第24話 草よ散れ
俺は仁科守義。草の狂人と戦う男だ。
俺の目の前にはタブーチルドレン『草の忌み子』、植草生樹がいる。
「……」
「どうしました?戦いは黙ってするタイプなのです?」
「いや、お前がなんでこんな事をするのだろうか考えてたんだ」
「ほう?」
「お前は昔、優しい奴だった。差別を許さないような、性格でもあった。でも今じゃあ人を傀儡として使うゲス野郎になった。お前だけは許さねぇ!」
「くくく、なんとでも言いなさい。どうせ貴方は死ぬのだから」
いきなりつたが奴から伸び、俺に襲いかかる。
「させるかよ!」
俺はバリアを張り、奴の攻撃を防ぐ。そしてそのままの勢いで前に出る。
「ほほう。雷や黒岩と戦った人は、こんなに覚悟をお持ちで」
「くたばれやぁぁ!」
バリアを解除し、俺はナイフを突き立てる。狙いは腹。臓器に届けば一発だ。
「はぁぁぁぁっ!」
「おっと。させませんよ!」
分かってはいた。奴のつたが俺のナイフを持つ右手を縛る。
「ぐぅっ!」
「さぁ、視界を奪いましょう」
奴の左手には葉っぱが。しかしここは至近距離。俺は負傷覚悟である行動をとった。
「おらぁっ!」
「おごぉっ!」
ただの頭突き。だがそれは奴の鼻を粉砕させた。痛みからか、つたが俺の腕を離れる。急いでバックステップをとり、様子を見る。
「………畜生が…」
奴の雰囲気が変わる。まるであの時、指弾で植草のこめかみを掠った時のようだ。
「『守』の野郎が…俺に傷をつける等言語道断!貴様は苦しませてで殺してやる」
植草が鼻を抑える。すると、砕けたはずの鼻が元通りになった。
(草の能力は、自然を使うだけではなく回復能力も持つ。やはり、回復の隙を与えずに攻撃した方がいいな)
「殺す殺す殺す殺すぅぅぅ!」
またもや奴のつたが俺に襲いかかる。だが、それは俺の首を狙っていた。
「ぐおっ!」
バリアを張る前に、それが俺の首を掴む。
「がばぁっ!」
「さぁて、『自然の絞首刑』で死ねぇぇぇ!」
まずい、意識が遠のく…。このままじゃあ…。俺は震えながらもナイフをつたを切ろうとする。
「させるかぁぁっ!」
しかし、別のつたが俺の手をムチのように叩き、ナイフを手放させる。
「がぼぉっ!」
ヤバい…。俺はもう…。すまねぇ。父さん。仁科組の皆。タブーチルドレンの奴らを壊滅させられなくて…。
そう思い、諦めかけたその時だった。
「仁科ぁっ!」
「誰だ?」
後ろから聞こえて来たのは源田さんの声だ。
「植草ぁぁっ!この野郎ぉぉっ!」
源田さんがつたに向けて投擲用のナイフを投げる。
「見える!」
しかし、そのナイフを植草は弾き落とした。だが、それはダミーだった。
「おらよぉっ!」
奴の意識外から発砲し、弾は肩を貫いた。
「ごぉぉっ!」
奴は痛みからかつたを放し、俺が死ぬことはなかった。
「げほっ!げぼぉっ!」
「大丈夫か!」
「えぇ。なんとか」
「この…カス共がぁっ!貴様らを殺して、黒岩も殺してやらぁぁぁ!!」
奴は自分が傷つけられた怒りから、肩を治さずに何枚もの葉っぱを投げる。
「はぁっ!」
だが、バリアを張り葉っぱを防ぐ。
「さて、年貢の納め時だ。植草」
俺はまたも奴に接近する。肩を治していたのか、奴は俺に気付かなかった。
「うらしゃぁぁぁっ!」
二度目の逆袈裟。だが、植草はつたを伸ばそうとした。
「させる…かぁ」
「馬鹿が。俺を忘れんな」
今度は植草の二の腕に向けて源田さんは撃った。
「がぁっ!」
痛んでいるその隙。俺はナイフを奴の腹に刺す。
「おごぼぉっ!」
そしてそのまま右斜め上に、ナイフで切り裂く。
「トドメじゃぁっ!傀儡野郎がぁぁっ!」
「ごのがぁぁぁぁっ!」
その刃は臓腑、ましてや胸をやった。奴は倒れながらも胸元に手を当てようとする。
「い、嫌だ…死にたくない…私は…ただ、人の上に立って、偉く…なりたかった…だけ……だったのに…」
しかし、その傷は癒えずに言葉をつらつらと並べた。
「私はぁ…草柳が羨ましかった。マンガのような、ガキ大将で…まるで殿様のようだった。私はアイツに憧れていたんだぁ…でも、アイツが死んで、私は差別を受けて…幹部になった後…私は人を使って…アイツのよう…に…」
そして、最後の言葉を吐き出した。
「偉く…なりたかった…だけなんだ…ごぶっ」
血を吹き出し、傀儡を使っていた『草の忌み子』はドヤ街の地で散った。