第28話 無秩序の西
俺は仁科守義。今から西へ飛ぶ男だ。
泉達がTC壊滅軍の本部に訪れた次の日、約束通り彼らはまたここへ来た。
「いやぁ、仁科さん。今回は俺の願いを聞いてくれてありがとうなぁ」
「いえ、たまには気分転換したいと思ってたところなんですよ」
「では、行きましょか」
「ちょっと待った」
泉達を止めるのは、監視役として一緒に大阪へ行くTC壊滅軍No.3の聖孝親と、戦闘班の男で『剣豪』という異名を持つ本宮龍次郎だ。
「お、貴方達が」
「とりあえず一週間、同行させてもらう。もしその時お前達が仁科に手を出したならば、こちらも容赦はしない」
「面白いわぁ。流石No.3でんなぁ」
「では、行くぞ」
そして、東は俺と聖さん、本宮。西は泉と護衛の熊谷と猪川が大阪へ飛んだ。
数時間後、俺達は大阪駅を降りて泉興業のシマである南畑に着いた。
「ここがうちの敷地ですわ」
「大阪の中心だからか、栄えてますね」
「そやろ。では、事務所まで案内しますわ」
事務所に向かう途中、スーツを着た二人の厳つそうな男が泉に頭を下げた。
「オヤジぃ!お帰りなさいませぇ!」
「おう。帰ったで」
すると、聖さんが泉に聞く。
「この人達は?」
「コイツらはウチの組員。三年目の古畑と二年目の金田や」
「ほう…」
「そんで、俺がいなかった間、ここはどうやった?」
「いつも通り平和ですわ。半グレどもの襲撃もなく、死者もおらへん」
「おう。そうか」
そして、二人は泉を横切った。
「うちのもんは血気盛んな所もあるが、カタギには優しいんや。伊達に昭和から活動してる組織ではないんよ」
「そうですか…」
それからして俺達は泉興業の事務所に着いた。
「では、客人からどうぞ」
「お言葉に甘えて」
俺と聖さん、本宮が事務所に入り、俺達の後に続いて泉達が入った。
「客室に案内しますわ」
客室に通され、俺達は休んだ。
「ふぅ。長旅だった」
「えぇ。本場のたこ焼き食べたい気分です」
「おい本宮。俺らは仁科監視の為に来たんだ。あまり気を抜くな」
「すいません」
すると、部屋に泉と白髪で細身の男が入ってきた。
「失礼します」
「どうも、東の皆様。わざわざここまで来てもらって」
「いえいえ、いいんですよ」
「あ、申し遅れました。私、若頭の上杉茂久と言います」
「ど、どうも」
すると、泉が思い出したかのように言った。
「あ、そういえばこの後吾妻組との会合があるんや。よかったら、仁科さん。いかがです?」
「まぁ、護衛も兼ねてるのでお言葉に甘えて…」
「監視のため、俺も同行させてもらう」
「いいですよ。構いません」
そして、俺達が席を立つ。
「そんじゃ、上杉。事務所頼んだで」
「えぇ。行ってらっしゃいませ」
「本宮。何かあったらすぐに連絡しろ」
「了解です」
そのまま部屋を出た。しかし、この時俺は思ってもいなかった。まさか地獄という地獄を見ることになるなんて。
一方その頃、仁科と同じく大阪に訪れた金岡は南畑の東部、先祭橋にて川を眺めていた。
(少し淀んでいるとはいえ、川を見ると心が穏やかになるものだ)
すると、彼の耳に不愉快な声が飛ぶ。
「おいごらぁ!ここはウチらの土地や!寝んなやこの野郎!」
「や、やめてぇなぁ!」
「ん?」
金岡が後ろを振り向くと、そこにはホームレスを虐めるチンピラ二人がいた。
「ジジイぃ!早くどかんかい!」
「な、やめ…!」
「けっ、どかねぇならいてまうか!」
片割れがドスを取り出そうとする。その瞬間、ソイツの腕にレイピアらしい刃が貫いた。
「がぎゃぁぁぁぁ!」
「だ、誰やぁ!?」
チンピラの後ろには、怒りに燃やされる金岡がいた。
「胸くそ悪いんだ」
レイピアを抜いた金岡は左腕を鋼の剣にし、隣にいたチンピラの左足を切り裂いた。
「ぐおがぁぁっ!」
「か、金田ぁぁ!この野郎!やってやらぁ!」
ドスを出したチンピラが金岡に襲いかかる。
「うっしゃぁぁっ!」
「遅い」
だが、カウンターの如くレイピアの先端がチンピラの眉間を貫いたのだ。
「がぁっ!?」
即死のチンピラ。金田は血が流れるのと同時に、仲間が死亡したことに怯える。
「あっ…古畑ぁ…!?」
「お前は川の底で反省しろ」
金岡は金田の首を掴み、川に投げ落とした。
「あぶあっ」
その言葉を遺し、金田が川から上がる事はなかった。
「おいおい…」
「ヤクザ二人を殺ったぞ……」
「何もんやアイツは」
市民がざわめく間にその場を去る金岡。
(やはりボスの直感は正しかった。やはり、差別する人間は消すべきだな)
そして、金岡が電話をかける。
「あ、吾妻さん。泉興業の壊滅を手伝ってほしいのですが…」
金岡の歩みは、人間を消すという覚悟を持っていた。