第30話 剣豪と鋼鉄
泉興業事務所。そこの客室にてTC壊滅軍の剣豪、本宮が若頭の上杉とたこ焼きを食べていた。
「はふ、はふ、はふ」
「本宮さん。そんなに慌てんでも、たこ焼きは逃げまへんよ」
「いえいえ、本場のたこ焼きが食べれるなんて、とても嬉しいです!」
「それは嬉しいわぁ」
二人だけの時間を過ごしていた時、悲劇が起きる。
「泉興業の皆様。死んでください」
玄関の方から声がする。
「誰でっ…お、お前、ぐわぁぁぁ!」
それと同時に構成員の断末魔が響いた。
「なんや!?」
「何事だ?」
二人が声の方へ向かう。
「おい、お前…ら…」
「何が起こってやがる」
そこには、ネズミ色のパーカーを着た男と、ソイツに立ち向かうもドンドンと殺されていく組員達だった。
「ほう。組長は不在のようだな」
「だ、誰やお前は!」
「貴様らのような人間に名乗る名は無い」
男が上杉に向かって襲いかかる。
「なっ…」
「カシラに手ぇ出させるかぁ!」
組員の一人がドスを持って奇襲をかける。
「馬鹿め」
「何ッ!?」
なんと、男が左腕を剣にしたのだ。
「胴を真っ二つにしようか」
そのまま勢いをつけて回転。それに組員は対処できなかった。
「がぁっ!!」
「なっ、岡野ぉ!」
岡野はそのまま真っ二つにされてしまった。
「さて、後はお前達だけだ」
体の一部を物質に変える。それに本宮は察しがつく。
「お前…タブーチルドレンの野郎か?」
「だからなんだ。俺はただ、差別をする奴を放置する組織を滅するだけだ」
男が両腕をレイピアのような鋭い刃に変える。
「同時に突き刺してやる」
そのまま男は両腕を付き出した。それに対し本宮は上杉の頭を力ずくで下げる。
「すいません!失礼します!」
「おっと!?」
なんとか頭を下げた事により、男の攻撃は空を切った。
「ほう。その判断力。そこらへんのチンピラじゃないな」
「ちっ、いきなり襲撃してタブーチルドレンの野郎にそう言われるなんて、嬉しいもんだね」
そんな皮肉を言いつつ、本宮は上杉を後ろに下げる。
「上杉さん。部屋に戻って、仁科達に連絡を」
「わ、分かった!」
上杉が客室に戻る。そして、本宮は自身の第二の体といえよう刀を出した。
「ほう。刀使いか」
「へっ、これでも『剣豪』として名は通ってるんでね」
「そうか。なら、こちらも剣で対応しよう」
左腕を元に戻し、右腕を中世の剣のような刃にする。。
「さぁ、どこからでもかかってこいよ」
「ならば、こちらから行かせてもらおう」
男が右腕の剣を喉めがけて突き刺す。
「はぁっ!」
本宮の喉を貫こうとする剣先。だが、剣豪はそれを見切っていた。
「しぇやぁっ!」
首の皮と剣先の距離、僅か1センチ。なんと本宮は右に避けて致命傷を避けた。
「ほう」
「剣豪舐めちゃ困るねぇ」
本宮が剣道の構えの如く、刀を奴に向ける。
「やはり、これだと避けられやすいな」
すると、右腕をレイピアのような刃に変えたのだ。
「ん?(右腕の形を変えやがった。何をする気だ?)」
男がバックステップを取り、口を開く。
「お前はどうやらなかなかの刀の使い手のようだ。特別に名乗ろうではないか。俺は金岡錬。『鋼の忌み子』だ」
「ふっ、勘は当たってたな」
「さぁ、死のうか」
金岡が右腕を突き出し、一気に突撃する。それは先程と同じスピードではなかった。
「なっ!?(早ぇ!レイピアになった分、スピードが増しやがった!)」
本宮が即座に避けようとするも、金岡の方が僅かに早かった。
「失礼」
「いぎぁっ!」
レイピアの剣先は、本宮の左肩を貫いたのだ。
「さて、次はどこを貫くか」
レイピアを抜き、今度は喉を狙う。
「さぁ、剣豪よ。ここで眠れ」
「やらせるかぁぁ!」
急いで刀の剣先をつまみ、レイピアの刺突を上方向に向けたのだ。
「おっと」
レイピアが天井に突き刺さる。
「戦場じゃあ、その時間は命取りだ」
本宮が復讐と言わんばかりの横薙ぎ。狙いは金岡の腹だ。
「うらぁぁぁ!」
それは確かに、金岡を真っ二つにした。いや、したはずだった。
「なっ…」
金岡の横で刀が止まった。違う、何かで止められたのだ。
「鋼線」
「っ!?」
「それは人体さえも切れる、鋼の糸。俺の鋼線は、刃も止める」
「なん…だと…」
「さぁ、トドメだ」
天井から抜いていたレイピアが本宮の顔を突き刺す。
「うおっ!」
本宮はギリギリで首を曲げるも、それはこめかみを掠り、耳の上部分を貫いた。
「ほう。流石剣豪」
「ぐぉぉぉっ!」
「だが、まぐれは今ので終わりだ」
レイピアを後ろに抜き、今度こそ心臓に狙いを定める。
「さぁ、死ねい!」
しかし、神は本宮を見捨てなかった。
「大丈夫かぁ!本宮ぁ!」
「金岡ぁぁ!」
「む?」
吾妻組事務所から戻ってきた仁科と聖が現れたのだ。
「仁科…(流石に能力者一人いるとマズイな。ここは逃げだ)」
金岡が窓の方に向かう。
「させるかぁ!」
聖が金岡へ発砲。死角ということもあり、それは金岡の右肩を掠った。
「くっ…」
そして、金岡は窓を開けてそこから飛び降りた。
「なっ…」
「ちっ、逃げやがった」
「ぐっ…」
死屍累々の上に立つ三人は拳を握りしめる事しか出来なかった。