊したのだ。
「さぁ、右腕は死んだ!後はどうすんねん?」
豊田の質問に対し、聖は笑いながら答える。
「フフフ…」
「何が可笑しい?」
「それなら、お前を壊せばいいだけの話よ」
いきなり聖が豊田の肩を掴んだ。
「うおっ!(なんや、早ぇっ!?)」
「一旦顔を壊してくれよ」
そのまま頭突き。豊田はそれに対応出来なかった。
「ごぼぉっ!(なんでや、この俺が引き付けれなかったやとぉ)」
鼻が壊れ、鼻血を出す豊田。そのまま聖は倒れそうな豊田の鳩尾に強烈なストレートを打ち込んだ。
「ごぼぉっ!」
「はぁ…はぁ…」
豊田は知らなかったのだ。自分は聖孝親という狂人と戦っていたことを。
大の字に倒れる豊田。聖はギリギリで気絶させないようにしていた。
「ど…どうだ。渡す気になったか」
「へ、へへ…確かにアンタは強ぇわ。まさか東にこんな奴がおるとはな」
そして、豊田は満足したかのように口を開く。
「わかった。わかったよ。渡すわ。奴の情報」
「ふっ、血を流した甲斐がある」
「だが、その前に肩を担いで元の場所に戻してくれへんか」
「たくっ、最後まで面倒くさい奴だ」
こうして、仁科達は金岡の情報を得ることとなった。